蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

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 転生特典は最高だが、転生先は最低だった。

 

 俺、五月女(さおとめ)頼人(らいと)の現状は上の一文に尽きた。

 

俺は二次小説やライトノベルでお馴染みの、一度死んでアニメやゲームの世界に転生した「転生者」だ。

 

 前世の俺の名前や死因は思い出せない。思い出せるのは今の世界に転生する前に、正体不明の光の玉に話しかけられた光景だけだ。

 

 その光の玉はまるで機械のようにカタコトで話しかけてきて聞き辛かったが、話をまとめるとどうやら俺は偶に産まれる特殊な魂の持ち主らしく、特殊な魂の持ち主は転生の輪に還ることなく別の世界に転生する事がこの世界のルールらしい。

 

 そして光の玉の説明によれば俺は転生先の世界と転生特典を自由に選べるのだが、転生先の世界をランダムにすればその分、転生特典が強力になるらしく、それを聞いた俺は迷う事なく転生先の世界をランダムにした。……それが後に致命的な失敗になるとも知らずに。

 

 転生特典なのだが、子供の頃から○ョジョのファンだった俺は○タンド能力のような使い魔を創り出す能力を望み、その使い魔の外見や能力を決めてから俺は、五月女頼人として今の世界に転生したのだった。

 

 転生した俺は最初、前世の記憶を忘れていて、思い出したのは転生特典で得た能力に目覚めた中学一年の夏だ。

 

 能力に目覚め、前世の記憶を思い出した俺は「スタン○使いみたいだ」とはしゃいでいたが、はしゃいでいられたのはほんの僅かな間だけだった。俺の能力を知った両親は大慌てでどこかに電話をすると、その翌日に俺は強制的に全寮制の学校に転校させられたのだ。

 

 俺が転校させられた学校の名前は「五車学園」。

 

 そう、あの「対魔忍アサギ」で対魔忍を育成する為の学校だ。……って! ふざけるなよ!

 

 何で「対魔忍アサギ」の世界!? 確かに転生先の世界はランダムにしたけど、よりにもよって「対魔忍アサギ」の世界に転生するなんてどれだけ運が無いんだよ、俺!?

 

 前世でソーシャルゲームの「対魔忍RPG」で遊んだ事があるので、その原型である「対魔忍アサギ」の事はよく知っている。内容を簡単に説明すると、近未来の日本で主人公のアサギを初めとするヒロイン達が様々な形で陵辱されるという十八禁ゲームだ。

 

 そして対魔忍はいわゆる現代忍者で、どれも超能力みたいな強力な忍法を使えるのだが、どいつもこいつも敵に正面から突っ込む事しか知らない脳筋ばかり。対魔忍シリーズに登場するヒロイン達を初めとする対魔忍は全員、敵の罠にあっさり引っかかって即死か陵辱ルートに一直線という流れなのである。

 

 そんな対魔忍を育成する学校に転校? それって俺も対魔忍になるってこと? 影で「肉オナホor肉バイブ」、「ネトラレの宝庫」とか言われている対魔忍に? ………正直な話、全力で遠慮したい。

 

 しかし俺を五車学園に送りこんだ今世の両親は、俺が対魔忍として活躍する事を望んでいるみたいで、とても「対魔忍になりたくないです」とは言えなかった。更に言えば五車学園を退学すると、国の機密である対魔忍の秘密を守る為に、退学者には国から何らかのペナルティーを受けるらしいので、俺には最早「対魔忍にならない」という選択肢はなかった。

 

 ……仕方がない。幸いにも俺が転生特典でもらった能力は前線で戦うタイプじゃないし、もし任務が来ても適当に後方で死なないように頑張りますか。

 

 そもそも、いくら対魔忍が脳筋ばかりでも……いや、戦闘力のみを重視する脳筋ばかりだからこそ、俺のような一見地味な能力なんて見向きもされないだろう。

 

 

 

 と、思っていた時期が俺にもありました。

 

 五車学園に転校して一年後。俺は夜の高層ビルの屋上にいた。

 

 何故俺がこんな所にいるのかと言うと、それはとある汚職政治家の汚職の証拠となるデータを探す任務に参加しているからである。……ちなみに今年に入って俺は、これと同じような任務に数回参加している。

 

 全く、いくら危険度が少ない任務だからといって、対魔忍見習いの学生を任務に駆り出すなよ。対魔忍ってそんなに人手が足りないのか?

