TS転生したのでミステリアスキャラを気取って弟子を育てていたら大惨事になっていた件 作:チーたらパイセン
相変わらず、王都はどこもかしこも人であふれ賑わっており、活気づいている。元々煌びやかで活気のある都市ではあったが、他国の都に比べるとやや元気がない街だった。
王都がここまで活気づいた街になったのは、一時期行方不明になっていた第一王子が王都に戻り、政治に介入するようになってからだ。
第一王子が戻ってからの王国の景気は一気に回復し、王都のみならず周辺の街や集落の景気も回復傾向にあった。
俺が何故、そこらの屋台で買い食いをし王都の観光をしているか?それは昨日の夜に時計の針を戻さなければならない。
「「買い出し(ですか)?」」
急用ができた
「それで私たちに行って来いと…。別に私は構いませんよ。服とかも買いたいですし」
「そんなのツバキ一人でいいだろ。俺が行く必要あるのかよ?」
「お前たち二人の休暇でもある。暇だというのなら、武器屋にでも行ってみたらどうだ?質のいい剣がおいてあるはずだ。それに王都にはここでは味わえない刺激がある。3日はいないから楽しんできたまえ」
っというわけで王都を満喫している。汽車と馬車を乗り継ぎ、王都まで半日かかった。そのため、かなり日が傾いてきている。
「武器屋は明日だな」
ツバキがお嬢様モード全開で値切った宿屋を目指して歩く。かなり高級な宿だったが、半額以下に値切ったため、2泊できる。ツバキは外から見れば容姿だけは整っているため、人気がある。その本性を知らなければ、どこぞの貴族の令嬢にしか見えないだろう。まあ、仮面を外せばただの腹黒ドS女だが。
宿の部屋に戻ると、床に一枚の紙が置かれていた。ドアの下から入れたであろうそれには『黄金の帽子亭で待ってます』っと書かれていた。
「あいつ豪遊する気満々だな」
ため息をつきながらも、黄金の帽子亭に向かう。外観を見る限り、大衆の酒場っといった感じで宿のような高級感は認められない。
店に入ると、張り付けたお嬢様の仮面で酒を頼んでいるツバキが目に入った。ちなみにこの国では親権者の許可があれば何歳からでも酒はOKだ。
「よう、なんかいい買い物できたか?」
「ん~、そうですね~。まあ、先生からもらった予算の半分以上が消えたとだけ」
「は!?」
「だ、大丈夫ですって、買い出しの分は抜いてますから」
「そういう問題じゃないだろ!?」
冗談だろ?先生から渡されたのは13万エリー。交通費代と宿泊代で3万エリー。買い出しの分を抜いて7万エリー。その半分は3.5万エリーだ。どんなだけ、無駄遣いしたんだ……。
「どんだけ残ってるんだ?」
「い、1万エリー………です」
「は、はぁ!?」
残り1万。行きの交通費代は二人分で1万4000。もはや赤字だ。しかも、恐ろしいことに食事代を考えれば、1万エリーなんて軽く吹き飛ぶ。
「い、いろいろ買うものがあるんですよ。服とかアクセサリーとか化粧品とか」
「マジかよ…そんなのどれも同じだろ………」
「ハァ~、これだからハルトさんは…。そんなこと言ってるから童貞なんですよ」
「童貞関係ねえだろ!お前だって処女だろ!?」
「と・に・か・く。食事代は私が持ちますし、帰りの汽車代も私が何とかするのでこの話は終わりです!」
「………お前なぁ」
「良いじゃないですか、ハルトさんは先生に武器代の3万エリー別にもらってるんですから」
焼き魚を口に放り込み、不満そうに俺に文句をつけてくる。なおもこの不毛な言い争いが続くかと思われたが、酒場中に響く声で叫ばれた言葉によってそれは防がれた。
「本当なんだ!あの現場から走るように逃げて行った人影……あれは間違いなく副団長のものじゃなかった!あの人は嵌められたんだ!」
何事かというように周りの視線が、顔を赤くして叫び散らす男に注がれる。
酒に酔っているのもあるが、かなり興奮しているらしい。彼の正面に座っている男が、顔をしかめて男を諫めた。
「まあ、落ち着けよ。でも他の目撃者は副団長を見たって言ってるんだ。お前の見間違いじゃないのか?」
「すいません、あの殿方たちは何のお話をされているのでしょう?」
