ベル・クラネルはますます困惑していた。
初めてやってきたオラリオで初めて出会った女神・ヘスティアによって
あろう事か手を引っ張られ無理やり攫われてしまったからだ。
「ハァ、ハァ……! ここまで逃げればもう追ってこないだろう……!」
「えーと……」
ベルの手を強く握ったままあちこち走って、同じ所を何度もグルグル回ったりと慌ただしく逃走劇を繰り広げた彼女は、オラリオの冒険者が埋葬されている大きな墓地に辿り着くと、遂に力尽きた様子でその場で足を止める。
息を荒げながら誰が埋まってるのか知らない墓石に手を置いて一息つくヘスティア、そんな彼女にずっと一緒に走り回っていたベルはどうしたもんかと後頭部を掻く。
「あのぉ……ヘスティア様? ヘスティア様はどうしてそこまでしてこんな僕を眷族にしたいんですか?」
「ま、待ってくれ……その問いに答える前にちょっと休ませて……ふー、ちょうどいい所に水があった」
「それお墓のお供え物ですよ!?」
「偉大なるミュージシャン、エルネスト・デラクルス、ここに眠る」と彫られた他のよりも豪華な造りの墓石
その前に備えられていたコップに注がれた水を、ベルがツッコむのも無視してなんの躊躇もなく飲み干すと
ヘスティアは生き返ったかのように一息入れる。
「さて、どうしてボクがこんな必死こいて君を眷族にしたいのか聞きたいんだよね」
「罰が当たらないかな……あ、はい」
「実を言うとだね、今のボクには余裕がない、この際だから本当の事を言うけど、さっきのネズミ君達の言う通り、ボクは下界に降りた神様の中でもダントツでダメダメらしいんだ」
空になったコップを墓石の前に置くと、ヘスティアは渇いた笑みを浮かべながら自虐的に本音を吐露し始める。
「笑ってくれよ、ボクはオラリオに来ればどんな事も出来るって思ってたんだぜ? そんな夢だけを持っていても現実はそう甘くないってのに……」
「あー……」
「ボクがオラリオに初めて来たときどうなったと思う? いきなりトラブル発生だよ、さっきいたスクルージのじいさんの家を壊しちゃって、それで弁償しろーって怒鳴り散らされて……」
「そ、そうだったんですね……」
「全く、初めての下界に浮足立っていた自分の姿を、今振り返ると恥ずかしくて泣きたくなるよ」
「アハハ……」
オラリオに行けばどんな夢でも叶える事が出来る、そう祖父に聞かされてやってきたベルにとってはあまり他人事とは思えない話だった。
それにオラリオに来て早々トラブルに巻き込まれた、というのも自分の境遇と同じだ……
ベルは自分と似たような夢を抱き、自分と同じ世間知らずなこの女神に、何処か親近感を覚える。
「なんだか意外ですね……僕はオラリオに住む神様は、どっしり構えて大きな城の最上階で、いつも眷族達を見守ってるとかそんな想像をしていました」
「そんな神様もいる事はいるね、でも大概の神様はそれなりにみんな苦労しているよ、ボクみたいに借金背負って毎日バイト三昧ってのは稀だと思うけど」
「でも僕は……そういう人間臭い神様の方が、親しみ安くて好きですけど……」
「ハハハ、いいよこんなボクに気を遣わなくて、本当は君だってボクみたいな奴の眷族になんてなりたくないんだろ?」
勇気を出して歩み寄ってくれたベルに対し、本音を暴露したせいですっかりブルーになったヘスティアは苦笑しながら諦めた表情を浮かべていた。
「今まで何百回も子供達に声を掛けてみたけど、誰一人ボクのファミリアに入ろうとしてくれなかった。本当はとっくに気付いているんだよボクも、ボクにはファミリアを作る才能なんてハナッから無いんだって、きっとこれからもずっとボクはこの下界で独りぼっちなんだ……」
