ダンジョンに英雄を求めるのは間違っているだろうか   作:空太郎

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小説と対面
からのにらめっこ。


11話『帽子を忘れた白魔道士』

 

 

フィン・ディムナ団長に対して視線が逸らせないでいると、話し声が聞こえてきた。

 

 

「そうだ、フィン!お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

 

「ん?あの話?」

 

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!?そんで、ほれ、そん時いたトマト野郎の!」

 

 

あ、僕たちのことか。

 

 

瞬時に察して、頭の中がスッと一気に冷静になってきて、食べかけのパスタのことを思い出す。

 

 

そして当たり前のようにそこにあるパスタに口の端を引攣らせる。

 

 

うん、ボーとしている場合じゃなかった。

 

 

これをどうにかしなきゃいけないんだった。

 

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐに集団で逃げ出していった?」

 

 

話し声をバックに黙々とパスタを口に突っ込みなるべく味わいつつ飲み込む。

 

 

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ〜」

 

 

確かにそれはお疲れ様とでも言おうか。

 

 

だかしかし、あれお前らのかよ。と内心溜息をつきたくなった。

 

 

別に声を出さなかったら溜息ぐらいつくのはいいだろうが、それすらも億劫になるくらいには呆れていた。

 

 

ならあの時のあの僕の感情返せよってぐらいにはさっきの自分が嘘だったかのような気分になってくる。

 

 

ダンジョンは行くも帰りも全部自分の足だから、辛さはわかるけどさ、だからといって死にたいわけじゃないからもっと早くにやっちゃってもらってれば、もしかしたら僕らはあのフルマラソンみたいなことをしなくて済んだかもしれないというのに……

 

 

イライラしてきてまだ半分ほどあるお冷を一気に飲む。

 

 

シル・フローヴァさんがすぐに気づいてからになったグラスにはまたお冷が入った。

 

 

シル・フローヴァさんに短くお礼を言った後に後もう少しで片付くパスタをさあ食べようとして、

 

 

はたと男性の話し声に引き止められるようにフォークを止める。

 

 

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえ冒険者(ガキ)2人組がよ!」

 

 

…うん、僕たちだね。

 

 

「抱腹もんだぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ!可哀想なくらい震え上がっちまって、顔を引きつらせてやんの!」

 

 

顔は引きつらせていた記憶はあるけど、なんだそんな時から見てたのかよ。…いやおい助けろよ。お前らの獲物だろうが。

 

 

 

こんにゃろうと思いつつもまだフォークは動かない。

 

 

「ふむぅ?それで、その冒険者どうしたん?助かったん?」

 

 

「フィンが間一髪ってところでミノタウロスを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

 

 

「はぁ…」

 

 

溜息を吐くあの人。

 

 

首を動かさなくてもわかるほど心底呆れたっていうような溜息に一瞬息を詰める。

 

 

見つめる先はフォークの先端。まだパスタは手付かずのままだ。

 

 

「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトになっちまったんだよ!くくくっ、ひーっ、腹いてえぇ……!」

 

 

「うわぁ……」

 

 

確かにあれは結構匂いがキツかったなぁ。

 

 

話し声の男性は獣人だし鼻は多分いいだろう。

 

 

そのまま鼻もげて仕舞えばよかったのに…とフォークを見つめる。

 

 

「フィン、狙ったんだよな?そうだよな?頼むからそう言ってくれ……!」

 

 

「そんなことないよ?」

 

 

耳に心地いい声が左から右へ行く。立ち止まったりなんかしない。

 

 

「それにだぜ?そのトマト野郎に守られてた方、叫びながらどっか行っちまってっ……ぷくくっ!うちの団長さま、助けた相手に逃げられてなんのおっ!」

 

 

「……くっ」

 

 

「アハハハハハッ!そりゃ傑作やぁー!冒険者怖がらせてもうたんかフィン!!」

 

 

「ふ、ふふ……す、すみません団長っ、でも流石に我慢できなくて……!」

 

 

「……」

 

 

「ああぁん、アイズほら、そんな怖い目しないの!可愛い顔が台無しだぞー?」

 

 

どっと笑い声が立ち込める店内になんだか居場所を見つけられずにいると、ベル・クラネル少年から違和感を感じてフォークを置いた。

 

 

これが僕たちのことをネタにしていることに気づきながらも何も言わずにいた時に気づいていればよかった。

 

 

ベル・クラネル少年。と呼びかけるが、反応がない。

 

 

騒がしい笑い声で聞こえなかったのかもしれないともう一回呼びかけようとして、

 

 

「しかしまぁ、久々にあんな情けねぇヤツを目にしちまって、胸糞悪くなったな。野郎のくせに泣くわ泣くわ」

 

 

遮られた。

 

 

泣いてたっけ?僕。

 

 

もしかして、ベル・クラネル少年は泣いてた?

