ディズニーランド35周記念をテーマに作られた歌でして、この歌をイメージして本作は生まれました。
今回で長いプロローグがようやく完結です。
次回からいよいよ本編、遂にベル&ヘスティア以外のダンまちキャラも解禁され続々登場予定ですのでお楽しみに
もちろんディズニーや”それ以外の方達”も今までより更に暴れまわるので、そちらも期待してお待ちください。
ヘスティアは困惑していた。
「え~つまり君はホントに……念の為にもう一度確認するけどいいかな?」
冒険者達が眠る墓地にて、彼女は腕を組んで難しそうな顔を浮かべると
向かい合って真剣なまなざしを向けて来る少年、ベル・クラネルにしつこいぐらい同じことを尋ねた。
「本気でボクのファミリアに入るの? ホントに? ボクなんかのファミリアに?」
「ええ、だからさっきから……というか何度も入りたいって頼もうとしてましたよ僕……」
「こ、これは夢だ……! もしくはボクが都合よく頭の中で解釈しているだけの馬鹿な幻聴だ……!」
「いや夢でも幻聴でも無くてですね……」
突然の状況にヘスティアは頭を抱えブツブツと呟き始めた。
無理もない、何故なら彼女はオラリオに来てから半年間、いくら勧誘しても誰一人眷族になってくれる者を見つけられず、今の今までずっと孤独感に満ち溢れていたのだ。
そんな彼女の目の前に、まさか自らファミリアに入ってくれると志願してくれる子が現れるなんて……
とてもじゃないが現実としてうまく受け入れられない、かくなる上はと彼女が次に起こした行動は
さっきから自分たちの間に入って話を聞いてくれているヒーロー、スパイダーマンの方へ振り返り
「蜘蛛男君! ボクを引っ叩いてくれ!」
「本気? 僕ちゃん無抵抗の女の子を引っ叩くのは抵抗あるんだけど?」
「構わないよボクは女神だからね! 遠慮なくやってくれ!」
「オッケー女神様」
「あいた!」
これが夢なら痛みで目が覚めるはずだと、原始的な方法で確認を取るヘスティア。
しかしスーパーヒーローのビンタは思ってた以上に結構痛かった。
「もっと優しくやってくれよ!」
「ソーリー女神様」
容赦なく頬にビンタをかましてくれたスパイダーマンに怒りながらも、赤く染まった頬を抑えて彼女ははっきりと痛みを感じるのであった。
「けど痛いって事はこれは紛れもなく現実だって事だ……つまり君は本当にボクのファミリアに入りたいと言ってくれているんだね?」
「……もう何十回も答えてるせいでこっちも疲れてきましたけど……はいその通りです」
「やったーーー!!! 念願の眷族を手に入れたぞ! 蜘蛛男君! ハイタッチだ!」
何度も確認を取ってくる疑り深い女神にベルは少々疲れた様子で頷くと
ようやく実感がわいて来たのか思わずスパイダーマンとハイタッチをするヘスティア。
しかしすぐに「ん?」と眉間にしわを寄せてベルの方へ振り返り
「しかしどうしてまたこんなボクの眷族になろうと思ったんだい? まさかボクに対して同情とか哀れみとか……」
「あー……まあ正直言うとそれもあります……はい」
「あるんかい! 君ってば結構ストレートに言うんだね! 少しは遠慮したらどうだい!?」
彼女の身の上話を本人や周りの人達から聞いていたベルは、まず最初に彼女に覚えた感情は「同情」であった。
今まで誰にも相手にされず一人ぼっちでオラリオでウロウロしている彼女の姿が、やけに頭の中でリアルに浮かび上がり
なんだか不憫で可哀そうだなと思ってしまったのだ。
「けどそれだけじゃなくてですね、なんというかその……女神様っぽくない所に凄い親しみが沸いたというか」
「そう言われると女神として正直複雑な心境なんだけど……」
「だっていかにも神様っぽい方でしたら僕、緊張してなにも話せなくなっちゃう筈ですし……それに比べてヘスティア様ならなんか不思議と自然体で接することができて、不思議と居心地良いんですよね」
「う~ん、褒めてはくれてるんだろうけど、ますます女神としての自信を無くしちゃうなぁ…」
ヘスティアは周りに対して壁を作らないし接し方も気さくだ。