気が付けばツバキは、テーブルから離れカウンターに座り作業をしていた店主に話を聞きに行っていた。
「嬢ちゃん、どこの貴族のご令嬢かは知らないがこの事件を知らないってことは、少なくとも王都の貴族じゃないんだろ?だったら、悪いことは言わねえ、関わらないほうがいい」
顎ひげを蓄え、鋭い眼光でツバキに忠告をする店主は正直…荒くれものにしか見えない。
「
胸の前に手を組み上目づかいでお願いするツバキに負けたのか、渋々といった感じで店主が説明しだした。
「……数日前に王都で殺人があったんだ」
「殺人ですか」
「…嬢ちゃん、王都についてはどれくらい知っている?」
「人並程度には」
「…王都は大きく分けると5つの地区に分かれてる。宿や飯屋が乱立するここ東区、貴族の屋敷や高級料亭などが並ぶ西区。住宅街になっている北区。ちょっと治安が悪い南区。そして、王城と侯爵以上の屋敷がある中心区。…例の殺人は西区で起きた」
「ああ、なるほどそういうことですか」
要するに、何らかの形で貴族が介入している事件というわけか
「しかも例の西区の殺人、殺されたのはエリオット・バーボンドらしいぜ!しかも、大して争った跡もなく鮮やかな手並みだったらしいぞ!」
ツバキの色気につられたのか、酔っ払いの客が話に横入りしてきた。
が、店主の眼力に負け仲間の元へ戻っていった…何しに来たんだ?
「えーと、騎士団の方ですよね?」
さらっと、男のことなどいなかったかのように話をつけようとするツバキ。やっぱり、腹黒だ。
「ああ、『最優の槍兵』と呼ばれた男だ。侯爵家の次男なんだが、貴族のコネだけじゃなく実力も兼ね備えていて、一時期は次期副団長とまで呼ばれていた」
「え?でも、今の騎士団の副団長って女性の方ですよね?」
「ああ、アイラ・シュゲール。元はただの町娘だったはずなんだが、どうやら騎士団で成り上がれるほどの才能の持ち主だったらしくてな。今では副団長まで上り詰めた」
アイラ・シュゲールの名は有名だ。歴代初の女性の副団長として数年前その名が広まり、一躍時の人となった。
「なるほど、彼とは確執があったんですね」
「ああ、その上現場から走り去るアイラ・シュゲールを見たって人間がかなり多くてな。シュゲールは拘束され、取り調べを受けてるって話だ……」
「すまねえ、マスター。騒がしくしちまって、少し多めに払おうか?」
「いや構わねえよ、ここは酒場だ。多少の騒ぎは日常茶飯事だ」
先ほどの彼の相方が店主のもとに会計をするため、席を離れたのを見計らってつぶれている男の方に近づき話を聞きに行く。
「なあ、ちょっといいか?」
「ああん?」
だいぶ酔っているらしい。焦点が合ってない。
「さっき言ってた嵌められたってどういうことなんだ?」
「だから何度も言っただろ!!!あまりにも騎士団と貴族のやつらの動きが不自然なんだよ!統一感のない目撃証言と動機だけじゃあッ!身柄の拘束、もしくは監視までしかできないはずなんだ!なのに、アイラ副団長は独房に入れられたうえ、拷問まがいの尋問を受けてる!!!」
確かに不自然だ。解析系の魔道具や被害者の身辺調査を詳しく行わないうちに、そこまでやるのは不自然だ。
「アイラ副団長は元平民だから、騎士団で成り上がり切れなかった貴族どもにはかなり逆恨みされてるんだ………あの貴族どもが何かしたに決まってる」
「………なるほどな。いろいろありがとうな」
そう言って、席を離れ男の相方と入れ違いで会計を済ませる。
「帰るぞ、ツバキ」
「……では、失礼します」
店主にお礼を言って、二人で店を出る。
「お前、まさかとは思うがこの事件に首を突っ込んで一儲けするつもりか?」
「そ、そんなわけないじゃないですか~」
「おい」
眼を思いっきり泳がせ、顔を背けるツバキは墓穴を掘るように自分に追い打ちをかける。
「………何を根拠にそんなことを」
「必要以上に話に食いついてたからな。もし、アイラ・シュゲールが冤罪ならばそれを証明して、何かしらの形で金をとるつもりだったろ?」
「うぅぅ……女の子の本音を暴くなんてなってないですよ」
微妙に涙を浮かべ、上目遣いでにらみつけてくるツバキ。だが、俺はもう知っている。これが演技だということを!