「えーと、それなら僕が……」
「言わなくてもわかってる! こんなちんちくりんでダメダメな女神が無計画に作るファミリアなんて! 死んでも入るもんかって言いたいんだろ! ああそうさボクはてんでダメダメな間抜けな女神様だ! 悪いか!」
「いやだから……」
墓石にもたれてすっかりネガティブ思考に陥ってしまう彼女はベルの話に全く聞く耳を持たない。
今までのオラリオでの荒んだ借金生活、人間達に数えきれない程勧誘を拒絶される毎日のおかげで
最初は大きな夢を抱いていた彼女も、すっかり何もかも諦めてしまった様子で深く嘆いてしまっている。
「はぁ~つい大声を上げちゃったよ、それにしても一時のテンションに身を任せて君を誘拐するような真似をしてすまなかったね……よりにもよって眷族が欲しいが為にこんな真似をしでかすなんて女神失格だ……」
「そんな事は無いと思いますけど……」
「もう行っていいよ、君は君自身が望むファミリアに入ってくれたまえ……ボクはもう天界に還るよ、このままここにいてもずっとロキの奴に笑われるだけだし……」
「ええー!? 天界に還るって……! ま、待ってください! それなら僕が!」
墓の前に座って自暴自棄になって天界への帰還を考え始めるヘスティアに、ベルが意を決して彼女に自分の本心を伝えようとしたその時……
「おお~こんな所に隠れてやがったのか、ベ~ルちゃ~ん!!!」
「!?」
突如背後から聞こえてきた野太い声に、ベルは背中に電流でも走ったかのようにビクッと反応する。
目の前でヘスティアが「どうかしたのかい?」とジト目で首を傾げているのをよそに、彼が恐る恐る振り返るとそこには……
「久しぶりだな~! 俺の顔を覚えてるか~? このお前のせいで腫れちまったこの顔をよ~~~!?」
「ピ、ピートさん……」
「ん? ピート?」
顔面を真っ赤にして目を血走らせる巨体の山猫
オラリオにやって来たばかりの田舎者の自分から金をふんだくろうとしたあの小悪党、ピートであった。
再び彼と出会ってしまった事にベルが恐怖で凍り付いていると、背後にいたヘスティアはピートの事を知っている様子で
「もしかしてあのピート君かい?」
「ああ? あ! お前その見た目もしかして! あの女神ヘスティアか!?」
「おお! ボクの事を知ってくれてるのかい!?」
彼女が言葉を投げかけると、ピートもまた彼女の存在に気付く。
そして自分が名乗らずとも名を呼んでくれた彼に、彼女は少しだけ嬉しくなった。
「いやー誰もボクのことなんて知らないと思ってたけど、ちゃんと知ってくれてる子もいるだねー!」
「へへへ、そりゃあ知ってるぜ有名だからな……オラリオで一番の落ちこぼれ、借金まみれで一人も眷族がいない救いようのない哀れな女神様だってよ!」
「そ、そんな風に知られているのかい!? 今のボクは!?」
ほくそ笑みながら自分がどう知れ渡っているのか親切に答えてくれたピートに、ヘスティアは両手で頭を抱えながら全力でショックを受ける。
どうやらもうすっかり、自分はオラリオでは悪い意味で有名になってしまっているらしい……
「ま~だ天界に還って無かったのか~? ここにはお前みたいな世間知らずでドジでマヌケな落ちこぼれなんかの居場所なんて無いんだよ! さっさと諦めてこの街から消え失せちまえ!」
「ふん! お望み通り還ってやるさ! だがねピート君! オラリオに居場所が無いのは君もなんじゃないかい!」
「なんだと~!?」
酷い罵声を浴びせられ、ヤケクソな感じで怒鳴り返すと、ヘスティアはすぐにピートを指さして反論する、
