オラリオディズニーダンジョン   作:カイバーマン。

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プロローグ  BRAND NEW DAY
星に願いを


一人の青年は不思議なランプから現れた魔人と共に、美しい王女を救う為に悪の魔法使いに立ち向かった

 

一人の少女は海に憧れ故郷を飛び出し、偏屈な神と共に海原を冒険した

 

一羽の兎は夢と希望を胸に都会へと旅立ち、詐欺師の狐と共に恐ろしい事件を解決した。

 

一匹の蟻はバッタ達の圧政に反逆し、自分達はバッタの手下ではないと仲間達と立ち上がった。

 

一体のおもちゃは、おもちゃにとって最も大事なものはなんなのかと苦悩しながら一つの答えを選んだ。

 

 

世界は沢山の物語に満ち溢れている、今も過去もこれからも……

 

そしてここで、また一つの新たな物語が始まる。

 

これは英雄に憧れた一人の少年が歩み、一柱の女神が記する物語

 

 

 

 

最初の1ページは、まだその少年が本当に小さい小さい頃から始まる……

 

 

 

 

 

 

 

「そしてペガサスに飛び乗ったヘラクレスは憎きハデスの野望を打ち砕き! 世界中の人々から最高のヒーローと賞賛されるのであった!!」

 

「わー!」

 

「ハッハッハ! ざまぁみろハデスの奴め! あの時の悔しがる表情は今でも笑える!」

 

ここは奥深い山奥の中にある田舎の村

 

時刻はすっかり夜だというのにポツンと置かれている一軒の家ではまだ灯りがついており

 

中から豪快な笑い声が響いていた。

 

そこでは立派な白髭をたくわえた大柄な老人が

 

ベッドの中にいるとても小さな男の子に物語を聞かせていたのだ。

 

男の子は老人が聞かせてくれる英雄譚の物語に、まん丸な紅い目をキラキラと輝かせ、眠る所か興奮が収まりきらない様子。

 

「おじいちゃんもう一回お話して! 次はランプから変な魔人が出て来るお話!」

 

「ハッハッハ、残念ながらその話はまた今度だ、ほら私の可愛い孫よ。もうベッドに入って寝なさい」

 

祖父である老人は未だ冷め上がらない孫を言い聞かせて、その屈強な体つきから腕を伸ばして優しくシーツに入れてあげる。

 

「そうだ、ランプの魔人には夢の中で会って来ればいい」

 

「夢を見れば会えるの!? じゃあピーターパンにも!?」

 

「勿論! ティンカーベルやウェンディ、あーそれと……フック船長にも会えるぞ?」

 

「フック船長はやだ! 悪い奴だもん!」

 

「ハッハッハ! お前を捕まえてワニのエサにしてしまうかもな!」

 

「やだー!」

 

ちょっとばかり意地悪な事を笑いながら言い出す祖父に、男の子は本当に怖がってる様子でベッドの上で手足を動かして暴れるも、やがて祖父に頭を撫でられると大人しく寝る態勢に。

 

「おじいちゃん、もし夢の中でフック船長に襲われたら助けてくれる?」

 

「当たり前だ、夢の中であろうがいつでも駆けつけてやるぞ! 私はどんな事があろうと、いつだってお前を助けてやる!」

 

そう言うと老人は優しく微笑みながらまた男の子の白い髪を撫でた。

 

「しかし私が見ていられるのもいつまでかはわからん……男はいつか親元を離れて旅立つモノだ、お前もいずれは成長し、立派な青年となり、私が聞かせてあげた英雄達の様に多くの苦難や冒険に巻き込まれながら成長していくのだ」

 

「?」

 

「今はわからないだろうが私の愛しい孫、“ベル”よ……例え私は遠く離れてしまっても、ずっとお前を見守り続けてやろう」

 

まるで今生の別れでも言わんばかりに愛おしそうに見つめながら呟く祖父に、ベルと呼ばれた男の子はキョトンとした様子でよくわかっていない様子。

 