「うるせえ、どうせそんなこったろうと思ったよ」
「ハァ~、別にいいじゃないですか。手伝ってくれって言ってるわけじゃないんですし」
開き直りやがった。
「ハルトさんも気になりません?事の真相が」
まあ、確かに気になる。あの男が言っていた説だと一つだけわからないことがあるのだ。
「騎士団の副団長候補になるような実力の持ち主を殺せる人物は限られてきますよね?」
「………そうだな」
そう、まさにそれだ。騎士団は国の支配下にある軍隊だ。貴族の私兵とは違う。生半可な実力じゃあ上には立てない。
「まあ、少し調べてみてもいいなとは思うけど」
「では決まりですね!私たちの帰りの帰りのお金を稼ぐために、頑張りましょう!」
「…俺は先生からもらった武器代を節約すれば帰れるんだけど」
「あは~、何を言ってるのかわからないです~」
ウィルスタリア王国とアンセリス王国そして、大陸でもっとも力のあるディストピア帝国。3国を隔てるように中心に位置する大森林とグレート山脈。
私は
私に呪いをかけた魔女は己の研究資料を大陸中のあらゆる場所に隠した。弟子を作るまでの190年程は様々な場所に行き、研究資料を探していたがここ数十年間は探索を中断していた。正直、あらかたの研究資料は集め終わっていたし、自分に必要ないと思っていた研究資料は探しにすらいかなかった。
だがここにきて、呪いについての研究それも解呪ではなく、どちらかといえば呪いをかける側の知識が必要になってきた。それも、一般的な知識ではなくもっと深い知識だ。それに加えて呪いについての研究資料は意図的に破られていたページがあり、その行方不明のページを探す必要も出てきた。
そのために、ここに来たわけだが………。
——————なんか結界が張ってある。百年前にはなかったはずの結界だ。最近何者かによって張られたものだろう。
「フン!」
結界に手を当て、構造を解析し真反対の魔力を無理やり流し込み結界を壊す。
パリィィィィィンっとけたたましい音と共に結界が割れる。
「フム、それにしても出来のいい結界だったな」
「結界を叩き割った後に言われたのでは嫌味にしか聞こえませんがね」
不意に声が響き後ろを振り返ると、黒い翼を生やし中折れ帽をかぶった白髪の男が立っていた。
「お前、悪魔だな?誰の眷属だ?」
「ヒヒヒッ、この私を悪魔だと瞬時に断言できるのは貴方ぐらいでしょう。魔女よ」
「質問に答えろ」
「ヒヒッ、美しい顔をそう歪めるものではありませんよ。あなたの笑顔が好きだと、我が主も申しておりました」
こいつの主は私を知っているのか?
「『
手のひらに風を収束させ球体を作り、悪魔のいるほうに放り投げる。
瞬間、球体は弾け岩や砂塵が風に流され激しい大爆発が引き起こされる。風の爆発の衝撃で大地が削れ、地震の如く地が揺れる。
粉塵に視界が覆われる中、追い打ちをかけるように百を超える炎の球体が悪魔がいるであろう位置に殺到する。風に熱が乗り、爆音が大森林に響く。やがて煙が晴れていき、周辺の変わり果て地形が視界に入る。
あちこちに小規模なクレータができ、地面からは煙が噴き出ている。加えて、私が立っている場所を除いて辺り一帯は半径30mほどのクレーターとかしている。
「いやはや、驚かされますよ………魔女殿。流石はあの方の———」
上空からの声に上を見上げると、所々に火傷を負いつつも五体満足でホバリングしている。
「………その翼ごと焼き尽くすべきだったな」
「ヒヒヒ、大人げないってもんですよ?魔女殿」
「質問に答える気にはなったか?」
「ヒヒッ、主の正体についてはお教えできませんが、一つだけいいことを教えて差し上げましょう」
「…………」
「根が純粋であればあるほど悪魔に憑かれやすいもの。根が純粋かつ思想が闇に傾いているのであればなおさらです。傷を癒し、歩むための
「………何が言いたい?」
「王都に向かったほうがよろしいかと、彼が戻ってこれる最後のチャンスかもしれないですから」
「………………」
「私の名はバルモン!ではまたお会いしましょう!魔女殿!!!ヒヒヒッヒーヒツヒー」
そう言い残し、バルモンははるか上空に去っていった。
物語の構成上、主人公が出せない……。