ダンジョンに英雄を求めるのは間違っているだろうか 作:空太郎
ダンジョンの中に入って早々に魔物と遭遇していつも通りベル・クラネル少年とともに倒していく。
ゴブリンやそのほかにもたくさんの魔物がおり、最初は昨日あまりやれていなかったから肩慣らしも込みで結構上の階層で魔物を狩っていく。
醜悪極まれりとはこのことなのか、まるで痴漢常習犯のような見ていて気持ちの良いものではない見た目をしている魔物を見るたびにやはり人間も見目に惑わされるのだと思い知る。
完全に話を逸らすようなことを考えながらヘイト管理や秒数管理を怠らずに魔法名を連ねて言っていく。
前は他人と合わせたことがなかったためにヘイトが何回かこちらに向いて、色々とポカをやらかしてしまったが、今ではそんなやらかしは早々しない。
ベル・クラネル少年と合わすのに慣れてしまったのが一つの要因ではあるけど、もともとお師匠様から器用だと褒められたことがあったくらいにはすぐに人に合わせられるようになった。
しかもベル・クラネル少年も最初はタジタジになっていたりだとか、へっぴり腰とまではいかないけど、堂々とはあまりしていない戦い方から僕にも合わせられるようになるくらいまですこぶる快調に成長していったおかげで余裕もある。
そのせいで昨日は痛い目にあったわけなのだけど。
今日の分のダンジョン探索はつつがなく終わり、途中小休止を入れてシル・フローヴァさんにもらったお弁当をベル・クラネル少年と食べた。
もともと一人分のお弁当だったせいか物足りなさはあったけど、迷宮探索はそこまで支障のない動きで気になるほどのことはなかった。
支援は欠かさずしなければいけない。
幼少期、お師匠様に知識を授かり初めて間もない頃にはそうやって支援回復特化型の魔法使いに対しての認識をした。
紛れもなく元から組んでいたパーティであった場合、それを崩しかねないのが第一に僕のようなヒーラーや支援系魔法使いだったからだ。
攻撃系魔法使いも確かに強力で後衛なため前衛型アタッカーとして前線で戦う剣士やそれに準ずるジョブとともにセットでいると扱いやすいが、それでどちらかが足元を奪われても重傷じゃなければまだ崩れない。
逃げることが可能だ。
しかし回復や支援を主にする魔法使いは違う。
崩れる原因として使えなくなったらお荷物もいいくらいのポンコツに成り下がる。
もともとパーティに1人いればうまく回りやすかったのが一変、地獄を見る羽目になる。
だから僕は気を緩めないし、索敵なんて柄じゃないし鈍感だとお師匠様に言われるくらいには気配を察知する能力がお粗末だからやっていても意味はほとんどない。
やるとしたらベル・クラネル少年の方が断然うまいだろう。
「きょ、今日はなんだか調子がいいなぁ…」
ボソリと呟きながら歴代最高魔石数を叩き出してビックリしているベル・クラネル少年に目を向ける。
「すごいじゃん。昨日のミノタウロスのおかげかな?」
「か、からかわないでよ〜!」
「フフッ」
情けない声を上げているベル・クラネル少年に思わず笑い声が漏れると、先程までからかわれて顔を少し赤らめていたベル・クラネル少年は先ほどの比じゃないくらいに顔を真っ赤にしてこちらを見ていていた。
「どした?」
「いや…あのエアくんが笑ったところ初めて見たから……」
「……」
えっ僕もしかしてベル・クラネル少年と出会った時期から今の今まで笑って…なかった?
マジか。
「えっと…それはごめん」
申し訳なくなって頭をすっぽりと隠すほど大きいとんがり帽子のつばを少し下げる。
「いやいやいや!?全然大丈夫だよ!?エアくんあまり笑わないけど優しいって知ってるから!」
「って何言ってだ僕ぅ!?」と頭を抱えているベル・クラネル少年に笑みが溢れる。
素直で信頼できる後輩はもしかしたら人のことをよく見ているのかもしれない。
ヒーラーとしてあまり甘くない指示をベル・クラネル少年に対して出すことも少なくはないはずなのに、それでも信頼してますって顔全体に書いてるような照れた笑顔でこちらにいまだに言い訳のようなものを言っているベル・クラネル少年に嬉しさがこみ上げる。
「…さて、帰ろっか」
「…!うん!」
ニヤけて口の端がピクピクとしているのを隠すように早歩きでダンジョンの出入口を目指す。
「えっあ、ちょっとエアくん歩くの早いよ!?」
聞こえなーい。