――気づいたら、知らない天井だった。
意識を失う前、最後に死にそうなほど痛かったのをよく覚えている、
……というか、全てが超展開過ぎてついていけてないのが実情なんだが、というのが俺の本音
とりあえず、ここの把握と自分の体について、という所か
ひとまず自分の状態、目立った損傷は見受けられないし、白くふかふかなベッドに寝かされている所を見ると、ひとまずすぐ殺されるということは無さそうだ。
体を起こして、白い前髪を払いつつあたりを見回せば……ここは、医務室だろうか。よく見る薬品の並ぶ棚に、カーテンで仕切られたベッドが二つ。それから事務机に大きな姿見って所か
艦娘も人の雰囲気もしない所からして、放置プレイされてるって所かな。
ふと、窓に目を見やれば、目の前に広がるのは黒い海と黒い空。いつまで寝てたのかは分からないけど。現時刻は夜らしい。壁にかけられた大きな丸時計は9時を示していた。
「アーアー……マイクのテスト中。なんちゃって」
「とりあえず……喉が乾いたわね。アとお腹すいた。アとアと……体が潮風と汗でベッタベタしてるわ」
掛け布団をひっぺがし、素足のままベッドから下りる。
両手足をぶらぶらしてみたり、軽くその場で飛び跳ねたり。
屈伸から膝曲げ運動、一通りの柔軟も試して見たけど、不調はなし。あれだけ痛かったのに何ともないのは逆にすごいとも思うが。
うーむ……しかし胸が重い……、さっきから動く度に外側に引っ張られるような違和感が
……というか、本当に色々あって意識の外にぶっ飛んでたけど
俺……今陽炎なんだよな。まさか嫁艦にするほど好きだった艦娘に自分がなろうとは夢にも思わなかった。
素足がぺたぺたと床を擦り、陽炎の体を姿見の前へ
「アー、確かにこれは陽炎ね」
「顔の左半分が深海化してるのね、成程……」
容姿はそのまま陽炎のもの、違和感があるのは顔の左半分だけ。
左右非対称に、鼻の中心から左は深海棲艦みたいな青白い肌の色。長い白髪が左眼を覆い隠して、その内側の瞳に黄色く燃える炎を覆い隠している。
ちなみにこの炎、目を閉じても消えないけど熱くは無い。ただ左眼だけ見える景色に黄色いフィルターがかかっているのが玉に瑕
まあもっとも前髪で隠れて見えないから影響ないんだけども。
さて、こうなったからには、異性の体、ましてや嫁艦の体に入ったとするのなら……やる事は一つだけ
罪悪感とか無いわけじゃないけど……この欲望には抗いがたい
「オ、オー……柔らかい……そして重いわ……凄い重量感。」
自分の体にメロンみたいな胸がついてるなんて想像する事も無いだろう。
胸部にてずっしりと存在を主張するそれに、手袋越しの両手を押し当てて…その時点で押し返してくる膨らみの圧力。
指先を埋めようとしたのなら抵抗無く指が沈んで。餅を捏ねているような柔らかさが五指を伝わって脳髄へと感じられる。
触れてみて感じるのは、性的興奮よりも、好奇心の方が強いのは、この体が陽炎のもの、女の子のものだからだろうか。
よく漫画であるような、気持ちいいというよりは擽ったいって感想の方が大きい。
……てかこれ、恐らく下着類付けてないな。制服の内側に肌着以外の感覚が感じられない。
…………………………
別に他意はないけど、寝汗と潮風のベタベタは取りたい、決して制服の内側に興味があるとかじゃなくて
いや、俺は誰に言い訳してるんだ。今はべ、別に自分の体なんだから気にする事はないんだからねっ!
「ア、アー……暑いーベタベタするー」
棒読みの言い訳が誰もいない医務室にこだまして
指先が一つ一つ制服のボタンを外していく、窮屈に押し込められた胸部装甲がたぷんとその存在を主張して解放され……
「……………………」
そうして、衣服の内側を見た俺は言葉が出なかった。
それは決して陽炎の体に感銘を受けたとか、そんな事ではなくて。
乱雑な手術跡みたいな傷跡が全身に、それこそ大量に這っている蚯蚓がそのまま体に入り込んだような。悲惨な傷跡
思い出すのは、覚醒と同時に声をかけてくれた謎の声の事、廃棄躯体だった事に関係――
『それ、ほとんど無理やりくっつけたから傷跡が残っただけです。』
「そうなんですか」
なぁんだ関係ないのか、ならいいや
……………………
いやいや!どうした、謎の声さん(暫定)!今日はやけにフレンドリーだし、
カタコトじゃないし!なんか可愛い女の子の声だし……!
