目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
「とりあえず博士からの依頼の子は貴方達で間違いなし。そしてギラティナから逃げる力もあるからトレーナーとしてもトップクラスなのは間違いない。だけど私達の次元には遠く及ばない」
ゾンビの少女は愉快に喋る。まず僕達は状況が飲み込めていない。そもそもギラティナと同レベルのポケモンを持っていること。その奇抜な見た目。全てにおいて想像を上回っている。それなのに少女は話をトントン進めてしまう。
「ギラティナに手も足も出せずにチャンピオンになるなんて本気? 知らないなら言っておくけど四天王クラスのエースのポケモンは普通にギラティナと同格以上のポケモンを使う。キンランのピカチュウとカプ・コケコにメグのプクリン。そしてカナタのニャース。いま言ったポケモンは全て私のギラティナに対等以上に単体で渡り合う実力がある」
「……ギラティナってあの龍みたいな私達に襲いかかったポケモンのことですか?」
「そうだよ。博士の研究の手伝いでウルトラホールを開いて異世界に行ったら存在していた未知のポケモン。図鑑にも載ってないから知らなくても仕方ないね」
つまりシンオウ地方のギラティナとは別個体か。ギラティナのような一体しか存在してないようなポケモンでも異世界に行けば存在しているというわけか……
「まさかマスターボールを使うとは思っていなかったけど……」
しかし問題は彼女がサラッと流したセリフだ。『キンランさんのピカチュウとカプ・コケコはギラティナと同格』だと言っていた。そしてポケモンリーグに出るためにはそれに勝たなければならないのだ。しかし改めて思うとキンランさんってマジで化け物みたいに強いんだな。
「あの大変失礼ですが、あなたは人間ですか……見たところゾンビに見えるのですか?」
「ん? ファッションだよ。ゾンビって可愛いでしょ?」
「あ、はい」
ノエルの少し失礼な質問にアリスは笑いながら答える。その顔にある手術痕とかは全てメイクなのか……
「それと参考までに一つ。四天王を倒したトレーナーはカナタがチャンピオンになってから一人も現れていない。その意味が分かるかな?」
「……ポケモンリーグを優勝するくらいじゃ四天王には及ばないってことですね」
「正解! ドルマとは互角の勝負かもしれないけど私やメグにエンペラーが相手なら瞬殺。そして、そんな私達も意図も容易く勝つのが今のチャンピオンのカナタ。つまりナナのお兄ちゃんなんだよ。君のお兄ちゃんは君が思ってる以上に人から逸脱している。それを聞いた上でもチャンピオンになれると本気で思ってるの?」
アリスから物凄い圧と殺気が放たれる。これは間違いなく才能の差だ。ギラティナクラスのポケモンも従わせることが出来る人を超えた存在の集まり。それが四天王なのだ。今まで見ていた世界は小さくて遊びのようなものだ。それを実感させられる。少しはナナもチャンピオンに近づいたと思っていた。だけどそんなことはない。まだまだ道のりは先なのだ。僕達はスタート地点にすら立てていない。あのギラティナと対等に戦えて初めてスタート地点なのだ。
「……今の私達じゃチャンピオンにはなれない。だからチャンピオンになるためにどうすればいいのか。それを学びに来たのです!」
「そんなの簡単だよ。強くなればいい」
「そんな当たり前のこと……」
「ポケモンじゃなくてトレーナーが強くなるんだよ。例えば今のナナだと周りは『悪夢姫と戦いたくない』じゃなくて『ダークライと戦いたくない』となってるわけ」
「あ……」
「そう。ポケモンの実力にトレーナーが見合っていない。相手にポケモンじゃなくて自分という存在がヤバいと思わせる。そして『ダークライだから格闘を連れていこう』とかじゃなくて『悪夢姫の戦い方はこうだからこんな対策を立てよう』とポケモンの対策じゃなくてトレーナーの対策をさせる。それが強さ」
なるほど。たしかに一理あるな。ナナ自身を怖いと思わせるか。それが出来ないから伸び悩んでいるか。その考え方はなかったな。
「言うならばナナもノエルも無個性。なんの個性もなくてポケモンに指示を出すだけのトレーナー。少し賢いから的確な指示を出せるだけ。自分にしか出来ないことがない。無個性が四天王と戦えるわけがない。だからナナとノエルがやることは個性を身につけるじゃないかな」
個性か。ナナにしか出来ない戦い方。それを探すのか……しかしどうすればいいのだろうか。そんな自分にしか出来ないことなんてすぐに見つかるのだろうか。
「まぁ本音の話をするとポケモンを持って半年も経たないトレーナーがチャンピオンになろうなんて無理。たった半年足らずでチャンピオンになるくらい強くなるなら数年近く頑張ってる人が可哀想」
「……」
「もっと自分を褒めてもいいと思うよ。ギラティナから逃げられるだけでも指折りのトレーナー。その領域に一生かけても行けない人が星の数ほどいる。間違いなくナナとノエルも天才。今のペースで強くなっていけば二年もした時には私達を超えると思うよ」
「アリスさん。それじゃあダメなんです。ナナはどうか知りませんが俺は勝てないやつがいるということが気に食わない。それこそ今すぐにでも超えたいと思う」
「言うねぇ。それならノエルは私に短期間で勝てるようになれる?」
「そうするのが強さです。一ヶ月一睡もしないで鍛えれば俺はアリスさんを超える自信がある。人間は平均八時間の睡眠をする。つまり一週間寝ないで修行すれば他のトレーナーより四十二時間も多く修行したことになる。それで睡眠時間も含めて一日中トレーニングするトレーナーはいない。多くても三時間だ」
「……なるほど。それで一ヶ月で二年近くの努力の成果を得ると」
