目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
一撃で決める。技を当てたならば本来なら一撃で倒さなければならない。それなのにサザンドラはミミッキュの攻撃を直撃で耐えた。二重弱点というのに。
ナナは平常を装うが実際は相当な動揺をみせていた。二重弱点で攻撃してもビクともしないサザンドラ。そんなポケモンを相手にどう決定打を与えるのか。今の手持ちのポケモンで勝つことは可能なのかと。
「ミミッキュ! かげうち! かげうち! かげうち!」
「ゴ……フッ(了承)」
ミミッキュは辺りを高速で動き回り、的確にサザンドラに攻撃を当てていく。そしてサザンドラの攻撃はナナの完璧な指示で避けていく。しかし攻撃が当たった地面が熱量で融解を始めてることから威力が規格外なのは誰が見ても明らかだった。
ナナはトレースしたことによりミミッキュに可能な動き、もっとも得意とする動きというものが手に取るように分かっていた。ミミッキュだけに情熱を注いだミミッキュを扱うスキルは相当なもの。今のナナは誰よりもミミッキュの扱いに長けているといえるだろう。それ故にミミッキュの力を出せずにいた。
(どこかのタイミングでつるぎのまいを出来れば勝機は……だけど既にばけのかわはない。もう舞う機会はこない)
本来ならミミッキュというポケモンはばけのかわを盾に戦うポケモン。そのばけのかわがない状態でミミッキュの扱いを覚えたとしても、意味はないのだ。
ミミッキュはばけのかわがあってこそのミミッキュなのだから。それでもナナはミミッキュを活かすために必死に勝ち筋を考えていた。
(そもそもダメージを受けた素振りもない。彼にレベル差があったとして二重弱点を突いてる。それなのにダメージを受けないってことはなにかしらのからくりが……まさか!)
そしてナナは一つの仮説を立てた。攻撃はもしかしたら当たっていなかったのではないかと。例えば当たっていたように見せられていた。もしもナナの仮説通りなら……
「ミミッキュ! おにび!」
「ゴ……フ(おう)」
そしてサザンドラは炎で炙られる。しかし焼ける素振りすら見せない。ナナはそれをみて想像通りだと笑みを浮かべる。
「ミミッキュ! そいつはみがわりよ!」
部屋にいたサザンドラ。それはみがわりだということにナナは気付いたのだ。そして上の方を見るとそこら中に横穴が空いている。恐らく横穴のどこかに本物のサザンドラがいる。そしてみがわりを倒したとしても現れるのは別のみがわりだとナナは察した。
「待ってください! みがわりならじゃれつくを耐えるのは……」
「これは予想だけどみがわりにみがわりを重ねていたのよ。ありえないくらい精密にみがわりを扱うスキルが必要になるけど、このサザンドラは恐らくそれが出来る個体。そして相当な臆病者ね」
しかしナナは詰んでいた。本来のサザンドラに攻撃を当てる術がないのだ。上のほうにある横穴のどこかにサザンドラの本体がいることは分かっても、そこまで到達する術がない。もしもサザンドラを倒すとしたらポケモンだけで行かせることになる。つまり指示の出来ない状況でのバトルを強いることになってしまう。ナナは1秒だけ頭を回転させてリスクとリターンの計算を行った。そしてボールを一つ投げた。
「ピアッ!? (どうした!?)」
そこから出たのはスピアーだった。ナナは真っ先に指輪を光らせてスピアーを強引にメガシンカさせる。スピアーも安心する主人に身を委ね、姿の変貌に身を委ねる。
「スピアー! ダークライ! メロエッタ! 三人で上にある横穴にいってサザンドラの本体を倒しなさい! あなた達なら出来るはずよ!」
「ナナ……」
「ダークライ。信じてるわよ」
※ ※
そうして僕は上の方にある無数の横穴に特攻したのだった。ナナ達の方からは派手な音と衝撃が伝わる。そして問題はサザンドラとどう戦うか。
「倒せばいいんだろ!」