 

 

「……あらぁ〜」

 

 

もしかして僕、気づいてなかった……?

 

 

「ほんとざまぁねえよな。ったく、泣き喚くくらいだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ、なぁフィン?」

 

 

「ベート、君もしかして酔ってる?」

 

 

なんだそれ団長失格だろ。

 

 

「ああいうヤツがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

 

…冒険者に品位ってあったんだ。

 

 

おっと話が逸れた。

 

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねえヤツを擁護して何になるってんだ?それはてめえの失敗をてめえで」

 

 

なんか手前勝手なことを言われてるけど、そんなことよりベル・クラネル少年なんだよ。

 

 

話が逸れるのはほんと僕の悪い癖だ。

 

 

目に見えて涙目になっているベル・クラネル少年を見てまた話を逸らせれるほど精神は図太くないのでベル・クラネル少年の肩をポンポンと叩いて名前を呼ぶ。

 

 

「これ、やめえ。ベートもリヴァリアも。酒が不味くなるわ」

 

 

「アイズはどう思うよ?お前もあの時あそこにいただろ?自分の目の前で震え上がるだけの情けねえ野郎を。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってんだぜ?」

 

 

「あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」

 

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。……じゃあ、質問変えるぜ?あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

 

ベル・クラネル少年の反応がないまま話し声が一向に止む気配のない一帯が若干鬱陶しく感じてきた。

 

 

「…ベートそろそろ酔い覚ましに水でも飲んだ方がいいよ?」

 

 

「うるせえ。ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

 

 

「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

 

「無様だな」

 

 

「黙れババァ。……じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

 

「……っ」

 

 

ていうか待って?気づかないうちになんか話ややこしくなってない?

 

 

俺がベル・クラネル少年を心配している間に何があったねん。

 

 

ややこしくすんなよ狼この野郎。

 

 

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎に、お前に隣に立つ資格なんてありはしなえ。他ならないお前がそれを認めねえ」

 

 

あっまた話逸れた。はあ……

 

 

と、内心溜息を吐いた瞬間、一瞬たけベル・クラネル少年が下げていた顔を浮上させてこちらを見て目と目が合った。

 

 

またあの「目と目が合う〜♪」というテロップが頭の中で流れそうになった。

 

 

三歩歩かなくても忘れる資質でもあるのか、安定の悪癖が永遠と続いていると、隣がガタッと音を立てた。

 

 

あいつら何言ったんだ?

 

 

僕よりも足の速いベル・クラネル少年がカウンター席の椅子を蹴飛ばすような勢いで小さな声で張り詰めたように「…ごめっ……!」とだけ言って出て行ってしまった。

 

 

思わず手を伸ばしたもののそれは空を切り、話し声の主達は怖いもん知らずとかなんとか言ってるが、はっきり言ってタイミング悪くあんな会話してるからだよ。

 

 

完っ全に思い詰めた顔してた。何であそこまでと楽観視するタイプの僕は自分の考えを改めた。

 

 

そんなことよりも追いかけないと。

 

 

ちゃんと僕がフォローしとけばこんなことにならなかったんだから、ちゃんと後始末をしなければいけない。

 

 

しかも昨日のダンジョンから出る時、ベル・クラネル少年は泣いていたそうで、それが嘘であれ真実であれ、僕の足はもう止まらない。

 

 

残ってたもう冷たくなってしまっていたパスタを口の中に一気に流し込んで噎せないようにお冷も一気に呷る。

 

 

「ご馳走さまっ、美味しかったです。お会計はここにおいときます。お釣りは結構ですっ!」

 

 

自分の宝物すら頭にないくらいに急いで走って追いかけようとした。

 

 

「エアさん!?」

 

 

シル・フローヴァさんの驚いたような声が背後から聞こえる。

 

 

そういえばあの人はずっと心配して声をかけ続けてくれてたな。最後に背後を振り返って目を合わせて目礼する。

 

 

途中、あの人の隣を通ったことなど微塵も思考になく鈍足な駆け足で店を出た。

 

 

およそ2名の視線を背中に刺しながら。

 

 

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