目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
『あ、こういうの苦手だわ』と思った方はちょっと飛ばして先に36話だけ読んでいただけると、スムーズに読めると思います。
「さて、行きましょうか」
ナナは目覚めると同時に自分に傷薬を塗って、すぐに旅を再開させた。
もちろん怪我の痕は一切ない。傷薬を塗って、その場で完治したのだ。まさかポケモンに使う傷薬が人間にも有効だったとは。そしてムンナの傷は相当重く、まだ目覚めることはなかった。
「さすがにムンナはポケットモンスターで見てもらわないとダメね」
「……最後の……トロピウスの……アレはナンダ?」
「私もあまり詳しくは知らないのだけど、恐らくアローラ地方に伝わるZワザでしょうね。学校で教わった限りだとZリングとZクリスタルが必要で、トレーナーの想いをポケモンに重ねて互いにゼンリョクを解き放つ大技」
待て。あのトロピウスにトレーナーがいるというのか?
今の説明だとZワザはトレーナーがいないと使えないと言っているようなものだぞ。
「でも、もしもトレーナーの想いに匹敵するエネルギーを単独で生み出すことが出来たのなら理論上はポケモンだけでもZワザを使えてもおかしくないわ」
「ソンナコトが……」
「もっとも普通は無理よ。でも、そうじゃないと野生のトロピウスのZワザは説明がつかないわ。あのトロピウスが特別な個体だった。そう考えた方が自然よ、なんていったってポケモンは今の科学でも分からないことだらけなんだから」
そういえばZワザは言われてみれば生前の彼女がウルトラサンで使っていた気がしなくもない。たしか、その時はバトルに一度だけって制約があったよな。この世界ではどうなのだろうか?
「ん? Zワザが連発出来るかって? あれはポケモンとトレーナーに相当な負担を強いる技だから推奨はしないけど、出来ないこともないわよ。もっとも大体のトレーナーは体力がついていかなくて一日に一度が限界。それに体力がもって私がZワザを使えたとしても、ポケモンに負担はかけたくないからZワザは一日に一回しか打たないわね」
ナナが僕の考えを読み取ったのか補足的な説明をする。それに対してナナは「自分のポケモンの考えていることくらいトレーナーなんだから分かるよ」とだけ言った。しかし、もしも僕があのトロピウスのようにナナの力を必要とせずにZワザを撃てるようになったら、もっとナナの役に立てるだろうか……
「他にもトレーナーと協力して行うことなら一部のポケモンでのみ確認されたカロス発祥のメガシンカ、それに事例が片手で数えるほどしかない、キズナ現象というものもあるのだけど……」
その時だった。草木が揺れて、そこからスピアーが飛び出してくる。それを見たナナは溜息をこぼした後に戦闘態勢に入る。そして間違いない。このスピアーはあの時に僕を倒したスピアーと同一個体だ。
「まったく……ムンナがやられてポケモンセンターに急いでるというのに……」
「ドウスル?」
「さっさと倒してポケモンセンターに直行するわよ。今の貴方なら負けないでしょう。ダークライ」
「スピッ!(どのくらい強くなったか見せてもらう!)」
「ダークライ! やきつくす!」
青い炎を弧を描くように地面を走らして、スピアーを囲む。そして炎は意思を持っているかのようにスピアーに襲い掛かる。しかしスピアーの動きは早く、炎がスピアーを捉えることはなかった。それを見てナナが下唇を噛む。
「随分と頭が回る個体ね! 頭が回る分、トロピウスよりも数段厄介かしら!」
それからスピアーは僕に近づいて、シザークロスを撃ってくる。それを僕はナナの指示を受けることなく難なく躱す。そして気のせいか動きが少しだけ前よりも遅い気がした。
「相手が遅くなったわけじゃない。貴方が前より成長したのよ」
「ナルホド」
「そのまま、あやしいかぜ!」
手を振り上げて紫色の突風を起こす。前回と同じようにスピアーは躱そうとするが、想像以上の威力だったのかバランスを崩す。そしてナナがスピアーに出来た一瞬の隙を見逃すはずがなかった。
「ダークライ。そのままやきつくす!」
手を振って青い炎を地面に走らせる。炎は的確にスピアーを捉えて、体を焦がしていく、
スピアーは炎を払おうと必死に暴れ、なんとか振り払う。しかしナナはそれも見越したのか次の指示を僕に飛ばしていた。
「スピアーが炎を払ったタイミングでゼロ距離であやしいかぜ」
僕はスピアーに近づき、ナナの指示通りに炎を払うと同時にあやしいかぜを叩き込んだ。あやしいかぜは今後こそスピアーに直撃して戦闘不能になる。
