蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

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 美神令子。

 

 俺が前世で読んだことがある「GS美神極楽大作戦!!」の主人公であり、後の世の人間に「最強のゴーストスイーパー」と呼ばれる程凄腕の霊能力者である。

 

 この世界がGS美神の要素を含んでいるのは、忍法に目覚めて前世の記憶を思い出してすぐに気付いた。何しろテレビではほぼ毎日のように、大小問わず悪霊などによる事件のニュースが流れていたからだ。

 

 GS美神では悪霊や悪魔が起こす事件で死傷者が大勢出ているのだが、それでも忍法で電磁蜘蛛を呼び出せるようになったばかりの俺は、電磁蜘蛛を上手く利用すれば生き残れるだろうと楽観していた。だからこそ、この世界がGS美神の要素を含んでいるが、基本は対魔忍で自分も対魔忍になることを知った時は深く絶望したものだ。

 

 そしてもうGS美神のストーリーはほとんど覚えていないが、妙神山にやって来た出来事は何とか覚えている。確か、最近の悪霊が強力になって苦戦するようになった美神が、霊力のパワーアッブをするためにアサギの言う通り修行に来た話だったはずだ。

 

 確か妙神山で美神が受けた修行は、自身の霊力を形にした分身を操って三体の敵を倒していき、その敵を倒すごとに強くなっていくというもの。しかし三体目の敵は修行の監督役であり妙神山を管理している武神の小竜姫で、彼女はあの孫悟空の直弟子でかなりの実力者であり、しかも負けてしまうとその前の二戦で得たパワーアップも無効とされてしまうという厳しい条件であった。

 

 美神令子という人物は自分が勝つためならばどんなに汚くてセコい手段も平気な顔で実行する人物で、彼女は確実に小竜姫に勝つためにアシスタント(正確には荷物運び)の横島忠夫に協力してもらい、横島が小竜姫の動きを封じたところを攻撃するという反則技を実行。その結果、横島は小竜姫の逆鱗に文字通り触れてしまい、彼女は竜の姿になって暴走してしまう。

 

 美神達は何とか暴走した小竜姫を気絶させて動きを止めることに成功するのだが、それまでの戦いで妙神山の修行場は崩壊。管理を任されていた修行場を自ら破壊してしまって途方にくれる小竜姫に美神は「三回目の戦いに勝ったことにしてくれたら、修行場の修繕費を出す」と提案し、最後には金の力で強引にパワーアップする権利を手に入れたのだ。

 

 これが妙神山で起こる出来事の大体の流れだったはずだ。

 

「行きたくないなぁ……」

 

 妙神山で起こる出来事について考えた俺はそう呟かずにはいられなかった。

 

 だって行ったら確実に小竜姫の、武神の怒りに巻き込まれるんだぜ? 最終的には何とかなるって分かっているけど、そんな恐いところには出来る限り近づきたくない。それに何より美神令子に関わりたくない。

 

 美神は目的の為ならば手段を選ばない上に、金に対する執着心が異常なまでに強い。そして俺には現在、魔族から多額の懸賞金がかけられており、小さな情報にも金を出す魔族すらいる。

 

 そんな状態で美神と会ったら「ちょっとくらいいいじゃない」なんてクソふざけた寝言をほざいて、俺の素顔の写真やらの情報を魔族に売る彼女の姿が容易に想像できる。一応彼女は人間に害を与える魔族には一切応じない態度をとってはいるが、金が絡んでいる以上、どこまで信用していいか分からない。

 

 以上の理由から美神と一緒に妙神山に行くのは避けたいのだが、どうしても俺と一緒に妙神山で修行をしたいと言い出した銀華の勢いに負けて、一緒に行くと彼女に約束してしまったんだよな……。

 

「一体どうしたら……ん?」

 

 どうやって美神をやり過ごすか考えていたその時、視界の端にある物が映った。それは……。

 

 

 

 

 

「……あの美神さん?」

 

「何よ、横島君?」

 

「あの男は一体何なんスか?」

 

「だからさっき説明したでしょ? 私と一緒に修行をする対魔忍の一人だって」

 

「でも美神さん、あの人なんだか怖いです……」

 

「おキヌちゃんもそう思うよな!? 何なんだよ? あの、真昼間にフード付きのマントを羽織って、目玉が八つもある不気味な仮面を被った男は!? あんなの対魔忍というよりタチの悪い悪霊じゃねーか!?」


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