目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
「ダークライ! 避けてシャドーボール!」
電光掲示板にはナナには6。相手には2の文字。これは残りのポケモンの数をあらわす文字。アーモンドを倒して五つ目のジムバッジを手にした翌日にナナはテレポートで真っ先にミヤコノ遺跡に行った。そして現在は6つ目のジム戦だ。相手はケラリアというじめんタイプの使い手。
「つええ! 俺が戦った誰よりも強い! 最高だ! マンムー! つららばりで叩き落せ!」
つららばりが五発程度飛んでくる。一つはシャドーボールを破壊するが残り四つはこちらに向かってくる。僕はそれを闇の結晶を作って、それを盾にして受け止める。攻撃が止むとと同時に体を透過させて闇の結晶をすり抜けてマンムーに接近する。
「今よ! あくのはどう」
ナナの指示通りにゼロ距離であくのはどうを放つ、マンムーを吹き飛ばす。しかしマンムーは根性で耐えていく。そしてケラリアもそれを信じていたかのように絶妙なタイミングで指示を出す。
「カウンターのじしん! そしていわなだれ」
地面がぐらりと揺れる。それと同時に空から岩石が降り注ぐ。僕は再び闇の結晶を作って傘にして攻撃を凌ぐ。結晶術も身についてきた。しかし体力の消耗が激しい。結晶術を使う前提ならナイトメアシフトを20%くらいに抑えなければならない。守りは硬くなるがマンムーに手こずるくらいに威力もスピードも足りていない。人間の時で言うならば酸素が足りていないような状況だ。全力のナイトメアシフトと併用すると3分と体力が持たないだろう。
「ダークライ! シャドーボールで追撃!」
「マンムー!」
その一撃でマンムーを仕留める。これで相手は残り一体。こちらも体力が切れてきた。さすがに本気のジムリーダーのポケモンを6体も相手にするのは厳しいな。
「お疲れだぜ。さて俺の相棒がいくぜ! こんな楽しいポケモンバトルがもう終わりなんてつまらねぇぜ! いけっ! シロデスナ!」
「デスナァァァァァァアア(神に等しき私に逆らおうとは愚かな)」
ボールを投げると同時に現れるのは全長5mくらいある砂で出来た大きな城だった。しそしてシロデスナはメガシンカしないポケモン。つまり彼はメガシンカを使わないタイプのジムリーダーということか。
「世界で一番大きなシロデスナを使うトレーナー。これが噂のシロデスナね。ダイマックスはもっと大きいのかしら……」
「ダイマックス? なんだそれ?」
ダイマックス。なんでも遠くにあるガラル地方でのみ見られるポケモンの巨大化現象の名称だとか。もっともデトワール地方では不可能であり、ナナも噂話で聞いたくらいの知識しかない。そして現在ナナが最も気になっている事象の一つだとか。少なくともチャンピオンになったら真っ先にガラル地方に行こうとするくらいには。
「とりあえず行くわよ! ダークライ! あくのはどう!」
渾身の一撃でシロデスナを攻撃する。しかしシロデスナは少し痛がる素振りを見せるだけでピクリともしない。圧倒的過ぎる質量に全てが飲み込まれる。
「シロデスナ。どくどく!」
その言葉と同時にシロデスナの口から毒の波が放出される。これで辺り一面が毒の海だ。もうこれはどくどくの範疇で収まる技ではない。これはヘドロウェーブと言っても過言ではないな。そう思いながら僕は空に飛んでモモンのみを食べて毒を癒しながら考える。
「質量は時にして最大の武器ね。ただシャドーボールを残り八発撃てば落ちるかしら。そしてこの巨体では避けられない」
「心配無用! そのまえに倒す! シロデスナ! ギガインパクト!」
「デスナ!(これぞ神の鉄槌!)」
シロデスナは大きく飛び跳ねた。まさかあの巨体で飛ぶだと! そして空中で体を捻りタックルを決めようとしてくる。あまりに悪質だ! その巨体でタックルは悪質過ぎるだろ! もっとも動きも遅いし対処しようと思えば簡単に出来る。
「ダークライ。ダークホール」
「なにっ!」
「それからゆめくい!」
僕は暗黒の玉を作り、それをシロデスナにぶつける。シロデスナは睡眠状態となり体から力が抜けて一気に地面に落ちる。僕は軽くシロデスナに手を振れて彼の夢を食べる。シロデスナはそれに呻く。これは良い夢だ。美味いな。
「どんなに巨体で硬くても精神に作用する攻撃には対処できないでしょ」