「……スピアーの傷はトロピウスみたいに重くなさそうだし、自分で回復出来る範囲だろうから欠片はいらないわね。それとダークライ。お疲れ様」
あのスピアーにこんなあっさり勝てたのか? 正直、もっと苦戦するものかと思っていたが……
「こうそくいどうをされたらやばかったわ。長引けば苦戦は必須。だから早めに勝負を決めたのよ。やっぱりここのスピアーは桁違いに強いわね」
ナナの采配があってこそか。スピアーを簡単に倒したナナの姿。会ってからまだ数日しか経っていないのに不思議と大きく成長している気がした。彼女が全てのジムを制して、ポケモンリーグに挑む時。彼女はどこまで強くなっているのだろうか。
それから森を歩き、すぐにポケモンセンターに着いた。ハクガ山のふもとにあるポケモンセンターだ。ナナはすぐにジョーイさんにムンナを預けて容態を見てもらう。幸いにもナナの適切な処置のおかげで明日には普通に動けるようになるそうだ。そしてナナのテンションはありえないくらい低かった。
「はぁ……」
「ドウシタ?」
「明日からハクガ山を登るのよ」
「ソウダナ」
「つまり登山よ?」
ああ。そういえばナナは運動音痴だと言っていたな。これから山を登るからテンションが低いのか。もっとも見た感じだとロープウェイとかもなさそうだ。大人しく登山するしかないだろう。
「それに今は暖かいけど、標高が高くなると雪が積もるくらいの雪山になる。つまり、それなりに着込む必要もあるから、防寒着も買わなくちゃ……」
「ナルホド」
「マグマッグとか捕まえれば楽なんだけど、ここら辺は生息地じゃないし……」
登山か。もっともダークライ常に宙に浮いてるおかげもあって歩いたりしても全然疲れないんですけどね! いやぁダークライで良かった。うん。
「そうだ! ダークライが私を背負ってもらってハクガ山を登ればいいんだわ!」
「……エ?」
「平気よ! 行く方向は私が指示を出すから。それに世の中にはウインディやケンタロスに乗って旅をするトレーナーもいるし、珍しいことじゃないわ!」
「ア、アノ……」
「それじゃあダークライ! 明日は頼んだわよ!」
こりゃ無理だな。こういう時の女は強い。生前の彼女がそうだった。一度そうと決まれば、絶対に折れることはない。これは仕方ない。諦めて彼女を背負って登山するしかないか。
「さて、それじゃあムンナが回復するまでの間、登山用の道具を揃えないとね」
そして財布を見て、ナナが青ざめた。まさか……
「ダークライ……お金がない!」
「ファッ!」
「旅立つ前に元気の欠片と傷薬を買い過ぎたぁ……それにここの宿泊費高すぎ」
おいおいどうすんだよ。この旅、ほんとに大丈夫なのかよ?
「というわけでダークライ! ポケモンバトルよ!」
「ン?」
「ポケモンバトルをした時、それを公式戦とするならば負けたトレーナーは所持金の約三割を勝者に支払わなければならない。そして支払えない場合はリーグ等の大会への参加を約一年の間、禁止とするって法律があるのよ」
えっぐ! いや、普通にえぐい。しかし、だからゲームで勝負に勝つとお金が貰えたのか。まさかそんな背景があったとは。しかし断られたらどうするのだろうか?
ゲームと違ってポケモンバトルをしないという選択肢だってあるだろう。
「基本的に相当な事情がない限りはポケモンバトルを断らないわ。特に法とかはないけど、暗黙の了解ってやつね」
「ナルホド」
「それじゃあ小遣い稼ぎするわよ!」
まるで悪の組織みたいだな。まぁ法を破ってるわけで悪いというわけではないから問題はないのだが、倫理的にどうなのだという話である。それからナナは近くにいた短パン小僧にポケモンバトルを申し込む。短パン小僧は二つ返事でOKを出す。すんなりとバトルが始まることになった。
「いけっ! ドンファン!」
「ダークライ!」
相手のポケモンはドンファンか。ボールから出てくると同時にドシンと大きな地響きが響く。そして短パン小僧が叫んだ。
「ドンファン! ころがる!」
「ダークライ。右に四歩くらい移動してあやしいかぜ」
僕は言われた通りにした。見事にジャストタイミングの擦れ擦れでころがるを避ける。そして後ろから、あやしいかぜを叩き込んでドンファンを一撃ノックアウト。
「はい。私の勝ち。それじゃあ所持金の三割ちょうだい?」
「え?」
「そういうルールがあるのはトレーナーなら知ってるよね?」
短パン小僧は涙目になりながらナナに二千円を渡して、ドンファンをボールに戻して去っていった。怖い。完全にやってることがチンピラのそれだ。ていうか、秒殺出来るくらいナナと一般トレーナーに実力差があるのかよ……
「さて、次はあそこのミニスカートの女の子と戦おうか?」