「君だってボクに負けず劣らず有名じゃないか! 確か所属していたファミリアの団長を失脚させようと企んでいたら、それを主神にアッサリとバレちゃって! 罰としてファミリアから追い出されたんだろ!」
「ぐ!」
「ええ!? ピートさんにそんな過去が!?」
彼女の口から放たれた言葉にピートは顔をしかめて苦い表情を浮かべる。
主神の怒りを食らい所属するファミリアから追放され、神の恩恵を封印されてしまった事については、かなり触れたくなかった事らしい。
「その主神はボクの店のお得意様でね、何度か話したことがあるよ、その時に君の話が出て来て、「彼が己の行いにキチンと反省し、心を入れ替えてくれたらまた眷族として迎え入れよう」って言ってたよ」
「う、嘘を付け~! ”あの御方”がお前みたいな落ちこぼれな女神なんかと話しなんてするもんか! 適当な事言って俺を騙そうたってはそうはいかねぇぞ!」
「む! ボクは嘘なんて付いてないってば! 失敬だな! 神を疑うのかい!?」
「ああそうだ! ここに住む神は大抵は胡散臭くてろくでもない連中ばかりだからな! あの御方以外の神様なんざ全く信用出来ん!」
「う~ん、神が胡散臭い件については素直に認めるしかないな……」
神という存在は基本自由で物事をあまり深く考えず、その場の気分次第で子供達をからかうクセがある。
無論、良識ある神も確かに存在するが、彼女のよく知るオリンポスの神々の中には、勝手気ままに子供達をたぶらかしてしょっちゅう戦争を起こす困った奴もいる。
そして当然、あの冥府の神・ハデスも決して良い神様とは言えない……
「君が神様を疑う事に関しては一理あるとは思う、けどここは女神の名にかけてボクの話を信じて欲しいんだ、君がきちんと心を入れ替えればファミリアに戻してあげるって、確かに君の主神から聞いたんだよ」
「うるさーい! 俺様は神のお告げなんか聞く耳持たねぇぞ! 大体俺が用があるのはそこにいる小僧だ!」
女神の忠告も一喝して無視し、遂にピートは耳障りな彼女を黙らせようと大きな手を伸ばし
「関係ない奴はすっこんでろ! さもないと少し痛い目に遭ってもらうぞ!」
「うわわ!」
「神様!」
乱暴に腰を掴み、ヘスティアの華奢な体を持ち上げてベルの頭上高く振り上げる。
「こら! 神様に対して危害を加えるなんてそれこそ本当の罰当たりだぞ!」
「ガハハハハハ! 面白ぇ、だったら今、俺様に天罰なりなんなり落としてみろ!」
「この~!」
「ま、待ってください!」
「あ?」
腕の中でもがくヘスティアに高笑いを浮かべるピートに、突如ベルが声を震わせて彼に詰め寄った。
「そ、その人を離してあげてください!」
「あ~?」
元はと言えばピートの狙いは自分である、関係ない彼女まで巻き込んでしまった事に罪悪感を覚えたベルは、勇気を振り絞って自分よりもずっと巨体の山猫に抗議する。
しかしピートは彼の勇気ある一声に「ふん!」と鼻を鳴らすと、手で掴んだヘスティアをグイッと彼の前に突き出して
「だったら取ってみろ!」
「へ!?」
「ほれ! 俺様の手から奪い取ってみろ!」
「い、いやその……」
出来るモノなら力づくで自分から奪い取って見ろと、挑発しながらこちらに彼女を突き出して来るピートに
勇気よりも恐怖が勝り、何も言えずに面食らった様子で縮こまってしまうベル。
自分の威圧にすっかりビビってしまった彼の反応を見てピートは面白くなさそうな表情を浮かべ
「度胸もねぇ腰抜けめ、お前みたいな奴には冒険者なんて一生無理だ、とっとと田舎に帰りやがれ」
「うう……」
グサリと来るピートの指摘にぐうの音も出ずに黙り込んでしまうベル。