そして「おやすみ坊や」と耳元で囁き老人がそっと家の中の灯りを消そうとしたその瞬間……

 

 

 

 

 

静かになった部屋の中で突如ドンッ!と家のドアが乱暴に蹴破られたのだ。

 

「ベル! なに寝てんだ! 今から俺達と虫取りに行く時間だぞ! 誰が一番虫を取れるか競争だ!」

 

「今回は俺が勝つよ! だって俺、虫がいっぱいいる所見つけちゃったもんねー!」

 

「コラ! ティモン! プンバァ! またお前達か!」

 

ドアの向こうから現れたのは1匹のミーアキャットとイボイノシシ

 

彼等は陽気でお調子者ななティモンと、お人好しでおっちょこちょいなプンバァ。

 

こんな時間だというのもお構いなしに、男の子を虫取りに誘おうとする二匹に、祖父はすぐに怒鳴りつける。

 

「何度も言っているだろ! お前達は私の孫を夜中に出歩かせる不良に育てる気か!」

 

「こっちだって何度も言ってるだろじいさん、俺達は子育てのプロだぜ? こんなちっこくて毛並みも揃ってないガキンちょでも、俺達がビシッと教育すればたちまちご立派な大人の仲間入りさ!」

 

「そうそう! 前に育てた子はもう立派な国の王様になったし! 俺達ってすげぇー子育て上手いんだ!」

 

「だったら夜に遊ばせようとするんじゃない!」

 

自信満々に胸を前に出して得意げに過去の実績を話すティモンとプンバァに祖父がなおも反論すると、ティモンの方は「遊び」と聞いてムッとした様子で

 

「おいおい待て待て! 大切な所一個だけ訂正してもらおうか! これは遊びじゃなくて虫取り! エサの確保は大切な生存競争の一環なんだぞ! 夜に探すのだって虫達が活発的に動いてる時間だからに決まってるだろ!」

 

「私の孫は虫など食わん! お前等と一緒にするな!」

 

「おい! そうやって保護者が勝手に子供の好き嫌いを決めつけるのはおかしいんじゃないのか! 本当はベルだって好きかもしれないだろ! 虫!!」

 

「そんな訳あるか! 道端に生き倒れてるのを拾ってやってベビーシッターとして住ませてやったのに勝手な事ばかり言いおって!」

 

「へ~ん! 勝手だろうがなんだろうが俺は思った事は全部口に出す主義なんだよ! 祖父だからって俺の帝王学に口を挟むな! 赤ん坊のオムツも取り換えっこ出来ないクセに! このポンコツジジィ」

 

「なにをー! この私に向かってなんたる言い草だ! そこに直れ! 私の雷を食らわせてやる!」

 

「やれるモンならやってみろ! どうせ今は出来っこないんだろ!!」

 

互いに教育方針について口論を始める祖父とティモン。二人はまだ男の子が今よりも更に小さな頃からこうして毎日喧嘩ばかりしている。

 

一方プンバァはというと、この騒ぎでもベッドの上でコクリコクリと頭を振って眠りに就きそうな彼の方へトコトコと蹄を鳴らして近づき

 

「ねぇベル、一緒に森の中へ行って虫取りに行こう、俺すっげぇでっかいミミズが出てくる所を知ってるんだ! ベルよりデカいし牙も生えてて凶暴そうだったけど、アレ絶対食べたら美味いよきっと!」

 

「う~ん……それって虫じゃなくてモンスターなんじゃないの?」

 

「え!? モンスター!? それって食べられないの!? あんなに美味そうなプリプリの体なのに!? 俺すっげぇ楽しみにしてたんだよ!」

 

「食べたらお腹壊しちゃうよきっと……」

 

「そうかぁ……いやでも! もしかしたら意外とイケるかも! よし俺食ってみる! ってアレ?」

 

「……」

 

人にとって最も脅威な存在と恐れられるモンスター

 

それに対してプンバァは恐怖よりも食欲が勝り舌鼓を鳴らすが、既に眠りかけていた男の子は遂にベッドの中で目を閉じて眠りに就いてしまった。

 

