色々とやらかした感があるけどまぁなんとかなるっしょ

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怪盗(スマホ)

《同じく昼下がり》

 

 

 

 

僕の1日は、この真っ赤な絨毯の敷かれた道を歩くことから始まる。

自分よりも一回り大きなダークオーク色の扉に向かって2回ノックすると、中から「入れ」と、ダンディーな声が聞こえた。

 

「失礼致します」

 

室内はモノトーンで統一され、壁には絵画や鹿の角、沢山の本棚が並べらており、清々しい青空をバックに男が無精髭を触りながらデスクの上に積み重なった書類に目を通していた。

 

「社長、おはようございます」

 

社長と呼ばれた男はチラリとこちらを見たが、何も言わずすぐにまた書類に視線を落とした。

 

「あぁ、おはよう。今日の予定は?」

 

「はい。今日は12時から食事会、14時半から会議、それから--」

 

僕は『記憶』した今日の予定を1文字も噛むことなく読み上げた。

 

「はぁー。一体何時になったら俺はオフが貰えるのやら」

 

「社長の次の休みは2ヶ月後の8月14日です。そして次の休みはさらに5ヶ月後の…」

 

「わかったわかった。もういい。ちょっと言ってみただけだ」

 

「…失礼致しました」

 

僕が社長に頭を下げると、彼は小さくため息をついた。椅子の動く音が聞こえ顔を上げると、彼は椅子から立ち上がって僕の隣に立ち、僕の左肩を2回優しく叩いた。

 

「別に怒っているわけじゃないさ。お前の『力』を1番信頼しているのは俺なんだからな」

 

「ありがとうございます」

 

「頼りにしてるぞ、新人秘書君」

 

「勿体なきお言葉」

 

再びお辞儀した僕を背に、社長は扉を開けた。

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

 

 

ガイラ・ワイド

2年前に先代から後を引き継ぎ、このオリンポス社の社長となった男。

 

「「「社長、おはようございます」」」

 

「おう。」

 

両脇に立ち彼に向けてお辞儀をする総勢140名の社員を横目に、ガイラ社長は大理石の廊下を微笑みながら進んでいく。そんな彼に、僕は1歩後ろからついて行く。

 

事の始まりは、先代の社長、サウス社長が病気で倒れたことから始まった。もう先が長くないと思い至った先代が、ガイラに社長の座を譲ったのだ。営業課で働いていたガイラ社長は、元々次期社長候補として将来を期待されていた存在だった。

整った顔立ちやモデル並のスタイル、さらに他社からの信頼も厚い彼は社員からも人気が高く、まさに理想の社長像をそのまま詰め込んだような男。それが彼、ガイラ・ワイドという男なのだ。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

全ての会議を終え再び社長室に戻ると、中には女性が1人、ガイラ社長の机の上で足を組んで座っていた。

 

「おかえりなさい。会議お疲れ様」

 

「ミア!どうしてここに!部屋で待ってると言っていたのは君だろう?」

 

「だって、早くあなたに会いたかったんですもの。」ミアと呼ばれた女性は自身の髪をいじりながらそう答えると、机から降り社長へと近づいていく。

この女性は社長の恋人で、こうやって内緒で会社に来ることも少なくない。

 

「寂しがり屋な恋人は嫌いかしら?」

 

スっとミアが社長の頬に手を伸ばせば、それに答えるように、その手と手を重ねた。

 

「いいや。むしろ君の可愛らしい1面が見れて幸せさ。だが、1つ問題が生じた」

 

「問題?」

 

社長は重ねている手とは別の手で彼女の腰に手を回し、ぐっと引き寄せ、彼女のコバルトブルーの瞳を見つめた。

 

「君が愛おしすぎることさ」

 

その言葉にミアは相変わらず妖艶な笑みを向け、社長の頭を撫でた。

 

「フフっ。それは困ったわね、どうしようかしら?」

 

「全くだ。一体どうしてくれよう」

 

この雰囲気を察した僕は静かに社長室を後にした。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

寄り道することなく真っ直ぐ我が家に戻り部屋の電気をつけた。

 

「………はああああ」

 