やがてシロデスナは戦闘不能になる。そこでナナは笑顔で求める。
「良いバトルだったわ。ジムバッジをくださるかしら?」
※
そしてナナのジムバッジは6つとなった。残すはストロベリータウンのジムリーダーとキンランさんのみ。遂に終わりが見えてきた。しかしストロベリータウンはメアとの約束の地。もしかしたらゴゥー団との衝突もあるだろう。今の二つのジム戦のように簡単にいくとは思えない。これからの相手は今のナナですら五分五分の相手だ。それこそ人格トレースを多用することも増えていくだろうな。そんな中でナナはある人と待ち合わせでミヤコノ遺跡にある喫茶店にいた。僕達はその間に適当にリラックスしてきなさいとボールから出されて近くの公園にいた。
「……適当にリラックスねぇ。そうはいうけど私達のポケモン会議のことを把握して時間をとってくれたんじゃないの」
ジャノビーが適当に日向に当たりながら言う。間違いなくそうだろう。考えてみたらミミッキュが加わったことによる新人歓迎会もまだである。それもやりたいが……
「それだけではないだろう。これからの相手はキンラン。その対策を練っておけという意志もあると拙者は思う」
「キンランってそんな強いの?」
ああ。そういえばキンランさんと戦った時にジャノビーはいなかったな。軽く説明しておくか。
「前に戦った時は本気の欠片も出していない彼女に手も足も出なかった」
「なるほどね。それでポケモンは?」
「エースにピカチュウとカプ・コケコ。他にはシビルドンにマルマインにバチュル、エモンガ……把握してるのはそれだけだ」
「他の四体はともかくカプ・コケコとピカチュウは選出確定で良いだろ」
ムシャーナが退屈そうにそう言う。その認識で間違いないだろう。そして問題はピカチュウ。前に暴走してナイトメアシフト100%になった僕を意図も容易く対処していた。あれは恐らく伝説に匹敵する。アリスの言っていた『鍛えて伝説の域に到達したポケモン』に該当するものだろう。
「それなら私は二体以外の四体を倒すわ。五体なら規格外の二体でも勝てるでしょう」
「ジャノビー。それは可能なのか? 妾には不可能だと思うぞ」
「まだ時間はある。それまでに極限まで鍛えるのよ。それに私はまだジャローダへの進化を残しているし、恐らく私はカプ・コケコとピカチュウの前では足手纏いになる」
「いや、其方なら……」
「無理。私はナナの指示があってもダークライに負けた。そんな私がそれ以上の存在に太刀打ちできるとは思えない」
「まぁもっともだ……」
その会話に静かにミミッキュが入る。ジャノビーは少しムスッとした表情を見せるが特に突っかかる素振りは見せない。
「ジャノビーの戦い方は特性で威力の上がったリーフストームでの殲滅。そして一発芸だけでは相手のトップクラスには勝てない」
「……分かってるわよ」
「しかし時に一つを極めれば最大の武器となる。それはチャンピオンのニャースで理解したはず。つまり戦い方が悪いわけではない。ボクが言いたいことはこの短期間でも鍛えればエースではない相手くらいなら対処出来るだろうということ。つまりジャノビーの四体討伐には賛成だ」
「なんか癪な言い方ね」
「そして問題はピカチュウ。下手したらピカチュウ一体で全滅の可能性すらある」
「ピカチュウが強いのは分かるけど具体的にどのくらいか分からないわ」
「アリスの指示があるギラティナと互角に渡り合えると言えば分かるか?」
その言葉に全員が息を飲む。そのレベルのポケモンにどう勝つんだと。
「キンランは四天王に匹敵するトレーナー。それ相応のポケモンを使ってくる」
これの流れはマズいな。雰囲気が暗くなるし、重くなる。ある程度まとめて指揮をとって雰囲気を明るくせねば。
「……そもそもキンランさんを相手にする時点でそれは分かっていたはずだ。いまさら恐れることはない」
「そうだな! ダークライの言う通りだぜ!」
「それにドラミドロのりゅうせいぐんもある。使うタイミングを間違わなければ一気に追い詰められるはずだ。そしてナナは間違わない」
とりあえずは全員が前向きだ。大きな問題はないだろう。そしてジャノビーは一人で四体を倒すといった。恐らく僕はピカチュウと戦うことになるだろう。つまりピカチュウを倒すことを集中しなければ。
「恐らく拙者達の中で全体を見れば一番強いのはダークライ。拙者達はダークライを温存して如何に相手を消耗させられるかということを考えればいい」