やがて寝息を立てて深く眠ってしまった男の子を、ベッドの上に身を乗り出してジーッと眺めていたプンバァは

 

「しょうがない、ミミズ取りは明日にしようね」

 

そっとはだけていたシーツを戻して寝かせてあげる事にするのだった。

 

「この浮気ジジィ!」

 

「ヘナチョコの怠け者め!」

 

「俺はナマケモノじゃない! ミーアキャットだ!」

 

「どっちも変わらんだろうが! お前がどんな動物だろうがどうでもいいわ!」

 

「ねぇ二人共~、ベル寝ちゃったから静かにした方がいいんじゃないかな~?」

 

そして未だに顔を近付けあって口喧嘩してる祖父とティモンの方へ振り向いてプンバァが困った様子で口を挟むも

 

彼の声も全く届いてない様子で延々と二人は相手に悪口を言い合い続けるのであった。

 

 

 

 

これがこの物語の主役・ベル・クラネルが過ごしたかつての日常風景。

 

騒がしく常にドタバタし、時に共に笑い、時に共に喧嘩したりと彼等と長い時間を過ごして来た。

 

 

しかしその騒がしくも楽しかった生活は、前触れもなく突然“終わり”の瞬間を迎えてしまうのである。

 

二人と二匹が暮らし始めてから十数年後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

「……」

 

ベル・クラネルは一人ポツンと崖の淵に座り、考え事をするかのように目の前にポツンと寂しく置かれた墓石を眺めていた。

 

突然真夜中に突然起きて「おっきな牙と角の生えた、青くて毛深いモンスターに襲われた!」と喚き出して

 

パニックになって祖父のベッドに潜り込んでいたのはもう昔の話。

 

今ではもう立派とまでは呼べないが年相応の少年となり、こうして夜中に一人で出歩くことも慣れっこだ。

 

彼がこうしてこの墓石の前に立って眺め続ける習慣が増えて来たのは、もう半年前になる……

 

「どうしたらいいんだろ……」

 

「おい見ろプンバァ! ベルの奴まぁたあんな所で落ち込んでるぞ!」

 

原っぱの上で一人寂しく呟く少年の背後から、いつもの様にプンバァを連れたティモンがやかましく声を上げながら彼の方へと歩み寄る。

 

そしてベルの隣へ立つと、すっかり自分よりも背が大きくなってしまった彼を見上げながらしかめっ面に

 

「いつまでそうやってウジウジしてんだよ、ったくこっちまで気分が滅入っちまう、爺さんだって年だったんだから仕方ないだろ」

 

「うん……」

 

「寂しくもなんともないだろ? だってお前には俺とプンバァが付いているんだから! これからも一緒に面白おかしく過ごしていこうぜぇ!」

 

「うん……」

 

「あ~……こりゃダメだな、ブンバァ、パス」

 

明らかに空返事で答えながら軽く頷くベルに対し、ティモンは顔を手で押さえてガクッと項垂れた。

 

そう、あんなにも元気で豪快に笑い、優しかった彼の祖父は、半年前に帰らぬ人となってしまったのだ。

 

その事に深い悲しみを覚え、心に暗い影を落としたベルは未だに立ち直れない様子

 

プンバァも心配そうにティモンと共に彼の方を見上げた。

 

「ベル、ティモンも言ってたけど俺達がいるんだから元気出しなよ、そうだ! きっとここにいると色々と思い出しちゃうから落ち込むんだ! こうなったらいっその事俺達の故郷のオアシスに引っ越すってのはどうかな!?」

 

「そりゃあいいぞプンバァ! お前にしては冴えてるじゃねぇか! よし! 久しぶりに俺達のオアシスに帰ろう!」

 

長く住み慣れたこの地では、祖父の事をいつも思い出してしまう。

 

ならばいっそ生活環境をガラリと変えて新天地で新たな生活を送るのも悪くないのではないかと提案するプンバァ

 