すぐさまネクタイを緩め上着を脱ぎ、ベッドの上に修学旅行の時の中学生のように勢いよくダイブした。疲れ切った僕を聖母のように優しく包み込んでくれる10年以上の付き合いのセミダブルベッドは相も変わらずフカフカで途端に睡魔が襲ってきた。しかしこのまま寝る訳にもいかず、渋々体を起こしてベッドの上に座りこんだ。

この会社に就職して早3ヶ月。ガイラ社長は噂通りのいい人だし給料は良いし定時には帰れるし給料は良いし………良い、良いんだけど…………

 

「一体僕は何をやっているんだ……」

 

僕の名前はマルコ。

株式会社オリンポスで社長秘書として3ヶ月前から働いている。持ち前の記憶力で日々社長の仕事を手助けしながら、彼の1番の理解者として傍にお仕えする有能秘書。ではない。

僕の本当の名前はエルネスト・ラクルテル。

12年前から私立探偵としてこの街の小さな商業ビルで探偵事務所を営んでいる。仕事といえば近所の家のペット探しや小学生の遊び相手になってあげるくらいで、探偵らしい仕事が入ってくるのは2ヶ月に1つか2つぐらい。そのため1日食っていくのがやっとでそこら辺のサラリーマンより苦しい生活を送っている。でもこの仕事は楽しいしやりがいだってある。たまに近所のおばちゃんから煮っころがしが貰えるし、子供たちにアイス奢ってもらったり…………あれ、何で僕、お年寄りと子供に養ってもらってるんだろ。

 

「はぁ………」

 

探偵の僕が何故秘書をやっているのか、別に生活が苦しくて転職したわけじゃない。それは4か月前に遡る………

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「え?リストラされた?」

 

「はい……」

 

近所の恵子ばあちゃんから相談したい子がいると言われ事務所に連れてきてもらったのは、サエという名前の20代前半の若い女性だった。

 

「先日、会社から急にクビにされて…理由を聞いてもはぐらかされて全然こっちの話も聞いてくれなくて…」

 

サエさんは俯きながらそう言うと、両手を握りしめた。彼女の目元は赤く腫れており、顔色もあまり良くない。

 

「やっとの思いで長年勤めたいと思っていたあの会社に入れて、これからって時に…なんで、こんなのって……」

 

今にも泣きだしそうな彼女に僕はそっと温めたハンドタオルを手渡した。そしてタオルを見て顔を上げた彼女にそっと微笑んで見せた。

 

「それはさぞ辛かったことでしょう。さぁ、もう泣かないで、これで涙を拭いてください。折角綺麗な顔をしているのに、そんなに目を腫らしていては勿体ないですよ?」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

ポッと頬を赤らめた彼女を見て、僕は自分が言った言葉を思い出した。

 

「あっ!す、すみません!急に変なこと言ってしまって」

 

「い、いぇ……」

 

ますます赤くなっていく彼女を見て自身も顔に熱を帯びていくのを感じた。

 

「え、えっと!サエさん、でしたっけ?どうして自分がリストラされたのか心当たりとかはあるんですか?」

 

「な、ないです。ただ…少し気になることがあって」

 

「気になること?」

 

「…クビになったの、私だけじゃないんです」

 

「…それはつまり、同じ営業課の人達全員てことですか?」

 

だとすると、少々変だな…

僕は目の前に置いた湯呑みを手に取った。

 

「いえ、社員全員です」

 

「なるほど、全員ですか。ぜ……………………ん?」

 

思わず湯呑みが手から滑り落ちそうになりながら、サエさんの言葉を自分の中で反芻した。

 

「オリンポス社の社員全員が、クビになったんです」

 

「は?、えっと、じゃあ今会社には社長しかいないんですか?」

 

「わかりません。クビになってから会社が今どういう状況なのかは全然知らなくて」

 

「な、なるほど……」

 

これは少々どころか大分変だぞ!?