それからしばらくはガヤガヤといった話し合いになる。どんなに入念に作戦を組み立てても相手の出方次第では無意味になることもある。これが無駄とはいわないが大切なのは想定外の事態に対応する能力だろう。
「待たせたわね」
そしてナナが戻ってくる。近くにはベアルンがいる。彼と待ち合わせをしていたのか。これからは食事にも期待できるな。
「みなさん。お久しぶりです。急に連絡がきたと思ったらナナは痛々しい姿になられて……正直に言うと今の私になにが出来るのか。まったく分かりません。それでも私に出来る限りのことは……」
「ええ。これからは恐らくメアと会うことになる。その時にまた三人で旅が出来るように……なにが出来るかじゃなくて一緒にいてほしい仲間だから呼んだの」
そうか。キンランさんとのバトルの前にメアとも会うんだよな。つまりゴゥー団との本格的な対決になるかもしれない。
「次の街はストロベリータウン。ここからは折角だし船で行くわ。とびっきりの豪華客船のチケットを取れたから楽しみましょ?」
「おお! それはいいですね!」
その時だった。バキバキと音がした。音は空からした。見上げると空には亀裂が入っていた。それにより辺りはガヤガヤと少し騒がしくなる。興味本位にカメラを構える人もいれば、怯えて泣き始める子供もいる。しかしそれだけで数分が経とうがなにも起こる気配はなかった。あれはいったい……
「ナナさん。なんですかあれ?」
「おそらくウルトラホールが開き始めているのね。あっちの空も見なさい」
「同じようにヒビが!」
「あそこからウルトラビーストという強力なポケモンが現れる。そして全ての元凶はゴゥー団よ」
「なんか大変なことになってきましたね……これはもう私達がどうこう言えることじゃない気がするんです」
「悪いけど今の私はデトワール地方でも指折りの実力。既に戦力として数えられているはずよ」
ウルトラビースト。それに関してはアルセ博士の研究テーマであり、ナナも性質を理解しているのが幸いか。下手したらラティ兄妹やレジ系にも匹敵するとされるウルトラビースト。それとどう戦うべきか……
「もしかしたらウツロイドの一匹くらいゲット出来るかもしれないわね」
そういえばナナは前にウツロイドが欲しいと言っていたな。まさか叶うチャンスが訪れるとは思っていなかった……
「ていうかウルトラビーストってなんですか?」
「簡単に言うなら『異世界のポケモン』よ。そして異世界とこちらの世界を繋ぐ穴をウルトラホールと呼ぶの。また確認されているウルトラビーストは11種類。それに最近ではお兄ちゃんの調べでコスモッグというポケモンもウルトラビーストとわかったみたいだから正式に認可されれば増えるわ。それに下手したらアリスの使うギラティナというポケモンも……」
そこからナナはウルトラビーストの説明を始める。
まず神経毒で洗脳して他の生命に寄生するウツロイド。そして次に可燃性ガスで全てを焼き尽くすテッカグヤ、数百リットルもの毒を保持して1万メートル先まで、その毒を飛ばすアーゴヨンに有機物や無機物も全て食らいつくすアクジキング。その他にもマッシブーン、フェローチェ、デンジュモク、カミツルギ、べベノム、ズガドーン、ツンデツンデといったポケモンの説明をしていた。
またネクロズマの名前が出てないことから恐らくネクロズマの確認はされていないのだろう。しかしどれも災害級。一体でも野放しにしたら大変なことになるのが分かりきっている。
「それ本当にポケモンですか?」
「今のところはそうなっているわ。モンスターボールには入るし、自分を捕まえたトレーナーには従順になるみたいだから。全世界規模でも一握りだけどウルトラビーストを使役するトレーナーもいるみたいだし」
「なるほど……」
「ただ普通のポケモンと比べて危険なのも事実ね」
そんな話をしていると出港の時間となる。ナナ達も船に乗り込む。目指す先はストロベリータウン。7つ目のジムがある地にして、究極のリゾート地。街の建物は全て純白であり、地球にあるギリシャのサントリーニ島を連想させる。そんな島を前に僕は不思議と胸騒ぎがしていた。
これで6章は終了となります。
次の7章では遂にゴゥー団との勝負が完全に決着がつく予定です。
この物語は10章完結を予定しており、既に終わりがみえてきております。
残り少なくなってきましたが最期までお付き合いくださると幸いです。