「待て! スピアー」
そして気付いたらスピアーが単独で目にも止まらない速さで特攻した。一体スピアーはなにを考えている……。まるで理性の欠片もない動きだ。
「まぁ無理もないでしょ」
「メロエッタ?」
「そもそもメガシンカなんて相当な苦痛を伴うもの。それをトレーナーとの絆だけで強引に誤魔化してるの。もっというのなら頑張ってるトレーナーの声を聞いたり、見たりして必死に苦痛に耐えるの。だけどここでナナの姿は見える? 声は聞こえる?」
「そういうことか……」
「恐らくスピアーはサザンドラを倒すだけの破壊マシーン。私達だけで頑張りましょう」
「あぁ……もう敵も来てるみたいだしな」
そして影から二体のゲンガーが明らかな殺意を放って現れる。それに対して僕は戦闘態勢をとる。しかしメロエッタは……
「それじゃあいくわよ! ダークライ!」
「ちょっと待て! なんで後ろに下がってるんだよ!」
「相手はゴーストタイプよ? 私は明らかに不利。それにナナのポケモンじゃないから従う理由もない」
「いや、ノーマル持ってるんだからゴースト技は受けねぇだろ」
「それに……」
「なんだよ?」
「いくらダークライといえど指示を出すトレーナー無しっていうのは厳しいでしょ? 私がトレーナー代わりになってあげる」
おいおい。それで大丈夫かよ。そもそもポケモンがポケモンに指示を出すなんて今まで聞いたこともない。明らかにおかしいだろ。正気の沙汰じゃない。
「安心しなさい! ゲンガーの種族値と技は全て覚えてるから! それにポケモントレーナー歴はナナより長いんだから!」
「それはゲームの話だろ!?」
そんな茶番と同時にゲンガーがシャドーボールを無言で放ってくる。それを僕はギリギリで回避。それと同時にメロエッタから指示が飛んでくる。
「あくのはど……」
そしてメロエッタの指示通りに技を出そうとした時だった。目の前にゲンガーが現れて僕を拳で殴り飛ばす。それにより一気に吹き飛ぶ。久々に攻撃がクリーンヒットだ。
くそ……メロエッタの指示が遅い。もっと早くならないのか……
「うそ!? 物理技ゲンガーとかありえないでしょ!?」
「次は任せたぞ」
「う、うん! ゲンガーならダークライのあくのはどうで確一だか当てれば絶対に倒せるの! もう一度あくのはどう!」
「ヌッ!」
僕はメロエッタの指示に従い、あくのはどうを放つ。しかしゲンガーはそれを簡単に避けて距離を詰めてくる。僕はそれをバックステップで回避。そしてメロエッタの方は避けられるのが予想外と言わんばかりにアタフタしている。いつものナナの指示のタイミングなら間違いなく攻撃が当たっていたのに……
「なんで当たらないのよ! ダークライ! しっかりしなさいよ! 普通は命中100の技を外さないから!」
「……メロエッタ。悪いけどトレーナー向いてないと思うぞ」
「も、もういい! 私が倒すんだから!」
そしてメロエッタはシャドーボールを放ち、見事にゲンガーに命中させて一撃で落とす。そして二体目のゲンガーが怯んだ隙に一回転してステップフォルムにチェンジ。それと同時に影を硬質化させて生成した爪で一気にゲンガーを引っ掻いて吹き飛ばす。するとゲンガーはニヤニヤと笑いながら地面に潜って消えていった。
「ふぅ……」
いや、想像以上に強いな。トレーナーとしてはド素人なのに自分が戦うと無駄のない動きに的確な技選び。この上なく完璧といえる。もう最初から自分で戦えよ。
「ポケモンバトルとはこうしてやるのよ」
「いや、ただの格闘術だろ」
「う、うるさいわね!」
結局のところ指示のないポケモンバトルというのは喧嘩と変わらない。自分で最適解を考えて、動いて攻撃を仕掛ける。どこからどうみてもただの喧嘩だ。
それに対してポケモンバトルはトレーナーからの指示を受けて、それ通りにこなすというもの。そしてトレーナーは常に最良の判断をして、一番良いタイミングで指示を出すというものなのだ。