しばらく頭をひねらせていると、前にテレビで見たとあるニュースについて思い出した。

 

「…そういえば、1週間前に社長が世代交代しましたよね、確か、ガイラ・ワイドって名前の。その人はどんな人なんですか?」

 

「ガイラさんは営業課の課長で、私の元上司だった人です。優しくて気配り上手で、営業課だけでなくいろんな人達から頼りにされていました。ガイラさんが社長に就任された時は社長全員が彼の昇格を祝福して……でも、まさかこんなことになるなんて……」

 

彼女の口調や話を聞く限り、彼は相当信頼されていたのだろう。そんな人が社員全員を解雇処分にするなんて、やっぱりおかしい。

 

「ガイラさんはこんなことをする人じゃないんです!一体、あの会社で何が起こっているのか、調査して下さい!お願いします!」

 

深々と頭を下げるサエさんの姿に、僕の中で力になりたいという思いがふつふつと湧いてきた。

 

「任せてください。僕が必ず、異変の原因を突き止めてみせます!」

 

「ッ!!…ありがとう、ございます」

 

そう言ってはにかんだ彼女に向かって、僕も笑ってみせた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

「と、言ったは言いものの………」

 

実際のところ、調査を重ねてみて、特におかしなことはなかった。どこか裏と繋がっている様子もないし、社長の人柄はサエさんに聞いた通りの人だった。

自室の壁に貼ってある無数のメモと写真を見つめながらペンをカチカチと鳴らす。

僕は今までの記録と自身の記憶を辿りながら今日の出来事をメモに書いては貼り付けていった。

調査依頼を受けてすぐネットでオリンポス社について調べ、ホームページに求人広告が掲載されているのを見つけた。募集定員は解雇処分になった社員達の数よりも少なく、50名程度。僕はすぐに偽造した履歴書で応募し、見事正社員として会社に就職することが出来た。就職してしばらくたったある日、社長から直々に呼び出され、僕は社長室に連れていかれるや否や、

「君にぜひ、俺の秘書として働いてほしい」と言われた。彼が言うには、僕が『記憶系』の能力者であることを知り、秘書として一緒に仕事をしたいのだという。何故それがバレたのかは分からなかったが、社長に1番に近づけるということで、僕はその願いを聞き入れることにした。

僕は生まれつき、故意で体験した出来事や物事を頭に記憶することが出来た。このような能力を持つ人間は僕だけでなく、世界各地に存在しているらしい。世間一般ではこのような能力を持つ人を『メモリスト』と呼ぶ。他にも様々な能力を持つ人間がこの世には沢山存在しており、物体を何らかの形に変化させる『変化型』や故意に物や人を操ることが出来る『操作型』、1から物を作り出す『創造型』、科学では証明することの出来ない超常現象を起こすことが出来る『魔法型』、これらのどれにも当てはめることが出来ないものが『特殊型』。僕の持つ『記憶型』も含め、合計6つの型がある。勿論これらの力を持っていない人間が大半だが、少なくとも100人に1人の割合で地球上に存在している。ちなみに、何も能力を持っていない人間を『無印型』と呼ぶ。

 

「社長とミアさんは両方とも『無印型』だったな……だとすると、怪しいのはあの人か」

 

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翌日、僕がいつも通り出勤すると、社長とメガネをかけた男がロビーで何やら話し合いをしていた。

 

「社長、ディオンさん、おはようございます」

 

「おう、おはよう」

 

「………おはようございます」

 

ディオンさんは社員食堂の料理長で、よく社長と談笑している。彼は基本的にポーカーフェイスを保っているが、何故かは分からないが僕を見る時は露骨に嫌そうな顔をしてくる。

 

「(何で僕は目の敵にされているんだろうか…)」

 

「じゃ、あとは頼んだぞ」

 

「はい」

 

ディオンさんは社長に一瞥すると、スタスタとエレベーターへと歩いていった。……僕を睨みながら。

 

「…社長、どうして僕はディオンさんに嫌われているのでしょうか」

 

「嫌われてる?ははっ、あれはあいつなりの挨拶だよ。あんまり気にすんな」

 

「は、はぁ……?」

 

いや絶対僕のこと嫌いだろ…

うぅ、何故だ?同じメガネキャラなのがそんなに気に食わないのか?