ティモンも指をパチンと鳴らして同意する。

 

「あそこならここよりもずっと虫が食べられる! それに聞いて驚け、俺達の故郷はプライドランドにも近い! そこには俺達が手塩にかけて育てたライオン、シンバがいるんだ! 昔から言ってただろ! お前の兄貴が王様やってんだよ!」

 

「あ~でもティモン? 人間のベルには俺達動物しかいないプライドランドは少し住み辛いんじゃないかなぁ~?」

 

「そこは保護者である俺に任せろ! いざとなったらシンバに掛け合って、非常食要員として手厚く保護してもらうように頼んでやる」

 

「さっすがティモン! 天才だね! 俺! ティモンの大大大親友として誇らしいよ!」

 

「ヒャッヒャッヒャ! よせやい! 言われなくてもわかってる!」

 

二匹で相当物騒な話を進め出すティモンとプンバァだが、そこでようやくベルが空から視線を落として彼等の方へ振り向いた。

 

「大丈夫だよそこまでしなくても、心配しないで、僕は落ち込んでるんじゃなくて迷ってるんだ、あそこに行くべきかどうかって」

 

「それってつまり!」

 

「俺達の故郷に行こうってこったな! よし今すぐ支度しよう! 俺のスーツどこやったっけ!?」

 

「シンバ達に会いに行こー!」

 

「ううん残念だけど違う、僕が行こうかどうか悩んでる場所ってのは実は……」

 

早とちりして歓喜の声を上げる二匹に首を横に振ると、ベルは言うべきかどうか躊躇しつつも、思い切って口を開く。

 

「オ、オラリオに行こうかなって……」

 

「オラリオ? どこそこ?」

 

「オラリオだってぇーーーー!!!」

 

後頭部を掻いて苦笑しながら呟くベルに対し、プンバァは眉間にしわを寄せて首を傾げる一方で、ティモンは口をれでもかと大きく開いて驚愕の表情。

 

そしてすぐにベルの足元から体を伝ってよじのぼり、彼の肩に飛び乗ると両手で胸倉を掴み上げ

 

「全くなに考えてんだお前! あんな恐ろしい所に行こうとかどうかしちまってるぞ! 正気に戻れ!」

 

「ねぇティモン、オラリオってどんな所なのさ、俺にも教えてよ、ヤバい所なの?」

 

「ヤバいってもんじゃないぞ! あそこはな! ゾウの墓場なんて目じゃない!」

 

ベルの頭を何度も揺さぶりながら唾を飛ばすティモン、興奮している彼にプンバァが尋ねると、怖がらせるかのように凶悪な面構えで振り返り

 

「オラリオ……! 多くの神々が支配する世にも恐ろしい場所……! 恩恵目当てにノコノコとやってきたマヌケな人間共を一人残らずとっ捕まえて……! モンスターが沢山いる巣穴にほおり込んで……! 絶望に打ちしがれながら死んでいく人間達の悲鳴を聞きながら、神々が毎日笑って楽しむ所さ……!」

 

「いやーーーーー! 俺もう今日は一人で眠れない! 誰か一緒に寝て!」

 

口からよだれを垂らしながらいかにもな感じで演出しながら語り出すティモンの話に、プンバァはその場で震えながら座り込んでしまう。

 

しかしそこで彼を肩に乗せたままでいるベルが口を挟み

 

「ねぇティモン……そんな話どこで聞いたの?」

 

「ん~昔聞いた爺さんの話を2割ほど引用して、後の8割は俺の推測」

 

「要するに作り話って事でしょ……そんなのでプンバァを怖がらせないでよ……」

 

全く悪びれもせずに腕を組みながらぶっちゃけるティモンにため息をこぼすと、ベルは祖父から聞いたオラリオの話を2匹に話し始めた。

 

「おじいちゃんが言ってたんだ、オラリオには夢や希望、富や名声……チャンスさえあればなんでも手に入れる事が出来る場所だって、それこそ僕がずっと憧れていた英雄にだってなれるかもしれない……」