自分の感情に素直過ぎて暴走し、初対面である自分に対して誘拐という強引な手段を用いたものの
さっきのピートの時といい、身を張って自分を助けようとしてくれたりと、心の優しい神様なのだとベルはそう評価したのだ。
「それに何より、こんないかにも弱そうな田舎者の僕を、必要だと言って誘ってくれたのが嬉しくて……ヘスティア様のファミリアに入ろうと思ったのがそれが一番の理由です」
「まあ確かに君に対しては、一人ぼっちにさせると寂しくなって今にも死んじゃいそうな子兎みたいだなと思ったのが初めて会った時の印象だからね」
「ええ!? そんな風に僕の事思ってたんですか!?」
「そりゃあんなにブルブル震えながら緊張した様子で出てこられたらねぇ」
初めてベルと遭遇した時の第一印象を思い出しヘスティアは噴き出して笑い声をあげると
「つまりボク等は似た者同士なのかもしれないね、見ていて危なっかしい神と眷族のコンビか……はぁ~きっと周りから馬鹿にされるだろうなぁ~……」
ため息をこぼしてそう呟きながらも、彼女はスッと彼の方へ手を差し伸べた。
「けどそれはそれで面白いかもしれない、君がボクの前に現れたのが運命だとしたら、ボクは天界に還らずに君と二人でまた夢に向かって歩き出すことにするよ」
「ホ、ホントですか!? つまり僕は神様のファミリアに入ってもいいと……?」
「念の為に言っておくけど、ボクのファミリアに入ったら相当キツイぜ? 他の団員はいないし、お金は無いし、食べるモノもロクなモンが無いし、毎日スクルージのじいさんに嫌味言われるし」
「いいですいいです! 僕! いざとなれば虫を食べて生活できるんで!」
「む、虫ぃ!? 君は一体どんな育て方をされたんだい!? いくらなんでもそこまで酷い生活を送らせるつもりは無いよボクだって!」
自分の手をガシっと両手で掴んで目を爛々とさせながらサラリと意外と野性的な部分を見せるベルにヘスティアは少しビックリしつつも縦に頷く。
兎にも角にも、彼との出会いによって自分の方針は決まった。
「よし、君が眷族になった事で、ようやくボクも自分のファミリアを結成できるぞ! これからはバリバリ働いてもらうからね、ベル君!」
「はい神様!」
「まずはヘスティアファミリアのホームで祝杯を挙げようじゃないか! と言っても用意できるのは水とじゃが丸君しかないけどね!」
「あの、ホームってどんな所なんですか?」
「人気の無い所に置かれた今はもう使われていない廃教会の地下室さ! それはもう立派なオンボロホームだぜ! おまけにボクが盛大に散らかしているから足の踏み場もない状況だよ!」
「あはは……なるほど……」
親指を立てて何故か誇らしげに叫ぶヘスティアに苦笑しつつ、ベルは「祝杯を挙げる前に掃除が先かな?」と考えていると、そこへ
「女神様との話はまとまったみたいだね、それじゃあ今度は僕の番」
「え?」
ずっと二人の間で話を聞いていたスパイダーマンが腕を組んだままベルに向かって話しかけてきた。
「僕はファミリアとか神様とかそういうの興味ないけど、冒険者ってのはちょっとばかり関心があるんだ、ダンジョンとかいうのに潜って未知なる怪物と戦う仕事とかあるんでしょ? グリーンゴブリンとかに出くわしたらすぐに逃げて僕を呼んでね」
「……そういえばあなたは一体何者なんですか? 神様の恩恵を授かってないとか言ってましたよね? なのにさっきの力といい……」
「僕はただのスパイダーマン、”親愛なる隣人”、それ以上でもそれ以下でも無い」
素朴なベルの質問に肩をすくめて曖昧に答えてみせると、スパイダーマンは優しく彼の肩に手を置いた。
「正直今の君は可愛い可愛い生まれたての子兎ちゃんだけど、いつか僕の耳にも届くぐらい成長したら、僕が”叔父さん”から受け取った言葉を君に送るよ、力を得た君が”道を踏み外さない”為にね」
「?」
「僕の話はこれで終わり、それじゃあ僕はこの辺で、そろそろお仕事に戻らないと」
「ええ!?」
強くなったらかつて自分が受け取った言葉を君に送る。
一方的にそう約束すると、困惑するベルをよそにスパイダーマンは手の平から蜘蛛の糸を発射させ、近くにあった木に引っ掛けて高く飛翔する。