 

「で?今日の予定は?」

 

「今日は各課の進行状況の確認と、午後に海外の企業との商談があります」

 

「そうか、よし。今日も頑張るぞ!ほら!シャキッとしろ!」

 

社長からの暑い喝により、なんだか内からふつふつと元気が湧いてきた。やっぱり、噂通りのいい人だなぁ。…背中痛いけど。

 

「早く社長室に戻って支度しないとな!」

 

社長の笑顔が窓から差し込む太陽の光に照らされ、まるで本物の太陽が僕を励ましてくれているようだった。

 

「はい!」

 

 

 

【とある喫茶店】

 

 

 

約束の店に入ると、お昼時を回っているにも関わらず、店内にはチラホラと人影が見られた。

 

「(えーーっと、あの人は………おっ?いたいた)」

 

少し店内を散策していると、お目当てのあの人はすぐに見つかった。どうやら彼はコーヒーを飲んでいるらしく、近づくと香ばしい匂いが俺の鼻を擽った。

 

「こんにちは」

 

背後から声をかけると、彼は大きく肩をビクつかせてみせた。

 

「ははっ、そんなに驚くことないだろ?」

 

予想通りの反応に思わず吹き出してしまった。そんな俺を見て、彼は少し不貞腐れたように反抗の意を示した。

 

「悪かったって、アンタがあんまりにも面白い反応をするからさ」

 

俺は彼の向かいの席に腰を下ろし、丁度やってきたウエイトレスの女性に彼と同じものを頼んだ。

 

「…さて」

 

雰囲気を察したのか、彼の表情が一変して、真剣な目つきになった。体の内から湧き上がる興奮と期待を抑えながら、俺は彼に向かって微笑んだ。

 

「取引を、しましょうか」

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

「……なんだ、これ」

 

僕は目の前の物に驚きを隠せなかった。

 

「……………」

 

それを黙読する社長の表情は相変わらず険しく、読み終わったのか、それを畳んで僕に手渡した。

受け取ったそれを広げ、僕もそれを黙読する。

 

 

~拝啓、ガイラ社長~

三日後の夜、貴方様が大事に大事にされている『人魚の涙』を頂きに参ります。

怪盗ウーノ

 

 

「社長、これって…」

 

「あぁ、予告状だ」

 

社長室に入るや否や、デスクの上には綺麗な封筒が置かれていた。何事かと思い開けてみると、それは大怪盗ウーノからの予告状だった、というわけだ。

 

「『人魚の涙』って、あの社長が大事にされているオパールのことですよね?」

 

「あぁ。あれは親父からもらったものだ」

 

僕も昔、社長宅で見たことがあった。

涙の形をしたその宝石は7色に輝いていて、思い出すだけでも思わずうっとりしてしまうほどの美しさだった。

 

「まさか、あの大怪盗様が俺の家宝を盗みに来る日が来るとはな。」

 

社長は闘争心に燃えるかのように笑ってみせた。

 

「予定変更だ、マルコ。今すぐ警備員全員を呼べ」

 

「はい!」

 

「彼がどれだけ優れた怪盗だろうと、絶対にあの宝石だけは渡さないさ。どんな手を使ってでも、な」

 

 

 

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《三日後、深夜》

 

 

「ダダダダダダダダダダダダダダダッ」

 

「………………………」

 

「『警部!犯人はこの中です!』『よし!お前ら!突撃だぁ!』バァアン!ダダダダダダダッ」

 

「………………………………………」

 

「『警察だ!全員動くな!』ババッ『犯人はコイツらですね!』『はい!そうです!』『よし!現行犯逮捕だ!抵抗しようなんて思うんじゃないぞ!』カチャリ…『ッ!クソッ!!』」

 

「………あのさぁ、あえて聞くけど、それ、今やらなきゃダメ?」

 

今、私の目の前には、17歳の少年が床に座りながら警察の玩具で遊ぶ光景が広がっていた。

 

「チッチッチッ…わかってないなぁカテリーネは。こーゆー緊張している時こそ、無邪気な子供のように遊んでリラックスしてから、万全の状態で仕事に臨むんだよ。そーれーが、プロってもんなの!全く、これだから素人は…」