 

「英雄? お前がか? はん、笑わせるぜ、一人でゴキブリもやっつけられないクセして」

 

「あ、あと……素敵な人、運命の恋人を見つける事も出来るとかなんとか……あわよくばハーレムだって……」

 

「……ははーん、そっちが本命か、お前もやっぱりあの爺さんの孫だな」

 

下界に降りて来た神々が住む街、オラリオ。

 

かつて祖父から聞いた話が本当であれば、チャンスがあればこんな自分でも英雄になれるのではないかとずっとベルは考えていたのだ。

 

祖父の話や絵物語でしか知らない、あの英雄達のようになりたいと……

 

そしてもう一つの目的として、彼は運命のお相手というのも見つけたかったのだ、そこに関しては恥ずかしそうにか細い声で呟くので、ティモンは察した様子で目を細めた。

 

「とにかく俺は認めないぞ! あんな危ない場所に行くなんてただ死にに行くのとおんなじだ! そんな所に行かなくたって俺達と仲良くやっていけばいいんだお前は!」

 

「二人には本当に感謝してるよ、君達がいなかったら僕は一人ぼっちだったし、でも……やっぱり僕は自分の夢を叶えてみたいんだ! 例えそれが命賭けでも!」

 

「かーーーーー! なんちゅう頑固でワガママな坊やだ!! これだけ俺がママとして心配してるのに! この親不孝者! おいプンバァ! お前もなんか言ってやれ!」

 

小さな指をベルの鼻に押し当てながら口酸っぱくして彼のオラリオ行きを反対するティモン

 

しかしプンバァはそんな彼に話しかけられても聞こえておらず、ただ目を輝かせながら満天の夜空を見上げて

 

「ねぇねぇ見て二人共! 流れ星だよ!」

 

「はぁ? 流れ星?」

 

嬉しそうに叫ぶプンバァにティモンはしかめっ面で同じように空を見上げると

 

確かに星空の中から一つの青い閃光がヒューンとここからはるか先にある方へと落ちて行っていた。

 

しかしどこか軌道がおかしく、突然ジグザグに曲がったかと思えばUターンしたり、時々止まったりすれば突然慌てたように動き出したりと落ち着きがない……

 

やがてフラフラと彷徨うかのように進んでいくと、糸が切れたかのように突然真っ逆さまに落ちて消えてしまった。

 

「……おいおい、なんかフラフラと危なっかしい運転をする流れ星だな、免許持ってんのか?」

 

「アレってひょっとして……神様?」

 

「神様ぁ?」

 

自分の手で輪っかを作って不審な動きを見せる流れ星にティモンが首を傾げていると、突然ベルがキョトンとした様子で呟く。

 

「ここからずっと先にある所にあるのはオラリオ……神様は天界から下界へ降臨する時に、流れ星の様に空から降って来るんだって」

 

流れ星が消えて行った方向を眺めながら、ベルはもしかしたらと思いを馳せながら祖父から聞いた話を続ける。

 

「下界に降りて来た神様は気に入った人間達を見つけて眷属にする、そして“ファミリア”っていう派閥を作って冒険者を育てていくんだ」

 

「ほうほう、んで? お前はそのファミリなんちゃらに入りたいとでも思ってる訳?」

 

「う、うん……」

 

「ふーん、じゃあ絶対に、ぜぇ~たいに俺が行かせないが、1億万歩譲ってお前がオラリオに行くとしよう、だが」

 

ベルの話を聞いて気の抜けた感じで返事をすると、ティモンは彼の目をじっと眺めながらビシッと流れ星が消えた方向へ指を差して……

 

 

 

 

 

「あんなおふざけ全開フルスロットルの神なんかの下に就くんじゃないぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティモンがベルに警告しているその頃

 

彼等が見ていた青い閃光は神々が人と共に住む街、迷宮都市・オラリオに降り立った。

 

今まさに、新たな1柱の神が天界から降臨なされたのだ。

 