「またね子兎ちゃんと女神様、君らの成長を草葉の陰で祈らせて貰うよ」
「あの! 色々とありがとうございました!」
「君がボクのファミリアに入ってくるのをいつでも待ってるからね!」
「ハハハ、僕の代わりにキングピンを倒してくれたら考えておくよ」
律儀に何度も頭を下げて礼を言うベルと、まだ勧誘を諦めていないヘスティアに笑いながら冗談を言うと、スパイダーマンは高く飛び上がってあっという間に何処かへと消えてしまった。
本当に謎だらけの人物である。
「……なんだか色んな意味で不思議な人でしたね、一体何者なんでしょう……?」
「それは神のボクでさえわからないんだ、このオラリオじゃああいう謎の力を持った子達が結構いるみたいだけどね、確かロキの所に客人として”おかしな武器と力を持った男”が一人いるとか聞いた事あるけど」
前に知り合いの神の下に得体の知れない不思議な力を持った男がいると、友人の神に教えてもらった事を思い出すヘスティアであったが、ベルはまだ颯爽と消えてしまったヒーローに夢中で聞いていなかった。
「なんかちょっと憧れますね、顔を隠した正体不明のヒーローって……」
「なんだい、君はああいうのが好きなのかい?」
「はい、僕が知ってる英雄達とはちょっとイメージが違いますけど、ちょっと茶目っ気がある中でも確かな強さを持ってて凄くカッコいいと思いました」
「でもすっごいピチピチスーツだったよ?」
「い、良いじゃないですかピチピチでも! 凄くカッコいいですよあのスーツ!」
「えぇ~どうかな~……? 言っておくけど真似だけはしないでくれよ?」
ムキになった様子で反論してくるベルに、ヘスティアは自分と彼の美的感覚に少々ズレがあるなと発見しつつ
とにかくまずは彼を連れてここから立ち去る事に
「とにかくボク等も行こうじゃないか、早速ホームに戻って君に恩恵を授けたい所だけど、その前に寄る所があるんだ、スクルージのじいさんにお礼を言っておかないと、一応君をボクの前に連れて来てくれたのは彼だしね」
「あ、僕もレスキューレンジャーの皆さんに無事だった事を報告しておかないと……」
「ああ~あの子達か、そういえばボクが君の主神になることに反対してたね……また反対されて考え直すのは止めておくれよ?」
「大丈夫ですよ、僕がもう自分自身で決めたことですから、きっとみんなわかってくれます」
もしや気が変わって自分のファミリアに入るのを止めるのではないかと不安に思うヘスティアとは裏腹に
ベルは真っすぐな視線を彼女に向けながら力強く頷きつつ、ともに歩み始めるのであった。
「……」
そして仲良く談笑を交えながら墓地を後にするヘスティアとベルを
少し離れた建物の上から気配を隠してポツンと突っ立って眺める者がいた。
真っ黒なフードで顔を隠し、全身も同じく黒いコートに身を包んだいかにも怪しい見た目をしている……
それからベルとヘスティアを、正確にはベルの方だけを目で追いかけていると、そんな彼の背後に突然一人の男が気さくに話しかけた。
「やあ、ずっとこっち見てたみたいだけど、なんか用? 僕のサインならお安い御用だけど?」
「……」
いつの間にか背後に現れたのは、先ほどベル達と一緒にいたスパイダーマンであった。
彼がベル達の下を離れたのはこれが理由だった。
何者かが自分達を離れた所から監視しているのを、彼はすぐに察していたのである。
黒コートの人物が特にリアクションも起こさずに無反応でふり返ってくると、スパイダーマンはまた勝手にベラベラと喋り続ける。
「随分と熱い視線を向けてくるモンだからすぐにわかっちゃったよ、人気者は辛いねぇ全く」
「……」
「けど実は僕もアンタに色々と聞きたい事があったんだよねぇ黒コート君、前々から追っていたんだ君の事」
「……」
「なーんか怪しんだよね君、僕の勘が小耳に囁いてるんだ、君をほおっておくと後々面倒なことになるぞってね」
「……」
「ねぇちょっと、僕一人に喋らせないでよ、なんだか寂しいじゃないか、会話のコミュニケーションを楽しもうよよ」
「ククク……」