 

「出発する15分前に呑気に遊んでる変人に仕事のイロハを教わりたいなんて誰も思わないわよ!?」

 

中々玄関に顔を出さないなと思って見にきてみれば。なんなんだコレは。開けてビックリ玉手箱じゃないわよ。そんな私の気持ちなどつゆ知らないこの男はわざとらしく大きなため息をついた。

 

「カテリーネはまだ仕事経験が浅いから知らないだろうけど、これが俺のスタイルなの!文句言わないでもらえる?」

 

「なっ!!?」

 

「お前らそこまでっ!」

 

「うっ」「グハッ」

 

団長からの制裁をくらい、頭上を押さえながらその場にしゃがみこむ私と腹を押さえながらうずくまるニコライ。

 

「な、なんで僕だけ腹パン…しかもみぞおち…」

 

「~~~ッ!団長!団長からも何か言ってくださいよ!やっぱ頭おかしいですよコイツ!!」

 

「団長!この堅物女に説明してくださいよ!てか今やっぱりとか言ったかおいコノヤロウ!?」

 

団長は眉間にシワを寄せながら私たちを交互に見回した。

 

「はぁ…まあまあ、落ち着けって2人とも。カテリーネ、これがニコのやり方なんだ、今日それがわかるさ。ニコライ、お前はもう少し言い方というものを考えろ。あとな、喧嘩は現地についてからにしてくれかいかなぁお二人さんよぉ?」

 

そう言って笑う団長の目が全然笑ってないことに気づき、私とニコライは唾を飲み込んだ。

 

「…ごめんなさい」

 

「……すみませんでした」

 

「わかってくれたならいいんだ。ほら、さっさと行くぞ!」

 

「「はい!」」

 

 

 

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《同時刻・ガイラ宅》

 

 

「…いよいよですね」

 

「あぁ」

 

眼下に広がる警備隊達を見下ろしながら、僕は社長の隣に立っていた。

今夜、怪盗ウーノがこの屋敷へとやってくる。

ガイラ社長の家宝を盗みに。

 

「社長のご指示通り、屋敷の全エリアの死角、屋敷回り半径10メートルの場所に監視カメラを設置し、各フロアに5名の警備員を配置しました」

 

「ありがとう。肝心の『人魚の涙』の保管エリアはどうだ?」

 

「はい。そちらも社長のご指示通りに」

 

「ご苦労。さすが、マルコ君を秘書に任命して正解だったな」

 

「ありがとうございます」

 

最初、僕はこの怪しい人物を調査するためにこの会社に入社したというのに、今、僕はこの人の手助けをしてしまっている。でも、今はこれが正しいと思う。まだ3ヶ月という短い間でしかないけれど、社長と仕事してきて、僕は久しぶりにこんなに生き生きと日々を過ごせたんだ。せめて、その恩返しがしたい。

 

「絶対に奪わせるものか」

 

社長は夜景を睨みつけ、拳を強く握りしめる。

 

「やれるものならやってみろ。返り討ちにしてくれる」

 

そう言って、社長はニヤリと口角を上げたのだった。

 

 

 

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《とあるビルの屋上》

 

 

 

「カテリーネ。幻覚を見せられる時間は何分だ?」

 

カテリーネは双眼鏡から目を離し、数十メートル先の屋敷を凝視した。

 

「うーん、この広さと人数だと、30分が限界ってところですね」

 

「余裕だな。15分で戻ってくる」

 

「おっ?じゃあ15分過ぎても戻ってこなかったら団長の今回の分け前の3分の1頂きますね」

 

「俺と賭けをしようってのか?」

 

横でしゃがむカテリーネに一瞥すると、彼女は手を口に当てて俺を見上げていた。

 

「えぇ。あ、もしかして、怖気付きましたぁ?」

 

「お?言ったな?じゃあ俺が買ったらお前のわけ前の3分の1貰うからな」

 

「勿論!いいですとも!」

 

その時、背後からニコの声が聞こえた。

 

「2人ともー、準備完了したよー」

 

「よっしゃ!気分も高まってきたことだし、お宝ちゃんを迎えに行くとしますか!」

 