彼は何の力も持たない非力で弱い存在だ、強い意志と行動力を持っていても、小さい頃から祖父やティモン達に守られながら育った彼は、自分よりも強大な相手に立ち向かうという度胸はまだ持ち合わせていないのだ。
そして明らかに勝てる筈がない相手を前にして縮こまっているそんな彼を見て、ピートに掴まれながらヘスティアは大きく声を上げ
「大丈夫ボクの事は心配いらないよ! 君は今の内に逃げてくれ!」
「神様!」
「こんな取り柄のないダメな神様だけど! 天界に戻る前に一回でもいいから誰かの助けになりたいんだよ! もが!」
「お前は黙ってろ!」
腕の中で必死に暴れながらベルを逃がそうと叫ぶ彼女であったが、その口をもう片方の手でを塞いで黙らせるピート。
捕まってる状況でも自分の身を案じてくれたヘスティアが初めて女神っぽく見えたベルは、ビビりながらも意を決して
「かかかか神様を離さないと僕が……!」
「僕がなんだって!?」
「ふぎゃ!」
自分よりもずっと大きい相手に向かって飛び掛かった、しかしそれに対してピートは怒鳴りながら義足である方の足を伸ばし、無謀にも自分から突っ込んできたベルの腹に突きをお見舞い
せっかく勇気を振り絞って戦おうとしたのに、あっさりと一撃で敗れた彼は、そのままお腹を抑えながら片膝を突いてしまう。
「ダ~ハッハッハ! マジで腰が抜けてやんの! コレがホントの腰抜けだ!」
「むがー!」
「おい暴れるなこの駄女神! 今から俺は、更にコイツを痛めつける所なんだから!」
目の前で無様にひれ伏すベルを嘲笑いながら、口を塞がられてるヘスティアが何か怒ってる様子を見せるもピートは無視し、ベルに更なる追い打ちをかけようと彼が再び義足を振り上げた。
このままではなんの力も持っていないベルでは一方的にピートにボコボコにされてしまう。
どうにかせねば……捕まりながらもヘスティアが必死に決して賢くはない思考を巡らせると、自分の口を塞ぐピートの手を睨みつけ……
「ふんぐ!」
「ギャ! い、いでー!」
無理やり口を開けて勢いのまま思い切り彼の指に噛みついたのだ。到底女神とは思えぬ行動である。
しかしこれにはベルを襲おうとしていたピートもたまらず悲鳴を上げると、ブンブンと腕を振ってカメの様に噛みつく彼女を乱暴に離そうとする。
そして彼が本気で腕を振り上げたその瞬間、遂にヘスティアを引き離すことに成功し、彼女は空高く宙を舞った。
「やったー脱出できた! いやでもコレはマズイ予感が……!」
脱出出来たのも束の間、自分が今空高く飛ばされた事に気付いて安堵から一転、焦りと危機感を覚えるヘスティア。
「あわわわわ!」
「神様!」
このままだと地面に落下してしまうと、空中であたふたと両手を鳥の羽の様に振って引力に抵抗を試みる彼女だが
そこへすかさずベルが真下で身を乗り出して
「ぐえ!」
「おおー!」
落ちて来るヘスティアを右往左往しながら待ち構えると、ヘッドスライディングして彼女の体を背中で受け止めるベル。
身を挺して自分を庇ってくれた彼に、彼女は嬉しそうにパチパチと両手を鳴らした。
「助けてくれてありがとう! こんなボクの為に!」
「い、いや思わず体が勝手に動いちゃって……」
感謝してくれるヘスティアをよそにベルが苦しそうに呻いていると
そんな二人の前にはフーフーと彼女に噛まれた指に息を吹きかけるピートがカンカンに怒った様子で
「この野郎! こうなったらお前等二人まとめてギッタンギッタンにしてやる!」
「おっと本格的に彼を怒らせちゃったかな、どうにかしないとマズイぜこれは」
「冷静に分析してないで早く上からどいてくださいよ~」
拳を振り上げ力強く足音を鳴らしながら歩み寄ってくるピート
