ダンジョンに英雄を求めるのは間違っているだろうか 作:空太郎
まあベルくんも大好きなんだけどね
朝4時に目が覚めたせいでなんか頭の中が晴れ渡っているような気がする。
先に身支度を済ませようと起き上がると同時にベル・クラネル少年の方から「ん…」と小さな呻き声が聞こえた。
でもどうやら起きたわけではないようだ。
身支度を整えて部屋から出る。
あまり音をたてないように出てきたが、こうやって早起きできた日とか、ダンジョン探索が終わった後は神さまやベル・クラネル少年にバレないように秒合わせの練習をしている。
魔法使いというジョブではあるが、もとはヒーラー。
白魔道士とも呼ばれる役職だったせいで、怪我をした人たち、体力が尽きそうな人たち、毒を受けてしまった人たちのためにこれは欠かせない。
ベル・クラネル少年がいるなかで極力バレないように練習していることすらある。
みんなに無理はしてほしくないが、その分僕はその無理をする分だったものを受け持つことになる。
そのせいで自己防衛が苦手分野だったりもする。
1時間ほどよく使う『ヒール』や『メディック』や『ヘイスト』、『プロテク』を主に円滑にやれるようにずっと練習していた。
そのあと5時半に起きるであろうベル・クラネル少年といつも通りの時間にダンジョンに潜りにいくので、休憩することにした。
30分くらいだったらこのくらいならすぐ体力が戻るから。
まだほんの少し暗いせいか白い装備な僕は若干目立っているような気がする。
昨日あったことをメモ用紙にまとめながら時間になるのを待つ。
「あっいた!エアくんやっぱり早起きだね!」
今日はどうやら少し早く起きたベル・クラネル少年が外でメモ用紙片手にボーとしていた僕に話しかけにきた。
「今日はね」
「僕は準備したけど、もう行く?エアくん」
「んーそうだね。じゃあ行こっか」
そう言うとともにベル・クラネル少年はパァッ!と花が咲いたような笑顔を見せて、ダンジョンが楽しみなのか僕を急かしてくる。
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駆け足気味で走ってダンジョンを目指していると、「あのっ!」と声を掛けられた。
女性の声だったのだけど、どこから声を掛けられたのかわからなくてキョロキョロしていると背後から「これ、冒険者さまのですよね?」と魔石を差し出してきた少女がいた。
気配がなくて最初ビックリしたが、そんなことよりも魔石を入れている袋が破けたのかと焦った。
だけど別に破けているような部分はないし、だからといって他に僕たちのような朝早い冒険者は周りにいないから、必然的に僕たちのものになる。
「ありがとうございます」
「いえいえ!」
魔石集めはベル・クラネル少年と共同で行うが、魔石を入れている袋は僕が責任を持って預かっている。
「冒険者さまはこんな朝はやくからダンジョンに行っているのですか?」
「ええ、まあ…」
はいありがとうございましたで終わるかと思っていたら、どうやら違ったようで、話は続行のようだ。
「頑張っているんですね!」
とても元気な人だ。
しかもエプロンのようなものをつけていることから今話している街路の丁度この女性の後ろに大きくそびえ立つ建物…多分酒場か食堂かそれともどちらともな飲食店の従業員なのだろう。
「あはは」
なんか笑ってごまかしてるみたいだ。
でも別に人と話すのは得意な方ではないので、会話がよく途切れる。
だけど目の前の女性はコミュ力おばけなのか、なかなか会話が途切れない。なにこれすごい。
そうしているうちにグウ〜と誰かのお腹の鳴る音が会話を遮った。
先程から僕たちの会話に入れていなかったベル・クラネル少年のお腹の音のようだ。
「あれ?朝ごはん食べないできちゃったの??」
もう食べてきたものだと思っていた僕は驚いた声で聞くと、ベル・クラネル少年はバツが悪いような顔で「ごめんなさい…」と謝ってきた。
「いや、謝る必要はないよ?ないけどいつもはちゃんと食べてるのに珍しいなって思ってさ」
「エアくんと早くダンジョンに行きたかったからつい…」
そんなことを言われれば嬉しくなるのは必然で、緩みそうになった頰を誤魔化すように掻く。
「…まあ、僕も今日は食べてこなかったから何も言えないかな」
「えっ!?ご、ごめん!急かしたせいだよね!?」
「んー」
どっちとも言えないような声で対応していると、ベル・クラネル少年と会話していた時に気配がだんだん感じられなくなったあの女性がいつのまにかバスケットのようなものを持ってそこに佇んでいた。
「これ、どうぞ!」
「えっ…」
「えーと…これってあなたのなんじゃ…」
小さなバスケットから少し見えるお弁当はどう見てもお客様用ではない。
「いえ、私は大丈夫ですよ!あっあと自己紹介がまだでしたね。私はシル・フローヴァと言います!」
「あっ僕はエア・ウィッチです」
「ぼ、僕はベル・クラネルです。よろしくお願いしますっ!」
終始笑顔で若干つかみどころのない雰囲気だけど悪い感じがしないのは多分人柄なのだろう。
ついつい名前を言ってしまった。
まあ、別にいいんだけどね。
「あーでも、そのお弁当は私のお昼用なんですよねー…もしかしたらお腹が空いてしまうかもしれませんねー。どこかに私の働いている酒場に来てくださるお客様がいれば空かないかもしれませんねー」
「えっ」
「ええっ!?」
まさかの商業テクニックでビックリだわ。
「ですから冒険者さま方…」
「…はい。来ます」
「あはは…」
断れない約束を取り付けられてしまったけど、この女性…シル・フローヴァさんはどうやら商売のやり手っぽいな。
ダンジョンに向かいながら先程あったことを思い返して苦笑いをこぼす。
「? どうしたの?」
「んーなんでもないよー」
さて、今日は何階までおりようか…