ダンジョンに英雄を求めるのは間違っているだろうか   作:空太郎

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エアくんの二人称は堅苦しい系


5話『女史の言うことは、絶対』

 

 

名前を知らない人だった。

 

 

ていうかもともとここオラリオの有名人すらもベル・クラネル少年よりも無知だったモグリな僕があの人を知っているはずがなかった。

 

 

この鼓動の速さは不整脈な気がしてならない。

 

 

それならば病にかかったと考えるのが妥当だろう。

 

 

しかし何故か腑に落ちない。

 

 

「ちょっエアくん!?は、速いよっ!??」

 

 

ぐいっ

 

 

握っていた手を引っ張られて強制的に立ち止まる。

 

 

っ!

 

 

そうだ、自分の状態異常のことよりもこの血を落とさなくてはいけない。ヤベーくらいに汚れている。

 

 

ベル・クラネル少年は僕よりかはまだいい方だけど、それでも僕が庇いきれていなかった右肩部分が血によって真っ赤に染まっている。

 

 

色も目立つ赤、それよりも匂いがきついせいでベル・クラネル少年が僕を意識から引き戻してくれたことによって不快感が襲いくる。

 

 

「……一先ず、ギルドに行く」

 

 

吐き出すように言う。

 

 

僕は不整脈かもしれないし、しかも頭が回らないくらいのポンコツに成り果ててしまったのか?

 

 

「う、うんっ」

 

 

歩くことを再開させる手前、ベル・クラネル少年の手の握る力が密かに強くなったような気がして、そんなことよりも周りにいるオラリオの住人からの視線が痛くて早歩きになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______♢♢♢♢♢♢________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドに着いて早々お怒り顔のエイナ・チュール女史が無言でシャワー浴びてこいと公共施設のシャワーのある方向を指差したことは予想通りというか予想をちゃんと超えてくる勢いで有無を言わずに指示に従った。

 

 

そして衣服も新しいのにしてさっぱりした僕たちは安定すぎるお説教が開催されることとなる。

 

 

自分が悪いのをきちんと突きつけられてしまうのは反感を持ってしまいそうになる。

 

 

全部自分のせいなのに。

 

 

捻くれ曲がって変な方向に曲がった性格のお出ましだ。

 

 

「で?あれはどういうことなのかな??」

 

 

笑顔だというのに目が笑っていない。

 

 

とても器用な人だと思う。

 

 

意識を逸らしてくだらないことを考えていたら心の中を見透かされたかのように「ちゃんと説明してもらうからね?」とこちらをきちんと見て言ってきた。

 

 

叱り慣れている人の説教が一番怖いのはわかる。

 

 

だって僕が折角半年近くかけて完成間近だった研究対象のものを台無しにした時ですらも、お師匠様はあれが素なのか天然なのか、「…こら」としか言わなかった。

 

 

それと引き換えれば比べようのない恐怖体験を味わっていることになる。

 

 

未だに口を開かない僕の代わりにベル・クラネル少年がお怒り状態のエイナ・チュール女史の様にあてられてタジタジになりながら何があったのかを説明していた。

 

 

申し訳ないとは思うが、楽なので放置する。

 

 

簡単に言えばありえない階層に牛の怪物、名称はミノタウロスが下の階層から上がってきて、運悪く出くわした僕たちが丁度出会ってしまって恐怖すぎる鬼ごっこをしたということになる。

 

 

今思い出すだけでも身震いをしてしまいそうだ。

 

 

まあ、表には出さないけど。

 

 

「…エイナ・チュール女史」

 

 

「ん?ていうかエアくんもうそろそろその呼び方やめない?」

 

 

「えっ?何故??」

 

 

「いや何故って……ちょっと、堅苦しいから?」

 

 

「今から考え直すの怠いのでやです」

 

 

「やですって…」

 

 

苦笑いでそう言われてもこれは敬意を評して呼んでいるのであって、他人行儀な感じで呼んでいるわけではない。

 

 

確かにベル・クラネル少年だとかエイナ・チュール女史だとかは呼ぶ尺が長い気はするが、そこ以外は何もおかしいところはないと僕は思っている。

 

 

「…うん。まあ、それはまた今度ということで…………でね?エアくん達、前も言ったと思うけど、君達はまだ弱いのに5階層は容易に行っちゃてるよね??怒るよ?」

 

 

「いやもう怒ってる…」

 

 

「ん?」

 

 

「……」

 

 

揚げ足はとってはいけないらしい。

 

 

「エアくん…」

 

 

無言状態になった僕に話しかけてきたベル・クラネル少年。

 

 

「どうした?」

 

 

「そういえばあの人誰だったんだろうね?」

 

 

「…ッ」

 

 

別に誰のことを表しているかなんてあやふやなのに心臓が強くはねたことは言わない。

 

 

真顔だったけどドクンッて心臓がヤバイくらいにはねたことなんて絶対に、言わない。

 

 

「誰、ダロウネ…」

 

 

「なんでカタコト?」

 

 

「助けてくれた人のこと?」

 

 

「…はい」

 

 

エイナ・チュール女史は察しが良いようで、詳細な特徴をポツポツと漏らしていくと、すぐにその人のことを割り出した。

 

 

名前はフィン・ディムナ。

 

 

小人族(パルゥム)という小さな子供のような見た目の種族で、成人を超えても高齢に連ねてもそれでも童顔なのだそうで、他の種族よりも視力がいいらしい。

 

 

なにそれいいな。

 

 

そして、なんとここオラリオで最大派閥の1つとして名の知れているロキ・ファミリアの団長なのだそうで、エイナ・チュール女史がもしかして…と疑心暗鬼気味に割り出した相手の名前を口にした時、僕は誰だかわからなくて首を傾げた。

 

 

そしたらベル・クラネル少年が「ええ〜!?」と驚いていて、結構すごい人なのかもしれないと思っていたら、その一部始終を見ていたエイナ・チュール女史が大丈夫かこいつ的な顔で僕のことを見てきていて思わず目と目があった。

 

 

頭の中で何故か「目と目が合う〜♪」というテロップとともに曲が流れる。

 

 

絶対今そんな感じのコミカルさじゃないよこれ。

 

 

常識を知らないアホに対して有り得ないものを見たときの顔だよ。

 

 

どんだけモグリなんだよ僕。興味なしかよ。

 

 

「ま、まあ、名前が知れて良かったです」

 

 

本当に良かった。

 

 

なんでこんなに自分がうれしがってんのかなんてわからんけど、それでも目の前でジト目になっているエイナ・チュール女史から目をなるべく逸らす。

 

 

そして未だにそんなにすごい人だったんだ…と驚きを引きずっているベル・クラネル少年に帰ろっか。とホームに帰るのを提案する。

 

 

「…うん、エアくん。明日から常識を勉強しようね」

 

 

「……はい」

 

 

逃してはくれないようで、もしかしたら知らなくてはいけないこともたくさんあるようだ。

 

 

明日が楽しみすぎて空が青いのに対して疑問を感じてしまいそうだ。

 

 

「今日の晩御飯なんだろうね!」

 

 

無邪気にそう言ってくるベル・クラネル少年に「ジャガ丸くんじゃね」と現実を突きつけてしまう。

 

 

夢もなにもない回答に人生楽しそうなベル・クラネル少年は「そっか!楽しみだね!」とめちゃくちゃ眩しい笑顔で言ってくる。

 

 

どうしよう。うちの後輩が無茶くそかわよい。

 

 

そして僕の心が無茶くそ汚い気がする。

 

 

…考えんのやめよう。

 

 

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