「しかしナナやメアって天才なのね……」
「ん?」
「トレーナーごっこをして分かった。あの子達は無意識で相手のポケモンの一瞬の気の緩みで生じた隙を突くように技を指示してる。コンマ数秒の中の最適なタイミングをそのポケモンに合ったタイミングで出す。だから攻撃は当たる」
それは気付かなかったな。恐らく一般トレーナーとナナ達の差はそこなのかもしれない。彼女達は感覚的に僕達にコンディションを把握して、どの技ならすぐに撃てるかというものを分かっている。だからポケモン達は彼女達の指示を受けていれば100%以上の力を出せているのだ。それは一種の才能のようなもので、ポケモントレーナーとして欠かせないものなのだろう。
そんな時に後ろの方から物音が聞こえたのでシャドークローの要領で影を硬質化させて生成した触手のようなムチで全て叩いた。するとバタッと後ろの方でナニカが倒れる音がした。振り向くとそこにはゲンガーが二体いた。そしてゲンガーは再び地面に潜り、姿を消していく。
「ねぇダークライ。今のシャドークローの射程って明らかに異常だしチートじゃない?」
「できる技術は使うべきだろ」
「私もシャドークローを使えるんだけど同じことって出来る?」
「無理だな。硬質化させた影にやみのエネルギーを加えて硬さは変えずに伸縮性を与えたことで可能にしてるからな」
「なるほど……やみのエネルギーはダークライ内部で分泌されるもの。つまり実質専用技ってことね」
「まぁもっともシャドークローよりも射程が長いだけで威力は変わらないが」
「分類物理で威力は70……ただのシャドークローじゃない」
「だからそう言ってるだろ」
しかし早めにスピアーとサザンドラを探さないといけないな。それにゲンガーも相当強いし厄介。またどこから攻めてくるか分からない。
「あのゲンガー。相当強いわね。弱点突いても倒れないなんて……」
「ゲームだとどうなんだ?」
「今の攻撃の話ならレベル50同士なら八割といったところね。ただゲンガーのレベルも未知。私達のレベルも不明なのだから、ダメージ感覚は当てにならないわよ」
まぁただゲンガー達も無傷というわけではなさそうだ。メロエッタの攻撃でそこそこのダメージを受けて、僕の攻撃で一気に戦闘不能ギリギリまで削れた攻撃はあった。しかし戦意は消えていない。どこから現れるのか……
「それにゲームと違ってレベル上限があるとも思え……」
「メロエッタ。少し静かにしてくれ」
「そうね。私が浅はかだった。まだバトルは終わってないものね。ただゲンガーはもう出てこないと思う」
「どうしてだ?」
「少なくとも私なら出てこない。さっきの不意打ちを対応されて出てくる気になる?」
「たしかに……」
「恐らく出てくるとしたら他のポケモンとの戦闘中とかじゃないかしら」
戦闘中か。それは厄介だな。それにまだサザンドラの本体も見つけていない。今からそれも探さなければならない。問題はどう探すか。そして見つけたらどう戦うか。
「サザンドラ。相手は悪とドラゴン。本来ならフェアリー技を使いたいわね」
「しかし誰も覚えていない」
「ええ。でもサザンドラといえど所詮はポケモン。ダークホールを撃てば眠る。そこであくむとかの定数ダメージで削っていくのが理想的な立ち回りね」
ダークホールか。強いのは知ってるが僕が好んで使う技ではない。あれは基本的に格下相手にしか当たらない。それ故に雑魚の相手にしか使うことのない技だ。ダークホールを軸にするとして問題はそう当てるのか。
「まずダークホールを軸にする理由の一つとしてはサザンドラの動きを封じたいから。そして二つ目は全体攻撃でゲンガーも眠りに誘える」
「たしかに理に適ってるな。まぁ戦うことはその時に考えるとしてサザンドラが……」
「もう来るわよ。いくわよ!」
それと同時に奥からスピアーが吹き飛ばされてきた。メロエッタは一瞬の隙を逃すことなく首に回し蹴りを打ち込み、一気の大ダメージを与える。それから何度も殴り飛ばす。しかしサザンドラはそれが鬱々しいのか腕を振ってメロエッタを一撃で元の場所に叩きつけるように戻す。そしてメロエッタは痛みに呻きながら膝をつく……