手に持っていた仮面を装着し、マントをはためかせながら俺は神々しく光輝く屋敷に背を向けた。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

プルルルルルル…プルルルルルル…

 

「ん?誰だろう、こんな時に」

 

ポケットから携帯を取り出し画面を開くと、サエさんからの着信だった。

 

「電話か。出てきていいぞ」

 

「はい。失礼します」

 

僕は早足で社長室から退室し、廊下を歩きながら受信ボタンを押した。

 

「もしもし」

 

『もしもし。ニュース見ました。今日社長のご自宅に怪盗ウーノが来るって』

 

「えぇ。まだヤツは現れてませんが、おそらくそろそろ現れる頃だと思います」

 

『そうだったんですか。大丈夫なんですか?怪盗ウーノって言ったら、世界でも指折りの天才ですよ?』

 

「大丈夫ですよ。警備はバッチリですし、何よりこっちには頼れる社長がいますから。サエさんから聞いた話の通り、ガイラ社長はとっても素敵な方ですね。」

 

『そうでしょう?ガイラさんは私たちの誇りであり、目標でしたから』

 

心做しか、社長の話題を出した時、彼女の口調が明るくなったような気がした。

 

『あの、現在の社長の写真とかってありますか?元気な社長の姿を確認したくて…』

 

「えぇ、おやすいごようですよ」

 

僕は通話した状態で立ち止まり、彼女のlineにガイラ社長の写真を送った。既読がついたことを確認し、再び耳元に携帯を近づける。

 

「どうです?大分変わられましたか?」

 

『えっ?』

 

「えっ?」

 

予想では『相変わらずイケメンで安心しました』と言ってくれると思っていたのに。予想外の反応に驚いていると、彼女から思いもよらない言葉が聞こえた。

 

 

『誰ですか、この人』

 

 

 

 

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《ガイラ宅・地下2階》

 

 

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《後で書くので省略》

 

 

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「久しぶりだな、マックス。いや、今は怪盗ウーノと呼んだほうがいいのかな?」

 

男はショーケースに手を置きながら、こちらを見やる。

 

「予告状が届いた時は驚いたよ。まさか、お前がこれを盗みに来るなんてな」

 

下から照らされたオパールの宝石を、彼は愛おしそうに見つめる。その姿は、我が子を見守る父親のような眼差しと似ていた。

 

「俺も、お前がこの国に来ていると知った時は驚いたよ」

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

「これは………?」

 

「…!?まさか!」

 

未だにピンと来ていないカテリーネと、写真を見て血相を変えたニコライに団長がいやらしく口角をあげた。

 

「ガイラ・ワイド。全国の警察共が密かに狙っている天才詐欺師だ」

 

そう言って、団長は写真にうつったガイラという男を指で軽く弾いた。

 

「ガイラ・ワイドって!団長がよく話してた宿敵だよな!」ニコライの目が途端に輝き出す。

 

「……あっ!夜に団長が酒に酔って昔話する時に出てくる人だ!」カテリーネも、ニコライの言葉を聞いて思い出したように再び写真をまじまじと見つめた。

 

「そうだ。コイツは俺の唯一の天敵であり腐れ縁の仲だ。今まではアイツがどうしているかわからなかったが、つい先日、アイツがこの国のとある大手企業を乗っ取り社長の座を奪ったという情報が入ったんだ」

 

写真をデスクの上に置き小さく深呼吸をした。

 

「折角近くまで来たんだ……歓迎してやらなきゃダメだろぅ?」興奮を抑えきれずに所々うわずりになりながらそういった団長の顔は、早くアイツを陥れたいという衝動が止まらないと言わんばかりに口角が限界まで上がっていた。

 

「凄い…怪盗業でこんなに興奮してる団長見るの久々かも」

 

団長のあまりの熱気にカテリーネは引かざるを得なかった。

 

「ということで!五日後にガイラが乗っ取ったとかいう会社の全財産と!アイツの持つ1番お気に入りの宝石であるオパール、別名『人魚の涙』を盗ってやろうじゃないか!