出会って早々早速自分のペースで喋り出すスパイダーマンに対し、黙り込んでいた黒コートの初めての反応は渇いた笑い声だった。
「悪い悪い、あまりにもアンタがお喋りなモンで返事する暇も無くてな、思わず言葉を返すのも忘れて驚いちまった」
「あらそうなの、ごめんね。僕って昔からこういうキャラで売り出し中だから」
「フ、面白いなアンタ、嫌いじゃないぜ」
黒コートの声からして男性であった、若くはない、口調は軽いが中年の男と感じる渋みのある声
相変わらず顔はすっぽり隠しているので中身は見えないが、いきなり現れたスパイダーマンに対しても、特に敵意を持っていない様子なのがわかった。
しかしだからと言って、不穏な気配がするのは変わらない。
「それじゃあ質問に答えてくれるかい黒コートのおじさん、一体何を観察していたの?」
「お前さんがついさっきまで一緒にいたあの白い髪の坊主さ」
「おっと、あっさりと答えてくれるなんて僕ちゃん驚き、結構引っ張ると思ったんだけど」
「別に、誤魔化す必要は無いだろ? お前さんに正直に言おうが適当に答えようが、どっちみちお前さんにはなにも出来やしない」
意外にも簡単に自分が何をしていたのかを白状する彼にスパイダーマンはわざとらしく驚いた反応を見せると、黒コートはスッとベル達がいる方向へ指をさし
「一目見ておこうと思ったのさ、アンタもよ~く見張っておけよ、あの坊主の存在が、いずれこの世界をひっくり返すぜ」
「おたく大丈夫? 僕にはどう見てもまだまだひよっ子のおチビちゃんにしか見えないんだけど?」
「”今は”な、いずれわかるさ、いずれ」
意味深な言葉を吐く男にスパイダーマンは小首を傾げ、素直に彼の正気を疑った。
オラリオに来たばかりの田舎者で、神の眷族になったばかりのあの少年がなにかとんでもない事をやらかすと確信する根拠がまるでわからない。
まるでこの黒コートは、少年のこれからの”未来”を予知しているかのような……
「という事で”俺達”は、これからあの坊主に色々とちょっかいをかけさせてもらう、だからスーパーヒーローに言いたいのは、俺達の邪魔だけはしないでくれよ”ってハナシ”」
「はぁ~残念だけどスーパーヒーローってのは、悪巧みする奴の邪魔するのが大好きなんだよね、僕は特に」
「英雄になるにはそれなりの試練が必要だ、夢を叶える手伝いをしてやるんだから、あの坊主も本望だろう?」
「いらぬお節介だよ、どう見ても子供の教育に相応しくない危ないおじさんが関与する必要は無い、彼にはもう”導く者”は間に合っている、ちょっと頼りないけど君なんかよりもずっと信じれるお優しい女神さまがね」
話せば話す程胡散臭い男だ、それに何やら不穏な企みも抱いているようだしやはり危険だ
こんな男を野放しにしておく程、ヒーローは甘くない。スパイダーマンは静かに彼の方へ一歩歩み寄る。
「本格的に色々と取り調べする必要があるみたいだね、大人しく僕に捕まってぶっちゃけトーク会でもおっ始めようか」
「アハハハ、そいつは無理なご相談だなっと」
「!」
逃げられないよう至近距離から彼が手首から糸を発射する前に
突然目の前で数十メートルもある建物から躊躇なく飛び降りる黒コートの男。
ギョッと驚くスパイダーマンは慌てて駆け寄って建物の下を覗き込むと
「他の事に現を抜かす前もアンタもやる事あんだろ? ”元の世界”に戻れたらいいな、ハハハ」
「……なるほどね、僕の事情まで知っているのか」
建物の下には誰もいない、ただの薄暗い裏路地であり、人が落ちた形跡も見当たらない。
残ったのは微かに頭の中に聞こえた、彼の声のみ……
「あちゃーエレクトロみたいな瞬間移動が出来んの? めんどくさ」
彼の気配はもう追えないとわかったスパイダーマンはやれやれと首を横に振りながら顔を上げる。
「しかし参ったな、こういう自分の言いたい事だけ言ってひたすら舞台を引っ掻き回し、挙句の果てにとっとと退散して逃げちゃうタイプの敵って……」
「僕ちゃん一番嫌い」
自分以外誰もいない建物の上で
スーパーヒーローは一人、腰に両手を当て不満げな様子で足元にある石を蹴飛ばすかのような仕草をしながら愚痴をこぼすのであった。
