俺のドラゴンなボールが無い転生   作:DB好き

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異世界転生しちゃった 前編

「願いは叶えた……ではさらばだ」

 

 ポルンガは3つの願いを叶えると消え去り、夜だった空が明るくなる。そしてその場にあったドラゴンボールは徐々に石化して輝きを失い、完全な石となった。また1年後に本来の姿を取り戻すだろう。

 

 

「で……、サイヤパワーとやらを手に入れた感想は?」

 

 

 ビナスはポルンガの姿があった中空を見据えたままの視線をチラリとターレスに向けると、静かに目を閉じて自身の変化を探る。

 

「んー、超能力は使えるって確かな感覚はあるんやけれど……サイヤパワーを感じるか? って言ったら良くわからへんわ」

 

 

 ちょっと試そか――。ターレスに向き直り気を限界まで上げ、それをターレスは冷静な目で見る。

 

 

 

 洗練された気で圧は感じるし、すげぇとも思う。だが、気の大きさは俺とそう変わらない所を見るとサイヤパワーってやつは直接的に強くなる要素じゃないって事か。コイツもそう感じてるのか納得できない顔をしているな。

 

 

 

 

 ビナスは気を静めると眉間にしわを作り「願いを1回無駄にしてもうたか? まっ、ええわ」 と呟く。そして胸元からポッドのリモコンを取り出して操作し、デンデに装着していた催眠装置を乱暴に取ると手をユラユラと揺らす。デンデは催眠装置を外した後、前のめりに倒れる。

 

 ターレスはデンデがただの気絶をしているのを確認をすると、ビナスの奇妙な行動を疑問に思い口にする。

 

「変な踊りをして何やってんだ?」

「おいコラ、変なってのはいらんぞ。俺に超能力や魔術を使えるようにしてくれ言うたやろ? だからちょっと実験しとんねん」

 

 ビナスはそう言うと引き続き手を揺らし、何かコツを掴んだのか「お? あーこんな感覚か」と言い、そしてターレスに「おい、ほらほらこれ見ろよターレス! すげぇやろ?」と嬉しそうに呼びかける。

 

 

ビナスは胸の前でターレスに見せるように手で丸を作る。ターレスはどんな超能力かと興味津々で見ると、そこにはビナスが着ている黒い戦闘服ではなく、どこか見覚えのある景色……ビナスの部屋があった。これにはターレスも目を見開き「ほぉー、確かにこいつは凄い」と感心する。

 

 

「そやろ? そやろ? 俺すげぇやろ? もうちょい慣れりゃあ人が通れる位のん作れる感じがするわ」

「へぇーそいつはすげぇな、その能力を持ってるオリジナルの奴はよ。是非とも会ってどんな奴か見てみてぇぜ」

 

 ターレスの答えにビナスはこれ見よがしに不機嫌な顔をして「はぁ~あ」とわざとらしい深いため息をつく。

 

「お前一々女々しいやっつやのー! こういう時は素直に土下寝してビナス様凄いですって言えやっていつも言うとるやろ!」

「絶対そんな事しねぇし、言わねぇっていつも言ってんだろうが」

 

 

 いつもならばこのまま悪ふざけの言い合いをポッドが来るまでする二人だが、この日は違った。

 

 

 ふぅっとターレスが軽く息を吐いた後、真面目な顔になり「……何時フリーザ達に仕掛けるんだ?」と尋ねる。そう、ターレスは焦れていた。

 

 

 これ以上ビナスがダラダラとして行動を起こさないのならば単独で事を起こすつもりだ。最悪コルド一族との闘いで超サイヤ人にならなくても初見殺しの太陽拳と気円斬のコンボで何とかなると思っていた。

 

 ターレスの心情を知ってか知らずか「んー? そやなぁ」と間延びした返事をしたと同時にポッドが到着する。ビナスはポッドにもたれかかりながら口を開く。

 

 

「なぁ、ターレス。フリーザを倒すってのは歴史を変える事と同じや。んで、歴史を変える大事を起こそうってなったらそこにまで至る出来事の流れっちゅーものが必要やねん」

「で? その至る出来事の流れは具体的に何時なんだ?」

 

