蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

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 やっぱりこの格好にしたのは失敗だったかな……?

 

 俺は横島の叫びを聞いて心の中で呟いた。そしてどうやら俺はそんなにメンタル面が強くなかったようで、先程横島に「タチの悪い悪霊」と言われて、若干泣きそうになっていた。

 

 昨日、美神達に俺の情報を渡さないためにどうしたらいいか考えていた時、俺が目にしたのは装備科の注文した新装備の試作品と、手配書騒ぎが出た時に装備科が悪ふざけで作った手配書と同じ○・グレイトフルデッドみたいな仮面だった。

 

 これなら手配書の姿にも似ているし、それ程情報が漏れなくていい案かなと昨日の時点では思って実行したのだが、横島の叫びを聞く限りやっぱり失敗……いや、悪い意味で成功のようだ。こんな怪しい奴がいたら誰だって警戒するし、マントと仮面を脱ぎ捨てれば敵の目を眩ませることが出来るだろう。

 

 成功しても嬉しくないが、というか悲しいが……。

 

 まあ、それはともかく、今俺はいつものツナギ風の戦闘服に以前開発してもらったドローンが入ったバックパックを背負った状態の上にマントを羽織り、左腕に「Fate/」の○ビンフッドみたいなクロスボウを装着し、顔にザ・○レイトフルデッドみたいな仮面を被った格好をしている。そしてこれらは装備科によって開発された非常に高性能なハイテク兵器なのだ。

 

 まずはマント。これは俺の電磁蜘蛛の迷彩機能を解析してそれを何とか再現できないかと開発してもらった物で、制限時間は十分と短いが周囲の景色に溶け込むことが出来る。

 

 次に左腕のクロスボウ。特殊素材を用いた弓と弦、そして内蔵した超小型かつ高性能なモーターのお陰で、服の下に隠しやすい上に少ない力で強力な射撃が可能となっている。

 

 そして最後にザ・グレイトフルデッ○の仮面。これは単なるウケ狙いのアイテムかと最初は思っていたが、これも特殊素材を使われていて拳銃程度なら傷一つつかずに弾き返すし、ボイスチェンジャーや骨伝導式の無線機が内蔵されている。

 

 全てを装備すると怪しさが相乗効果で増大するが、それでもどれも任務で役立ってくれる便利な品物だったりする。……高性能な分、余計残念な事である。

 

「初めまして。ここに来たって事は、貴方が私と同じく妙神山で修行する対魔忍見習いの一人ってことかしら?」

 

「はい。俺は五月女頼人と言います。どうぞよろしくお願いします」

 

「っ!? 貴方が、五月女頼人?」

 

 俺の姿を見て警戒する横島とおキヌの前に立つ美神に、仮面のボイスチェンジャー機能をオンにしてから名乗ると、突然美神が驚いた顔となった。そしてその様子を見て横島が彼女に質問をする。

 

「美神さん? あの悪趣味なコスプレ野郎のこと知っているんですか?」

 

「……ええ。五月女頼人。この二、三年くらいで一気に有名になった対魔忍で偵察と暗殺のプロ。たった一晩で百人以上の魔族の武装組織を皆殺しにしたという話もあって、魔族から多額の懸賞金がかけられていると聞くわ」

 

「はぁっ!? そんなに危ない奴なんですか!? この悪趣味なコスプレ野郎は!」

 

 美神の説明に横島が驚き俺から三歩程距離を取る。

 

「そうよ。危ないのは格好だけじゃないんだから、あまり失礼な事を言って怒らせちゃダメよ? 殺されちゃうから」

 

 ……リクエスト通り、ぶっ殺してやろうか? この二人?

 

「あっ! いたいた! 遅くなってゴメンねー?」

 

「すみません、遅れました」

 

 俺が美神と横島に対してかなり本気で殺意を覚えていると、そこに例の体のラインが丸出しの対魔忍スーツを着たさくらと銀華がやって来た。そしてそれを見た横島は……。

 

「素敵でエッチなねーちゃんと女の子ー! ぼかーもうっ! ぼかーもうっ!」

 

「えっ?」

 

「ひっ!?」

 

 やはりというか速攻で欲情して、見事な跳躍をみせてさくらと銀華に飛びかかろうする横島。そして彼の手はさくらの胸……ではなく銀華のバイザーで、それを見た俺は……。

 

 一瞬で銀華の側に移動して、横島の顔に上段蹴りを叩き込み。

 

「ぶげっ!?」

 

 続いてさっきの上段蹴りの勢いを利用して、横島の横っ腹に肘打ちをして。

 

「ぎゃっ!」

 

 空中で横島の腕を捕まえて背負い投げをして地面に叩きつけ。

 

「がはっ!」

 

 逃げられないように横島の腹を右足に体重を乗せて踏みつけて。

 

「………!」

 

 最後に左腕のクロスボウに矢を装填して横島の額を撃ち抜……。

 

「ストップ! ストーップ! 五月女君、いきなり人を殺しちゃダメだって!」

 

「ゴメンなさい! ゴメンなさい! 横島さんも悪気はなかったんです! だから殺さないでください!」

 

 俺がクロスボウで横島の額を撃ち抜こうとする前にさくらとおキヌが必死な表情になって止めてきた。……チッ。運のいい奴め。

 

「この馬鹿! さっき怒らせるなって言ったでしょう!」

 

「かんにんやー! 仕方がなかったんやー! あんなにエッチな格好をしたねーちゃんと女の子がいたら仕方がないんやー!」

 

 怒る美神に、俺から逃れた横島が必死に言い訳みたいな事を言っている。

 

 ちなみに俺が横島を叩き落としたのは、彼が銀華のバイザーに触れようとしたからであって、それによって彼女のバイザーが外れて神遁の術が暴走しないようにするために必要な事だったのだ。……うん。本当にそれだけだ。


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