そしてベルが女神ヘスティアの眷族となり
神々の住む街、迷宮都市オラリオで何やら怪しい者が暗躍し始めた頃。
ずっと前にオラリオに旅立つベルを見送り、別行動となったあの陽気な二人組はというと
「よしプンバァ、そろそろプライドランド着いたか?」
「ヒィヒィ……! ま、まだ……!」
深い密林の中を疲れた様子で息を荒げながら進んでいくプンバァ
そして彼の背中に寝転がり、優雅に空を眺めるティモン
彼等は未だ、友のいるプライドランドに辿り着けず、それどころかジャングルの中を絶賛遭難中であった。
「ねぇティモン……! 俺考えたんだけどさ……! やっぱり俺達迷ってるんじゃないの……!? さっきからずっと同じ所グルグル回ってる気がするんだけど……!」
「そんな訳ないだろ、余計なこと考えずにさっさと進めって、空は俺が見張っておくから」
「いやもうダメ……俺腹ペコで死にそう……」
疲れと空腹によって遂に限界になったのか、プンバァは足を止めてその場にへたり込んでしまう。
するとティモンは彼の背中から飛び降りると、しかめっ面を浮かべて彼の顔に近づき。
「ううむガソリン切れか、こりゃあまずはジャングルを抜けるより先にご飯の時間だな」
「俺もう一歩も動けない……! 虫をたらふく食べないと死んじゃうよ!」
「落ち着けプンバァ、お前は運が良い、なにせこの虫取りハンターのティモン様がいるんだからな!」
とんでもない大音量の腹の虫を鳴らして地べたに倒れこむプンバァに、ティモンはとびっきりのドヤ顔を浮かべながら自分を親指で指すと、一人で近くの草葉の中に入って食料確保に
「待ってろ、今とびっきり栄養満点な活きの良い虫を捕ってやる!」
「はぁ~さすがティモン、頼りになる~……それにしても」
「あん?」
意気揚々と虫を探し始めるティモンに感謝しながら
プンバァは倒れたままふとある事を思い出してしまう。
「俺達は二人いるおかげでなんとかやっていけてるけど、一人ぼっちのベルは大丈夫なのかなぁ……」
「おいまたその話かよ! 毎日毎日飽きないなぁホント! もう耳にタコが出来ちまったぜ!」
もうかなり前になるが、プンバァは村で一人別れたベルの事がまだ引っ掛かっていた。
彼が無事にオラリオに辿り着けたのか、着いたとしても無事にやっていけるのか……
その話をこの道中、何十回も聞かされていたティモンはうんざりした様子で茂みの中から顔を覗かせる。
「アイツはもう馬鹿な夢を持って行っちまったんだ! とっとと忘れろ! 今はそれよりも虫だろ虫!」
「でもさ、ティモンは心配じゃないの? ベルが一人、見知らぬ土地で暮らすなんて」
「はん! あんなに長く一緒だったのに、お前ってばアイツの事全然わかってないんだな!」
家族同然の少年が自分達から遠く離れた場所に行ってしまった事を酷く寂しがっている様子のプンバァに
遂に虫探しを一旦中止してティモンは人差し指を立てながら彼の方へ歩み寄っていく。
「いいか、アイツはトロくて抜けてて騙されやすい田舎者だぞ、そんな奴が神が住むとかいうちんちくりんな場所で無事にやっていけるかって? 無理、絶対無理!」
「ええ!? じゃあなんでベルをオラリオに行かせたの!?」
「社会勉強」
「社会勉強!?」
「自分で現実を直視して、一人隅っこで寂しくひもじい生活をすれば、ようやくアイツもハッキリとなにが大事なのかわかるだろうと思ってな」
最初反対していたのに最後にはようやく折れてベルのオラリオ行きを認めたティモンであったが
彼には彼で、ちょっとした思惑があったみたいだ。
「そう、アイツにとって一番大事なもの、それは家族! そしてそれは他でもない!」
「俺達だ!」
「大正解! プンバァ君に一億点!」
嬉しそうに答えるプンバァを指さしてティモンは叫ぶと、自信満々に己の計画をスラスラと話し始める。
「アイツに必要なのは俺達さ! だからそれをキチンと気づかせてやる為に、まずはアイツのやりたい事をやらせてやったって訳よ」
「そうか、それでティモンも最後にはオラリオに行くことを許したんだね!」