「はい」
「ナナの方は?」
「強さに時間は関係ない。大事なのは経験だと思います。短時間だろうが様々な経験をすれば強さに繋がる。私の強さは経験からきているものですから。だから時間がなくてもチャンピオンにはなれる」
二人の言うこともアリスの言うことも間違っていない。もっともそれが実現できるかどうかは別問題だ。
「こりゃ強いね……それなら一つだけいいことを教えてあげよう」
「なんですか?」
「どんなポケモンでも伝説になる」
「は?」
「強いトレーナーが育てたコイキングはミュウツーにすら匹敵する。ありとあらゆるポケモンが伝説になる素質を秘めている。あなた達はギラティナと戦って『次元が違う』と思ったはずだよ。その領域にどんなポケモンでも辿り着けるということ。キンランのピカチュウとかもその類」
あのギラティナと同じ次元に行くか。絶対に勝てないと思わせる圧に肌がピリピリするようなプレッシャーを放つポケモンになる……
「その領域にはトレーナーの力が必要不可欠。野生なら普通は不可能。しかし野生でその領域に到達する存在がいる。それが伝説のポケモン。伝説のポケモンは育てなくても強いだけで育てたポケモンとの差はないんだよ」
もっともその領域に行くまでは困難を極めるはずだ。キンランさんのピカチュウがそれだというが、裏を返せばキンランさんですらピカチュウ以外のポケモンはその領域に到達させることが出来なかった。恐らく普通はいける領域ではない。だからこそ、生まれながらにして、その領域にいる伝説のポケモンが特別だと扱われるのだ。
「それでも強いからという理由だけで伝説のポケモンを捕まえるのはオススメしない。伝説のポケモンには役割があって、いなくなると大変なことになる。本来は人間が捕まえていい存在じゃないんだよ。私のギラティナを含めてね」
「そもそも普通は伝説のポケモンに会えないです」
「私のギラティナはウルトラホールを超えた異世界で捕まえた。そこにはギラティナ以外のポケモンがいなかったし、なにより伝説のポケモンの生態系を解明するためのサンプルに必要だった。だから捕まえた。キンランさんのカプ・コケコは守り神としての修行として仕えてるから、そのうち別れるだろうしね」
「なにが言いたいのです?」
「簡単な話。伝説のポケモンは相応の理由がない限りは捕まえないであげてって話。ナナ達なら頑張れば伝説のポケモンを見つけて捕獲出来ると思う。でもそれをすると……」
なるほど。まずギラティナとは本来は世界の裏側を管理する神のようなポケモンだ。それを捕まえたら管理者がいなくなって大変なことになる。アリスが許されているのは異世界で捕まえて、なおかつギラティナ以外のポケモンがいなかったから。そして伝説のポケモンの生態系を解明するためにも伝説のポケモンが必要という三つの理由があるからだ。
もっとも最後の理由は身勝手なものだ。しかし伝説のポケモンのメカニズムを知ることで得られるなにかがあるのかもしれない。それは場合によってはどんな事態よりも最優先すべきことなのかもしれない。特に現実世界に影響を及ぼすことはなく、異世界に影響があるかもしれないだけならなおのこと……
「ギラティナのサンプル。しかし伝説のポケモンに関する論文が表に出たことは……」
「ないよ。アルセ博士が全て独占して秘蔵したから。本来なら公開すべきなんだけど調査結果がヤバかった。下手したら戦争が起こる。だから表舞台には出てないの」
まぁそうなるのは当然か。その結果ギラティナという存在は秘蔵されてアリスに管理されているということか。それなら僕達にギラティナを見せたのはヤバいのではないだろうか。いや、別にギラティナという名前が知られていない、この地方なら気付く人もいないから問題はないのか? そこら辺は僕にはわからぬ。
「さて、長い話は終わり。二人ともチャンピオンを目指すんだよね?」
「はい!」
「それならギラティナ。お願い」
再びギラティナが足元から現れてナナ達を飲み込んだ。ナナ達は成す術もなくギラティナに飲まれる。そして先程と同じやぶれたせかい……
「それじゃあスタートラインに立つためにキツイ修行をしようか。ここはギラティナが統治するやぶれたせかい。腹も空かねば時間の経過すら違う。あなた達にはそこでギラティナを倒してもらう。裏を返せばギラティナを倒すまでやぶれたせかいから出す気はない。それじゃあギラティナに勝てるようになるまで頑張ろう!」
「はぁぁぁぁぁぁあああああ!」
ナナ達が絶叫する。四天王から出された試練。
ギラティナという別次元のポケモンに勝てるようになる。正直に言って勝てるビジョンが見えない。あまりに規格外だ。それでもやるしかないだろう。
アリスはそんな僕達を見ながらニヤニヤと笑っていた。
「もしもポケモンが傷ついたら言ってね。すぐに回復させるから。負けを恐れずにトライ・アンド・エラーで頑張ろう!」
ギラティナ。明らかに勝てる相手じゃないんだよな。間違いなくポケモンという次元から逸脱している。それに勝てと普通に言ってくる。勝たなければ先に進めない。それなら勝つしかないのだろう。今の自分を超える。それをやるしかないだろう!
「ナナ。どうする?」
「やるしかないでしょ……」
しかしナナとノエルは諦めてるような感じだった。だけど、それは間違いだと次のナナ達の言葉で思い知らされる。
「いまの私達なら絶対に勝てない。だけどギラティナと戦い続ければ動きにも慣れてくる。それにギラティナは回復しない。それに対して私達のポケモンは回復出来る。そう考えると勝てる気がするわね」
「そうだな。今は勝てない。それでもあそこまでの格上と戦い続けるだけで相当なレベルアップが出来るだろう。やろうぜ! ナナ!」
「ええ!」