蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

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 とある日の朝。対魔忍の本拠地である五車の里の外れにある丘の上に三人の男女の姿があった。

 

「五車の里か……。久しぶりね」

 

 三人の男女の一人、亜麻色のロングヘアで豊満な肉体を露出の多い服装で包んだ女性、美神令子が丘から見える五車の里を見て呟いた。

 

「あの、美神さん? ここって一体何ですか? 見たところただの田舎町にしか見えないッスけど、ここに来るまでメチャクチャ物々しい旅でしたけど?」

 

 五車の里を見下ろす美神に、大量の荷物が入ったリュクサックを背負った青年、横島忠夫が質問する。彼の質問はある意味もっともであった。何せここに来るまでの数時間、彼らは専用の車に乗せられた上に、ここがどこにあるか分からないようにアイマスクをつける事を厳守させられていたのだ。

 

「しょうがないわよ。何せここは対魔忍の本拠地。ここの住所は日本政府の機密情報の中でもトップクラスなんだから」

 

「たいまにん? 何ですか、それ?」

 

 横島の質問に答える美神に、黒い長髪に巫女装束の女性……正確にはその幽霊であるおキヌが首を傾げて聞く。そしてその横では横島も対魔忍という言葉に聞き覚えがないのか首を傾げている。

 

「対魔忍というのは、古くから魔族やら日本社会に害をなす者達と戦ってきた、言わばゴーストスイーパーと忍者が一つになった存在ね」

 

「ゴーストスイーパーもやる忍者!? そんなのが昔からいたんスか!?」

 

「忍者ですか。会ってみたいです」

 

 美神の説明に横島とおキヌは驚いた表情となり、そんな二人を見て美神は小さく苦笑する。

 

「まあ、貴方達が想像しているのとは少し違うけどね。……ともかく、私は唐巣神父の修行を終えた後、唐巣神父の紹介でこの五車でも三ヶ月くらい修行したことがあったの。そしてその時に知り合った対魔忍に妙神山へ案内してもらう予定なのよ」

 

「へぇ……。じゃあ今はその対魔忍の知り合いを待っているんスね」

 

「そうよ。でも彼女、私の他にも妙神山に連れていく子がいるらしくて、少し遅れるみたいなの」

 

 美神の言葉に五車の里を眺めていた横島は、意外そうに彼女の方を見る。

 

「え? 美神さん以外にも妙神山で修行をする人がいるんスか?」

 

「ええ、今言った知り合いの対魔忍って、見習いの対魔忍の教官をしているの。それで妙神山までの案内を頼んだ時に、特に目をかけている二人の対魔忍見習いも連れてくるって言ってきたの。妙神山は半分異界のような所で、人間の私達が安全に使えるルートは一ヶ月に数日しか使えないみたいだから、丁度予定が空いているその二人の対魔忍見習いも修行をさせようという考えみたいね」

 

「あっ。誰か来ましたよ?」

 

 美神と横島が話している間に、一人の人影が彼女達に近づき、それに最初に気付いたおキヌが声を上げる。

 

「えっ、もう来たのか? どんな人やろ? 美人のおねーさんだったらいい……なぁっ!?」

 

 おキヌが指差した先を興味津々といった様子で見る横島だったが、受かれた調子の声は急に驚きの声にと変わる。何故なら……。

 

 

 美神達の前に現れたのは、フード付の黒いマントを羽織って、鋭く巨大な眼が左右に三つずつ額に二つあるという不気味なデザインの仮面を被った、見るからに怪しい男だったからだ。

 

 

「……あの美神さん?」

 

 顔中に冷や汗を流す横島は、恐怖に震える指で突然現れた仮面の男を指差しながら美神に話しかける。

 

「何よ、横島君?」

 

「あの男は一体何なんスか?」

 

「だからさっき説明したでしょ? 私と一緒に修行をする対魔忍の一人だって」

 

「でも美神さん、あの人なんだか怖いです……」

 

 美神は仮面の男を見ても特に驚いていないようで、いつも通りに横島の質問に答えるが、おキヌは仮面の男に驚いたようで横島の後ろへと隠れる。

 

「おキヌちゃんもそう思うよな!? 何なんだよ? あの、真昼間にフード付きのマントを羽織って、目玉が八つもある不気味な仮面を被った男は!? あんなの対魔忍というよりタチの悪い悪霊じゃねーか!?」

 

「………!」

 

 おキヌの言葉で調子を取り戻した横島が大声で叫び、それを聞いた仮面の男は、何故か心ない一言に傷ついたかのように体を強張らせる。しかしそれに気付いた者は一人もおらず、横島は仮面の男を指差して美神に質問する。

 

「美神さん! 対魔忍って皆、あんなおかしな格好をしてるんスか!?」

 

「……いいえ。彼は対魔忍にしてはまだマトモな格好をしているわ」

 

「まだマトモ!? あれでマトモって、対魔忍は一体どんな集団なんですかっ!?」

 

 美神が仮面の男の格好をよく観察してから答えると、それを聞いた横島は心からの叫びを上げるのであった。


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