 

 ちなみに任務に参加しているのは俺だけでなく、高層ビルの屋上には俺の他に数人のピッチリスーツを着た変態集団……失礼、対魔忍の先輩方もいる。

 

 え? 俺は先輩方のようにピッチリスーツを着ていないのかって? 着てるわけないだろ。俺は今、紺色のスタイリッシュなツナギを着て、同じく紺色の帽子を被ったどこかの作業員にも見える格好をしている。

 

 ピッチリスーツ……じゃなくて対魔忍スーツは動き易くて防弾性も高いが、それは俺が着ているツナギも特殊繊維を使用しているので防弾性が高く動き易い。というかあんな対魔忍スーツを着ていたら、一発で対魔忍とバレる上に恥ずかしいじゃないか。だから俺は上からの命令がこない限りは対魔忍スーツなんか着ない。

 

「そろそろ始めようか? 五月女君、ヨロシクね」

 

 俺が対魔忍スーツを着ない決意を改めて決めていると、対魔忍の先輩方の一人が俺に話しかけてきた。話しかけてきたのは対魔忍シリーズのメインヒロインの一人、井河アサギの妹である井河サクラだ。

 

 ……こうして見るとサクラの姿ってやっぱりエロいよな。うん、男の対魔忍はともかく、女の対魔忍は対魔忍スーツを着るべきかもしれないな。いや、変な意味ではなく、敵を油断させるという意味で。

 

「分かりました」

 

 俺はサクラの姿に興奮しかけた事を知られないように冷静な声で答えると、自分が着ているツナギの胸元を開いて転生特典として得た能力、忍法を発動させる。俺の胸元には蜘蛛の形をした痣があり、忍法を発動させるとその痣の部分の皮が盛り上がって、やがて一匹の蜘蛛に変化して動き出した。

 

 これが俺の忍法「獣遁・電磁蜘蛛」。

 

 忍法の内容は「自分の肉体の一部を変化させ、電磁波を使った様々な能力を持つ蜘蛛を創り出し、それを操る」というもの。

 

 対魔忍の関係者が言うのは、俺の忍法は自身の身体を動物に変えたり動物を操る「獣遁」という忍法と、電気を操る「雷遁」の特性を併せ持つ、非常に珍しい忍法らしい。それを聞いた時、俺は「転生特典って凄いな」と素直に感心したものだ。

 

 忍法で蜘蛛を創り出した俺は、左手に持っていたコンポジットボウにその蜘蛛を矢の代わりに番え、目的の汚職政治家のデスクがあるここから一キロ先のビルに向けて弓に番えた蜘蛛を放つ。蜘蛛が高速で夜空を飛んでいったのを確認してから俺は、両眼を閉じて意識を集中させる。

 

 すると真っ暗だった視界が、夜空を飛ぶ蜘蛛の視界にと変わる。

 

 これが俺の蜘蛛の能力の一つ。俺の蜘蛛は「光」という電磁波を感じる事で、どんな暗闇の中でも昼間のように見る事ができて、俺は遠くからその視界を共有する事が出来るのだ。

 

 そして俺は蜘蛛の飛行速度が下がってきたところで、腹部を風船のように膨らませて、空中から汚職政治家のデスクがあるビルに向かって移動させる。

 

 これも俺の蜘蛛の能力の一つで、「バルーニング」という蜘蛛の幼体が糸を使って風と大気の電磁波で空を飛ぶ現象から考えた能力だ。

 