「ああ、どうせしばらくすれば理想と全く違う現実に打ちしがれて、泣きべそ掻きながら戻って来るぜ、賭けてもいい」
「そこまでベルの事をわかっているなんて! ティモン! 君は本当に天才だ!」
「まあな、あんなガキ、この天才ティモン様にかかれば楽勝よ」
親友がここまで彼の行動を予測しているとは恐れ入った様子で、プンバァが疲れも空腹も忘れて立ち上がって歓声を上げると、ニカッと白い歯を出してティモンは笑みを浮かべる。
「だがもしものパターンもある、アイツにとっては俺達にワガママ言って自分で選んだ道だ、つまり俺達に申し訳ないと思って戻ってこれないパターンだ」
「そんな! つまりベルは責任を感じて俺達の所へ帰れないと思ってるの!?」
「だからそん時は……」
もしかしたらベルにも己を恥じて帰る事にためらいを感じてしまうかもしれない。
その可能性もあるとショックを受けるプンバァだが、ふと足元にあった小さな虫をヒョイと拾い上げて、ティモンは笑いかけながら
「俺達の出番だ、頃合いを見てオラリオに行って迎えに行ってやろうぜ」
「そうか俺達の方から迎えに行ってあげるのか! その時はベルも一緒にプライドランドに行けるね!」
「その通り! そして俺達家族はまた仲良く一緒に暮らすのさ! 完璧な計画だろ!」
「うん完璧! 大大大完璧! あー早くもう一度一緒に暮らせないかな~!」
「そう焦るなって、直にそうなるのは間違いないんだからよ」
ティモンが拾った虫を口でキャッチして捕食しながら、再びベルと一緒に暮らせる事にプンバァは期待を膨らませるのであった。
ベルが今、オラリオでどんな体験をしているのかも知らずに……
「それよりまずはこのジャングルをとっとと抜けようぜ、さっさとプライドランドに行かねぇとな」
「あーそうか、ベルも心配だけど今の俺達の状況もヤバかったね」
「だから最初に言っただろ、アイツの事よりもまずは俺達の飯の確保だって」
兎にも角にも、今は自分たちの安全、なおかつ目的地に辿り着くのが最優先であろう。
それをようやく理解したプンバァを置いて、ティモンは再び茂みの中へと探索し始めた。
「幸運な事にジャングルは虫達のパラダイスだ、つまり虫を食べる俺達にとってもパラダイスって訳よ」
「パラダイスかぁ、あ~想像しただけで俺すげぇ涎出てきた」
「ほーら虫ちゃん達、じゃんじゃん見つけてやるから覚悟しろよってうわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ティモン!?」
まだ見ぬ味を秘めたる未知なる虫達を想像して、プンバァは口から舌を出して涎をダラダラと流していると、突然茂みの中にいるティモンの悲鳴を聞いてビクッと耳を震わせる。
「もしかして俺達でも食べきれないほどの虫さんのパラダイスが見つかってうわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ちょっとばかりの期待を膨らましてプンバァが彼の方へ駆け寄ろうとするが、すぐにティモンと同じ叫び声を上げてプンバァは目の前の出来事を前にして恐怖ですくみ上る。
深く生い茂ったジャングルの中で突然彼等の前に現れたのは
ゴツゴツとした肌を持つ、どう猛な牙を口から生やす全身緑色の怪物……
「「ゴブリンだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
「ゴァァァァァァァァァ!!!!」
ティモンとプンバァは失念していた。
ジャングルなど人気の少ない地域では、一部のモンスターが隠れ蓑として潜み暮らしている事を
彼等の前に現れたのはゴブリンというモンスターの中では比較的弱い部類に入る怪物、かつてベルの祖父が一人で簡単に追い払っているのを二人は見た事がある。
しかしだからといって、ただのイボイノシシとミーアキャットでは当然戦って倒せる相手ではなく……
「ゴルルル……!」
「「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」