「インファイトを打って起こる防御ダウンからのダメージ。何度経験しても慣れないわね」
「なぁメロエッタ。どうしてサザンドラが来るタイミングが分かった?」
「音よ。私の耳は相当良くて小さな物音も聞こえるの……」
音か。メロエッタは音楽が得意なポケモン。彼女の歌は現に一流だ。それは耳の良さからきてるものかもしれないな。
……歌? そういえばメロエッタは歌が得意だったな。それなら一つだけ良い作戦があるな。これが決まれば……
「ピアッ!(倒す!)」
「待って! スピアー!」
「ゲンガァ(チャンス!)」
そしてスピアーは闇雲に特攻していく。そんなタイミングでゲンガーが姿を見せてスピアーにシャドーボールを叩き込む。スピアーは多少のダメージを負うが気にすることなくサザンドラに特攻していく。そしてサザンドラは上空に飛んで、回避して辺りに炎を吐いて火の海にしていく。僕は瞬時に動いてスピアーを抱き寄せて技を回避。そしてメロエッタに叫ぶ。
「メロエッタ! ほろびのうただ!」
「待って! そんなことしたらダーライもスピアーも私も意識不明の重体よ!」
「それでサザンドラを倒せ!」
「分かった! なんか策があるんでしょ!? 信じるわよ!」
そしてメロエッタが歌い始める。それと同時にあくのはどうで天井を砕いて通路を塞ぐ。あとは走ってボールの元に戻れば完璧だ。そして速さなら問題ない。ここにはナナの手持ちで最速のスピアーがいる。彼ならほろびのうたの効果を受ける前にナナの元に戻れる。
「スピアー! ナナの元まで行け!」
「おう!」
そしてスピアーが最後の理性を振り絞り、攻撃衝動を抑えて走り出した。そんなスピアーを見僕は先程ゲンガーに使った触手型シャドークローでメロエッタを拾い、スピアーの体に巻き付ける。しかし物事はそんなに上手くはいかない。逃げようとすると同タイミングで瓦礫を壊し。サザンドラとゲンガーが物凄い速さで追ってくる。あいつらの敗北は確定した。せめて道連れにしようという算段か。それならどう逃げる? このままでは追いつかれ……
「ダークライ! れいとうビームよ!」
「そんなんじゃ……」
「氷の壁で道を塞ぐのよ! 時間稼ぎにはなるはずよ!」
そういうことか!
僕はれいとうビームを放って氷で道を塞ぐ。しかしゲンガーはすり抜け、サザンドラはあっさりと壊してくる。こんな小細工は通用しないってことか。それなら……
「もう一度よ!」
「ああ!」
僕が氷の壁を作る。それと同時にメロエッタがリフレクターで氷の壁を保護する。それによりサザンドラの攻撃で氷の壁が一撃で崩されなくなった。しかし何度も殴られることで氷の壁にヒビが入ってくる。壊されるのは時間の問題か! だけどゴールは見えた!
そして洞窟の横穴から一気に抜け出す。それと同時にナナの声がした。
「ドラミドロ! りゅうせいぐん!」
「ドラァ(いくぞ!)」
広間に大量の隕石が降り注いでいく。それによりサザンドラのみがわりは壊れる。そしてナナも僕達の存在に気付く。そして驚きの表情を見せた。
「まさか!? ほろびのうたを使用したというの!」
ナナは瞬時に僕とスピアーをボールに戻す。その場にメロエッタだけを残して。ナナは何故メロエッタを残したのだろうか。はやく戻さないと……
「ナナさん。どうしたのですか?」
「メロエッタのボールがないのよ!」
「え!? 落とし……」
「違うわよ! メロエッタはそもそもメアのポケモンでボールを持ってるのは彼女。メロエッタのボールは最初から手元に無いわよ」
「待ってください! それなら……」
「まだチャンスはある。ダークライ。いくわよ!」
そして再び僕をボールから出す。それと同時にナナのZパワーリングが光りだす。対象は思いっきりメロエッタ。なにをする気だ!?