 俺が転生時にこの能力を作ったのは、前世のネットで蜘蛛が様々な、それこそ下手をしたら今の機械よりもずっと高性能な事を知ったからだ。事実「獣遁・電磁蜘蛛」で創り出した俺の蜘蛛は、目的のビルに到着してからも他にも様々な能力を駆使してビル内部のセキリュティを突破して、汚職政治家の汚職の証拠となるデータを盗み出す事に成功するのだった。

 

「データを盗み出す事に成功しました。データの入ったメモリーチップ、今から蜘蛛に持って帰らせます」

 

「おおー。まだ十分も経っていないのに早いね。やっぱり五月女君は優秀だね」

 

 データを盗み出す事に成功したのを報告するとサクラは笑みを浮かべて褒めてくれた。正直、魅力的な女性に褒められて嫌な気はしない。しないのだが……。

 

「ちっ……。あのガキ、いい気になりやがって」

 

「あんな警備、俺だったらもっと早く突破しているっての」

 

「あんな地味な忍法しか使えないくせに調子にのるなよ……」

 

 全く出番がなかった上、俺だけがサクラに褒められている先輩の対魔忍達(全員男)の呟きが聞こえてくる。横目でその対魔忍の先輩方を見ると、彼らは俺に明らかに見下す目で嫉妬の視線を向けてきていた。

 

 自分達の方が上手く任務を達成出来ると思っているなら、そっちが任務をやってくれよ。対魔忍見習いの学生なんか使うなっての。

 

 ……はぁ、もう対魔忍の任務なんて来ないでほしいな。せめて学生の間くらい、平穏な学生生活を送らせてほしい。

 

 

 

 しかし、そんな俺のささやかな願いは叶う事はなかった。

 

 前にも言ったように、対魔忍のほとんどは基本的に正面からのゴリ押ししかできない脳筋ばかりで、偵察のような地味だけど忍びとして重要な任務をこなせる対魔忍は非常に希少なのだ。

 

 サクラの報告書から、五車学園の学園長であり対魔忍の総隊長でもあるサクラの姉のアサギに目をつけられた俺は、ほとんどは偵察任務だが対魔忍の任務に駆り出される事になるのであった。

 

 働きたくねぇ……。

 

 

 

 

 

「五月女頼人」

 転生者の対魔忍。

 転生特典で○ョジョのスタン○能力を参考に「獣遁・電磁蜘蛛」という忍法を開発する。

 父親は獣遁を使う対魔忍の家系で、母親は雷遁を使う対魔忍の家系だったのだが、両者の家系とも永らく対魔忍の力に目覚めておらず今ではほとんど一般人であった。だから両家系の特性を持つ忍法に目覚めた頼人の存在は両家系にとって希望となっている。

 この世界では一歩間違えば即死、良くても陵辱の限りを受けて廃人になると知っているので、対魔忍の任務はあまりやりたくないのだが、サクラやアサギに気に入られたせいで徐々に任務に駆り出される回数が増えてきていて、それが悩みの種。

 

「獣遁・電磁蜘蛛」

 五月女頼人が転生特典でジョジ○の○タンド能力を参考に開発した忍法。

 その能力は「自分の肉体の一部を変化させ、電磁波を使った様々な能力を持つ蜘蛛を創り出し、それを操る」というもの。

 使用すると胸の蜘蛛の形をした痣がある部分が変化して蜘蛛になる。

 電磁蜘蛛の持つ能力は以下の通り。

 (1)どんな暗闇の中でも昼間のように見えて、頼人と視覚を共有する。

 (2)腹部を風船のように膨らませて、風や大気の電磁波を使って空を飛ぶ。

 (3)自身にあたる光を初めとする様々な電磁波を捻じ曲げる事で透明になる。

 (4)電磁波を使い、電磁砲の原理で体内にある鉄製の弾丸を発射する。ただし弾数は二発で、威力は拳銃程。

 (5)身体全体から電気を放出して接触した敵を感電させる。

【破壊力ーD/スピードーB/ 射程距離ーA/ 持続力ーA/精密動作性ーC/成長性ーE】


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