先程のプンバァの様に涎を口から滴り落としながら、ゆっくりと歩み寄ってくるゴブリンを前に彼等が出来る事は逃走しか残されていなかった。
急いでティモンは回れ右をすると、プンバァの頭の上に飛び乗る。
「プンバァ! 全速力でジャングルの中を突っ切れ!」
「でもティモン! 今俺すんごくお腹減ってる上に疲れて動けないんだけど!?」
「言い訳なんて聞きたくないんだよ! 気合いだ気合! 気合で逃げるんだ!」
「で、でもさティモン……逃げるって言っても……」
命が惜しかったら死ぬ気で逃げろと言わんばかりに頭の上で怒鳴るティモンをよそに
顔に汗をしたらせながらプンバァは今、目の前に広がる光景にビビッて立ちすくんでしまっていた……
「俺達もう……囲まれちゃってるみたい……」
「ギャア!」
「ギャギャギャ!」
「ギッギッギ!!」
「本当だ……お前より臭くて不潔な連中がうようよいやがる……」
彼の言葉を聞いてティモンもようやく顔を上げて理解し、すぐに嫌な顔を浮かべた。
先程自分たちがいた場所には、もう既に数匹のゴブリン達がこちらを獲物と見定めて集まっているではないか。
そういえばゴブリンは集団で集まり、数を使った戦闘を得意とするから、1匹見つけたら囲まれる前にすぐに逃げろと、ベルの祖父から教わった事があったような……
「爺さんの話をもうちょっとまともに聞いてやれば良かったぜ……」
「ねぇどうすんのティモン!? もしかして俺達、アイツらのご飯にされちゃうの!?」
「そりゃ勘弁だな、臭くて硬くてとても食えやしないお前と違って、柔らかくて芳醇な香りを醸し出す俺は奴等にとって正に高級珍味……」
「食われる前に! せめてたらふく食べたかった~!!」
「あ~もう! どうして俺はこんなに美味しそうなナイスボディになってしまったんだ! イケメンに生まれた自分が憎い!……いやイケメンは味に関係ないか」
今から襲われるという状況で相変わらず緊張感のない叫びを仲良く上げているが、ゴブリン達はそれに動じることなくジリジリと彼等に近づいていく。
だがその時……
「ギャア!」
「ギャアギャア!!」
「んん?」
突如茂みの奥の方からゴブリン達の悲鳴のような声が聞こえた事にティモンはいち早く気付いた。
それと同じく何かを用いて高速で切り裂くような斬撃音と、何者かがこちらに向かって駆けて来る俊敏な足音。
今度は一体何事だとティモンは両手で頭を押さえながら混乱していると
茂みの奥からその音を放っていた張本人が颯爽と躍り出た。
サンドカラーの長めの上着と、黒茶のズボン、腰に巻く黒い帯、履き心地良さそうな黒いブーツ
そして茶色を少し明るくしたかのような色に染まった大き目のローブを着こなす
首辺りまで伸びた茶髪を揺らし、ゴブリン達に向かって眼光を鋭く光らせ強い敵意を剥き出す細身の青年であった。
「失せろ!!」
青年は吐き捨てるように叫ぶと、右手に持った剣状に見える不思議な青白い光を放つ刃で一閃を放ち
ティモン達の目の前で一匹のゴブリンを上下真っ二つに切り裂いてみせた。
出血も出ず、断末魔の雄叫びさえ上げさせず、ゴブリンは呆気なく絶命し、その姿は一瞬で灰塵に帰す。
「うわぁ……」
「こいつはたまげた……」
目の前で起こった一瞬の殺陣に思わずティモンとプンバァは固まって呆然とする中。
若者は鬼気迫る表情で止まる事なく次々と右手に持った得物でゴブリン達を切り裂いていく。
次第に戦況が悪化したと判断したのか、残っていたゴブリン達は彼を前にして散り散りに逃げ始めるのであった。
すると若者は戦意を失いこちらに背を向けて行ってしまうゴブリン達を目で追いかけて
「戦う意思を失くした相手に手をかけないのが”ジェダイの掟”……」
口ではそう言いつつも、自分自身では納得していないという表情を浮かべながら
青年の手にある得物からシュンと青白い刃が消失し、ゆっくりと腕を下ろすのであった。
「……怪我はない?」
「はぁ~助かった……ありがとう! 本当にありがとう!」
「いやはや危機一髪だったぜ、あんがとよ坊主」
ティモン達の方へ振り返ると、青年の顔はさっきとは打って変わって穏やかに。