 

 

 

「いや全財産は分かるけど何故に俺のオパールちゃんまで盗ってく必要があるんだよ」

 

今まで大人しく俺の話を聞いていたガイラがここぞとばかりにツッコミを入れた。

 

「フッ…お前、忘れたとは言わせねぇぞ」

 

「は?何をだよ」ガイラは訳が分からないというように首を傾げた。その姿にマックスはガイラを指さして大声でキレ始めた。

 

「20XX年5月16日!インドの南!船着き場!お前はあの場所で俺が大事に大事にしていたピンクダイヤモンドの原石を盗んだだろ!」

 

「は?……………あぁ、アレか」

 

「そんでお前!その盗んだ原石をお前!一体どうしたんだったっけぇ!?」

 

「質屋で売った。まぁ言うて2000万ぐらいだったし、あんまり金にはなんなかったけどな」

 

「あれは本当は4億するほどの超超超激レアな原石なんだよ!お前見たことあるかお前!?こーんなでっかくてしかも傷一つないピンクダイヤモンドの原石見たことあるか!?わざわざピッケル片手にオーストラリアまで行って鉱山で1ヶ月かけて掘り起こしたんだぞ!?それをお前!!なーんで悪徳質屋に売っちゃうかなぁ!!?」身振り手振りで事の重大さを伝えようと必死になってみたが、ガイラは興味無さそうに耳くそをほじりだす

 

「だって、俺宝石の目利きとか無理だし、ちゃっちゃと金にしてとんずらしたかったし。お前があからさまに嬉しそうな顔してアレ抱えてたもんだからさぁ。そんなに高価なやつだったんだな。すまんすまん」そう言って、ガイラはマックスを嘲笑うかのように鼻で笑った。

 

「だから俺は!お前のそのオパールを代わりに頂いてそれでチャラにしてやろうと思ったんだよ!」

 

「そうかそうか、お前の気持ちはよーくわかった。なるほど、このオパールをあげれば許してくれるんだな」うんうんと腕を組んで頷き、顔をあげる。

 

「まぁ、絶対あげないけどな!アッハッハッハッハッ!!」

 

「こんの片ハゲがあああああああああああ!!」

 

「奪えるもんなら奪ってみろよデコ出し野郎おぉぉおおおお!!」

 

ほぼ同時に、お互いが忍ばせておいたナイフを取り出し、前に突き出した。互いが体を左に傾け、2本のナイフが空を貫く。

先に攻撃を仕掛けたのは、ガイラだった。ナイフを逆手に持ち直し、振り返ろうとするマックスを後ろから背中めがけてナイフ‪を突き立てる。しかし、ナイフを振る速さがマックスの振り替える速さに勝てず、マックスがすんでのところで左に転がった。

 

「ッ!」

 

マックスは即座に立ち上がり、距離をとるように後ろへと飛んだ。右腕に鈍い痛みを感じ手で触れる。手を離すと、うっすらとだが手のひらが赤く染まっていた。

 

「おいおいマックス。お前、少々動きが鈍ったんじゃないのか?」

 

ガイラは顔に笑みを浮かべてナイフを人差し指の上で回しながら近づいてくる。

 

「お前こそ、相変わらずナイフの使い方が変態くせぇんだよ」

 

ナイフを握り直し、マックスもガイラに近づいていく。

 

「そんなんだから女が寄って来ないんだよ」

 

「うるせぇ。俺はもう独身じゃねぇし」

 

強く右足で床を蹴り出し、ガイラが一気に間合いを詰めてきた。マックスはナイフで前からの衝撃を受けとめる。金属の重なり合う音が室内に響き渡った。互いの髪が触れるほどの距離で、2人は目の前の宿敵を睨みつける。マックスが後ろにやった左腕をガイラのみぞおちめがけて突き出す。攻撃を予想していたかのようにガイラが笑うと、体をひねらせその拳をスルリと交わした。その瞬間、マックスが右足を高くあげ、ひねらせた腹にめがけて蹴りをくらわす。目を見開いたガイラが横に飛んでいき、バリケードに激突した。

 

「カハッ…!?」

 