状況がますます悪化し、このままでは自分だけでなく女神も酷い目に遭わされてしまう。
彼女の下敷きになりながらベルがそう危惧していたその時……
「え~こちらニューヨーク便、着陸ポイントに到着しましたどうぞ~」
「!?」
突如として自分の遥か上空から聞こえてきた声にベルとヘスティアが空を見上げる。
だが、そこには既に声の主はおらず、すると今度はこちらに歩み寄っていたピートが突然
「な、なんだぁ!? んぐぇ!」
「着陸成功、シートベルトはまだ外さないで下さい」
赤い物体がこちらに向かって飛んできたと思いきや、驚く暇も無く”それ”は彼のお腹に手痛いドロップキックを食らわせてしまう。
あまりにも速い動きにピートは呻き声をあげて背中から倒れると、ポカンとしているヘスティアとベルの前で
”その男”はスタッと華麗に倒れたピートのお腹の上に着地した。
「ん~このお腹、中々踏み心地良くて僕好みだけど、ちょっと食べすぎなんじゃないの~? 運動して痩せたら? ジムとか行った方が良いって」
”彼”は今までベルが見た事がないほど不思議な格好をしていた。
頭から足までパッツンパッツンの赤と青が強調された、”蜘蛛の巣”を彷彿させる線が施されたスーツを着飾る正体不明の人物。
えらく軽口を叩きながらピートのお腹の上でポランポリンでもするかのように跳ねているその姿に、ベルが話かるべきかどうか迷っていると
「この野郎!」
「おっと」
すぐ様復活したピートが自分のお腹で跳び跳ねる彼を捕まえようと手を伸ばした。
それを難なく後ろにのけ反って避けてみせると、彼はベル達の前に降りて来てクルリと振り返って見せて。
「やあどうも、元気? 顔色悪いけどちゃんとご飯食べてる?」
「ど、どうも……」
「だ、誰なんだい君は!?」
「あ~ごめん、今あそこにいる彼が同じ質問をするはずだから待ってて」
いきなり話し掛けられベルが困惑している中、ヘスティアの方はすぐに何者かと彼を問いただすが
その問いに答えるのを後回しにして、前方で立ち上がったピートを指さす。
ピートは怒りで顔を歪ませ、肩を震わせると、すぐに彼の予想通りにこちらに指を突き付けて
「だ、誰だテメェは!」
「フ、ならば教えてやろう、僕の正体は……」
ヘスティアと同様の質問を繰り返す彼に対し、男はすぐに両手をクロスさせた後、ガバッと半腰になって両手を突き出し
「地獄からの使者! スパイダーマン!!」
ババン!と勢いよく口上を加えた名乗りを上げ、男は、もといスパイダーマンはカッコつけて決めポーズをとるのであった。
「なんちゃって」
「……はぁ?」
「おいなんだよ、冷めた反応だな、まるで僕がスベったみたいじゃないのよ」
しかしわざわざ決めポーズ取って名乗ったのにピートの反応はイマイチだった。
顔をしかめて首を傾げる彼に対し、スパイダーマンは不満そうに肩を下ろして呟くと、またもやベル達の方へ振り返り
「やっぱり東映版はあざとかった?」
「とうえい……すみませんなんの話ですか?」
「ああうん、最近の子は知らないか、これは全面的に僕が悪い、ソーリーソーリー、気にしないでくれたまえ」
困惑気味のベルを見て自分が下手こいたと認めると、スパイダーマンはクルリと再度ピートの方へ振り返り
「という事で仕切り直し、僕の名前はスパイダーマン、俗に言う”スーパーヒーロー”さ」
「あぁ!? スーパーヒーロー!? なんだそりゃあ!?」
「あらら僕の事知らないの? この辺じゃ結構有名人じゃないかなと思っていたのに、僕としたことが宣伝不足だったみたいだ」
突然颯爽と現れ邪魔しにやって来た事に対しピートは地団駄を踏みながら怒鳴りつけるが
