蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

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「ああ、もう。全然終わらない」

 

 とある対魔忍の先輩の失敗により、危うくオークの集団に輪姦されそうになったあの忌まわしい任務から一ヶ月後。俺は今、五車学園にある資料室でパソコンのキーボードを愚痴を言いながら叩いていた。

 

 パソコンを使って何をしているのかというと、任務の報告書の作成である。

 

 対魔忍は「一応」日本国政府直属の組織であり、魔族絡みの案件になるとすぐに暴走して政府の指示を無視するけど、それでも「一応」日本国民の血税から運用資金を頂いている組織である以上、任務を終えたらそれを報告書にして報告する義務があるのだ。

 

 しかし肝心の報告書の作成はまだ終わっていない。昨日から丸一日徹夜しているのに、まだ半分しか出来ていない。

 

 だが別にこれは俺の作業速度が特に遅いという訳ではない。俺はある理由から他の対魔忍の「二倍」の報告書の作成を指示されているからだ。

 

 突然だが対魔忍は、意外……ではないと言うかある意味当然と言うか、俺が今している報告書の作成等といったデスクワークができる人材が悲しいを通り越して絶望的なまでに少なかったりする。

 

 対魔忍のほとんどは、物心がつく前から「対魔忍とは魔を滅ぼす者」という言葉の下に忍法や武術「のみ」を教えられ、五車学園を卒業してすぐに、あるいは五車学園在学中に対魔忍となる者達だ。中には自衛隊に入隊してレンジャーになったり、大学を卒業して博士号をとったインテリな対魔忍もいるが、それは例外中の例外。そういった理由から対魔忍でデスクワークを人並み程度に出来る人材は、本当に一握りしかおらず、報告書に関してもいい歳をして作文レベルの報告書しか出せない対魔忍も少なくない。

 

 そして対魔忍の任務に駆り出されたばかりの俺は、そんな絶望的な事実も知らず「国に出す報告書だから下手なものは出せない」と考えて報告書の作成を「頑張ってしまった」のだ。

 

 任務の出来事を出来るだけ正確に思い出し、自分や味方、そして敵がどの様な行動を取ったのか、分かりやすく説明する報告書を作成してそれを提出。その結果、俺が提出した報告書は対魔忍の上層部だけでなく、国の上層部からも「まだまだ説明不足な点はあるが、対魔忍の報告書でここまで丁寧で正確なのは非常に珍しい!」と大絶賛された。

 

 勿論、自分の仕事を評価されるのは嬉しいのだが、問題はその後。俺は自分の報告書だけでなく、任務全体の状況を記した報告書の作成も上から命じられ、他の対魔忍の二倍の仕事をする事になってしまったのだ。

 

 ちなみにこういった任務全体の報告書の作成には、その任務に参加した対魔忍で最も経験が長く地位も高いさくらは少しくらい手伝ってくれてもいいと思うのだが、当の本人は「ゴメン! 書類仕事だけは本当に駄目なの! いつか埋め合わせをするから五月女君、よろしく!」と言って、毎回影遁の術で逃げている。

 

 クソッ! 俺はこれでも真面目に任務をやっているつもりなのに、真面目にやればやるほど命の危険と仕事が増えるだなんて、本当に対魔忍の仕事はブラックだな! 俺、精神年齢はともかく肉体はまだ中学三年だぞ!? こんなの絶対、中学生がやる仕事じゃな……ん?

 

「あっ!? ……す、すみません! かくまってください!」

 

 俺が内心の怒りをパソコンのキーボードに叩きつけていると、突然俺がいる資料室の扉が勢い良く開かれ、どこかで見覚えがある男子生徒が入ってきた。


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