そうして再びバトルが始まった。相手のポケモンはドーミラー。今度のバトルは酷かった。僕が出てくるとナナはすぐにあやしいかぜを命じて相手に行動をする暇も与えずにバトルを終わらせた。そうして千五百円を奪う。
「良い感じだね! ダークライ!」
「……少し弱スギナイカ?」
「そりゃそうでしょうね。ここに来るトレーナーなんて大体がジム戦で勝てないから、勝つために強いポケモンを捕まえようとエラニの森に向かうトレーナーが大半だからね」
「ドウイウコトダ?」
「考えてみなさい。自分のポケモンじゃ勝てないから強い野生ポケモン捕まえて勝ちますなんて思考をしているトレーナーが強いと思う? それに仮にエラニの森で強いポケモンを捕まえたところでトロピウスに勝った貴方なら勝算は充分にあるわ」
「ソウイウコトカ……」
「そしてあとは経験の少なそうな子供を狙うことで勝利を確かなものにしていく。こちらの負ける可能性を極限まで抑えた良い作戦だわ」
どうやらうちのトレーナーは随分と下衆な性格をしているようだ。もっともルールを守ってやっていることだから悪いことではないのだが……
「でも、狙いはそこじゃないのよ」
「……?」
なにを考えている。そう思った矢先だった。ナナが随分とガタイの良い男に肩をトントンと叩かれた。ナナが振り返ると男が怖い顔をして、こちらを見る。
「初心者狩りで小遣い稼ぎとは褒められた行為じゃねぇな。嬢ちゃん」
「禁止はされてないわよ?」
「そうだな……俺とポケモンバトルしろ。嬢ちゃんが勝ったら俺の所持金の全て。約五万円を全てやろう。でも俺が勝ったらしっかり反省してもらおうか」
「望むところよ」
そうして再びポケモンバトルが始まった。少しだけナナも真剣な表情になる。そして男がボールを投げる。
「いきな。アリゲイツ!」
「お願い。ダークライ!」
相手はアリゲイツか。相性の有利不利はない。強いて言うならメインになるやきつくすの相性が悪いくらいか。そんなことを考えているとナナから予想外の指示が飛んでくる。
「ダークライ。上空に飛んで!」
珍しい指示だな。言われた通りにプカプカと上を飛んでいく。そして地面を見下した。大体ポケモンセンターの屋根くらいまで飛んだ辺りでストップと合図がくる。ポケモンセンターが二階建ての高さの建造物だから、高さ的には結構あるよな、うん。
「小癪な! アリゲイツ! みずでっぽう!」
「ダークライ。あやしいかぜでみずでっぽうをアリゲイツに返してあげて」
「しまった! アリゲイツ! 避けろ!」
言われた通りにあやしいかぜを撃つとみずでっぽうの勢いは殺され、無力化される。その様子を見て男は悔しそうに睨む。対するナナは余裕の表情だ。
「この高さならアリゲイツの得意な牙技は届かないわね。そうなると残された技はみずでっぽうくらいだけど、ここまで距離を離されると勢いは落ちて、みずでっぽうは本来の威力の半分も出せないんじゃないかしら? それこそあやしいかぜで簡単に落とせるくらいの威力しか」
「……卑怯だぞ」
「ルール違反じゃないわ。これも作戦よ。あなたは飛行タイプのポケモンが飛んで戦っていたら文句を言うのかしら?」
「……くそっ!」
「ダークライ。あやしいかぜをアリゲイツに当たるまで撃ちなさい」
僕は上からあやしいかぜをアリゲイツに向かって撃つ。最初のうちはアリゲイツも避けていたが、やがて体力が切れてきたのか、動きが鈍り、あやしいかぜに当たるようになる、一度当たったら隙が生まれて、二度、三度と当たり、ひんしになった。
「五万円。ごちそうさまです」
「……俺はどうすれば良かったんだ」
「同じ状況なら私だったら地面にみずでっぽうを撃って、その反動で宙を舞って、牙技で勝負を決めるかしら。それにしても良いアリゲイツだったわよ。また戦える日を楽しみにしているわ」
「じ、嬢ちゃん! 名前を教えてくれ!」
「ナナよ」
「俺はゲイル! いつかリベンジしてやるからな!」
ナナはゲイルに軽く手を振った。その時のナナは笑顔だった。五万円という大金が手元に入ったことに。
「初心者狩りをしていると正義感に釣られたトレーナーが相場以上の金銭を賭けてポケモンバトルを挑むことが稀にある。それを返り討ちにすれば旅には困らない。先生の言った通りだわ」
なにはともあれ、ナナの金銭ピンチは難なく逃れることが出来た。
The補足
トレーナーとトレーナーのバトルでは金銭の移動が発生します。そして、その賞金だけで生計を立てているのがポケモントレーナーです。またポケモンセンターなどで行う対戦はポケモンセンターにフィールドの貸出手続きをする必要があるため、公式戦としてカウントされます。