蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

42 / 45
041

 事の始まりは四月の高校生活の初日だった。始業式を終えた俺と銀華はいつもの如く、アサギに学園長室に呼び出された。

 

 最初はいつもの任務の話だと思っていたのだが、学園長室に行くとそこには俺達を呼び出したアサギの他に三人の女性の姿があった。

 

 鬼崎きらら。

 

 由利翡翠。

 

 上月佐那。

 

 鬼崎きららと由利翡翠は俺と同じ学年の対魔忍見習いで、すでに並みの対魔忍を超える実力を持っているとされる優秀な注目株であり、上月佐那は二年前に卒業した先輩で銀華と同じ逸刀流の達人として知られている現役の対魔忍である。

 

 俺と銀華を含めて、見習い現役関係無く実戦で活躍できる人材がここに五人集められた事になる。その事から俺は、今回の任務はいつもよりも厳しいものになると心の中で身構えていたのだが、アサギから出された指示は予想より斜め上をいくものであった。

 

「本日をもってここにいる五人は、小隊を組んで任務にあたってもらいます。そしてこの小隊の隊長は……五月女頼人君、貴方よ」

 

 これ以上ない真剣な顔を決めて言ってくるアサギに「何寝言を言っているんだ? この頭対魔忍は?」と思わず言いそうになったが、それを何とか押し留めた俺はかなり頑張ったと思う。

 

 俺と銀華は、二人だけで偵察任務や暗殺任務をする事が多かったが、それでも基本は偵察をして敵の情報を他の実働部隊に伝える助っ人要員である。それをいきなり追加の対魔忍を加えて小隊にして、しかもその隊長に俺を任命する……。

 

 何故アサギがその様な寝言……じゃなくてたわ言……でもなく世迷言……いや指示を出したのかと言うと、原因はやはりと言うか春休みに妙神山での修行でパワーアップした事であった。

 

 妙神山での修行によって右の邪眼が使えるようになり戦闘能力が上がった俺は、アサギを初めとする対魔忍の上層部に注目されたそうだ。そして上層部は俺を今までのような助っ人要員ではなく、偵察任務や暗殺任務を主に行う正式な小隊の中核にする事を決めたそうだ。

 

 俺はこの説明をアサギから聞いた瞬間、立ちくらみを覚えた。こうなるのが嫌で、妙神山でのパワーアップ結果の情報を一部しか報告しなかったのに、全く意味がなかったようだ。

 

 というかいくらパワーアップしたからって、高校一年になったばかりの学生を小隊の隊長に任命するってどうよ? 高校一年で特別部隊を率いるのって、小太郎君の役じゃなかったの? いや、「対魔忍RPG」で小太郎君を特別部隊の隊長に任命したのも無茶苦茶だと思ったけどね?

 

 しかも正式な小隊ってことは、今まで以上に危険な任務を回されるってことか? ふざけるなよ、俺より歳上の対魔忍見習いの学生や、現場の対魔忍の任務が週二や月一くらいしかないことを俺は知っているんだぞ。何で俺達だけハードスケジュールを組まされないといけないんだよ?

 

 俺は内心で激しく抗議の声を上げたのだが、対魔忍のトップであるアサギがこう断言した以上は、いくら言っても異議は認めてもらえないだろう。そう考えた俺は渋々(もちろん顔には出さなかったが)小隊の話を引き受けたのだった。

 

 ……それにしてもこの小隊、俺を含めて一癖ありそうな人間ばかりなんだけど、大丈夫なのだろうか?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。