しかしそれはとても神々しいモノではなく……

 

「んぎゃあ!」

 

派手な音を立てて真っ逆さまに建物の上に落ち、屋根を突き破って変な声を出しながら、高そうな絨毯が敷かれた床に倒れていた。

 

壊れた屋根の破片が落ちて来て「あだ!」と呻きつつも、頭をさすりながらその神はようやく立ち上がる。

 

「いてててて……ん? おーここが下界かー!」

 

幼さを残した美しい相貌、漆黒の髪、小さな体には不釣り合いな豊かな双丘

 

神秘的な蒼い瞳を光らせながら

 

女神・“ヘスティア”は初めての下界に胸を高鳴らす。

 

「着地には失敗したけどようやく順番が回って来て降りてこられたぞ! ふむふむ、ここが下界かー」

 

「な、なんじゃ一体! またあの甥っ子の仕業か!?」

 

「今日からここでボクの下界生活が始まるのか、楽しみだなー、ん? おお! 早速第一下界人発見!」

 

高級感漂うソファや暖炉があるのを確認しながら、女神ヘスティアは早速どんな生活が待っているのかと期待してる所へ

 

ドタバタと何者かが彼女の前に慌ててドアを開けて駆け込んで来た。

 

それはシルクハットを頭に掛け、右手にステッキを携えた、かなり年配に見えるアヒル。

 

ヘスティアがいる部屋に入るなり、内装がすっかり滅茶苦茶になれているのにすぐに気付き、そして射抜くようにその鋭い眼差しを彼女に向ける。

 

「……お前さん誰じゃ、さてはわしの財産を横取りに来た泥棒か?」

 

「ええ! とんでもない誤解だよ! ボクはただの天界から降臨して来た女神、ヘスティアさ! 今日からこのオラリオに住む事になったんだ! どうぞよろし……いで!」

 

「黙れ! 女神だろうが知った事か! このわしを誰だと思うておる!」

 

慌てて説明しながらきちんと自己紹介を済ませようとするヘスティアであったが、そんな彼をいかにも意地悪そうな老人は容赦なく彼女の頭を持っていたステッキで叩く。

 

「わしは神でさえ黙らせられる力を持つ、このオラリオで最も金持ちの“スクルージ・マクダック”じゃぞ! わしが建てた屋敷の部屋を無茶苦茶にしおって! しかも屋根まで壊すとは! お前さんなんて事をしたんじゃ!」

 

「ご、ごめんよ……初めての下界なもんでついはしゃいでたら、ついうっかりこの家の屋根の上に落ちてきちゃって……」

 

「うっかりで済まされるか! 弁償しろ! この部屋の内装にいくらかかったと思ってる!」

 

「い、痛いよ! ステッキで叩かないで! 女神を相手にそんな酷い事をするとバチが当たるぞ!」

 

「面白い! 天罰なりなんなりこのわしに落としてみろ! 確か下界にやってきた神は力を振るえないと聞いたが!?」

 

「うう……」

 

謝っても壊されたモノが直る訳ではないと、老人、スクルージ・マクダックは怒り心頭の様子で相手が女神であろうと容赦なく弁償を要求する。

 

しかし下界に降りて来たばかりなヘスティアは当然無一文なので返すお金も無い訳で……

 

「払う金が無いならお前の知り合いに肩代わりしてもらうぞ!!」

 

「わーん! 助けてヘファイストス~!」

 

初めて下界にやってものの数分で面倒事を起こしてしまったヘスティア

 

彼女が下界で一番最初に出会った住人は神でさえたじろいでしまう程の恐ろしくケチな大金持ちであった。

 

どうやら彼女の下界生活は期待とは裏腹にとんでもなく厳しい毎日になるであろうと、この時点で既に予兆されていたみたいだ。

 

 

一人の少年が墓石の前で悩み、一柱の女神が穴の開いた屋根から星空を見上げてわんわん泣き始めた所で

 

彼等の物語はゆっくりと、僅かながら動きだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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