 

 腕を組んで問うターレスにビナスは少しの間思案して「まっ……ええか。悟空と合流して半年以内やな」と答えた。

 

 

「ゴクウだぁ? ……もしかしてお前が言っていたゴクウブラックとか言う奴か?」

「ん? いやいや、ブラックは付かん。ただの悟空や、解りやすく言うとカカロットやな」 

 

 

 ターレスは訝し気に「カカロットだと? そんなに強いのか」と尋ね、ビナスは「いや、今やと戦闘力1000も無いんちゃうか」と答えた。

 

 

「……おい、ビナス。もしかしてカカロットを瀕死からの復活で強くさせようってのか?」

「おう、それもあるな。ほんで俺の未来予知の知識でネタバレすると、あいつは超サイヤ人になってフリーザを倒すぞ」

 

 ビナスはくつくつと笑い、ポッドを操作して中に入る。ターレスは数瞬呆然とし「おいっ! まだ話は終わってねぇぞ!」と怒鳴りつけるような声で言うが、ビナスはターレスに構わずにポッドの扉を閉め「まぁ、もしかしたらお前かもしれんけどな」とターレスには聞こえない程度の声で呟く。

 

 

 ターレスはビナスの乗ったポッドを睨み付けながら見送り、そして怒りの感情のまま思う。

 

 

 

 現時点で戦闘力1000に満たないカカロットが戦闘力が億を超えるフリーザを倒すだと? …………ふざけるんじゃねぇぞっ!! こちとら今まで厳しい修行は勿論、肉食獣みたいな女と命の危機を感じる闘いに、神精樹の実を食べてきたって言うのに、それを僅か半年で覆そうって言うのか!? 

 

 

 

 ターレスはギリギリと拳を握る。そんな彼の激情に呼応するように気が膨れ上がり、その影響で地が裂け海が荒れ、大気が震える。

 

 

 

「カカロットォォオ……! 確かめてやるぜ、この目でなぁ」

 

 

 彼は誓う。もしもカカロットがビナスの言う通り超サイヤ人に至れる才能があれば素直に認めると……だが、その才が無ければこの手で殺すと。

 

 ターレスは気を静め、ポッドに乗り込みナメック星を飛び出す。そして宇宙空間でちゃんとポルンガが宇宙空間でも平気にする願いを叶えたかどうか確認をし、ちゃんと願いが叶えられたと満足して再度ポッドに入り出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一足先に帰還したビナスはポッドから降り立つ。補助要員達は出発する前と今のビナスの変化を見て動揺する。ビナスは担架を用意していた補助要員達の労いの言葉が聞こえていないようで、返事をせずにターレスが帰ってくるであろう方角をボーっと見ながら「腹減ったなぁ」と小さく呟く。

 

 

 

 補助要員達は挨拶が聞こえていなかったのだろうと思い、そのまま声を掛ける事もなく見守る。その行動は正解だ。

 

 

 

 

 

 

 何故なら挨拶が聞こえ、補助要員達が居る事を認識されていたら今のビナスに文字通り食われていたからだ。そして数分経った頃にターレスは帰投し、ポッドから身を乗り出す。

 

 

 

「お疲れ様です。ターレスさん」

「おう」

 

 

 ターレスは補助要員達の労いに返事をし、ふとビナスを見ると明らかに変化した姿に驚く。

 

 

「おい、お前の髪の色……前より赤くなってるぞ」

 

 

 ビナスは「んー?」と寝ぼけているようなやる気のない声を出し、自分の髪を確かめながらターレスと共に自室に帰るために歩き出す。

 

 

「おっ? おぉーう! ホンマや、真っ赤っ赤になっとんやん! ……まぁ、ええけど」

「相変わらず軽いなお前……、もしかしてアレの影響じゃねぇのか?」

 

 スカウターを着けている補助要員達からフリーザ達にドラゴンボールの事が漏れないようにターレスはわざと遠回しに言う。

 

 

「うん? あー……、アレねアレアレ。別に不調ってわけでもないから気にせんでええやろ。それより腹減ったわ、今日は何がいい?」

 