助けてくれた事に素直に礼を言う彼等を見て、青年は問題なさそうだと頷きながらまた口を開く。
「あの怪物達はここを拠点にして動物たちを襲って殺しまわってる、だから僕は”ジェダイの騎士”として当然の事をやったまでだ」
「は~、ひょっとしてアンタこの辺に住んでる人間か?」
「……いや、僕も君達と同じだ、行く当てもなく彷徨っていたら、この近くに暮らす動物達が親切にしてくれた」
「なるほどなるほど、それでその獣に恩返しする為に厄介なゴブリン達を倒してたのか……そもそもなんでまた彷徨ってたんだ?」
「……人を探していたんだ」
ジェダイの騎士とはなんだろうという疑問を飲み込んで、ティモンが眉をひそめて尋ねると
若者は難しそうな表情を浮かべ、腕を組みながら彼等に尋ねる。
「君達は僕みたいな武器を持った人に会った事は無いか? 僕と似たような恰好をした、髭の生えた男」
「武器っていうのはさっきの不思議な色をした剣か、おいプンバァ、見た事あるか?」
「ううん、俺、あんな剣初めて見たよ、すんごいキラキラしててビックリした」
「そうか……」
全く覚えがないと揃って首をブンブンと横に振るティモンとプンバァに、青年は少々落ち込んだ様子で呟くもすぐに顔を上げ
「良かったら僕が世話になっている所にまで案内するよ、どうせ迷ってここから抜けられないんだろ」
「えぇ! いいの!?」
「おいおいどこまで親切なんだお前さんは! 縁もゆかりもない俺達を助けてくれるばかりか! 安全な場所まで連れてってやるだと!?」
正直あのゴブリン達を容赦なく斬り捨てていく姿を見て少々おっかない奴だと思っていたのだが、どうやらいらぬ心配だったみたいだ。
気兼ねなく友好的に接してくれる青年に、すぐにティモンとプンバァも警戒を解く。
「なんて良い奴なんだ! よろしく頼むぜ! 俺はティモン!」
「俺はプンバァ! それで、君はなんて名前なの!?」
「僕は……」
ティモンと一緒に自己紹介を済ませながら名を聞いて来たプンバァに対し
青年は真っすぐな瞳を向けながらゆっくりと口を開いた。
「アナキン=スカイウォーカー」
マーベルヒーロー紹介
スパイダーマン
言わずと知れたマーベルを代表するヒーローの一人
キャッチコピーは「親愛なる隣人」
元々はただの高校生だったのが、ある日研究所で逃げ出した蜘蛛に噛まれ突然超能力に目覚めてしまう。
それから彼はスパイダーマンとして、街にはびこる悪と戦う運命に身を投じる事に。
数々の凶悪と戦いながら、亡き叔父の言葉を胸に彼は今日も戦い続けるのであった。
当時としては悩み苦しみ、時には挫折しながらも成長していくというヒーローは珍しく、それが当時のティーンエイジャーの心に突き刺さったらしく晴れて大ヒット。
特に彼自身のヒーローとは思えない軽口で飄々とした態度や、第四の壁を超えてメタ発言をしまくる自由奔放さが人気の一つなったと言っても過言ではない。
数々のシリーズが作られていき、今もなお様々な国でドラマや映画、漫画になるなど話題に事欠かないまさにマーベルを支える柱の一つだ。
しかしシリーズが増えていった結果、各々が作り上げた様々なタイプのスパイダーマンが増えていき
ついには”ある国”が「巨大ロボに乗って戦うスパイダーマン」というなんとも奇想天外なドラマを創り上げてしまったのだ。一体どこの国だ……実にけしからん
ちなみに原作者はそのドラマを絶賛しているとかなんとか……
本作でも変わらず彼はみんなのヒーロー。オラリオで悪さする悪党共を懲らしめています。
多くの人々に賞賛される一方で、一部には妬まれ、嫌われ、時には憎まれたりと相変わらずの評価を受けてるみたいです。
どこのファミリアにも属しておらず、多くの神々に勧誘されながらも飄々とした態度で全て断っています。
恩恵は無いのでレベルやステイタスも持っていませんが、並の冒険者では到底彼に勝てないでしょう。
スパイダーマンとして活動していない時は、正体を隠しつつ平凡な若者として街中をうろついています。
最近の悩みは、自分と似たような恰好をした「ヤバい奴」が、街中で暴れまわって迷惑している、だそうです。