「ほろびのうたでメロエッタがやられる前にメロエッタを戦闘不能にする。歌の効果から逃れるにはそれしかない!」
「マテ……」
「待たない。ほろびのうたは受けたらポケモンセンターに真っ先に連れていかないと確実な死がもたらされる危険な技。Zワザを受けてもらった方がまだマシだわ。一撃で決めないとメロエッタが危ない! ブラックホールイクリプス!」
そしてメロエッタにZワザが命中する。絶大なパワーを誇るZワザ。それによりメロエッタは一撃で戦闘不能になる。また横穴から飛び出してきたサザンドラとゲンガー二体。それに対して的確にモンスターボールを投げていく。そして不思議なくらいサザンドラとゲンガー二体はあっさりと捕獲された。恐らくボールに入らないと死ぬということを察したのだろう。
「ふぅ……危なかったわ」
ナナは戦闘不能になったメロエッタを抱き寄せて、げんきのかたまりを与える。それでもメロエッタは目を覚ますことはなかった。どうやら僕は判断を間違えてしまったようだ。
「メロエッタがほろびのうたを使えるなんて迂闊だったわ。まぁ数時間もしたら目を覚ますでしょう」
そしてナナは捕まえたサザンドラとゲンガー二体のボールを投げて、出すと同時にボールを近くにいたジャノビーに破壊させる。その様子をみた三体は納得したような表情をみせて去っていった。
「捕まえないんですか?」
「バトルもしない。ポケモンが望んだわけでもない。こんなゲットの仕方は私が御免よ」
ナナはその場に座り一息だけつく。まるで自分の判断を悔いるかのように。
「ナナさん……ほろびのうたって……」
「聞いたポケモンに確実な死を与える最強の技。そして使用が禁止されてる数少ない技の一つ。もっとも使えるポケモンなんて滅多にいないけど」
「そんな技が……」
「聞いた時の対処法はボールに戻す、もしくは戦闘不能に追い込む。そうすると何故かほろびのうたの進行は止まるのよ」
ほろびのうた。まさかそこまでとんでもない技だとは思わなかった。僕はてっきりゲームと同じで戦闘不能にするだけだと思ってた。それが……そんなはずじゃ……
「まぁ大事にはならなかったから良しとしましょう。それにこの一件はメロエッタの技を把握してなかった私の責任。ポケモン達は最善を考えて動いただけでなにも悪くはない。だけどメロエッタには少しキツくほろびのうたについて言い聞かせないとダメね」
それからナナは改めて入念にメロエッタの体調を確認する。そして命の別状がないことを確認すると同時に腰をあげて扉へと向かった。
「ナナさん。行くんですか?」
「ええ。メロエッタも大丈夫そうだし、それにここまで来て最深部になにがあるか確認しないと気になって夜も眠れない」
「でもサザンドラ以上のポケモンがいたら……」
「十中八九いるでしょうね。だけど……それは帰る理由……心の奥底から湧き出るワクワクを止める理由にはならない」
そしてナナはボールから出したままのジャノビーに命じてリーフスト―ムで扉を一気に破壊する。それと同時にボール越しでも寒さを感じるくらいの圧倒的な冷気が辺りを襲った。
「さむっ!」
「ブーバー! ねっぷう!」
それに対して瞬時に反応したのはベアルンだった。彼は自分のポケモンに命じて寒さアを打ち消したのだ。しかし威力が足らず、まだ肌寒い。
「ベアルン。助かったわ」
「……しかし、まだ寒いですね」
「ええ……だけど耐えられる程度の寒さにはなったわ。そのまま行きましょう」
ナナ達は更に奥地へと向かう。扉の奥には凍り付いた階段。足を滑らせないように慎重に歩き、階段を下っていく。そして階段を降りると一面が氷の大部屋があり、冷気は先程よりも勢いを増した。
それと同時に目の前からこの上ないプレッシャーを感じる。その存在を見てナナは驚きの表情を見せた。
「なに……このポケモン……」
そこには灰色の体を持つドラゴンがいた。そのドラゴンは体の半身が凍っていた。それなのに強いプレッシャーを放ち、絶対的な格上の存在だと体に強く認識させる。
そのドラゴンは黄色い目でナナに忠告するような視線を向けている。それに対してナナは震えながらも声を振りしぼって話しかけた。
「あなたは……?」
「ひゅらららら」
その声の意味は分からない。しかし脳にドラゴンの言いたいことがダイレクトに刻まれていく。彼の思考が分かる。彼は言っている。
『汝がポケモンバトルを望むなら相手になろう。望まぬなら帰るがいい』と。
それはナナも理解できたようだった。ナナは震える手で僕のボールを掴む。その様子にドラゴンは興味深そうにみる。しかし、その目はどこか期待してるようだった。まるで退屈を紛らわせてくれるのではないかと。しかしナナはドラゴンの目を見てボールから手を離した。
『どうした。人の子よ』
再びダイレクトに言葉が脳に刻まれる。そしてナナは今度は臆することなく言う。
「今はやめとくわ。恐らくあなたとはバトルにすらならないで負ける」
『残念だ』
「でも私がもっと強くなったら、またここに来るわ」
『よかろう。その時まで再び眠りにつくとしよう』
そしてナナ達は、その場を後にした。
後に聞いた話。このドラゴンは『キュレム』と呼ばれ、全てを凍てつかせるほどの力を持つ伝説のポケモンだったそうだ。また不思議なことに今回訪れた洞窟は跡形もなく消えていた。洞窟そのものはあるのだが重力に逆らう滝が消えていたのだ。
この冒険が夢なのか現実なのか。それは誰にも分かることなく終わった。
ただ一つ言えることはキュレムというポケモンは間違いなく存在していたことだろう。