 ターレスもビナスの体調に何ら変化が無いのであれば気にする事は無く、サイヤパワーについて考察するのはこれ以上変化があった時でいいと思い、丁度今は昼時なので先ずは食事を優先する。

 

 

「そうだなぁ、やっぱガッツリ肉が食いてぇな」

 

 

 ターレスは食堂に行く戦闘員達の会話から同じく肉を選択した。

 

 

「おっ、良いねぇ。じゃあ――――どの肉がいい?」

 

 

 彼の返答にビナスは辺りを見渡しながら尋ねる。彼女の少しおかしいこの行動にターレスは疑問に思いながらどの肉がいいか考えを巡らせ……「おいおい、お前らが治療室に行かないなんて珍しい事もあるもんだなぁ」答えを出す前に不快な声が聞こえた。

 

 

 ターレスが見るとニヤニヤと他人を馬鹿にしたような笑みを浮かべているキュイがいた。ターレスはこういう面倒臭い相手はいつものようにビナスに譲ろうとするが、ビナスはキュイの事など見えていないようで、目が合うと小首をかしげて「どの肉がええか決まったんか?」と食事しか考えていないようだった。

 

 

 仕方がない、今回は俺が相手をしてやるか……。はぁ……とターレスは溜息を吐いて口を開く。

 

 

「これはこれはキュイ先輩じゃねぇか。今日もご健在で何よりで」

「チッ、見え透いたご機嫌取りをしやがって……猿が」

 

 

 ターレスはキュイの暴言に鼻で笑って返す。ターレスの精神はビナスのおかげで超合金の如く強靭になり、超サイヤ人になっても冷静になれる程になっていた。なのでこの程度の言葉は微笑ましかった。キュイはその反応が癇に障って眉を顰めるがこれ以上話す事は無いと踵を返そうとした。

 

「ん? ターレスよぉ、お前肉の好みが変わったんか? めっちゃ変な色やんけ。まぁ、ええけど」

 

 場違いな呑気なビナスの声にターレスとキュイはビナスの方を見る。ビナスはキュイの方へ買い物に行くような足取りで歩き出す。ターレスはその行動と言動に嫌な予感を感じ「おい、ちょっと待てビナス」少し強めの力で彼女の左肩に手を掛けた。

 

 その瞬間風切り音聞こえたと思うと、ビナスの左足元に時計回りの渦巻き状の皹が地面に現れる。そしてキュイの頭上5㎝の所に気で作った刃が通り過ぎ、壁に大きな傷が出来る。それを見たキュイは焦りを含みながらビナスに警告する。

 

 

「なっ!? てっ、てめぇ何しやがる! これは立派な反逆罪だぞっ!!」

「おいっ! 何してんだよっ!!」 

 

 ターレスもビナスの行動を非難し、周囲の者達も騒めく……。だが当のビナスはキョトンとした表情で振り向き、何故ターレスが怒っているのか理解出来ないでいた。

 

 

「何しとんって……、血抜きせんと不味いやん」

 

 

 ビナスは当たり前だろと言わんばかりの態度と言動で答える。彼女からすれば、スーパーで並んでいる肉を手に取ろうとしたら非難されたような事だった。

 

 

「ふざけるんじゃねぇぞ! 俺に牙を向いた事を後悔させてやる!」

 

 

 キュイはビナスに攻撃しようと殴り掛かろうとした……、その瞬間ビナスは振り向きキュイを右目で捉える。

 

 

 その姿は異様としか言えなかった。格下だと思い、攻撃を仕掛けようとしたキュイを止める程に……。右顔面の血管が浮かび上がり心臓のようにドクドクと脈打ち、それに合わせて右目だけがグルグル回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビナスの前世である彼は気付くべきであり、真剣に自分の身に起こった事を考えるべきだったのだ。

 

 

 前の体が滅び、新しく肉体を得て転生したという事を……。

 

 

 そうすれば超サイヤ人には至らないが日本人の彼の精神のままで悟空達の真の仲間でいられた。

 

 

 だが、もう遅い。

 

 

 彼女はもう悪の道へと進む。その道が悪だと理解出来ないまま……。

 

 

 

 

 


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