それでもなお肩をすくめてすっとぼけた様子を見せ、飄々とした態度でスパイダーマンは彼に答えると、すかさず右手首の方を彼に突きだして……
「まあいいや、名刺代わりにどうぞ」
「くぎゅ!」
彼の手首から白い糸で編み出された塊がプシュ!と短い音を立てていきなり発射された。
それがピートに直撃すると、驚く間もなく彼の巨体にまるで蜘蛛の糸の様に引っ掛かる。
殺傷能力は無いみたいだが物凄い粘着性が高い様で、ピートが必死に引き剥がそうとすればする程、みるみる彼の体に絡まっていく。
「な、なんじゃこりゃあ!? と、取れねぇ~!!」
「僕の”ウェブシューター”のご感想はいかが? そんじゃフィニッシュいきますか」
「ひぃ!」
体を拘束されながら必死にもがいて地面を転がり回るピートにスパイダーマンは再び手首から糸を発射すると
今度はただ発射するだけでなく、まるで鎖のように伸ばしてピートに付着させると、その糸を両手で持ち構えて
「ギャラリーの皆さん、危ないから離れてて」
「あ、はい……」
「や、止め……!」
ベル達に少し離れてほしいと促すと、ピートの制止も無視してスパイダーマンは勢いよく手に持った糸をぶん回し始めた。
巨体のピートが軽々と持ち上がって、ベル達の前でブンブンと振り回されてしまうほどの力で
「さぁてお仕置きタイムだ」
「ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一体あの細身の体のどこからそんな力が湧いてくるのだろうと、ベルが口をポカンとして驚いてる中
ピートは泣き叫ぶように悲鳴を上げ、終いには「助けてくれぇ~!」と懇願するも、振り回してる張本人はおもむろにパッと両手に持った糸を離し
「バイバイ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
別れの挨拶と供にピートは遥か空高く吹っ飛ばされ、そのままヒューンとオラリオの中心区の方へと飛んで行ってしまい
最後にはオラリオの中で最も巨大な建造物のてっぺん近くにある場所に向かって、頭から突っ込んで壁をぶち破っている姿がここからでも見えた。
「ありゃりゃまずい所に投げ飛ばしちゃった、おっかない女神様に僕の仕業だとバレなきゃいいけど、あそこの連中は正直厄介だからなるべく相手にしたくないんだよね」
「す、凄い……!」
目の前で行われた出来事にベルは絶句の表情で固まってしまう
自分よりもずっと大きな相手を簡単に振り回して吹っ飛ばしてしまうなんて、まるで自分が憧れているあの英雄・ヘラクレスみたいだ……
「あ、あの! 助けてくれてありがとうございます!」
「大体前々からあそこの連中には嫌われてるんだよな僕、なーんか感じ悪いだよね……うん? ああ、どういたしまして」
感謝と尊敬の気持ちを胸にベルが急いでお礼を言うと、ブツブツと独り言を呟いていたスパイダーマンは彼の方へ振り返った。
するとベルの隣で目を細めてジーッと無言で彼を見つめていたヘスティアは、意を決したかのように指を突き出して
「そこの君! ボクのファミリアに入らないかい!?」
「あ、僕そういう勧誘はお断りしてるんで、”恩恵”ならもう間に合ってるし」
「う! もしかしてもう別のファミリアに加入済みだとか!?」
「いやいや、生憎神様とやらの世話にはなるつもりは無いって事、誘ってくれて悪いね可愛い女神様」
特別な力を与えてくれる恩恵はもう間に合っている、そんな意味深めいた事を言いながらやんわりと断られたヘスティアは、再びガックシと肩を落としてため息をつく。
「はぁ~やっぱり断られた……あれほどの力を持っている君を眷族に迎え入れれば、名誉挽回のチャンスだと思ったのに……」