みぞおちへの攻撃が囮であったことに気づいた時には、死んだ目をしたマックスが目の前に立っていた。能力で両手首をバリケードの向こう側に固定され、馬乗りになったマックスがガイラの喉仏にナイフを突き立てる。

 

「大人しく降参して『人魚の涙』を渡すのと、喉を潰されて警察に突き出され『人魚の涙』を奪われるのと、どっちがいい?」

 

こういったセリフを吐く時、マックスは絶対に笑わない。不気味な程に。昔から、そんな彼を見て恐怖で動けなくなる者や失神するものが多くいた。だが俺は違う。

 

「…ははっ」

 

「何がおかしい」

 

少なくとも、今の俺はな。

 

「ッ!!!?!?」

 

その時、マックスの表情が一変し、彼の体から冷や汗が噴き出した。

 

「ぐ、あ……ッ!?」

 

右腕を強く掴む彼の顔には衝撃と困惑で染まっていた。

能力が解け、自由になった両手首を軽く回す。

 

「ふぅ」

 

「お、お前…何をした」

 

言葉を発するのがやっとなのか、マックスの声はまるで首を絞められているようにか細く、しかし芯の通った声であった。

 

「さぁー?なんでしょうね」

 

「……ッ!?まさか、お前」

 

何かを察したのか、マックスが目を見開く。

予想以上の反応に自然とガイラの口から笑みがこぼれた。

 

「お察しの通り。一年前、俺も『能力』に目覚めたのさ」

 

苦しむマックスの前にしゃがみこむと、ガイラはマックスの右腕を指さした。

 

「俺の『能力』は『操作型』、触れた生き物の五感を自在に操ることが出来る能力。こんな風にな」

 

指で右腕をつついてみせると、マックスが雄叫びをあげた

 

「どうだ?まるで腕をもぎ取られたような痛みだろ?傷口の痛覚を倍にしたのさ」そう言って、ガイラは立ち上がり、マックスを見下ろした。

 

「ぐ……クソ……ッ」

 

「この様子じゃあもう立ち上がることも出来なさそうだなぁあ?大怪盗さんよぉおっ!」

 

ガイラがうずくまるマックスの腹部めがけて強く蹴りつける。まるでサッカーボールのように高く中に浮いたマックスの体は、天井に激突し、そのまま床へと落下した。

 

「グハッ…!」

 

ガイラは鼻歌混じりに小さく痙攣しているマックスにゆっくりと歩みよると、乱れた彼のオールバックの髪を掴みあげた。

 

「これが、形勢逆転、てやつか?」

 

「ッ!!」

 

その時、ガイラの背後から爆発音が響いた。

見ると、そこには粉砕されたシャッターと両脇に2人の少年少女を抱えた男が片足をあげた状態で立っていた。

 

「社長。任務完了致しました」

 

「おう。早かったな、ディオン」

 

ディオンと呼ばれた男がガイラの元まで歩み寄る

 

「社長の予想通り、害虫が2体侵入していました」

 

床に放り投げられた2人の少年少女は意識を失っており、それを見たマックスが血相を変えた。

 

「クアットロ!セイ!」

 

「お?まだそんな叫ぶ元気があったんだなっ!」

 

ガイラが勢いよく頭を踏みつけると、マックスが小さくうめき声をあげた。

 

「で、例の秘書君はどうした」

 

「はい。奴は元社員から依頼を受けた私立探偵でした。今は社長室の隠し部屋に監禁しています」

 

「やはりそうか。有能な男だったのになぁ」

 

「…お、まえ、仲間は作らないって、決めてたんじゃなかったのか…?」

 

「ん?あぁ、コイツか?ディオンは仲間じゃない。俺がこの会社を乗っ取る時に手助けしてくるよう契約を結んだ裏組織の長だ」

 

「怪盗ウーノ、だったか?君の部下たちは見かけによらずいい戦いっぷりを見せてくれたよ。おかげで私の部下2人が死んでしまった」ディオンはホコリのついたメガネを拭きながら言った。

 

「部下じゃねぇ…俺の、大事な仲間だ」

 

「別にどっちだっていいだろう。それより、君は自分の心配をしたほうがいいんじゃないのか?」

 

「?」

 


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