『あ、すみません。私潮です。綾波型の10番艦の……あ、あとそれから。声に出さなくても念じれば意思疎通出来るのと……あとは……』
(あ、これはどうもご丁寧に……)
『あっ!いえいえ……その!それで、あとは……みぎ!右です!扉の所にあの……』
(扉の所?)
はてさて、脳内のプリティ潮ボイスと共に視線を向けたのならば
そこには、まさにイケメンと称すべき容姿がそのまま軍服を着たような人間が
端正な顔を赤くしたり青くしたりしながら金魚のようにパクパクと唇を開閉する姿が
……まさか元男の俺がラッキースケベを受ける側になるとは誰が思っただろうか。
とりあえずこういう時はお約束として暴力で解決、は艦娘の力だと殺しかねないから……
「……イやん」
「す!すまん!着替え終わるまで外で待ってる!」
……やってみてわかった
これは軽く死にたくなる。
―――――――――――――――――――――
「……その、本当に済まなかった」
「イや、もうイイわよ、済んだことだし……」
『…………///』
その後、着替え終わりと共に提督を呼び付けた結果
現在は食堂にて二人、遅い夜食を取りながら歓談中です
俺としては恥ずかしさより驚きの方が勝ったのと
頭の中の潮の方が恥ずかしがってるから逆に冷静になったというのが正解か。
さっきからずっと頭の中で声にならない叫びが聞こえるのがまた萌えるんですが。
もしかしてこの胸部装甲って潮が混ざったからなのでh――――
「それで、その。陽炎。体の方は大丈夫……」
「いや、すまない。大丈夫なわけが無いな、愚かな質問をした……すまない」
「ア、アア。気にしなくてイイわよ。そんな思いっきり絶望しなくても……ご飯が不味くなるじゃない。」
いけないいけない、思考に引っ張られて目の前に提督がいるのを失念してた。
ちなみに、提督は唐揚げ定食、俺はざる蕎麦である。しっかし良く夜にこんな油物食えるなこの提督。
イケメンだから肉食系だってか……なんちゃって
「……すまない、ありがとう。お前には取り返しのつかない事をしたと言うのに」
「……決して許してくれとは言わない。ただ……」
「イイわよ別に、すっごい痛かったけどねっ!」
「それは……っ……!」
取り返しのつかない事……ってあれか、六隻リンチか
ものすっごい痛かったけど結局沈められなかったし、ベッドに寝かせてもらったし今はざる蕎麦食べさせてもらってるし
ぶっちゃけあのまま海上に居てもどうしたらいいか分からなかったし。逆に救いにもなったと思うんだけど
"痛かった"って言った途端に提督が死にそうな程に顔を青白くしたのが気に食わん
あんなの痛いに決まってんじゃん!気絶する程背中熱かったんだからな!
『あ、あの……提督が言ってるのは陽炎さんが思ってるのと違っ……』
「……本当にすまない、謝罪しても許されないのは分かってる」
「だからこそ、俺は過去の過ちを受け止めてお前と向き合うよ。追いかけて追いかけて、やっとこちら側に来てくれたお前を、もう一人ぼっちにはしないから」
「エ、エエと……と、とりアエず涙拭いたら?」
……何このシリアスな雰囲気
今まで置いてけぼりだったけど……いや、まだ置いてけぼりだったわ。
とりあえず詳しい説明をヘルプミー、脳内潮さんでもイケメン提督でもいいから
……いや、なんで提督こっちくるん?とりあえず寄るなら涙拭いてから来ないとイケメンが台無しなんだが
仕方ないので手袋で、ハンカチがなくて残念だったな提督!陽炎手袋でお目目を拭かれて感動するが良いわ!
……と、涙を拭いてやったら何故か抱きしめられました、俺の中に湧き出す感情は一つだけ。
ど、どうした……って感情のみ、よく分かんないけどまだ泣いてるし、背中をさすってやったら……
何故か泣き止むどころか男泣き、こういう時はあれだ、耳元で大丈夫大丈夫って言いながらなでなでしてやれば大抵泣き止むんだ。そうそう、『不知火もこうやって』
――俺、不知火を撫でた記憶が無いんだが、今のは
これから艦娘たちとの交流がはじまるんだ……