ダンジョンに英雄を求めるのは間違っているだろうか   作:空太郎

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こんなにベルくんsideを作る予定などなかったはずなのに……あれえ?おかしいなあ……?


14『貪欲に…』

 

 

自分がどれだけ馬鹿か今更ながら思い知った。

 

 

青年の放った全ての言葉が胸を抉る。

 

 

惰弱、貧弱、虚弱、軟弱、怯弱、小弱、暗弱、柔弱、劣弱、脆弱。

 

 

自分がどれだけ彼に迷惑をかけたのかをまざまざと見せつけられたかのように、歯をくいしばる強さが比例する。

 

 

惨めな自分が恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて、笑い種に使われ侮辱され失笑され挙げ句の果てには庇われるこんな自分を、初めて消し去ってしまいたいと思った。

 

 

こんなに自分に殺意を覚えたのは初めてだ。

 

 

こんなに歯をくいしばったのも初めてだ。

 

 

こんなに自分をただ罵倒したくなったのは……初めてだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(悔しい、悔しい、悔しいっっ!!)

 

 

青年の言葉を肯定してしまう弱い自分が悔しい。

 

 

何も言い返すことのできない無力な自分が悔しい。

 

 

エアくんの、隣に立つことがこんなにも遠いいと感じてしまうことが、堪らなく悔しい。

 

 

「……ッッ!」

 

 

深紅(ルベライト)の双眸が遙か前方を睨みつける。

 

 

迷宮の上に築き上げられた摩天楼施設。

 

 

その地下は口を開けてベルを待っていた。

 

 

ベルが目指すはダンジョン。

 

 

目指すは…_____________高み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______♢♢♢♢♢♢_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい……ダンジョンに篭っているだろうか。

 

 

未だに納得しきれていない自分(ほんのう)がまだだ。まだ大丈夫だと急かしてくる。

 

 

もうわかっているはずの自分(りせい)は何故か止めに入らないでいる。

 

 

本当はもう、こんな軽装で来てしまって、早くに帰ってしまった方がいいのはわかっているのに、踏ん切りがどうしてもつけれなくなってしまっていることくらい……わかっている。

 

 

あの酒場で思わず飛び出してしまって、さらにエアくんに迷惑をかけてしまったことも、…わかっている。

 

 

自分を殴り飛ばしたくてしょうがない。

 

 

でも、今はそんなことよりも、早く、…早くっ…、早くっ…!エアくんの隣に並べるくらいに強くなりたいとナイフを持つ手が強まる。

 

 

ギュッと音がするとともにタイミングよくダンジョンからモンスターが産みおとされる。

 

 

そして____…駆ける。

 

 

別に速さが売りというわけではない。

 

 

だけど、エアくんからもよく言われるけど、先手必勝の方が危険が少ないから敏捷を活かした戦闘スタイルで戦うことが多い。

 

 

遠くで何回も聞いたことのある魔法の言葉が聞こえたような気がした。

 

 

でも彼がこんなところにいるはずながないとすぐに思考の外に追いやった。

 

 

ここは5、いや6階層。

 

 

彼は冷静沈着で物事を判断することに至っては妥協をすることだってやぶさかではない信頼のできる人だ。

 

 

そんな人が、Lv.1という一般人に毛が生えた程度の実力で、しかも一人でここまでくるはずがないんだ。

 

 

それに、エアくんは自分がヒーラーだから戦闘が得意でないことをよく僕に言っていた。

 

 

だから後衛として支援や援助をよくしてくれて、そのため僕は何不自由なくモンスターを倒すことだけを考えれる。

 

 

彼の支援が己の身に余るほどこんなにもやりやすいのは彼が優秀だからで、自分は優秀ではない。

 

 

ああ、また振り出しに戻った。

 

 

どうしても悔しさが抜けきらない。

 

 

あの時我慢していればとか、こうしていればとか色々と考えているくせに今をどうするかとは考えていない。

 

 

護身用の短刀は見ただけで幾多のモンスターの血に濡れている。

 

 

装備もぱっと見ただけでわかるくらいにはボロボロだ。

 

 

自分の体が傷だらけで、それを他人事のように感じる。

 

 

僕は足を止めずに少しの間、目を瞑る。

 

 

走って、走って、走って、走った。

 

 

酒場から飛び出し街の中を突っ切り、ダンジョンに飛び込んだ。

 

 

ただひたすらにモンスターを追い求め、迷宮内を走り続けた。

 

 

(……ここ、どこだろう)

 

 

そうして、今。

 

 

(5階層……いや、6階層(、、、)

 

 

「はっ、は……」

 

 

口から漏れる息が浅く乱れている。

 

 

疲労は思ったより蓄積されているのか。

 

 

ダンジョンに潜って既にどのくらいの時間が経過しているのかもわからない。

 

 

(ここは……)

 

 

歩みを重ねてしばらく。僕は部屋状の広い空間に辿り着いた。

 

 

「ハイヒール」

 

 

知った声が聞こえた。

 

 

今回のはどうも幻聴じみてない。

 

 

「ベル・クラネル少年!他に痛むところはない?少しでも違和感があったら言って。すぐ癒すから」

 

 

心地いい声が僕に向けて何かを発しているのはわかるが、それが何かはわからない。

 

 

どこか耳が遠くなっているように感じる。

 

 

麻痺しかけていた体の痛みが一気に引いたような感覚に内心小首を傾げる。

 

 

「ゼェ…ハァ…」

 

 

現状を理解できていない僕は息を盛大に乱しながらエアくんと思わしき声の方向に顔を向けようとゆっくりと顔を動かす。

 

 

「メディック」

 

 

「…!」

 