「残念でしたね神様……」
「やっぱりボクには子供達を惹き付ける魅力もカリスマ性も無いんだ……もうボクはお終いだ、やっぱり天界に還るべきなんだ……」
「え~と、神様……?」
「うん?」
最後のチャンスだと思っていたがもう万策尽きたと、ヘスティアは自分の本拠地に戻って身支度を済ませて天界に還ろうとトボトボと歩き出したその時
彼女の小さな背中に不意にベルが髪を掻きながら話し掛ける。
「実はさっきからずっと言おう言おうとしてたんですけど、タイミング悪くてずっと言えなかったんですが……」
「……なんだい、面倒事に突き合わされて文句の一つも言いたかったのかい? 構わないよ、いくらでもボクを罵ってくれ……こんなダメな神様でもそれぐらい大いに受け止めてあげるさ……」
「違いますって! だから僕が言いたかったことは!」
すっかり覇気を失った様子で、いくらでも文句をぶつけるがいいとこちらにグッタリとした表情で振り替えるヘスティアに首を横に振ると、ベルは意を決したかのように彼女に向かって一歩前に出ると
「僕をあなたのファミリアに入れてくれませんか?」
「はいはい全然構わないよ……………えぇ!?」
「おっと、唐突な急展開、まるで僕の漫画みたいだ」
予想だにしなかったベルの一言にヘスティアは一瞬我が耳を疑い、二人の間に立っていたスパイダーマンも意外そうに呟く。
突然彼女のファミリアに入りたいと言い出したベル。
果たして彼の真意は……
次回に続く。
一方その頃、スパイダーマンによって軽く吹っ飛ばされてしまったピートはというと
オラリオ中心区にそびえ立つ、バベルの塔の最上部にて、とある女神の部屋をぶち破って破壊したという事で
スパイダーマンでさえも相手にしたくないと言い切るほどの、女神の眷族である屈強なる団員達に囲まれ、最大のピンチを迎えている事をベル達は知る由もなかった。
「だから俺はなんにも悪くねぇんだよぉぉぉぉぉ!! 許してくださぁぁぁぁぁい!!」
ディズニーキャラ紹介
ピート
フルネームはブラックピート、またはペグレグピート(ペグレグは義足という意味)
大きな巨体をした山猫で、性格は見た目通りに横暴で自分勝手
ディズニーアニメではもっぱら悪役、もしくは「この人だけは怒らせてはいけない」というポジションに立っていることが多い。
悪役と言っても基本的には最終的にはコテンパンにやられてしまうのがお決まりのパターンであり、どちらかというと憎めない悪役
片足は義足であるが、作品によっては普通の足に変更されている事もある。
モデルは名作『宝島』に出て来る義足の船長、ジョン・シルバー
実はディズニーアニメで長きに渡り演じ続けた最古参のキャラクターであり
あの有名な”黒いネズミ”よりも、更にはその前にいた”しあわせウサギ”よりも前から出演している超ベテラン。
しかもスタントマンを使わずに自分の身一つで演じ切ってしまうほど、本気で役に徹底する主義がある
今に至るまでずっと悪役として影でディズニーを支え続けた彼こそ、まさに知る人ぞ知る名俳優なのである。
ちなみに役柄上、悪役を演じる事は多いが、”素”の彼はとても気さくでいい奴で、”三馬鹿”とはプライベートで遊んだりするなど大の仲良し。
特にその三馬鹿の一人とは家族ぐるみで長年付き合っているとか。
本作ではもちろん悪役として登場、横暴で小心者でこずるい性格はそのまんまで、元所属していたファミリアの団長をを初め、様々な人物を目の敵にして悪さばかりしています。
主神によってスティタスは封印されていますが冒険者としてのレベルは4
二つ名は見た目通り「暴れん坊」