 

息切れ、眩暈、そして若干の吐き気が一気に解消されたような、そんな爽快な気分になる。

 

 

さっきまでの淀んだ気分が嘘のように頭の中が澄み渡っている。

 

 

「どう?目が覚めたか。ベル・クラネル少年」

 

 

「…エア、くん?」

 

 

「うんエアくんだよ。ベル・クラネル少年、地上に出よう。今の僕たちでは装備も心もとないしここは早い」

 

 

珍しく戯けたような声色でそれでもいつも通りの真剣で冷静なことを言うエアくん。

 

 

何をしているんだ、僕は。

 

 

改めてどれだけ迷惑をかけたのをかを再確認させられたように、息が一瞬詰まった。

 

 

「…ッ。そ、そうだねっ!僕のせいでこんなところまで本当にごめんエアくん。後でちゃんと謝る。…それじゃあ危険だからすぐに戻ろうっエアくん!」

 

 

「…………」

 

 

表情を崩さず僕のことを真っ直ぐ見つめる蜜金(アングレサイト)の瞳。

 

 

まるで発光しているようにも見えるその蜜が入ったような金色の瞳に、思わず吸い込まれそうになる。

 

 

「エアくん?は、早く戻ろうよ。ね?」

 

 

周りにモンスターがいないかを内心ビクビクしながら警戒する。

 

 

それでもどうしてもエアくんの瞳から目が逸らせない。

 

 

そしてエアくんは、ゆったりとまるで神様のように落ち着かせるように喋り出した。

 

 

「ベル・クラネル少年。何か、思うことがあったからここに…ダンジョンに来たんだろう?あの酒場での一件でベル・クラネル少年をそこまで掻き立てるようなことがあったのか、僕には分からなかった。そのせいでベル・クラネル少年の異変にも気付くのが遅れた」

 

 

「…ッ」

 

 

「ごめんね」

 

 

謝る必要なんかない。

 

 

今回は全部僕のせいだ。

 

 

あの酒場で勝手に飛び出したことも、なんの報告もなしに勝手にダンジョンに潜って、しかもまだ危険だと、危ないからいっちゃダメだとエイナさんに言われていた6階層まで来てまでしたことは迷惑をかけて迎えに来てもらったこと。

 

 

まだある。

 

 

今日だけじゃない。

 

 

エアくんにはあのミノタウロスの時に手を引いてもらって、完全に腰が引けていた僕のことを絶対に見捨てないで一緒に逃げてくれた恩がある。

 

 

比例して自分が何もしていなことがわかってしまう。

 

 

「別にエアくんが悪いわけじゃあ…!」

 

 

「なら話してよ。どう思ったのか」

 

 

「いやっ、でもそれは…っ!」

 

 

どうあがいても、自分がどうしようもないことに変わりはない。

 

 

「ッ……僕、は…っ」

 

 

「うん」

 

 

だけど、あの時確かに……僕のちっぽけな(プライド)は小さな歯ぎしりをした____________……

 

 

「僕はっ悔しかった!」

 

 

「…うん、そうだね」

 

 

エアくんは真っ直ぐにこちらを見て僕に続きを促す。

 

 

「エアくんが…バカにされてるみたいでっ……!それを言い返せないくらい弱い自分が!情けなくて、惨めで、滑稽で…!」

 

 

あの時……「そうじゃない!!」「ちがうんだ!!」「エアくんはそんな奴じゃない!!!」そうなことすら言えなかった小心な僕がどれほど情けなかったことか。

 

 

涙が出そうになるのを堪える。

 

 

「…そっか。なら、ベル・クラネル少年はどうしたい?」

 

 

下に俯いて歯を食いしばって僕はその言葉に思いっきり顔を上げる。

 

 

未だに、真っ直ぐにこちらを見つめているエアくんがそこにいた。

 

 

どう……、したい?

 

 

____そんなの決まってる。

 

 

「…強く……強くなりたいです」

 

 

僕が昔憧れた、いや今も憧れている物語の住人(英雄)のようなエアくんの隣で、

 

 

「強くなってエアくんと肩を並べられるくらい強くなって英雄になりたい!!」

 

 

あなたに頼られるくらいに頼もしい人物(英雄)になりたいのだ。

 

 

そんな子供じみた恥ずかしい夢物語。

 

 

それでもエアくんは嘲笑などしなかった。

 

 

「僕も君と一緒に強くなりたいから、よろしく頼むよ。ベル・クラネル少年」

 

 

元から溶けていたような瞳を細めて緩く微笑んだエアくん。

 

 

強気、いや、側から見れば高慢でどこにでもいるような口だけ達者な者のように言葉はシンプルでありきたりだ。

 

 

それでもそれがさも当たり前のことのように語るその様は、どう見ても、どうあがいても、どう目を凝らしても、僕の憧れてやまない英雄そのものに見えた。

 

 

思わず眩しいものを見たかのように目を逸らしてしまった。

 

 

しかもさっきのレアすぎるエアくんの笑顔をその時に限って思い出して一気に顔をが熱くなる。

 

 

「ッッ!!!!…ぜ、絶対!絶対に強くなるよエアくん!」

 

 

それでも言い切った。

 

 

そしてやっと噛み砕くように自分がエアくんに向ける感情を今きちんと理解した。

 

 

僕は、エアくんのことが好きなのだろう。

 

 

…でも、エアくんにも気になる相手がいるってことは知ってる。

 

 

だから、それでも僕は絶対に諦めない。

 

 

鼓動がさっきのような死に体な息乱れの時よりも高鳴っていることに口角を上げる。

 

 

___…これからが楽しみでしょうがない。

 

 

 

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