なぜかあの後すやすやと寝息を立て始めた提督(赤ちゃんかな?)
を抱えてひとまず司令室っぽい部屋まで運んで
ついでに布団までかけてやるという聖人じみた行為をしたというのに
部屋を出た途端に時雨と鉢合わせ、無表情の彼女はすぐさま俺を通り越して執務室を覗き込み
部屋からでてきた時雨に手招きされるまま、案内されたのは時雨の部屋
この時点での時雨の印象は、出会い頭に敵意を向けてきた艦娘でしかなく。
警戒もそこそこに促されるまま入室、狭いながらも整理整頓の行き届いた。悪く言えば生活感のあまりない部屋を眺めつつ。時雨の方に目を向ければ
次いで、突如訪れる浮遊感と、後頭部にゴツンという衝撃の感覚。
最後には喉が潰されそうなほどの圧迫感
「っぐぇ……かはっ……」
「良く考えた物だね……いきなり無抵抗になって僕にやられたのは、鎮守府を中から崩壊させようっていう魂胆だろう……」
端的に言えば、足が宙に浮いた状態で首を絞められている。
感じたことのない圧迫感に、空気を求めて舌が突き出された。足をばたつかせるも、ただ空中でバタ足を披露しているような滑稽にしかならずになんの意味もなく
というかやばい……酸欠で思考すらままならなくなる奴だこれ。
「大体おかしいと思ったんだ、ただの一人で僕達六隻を片手間にあしらえるキミが、あんなにあっさりやられるなんて」
「それもあんなわかりやすいくらいに素人の動きなんかを見せつけて、小芝居が上手くなったものだね。陽炎」
「っ…………!かはっ!ふぅっ……」
時雨の気まぐれか、離された体は膝から地に着き、ドサッと音をたてて渇望していた空気を肺いっぱいに取り込んだ。
胃からせり上がる嘔吐感に口元を抑え、涙目で時雨を伺ったのならば
――養豚場の豚でも見るかのような、冷徹な視線がお出迎え。
お生憎ながら俺はマゾでは無いため、首絞めも見下しもただ単純に心が痛いだけだった。
……時雨の言葉と、今までの状況を鑑みて推理するならば。この陽炎の体とこの鎮守府、ひいてはここにいる艦娘達とは浅からぬ因縁があるらしい。
俺の意識がこの体に入り込んだのは何らかのイレギュラーによるものなのだろう。またまた時雨の言葉を借りるなら。この体は幾度と遅い来る艦娘達を斥けていた。という所か。
先の提督の『追いかけて追いかけて』という言葉も加味すれば、何度も彼女らを斥けていたという解釈もできる。時雨の反応からしてこっちが正しいのだろう
提督の言った『過去の過ち』という言葉は未だに謎だが
そんな思考に耽ける俺の頭上で感じる圧迫感、ガチャリという音。恐る恐る視線に意識を込めてみれば
……時雨さん?それ砲塔なのでは?まさかこの部屋で1発ぶちかます気なのでは……?それも、俺に向かって
「面倒だ、何か起こされる前に処理してしまおう」
「……ほら、本性を剥きだすなら今のうちだよ。そうしないとキミ、本当に死んでしまうからね。」
再び背筋に駆け登る死の感覚、思い起こされるのは魚雷を受けた時の身を裂かれるような痛み。
本性を剥き出せとは言われても、今この体を動かしているのは過去に動かしていた物の意識では無いわけで
……落ち着け、俺、震えていても何もならない。仮にも軍人として教育を受けている艦娘が何かを殺せないだなんてあるはずもなく
このままで居れば待っているのは確実な死だ、かと言って逃げようものなら間違いなく背中から撃ち抜かれる
今俺の頭で思い浮かぶような最適な方法は……敵意がない事をアピールする事。
そもそもが思考が入れ替わったとか、実は俺は男でこの体に憑依して、などと話した所で受け入れられるかどうかも怪しく。下手したらそのままドンッ!で終わりだ
「ま、待って時雨……私に敵意は無いわ。司令にも手を出す気はないし、艦娘達……貴女達にもなにかするつもりもない。」
「それを保証してくれるものは?寝首を搔かれないとの証拠は?急に弱々しい雰囲気なんか出して、分かりやすすぎるんだよキミ」
「今まで鬼神の如き戦闘力を見せていたキミが、まるで人が変わったかのように。意思疎通すらしようとしなかったのに、今更媚びられた所で何の感情も僕は抱かない。」
……不味い、予想した以上に過去の行いが足を引っ張る。
唯一の味方とも言える脳内潮さんに声をかけても無反応だし、相変わらず砲塔は向けられたまま。
足音を立てながら近づいてくる死の足音、収まらない体の震え、まとまらない思考。ギリギリ音を立てて痛む胃腸。
「っ……こ、殺すのだけはやめて、本当に貴女達にも司令にも何もしないから。証拠として渡せるものも何も無いけど、このとおりよ……」
「……」
最早、頭を下げるしか俺にうてる手は無かった。
額を床に擦りつけながら、泣きそうに震える声で懇願する
……まさか、艦これの世界に来て艦娘に土下座する事になるとは思わなかった。
ぼんやりと、提督として艦娘とイチャイチャ出来たらという妄想はしたことはあれども。
息を呑んで驚愕する時雨の気配を頭上に感じながら、男としてのプライドがペキペキ折れていくのを感じ
次いで、頭に載せられる硬い靴底の干渉……時雨、お前はS嬢何かか……まだ追い打ちをかけるか
「……惨めなその姿に免じて、今日だけは許そう」
「でも忘れないで、これから怪しい行動を見つけたら容赦しない。勿論提督の警護には僕が尽くし、必要以上の提督との接触も禁止する。」
「わ、分かったから……イ、痛い」
「ぷげっ……」
……何とか許してくれるらしい、後頭部にゴリゴリ押し当てられる感触がなんとも辛いが。
それが退けられたと思ったら、後頭部の重みが無くなったと思った次の瞬間、抉りこまれるような口元への衝撃。
舌に触れるは海水のような塩味と口の中が切れたらしい血の感触。口内に蹴りこまれたのは硬いローファーだった。
喉奥まで突っ込もうとしてくるそれを懸命に舌で推しとどめようとすれども、それはグイグイ喉奥へ迫り。
抗議の意も込めて時雨の顔を見上げれば、真っ白い太もものの上、めくれたスカートの内側に見えるは青と白のしましまの薄布。こちらを見下げる時雨は僅かに頬を染め、恍惚としたように唇を歪めて
「……そんなに欲しそうな顔をされたら困ってしまうね。陽炎はそういう趣味だったのかい?」
降り注ぐは、お気に入りの玩具を見つけたような好奇の視線だった。もっとも、時雨のいう玩具というのは決して健全な意味では無いというのは理解出来たが。
首を振って拒否しようとすれば、蹴りあげるような時雨の脚の動き、それに合わせて唇の端が切れ、俺の唾液まみれとなったローファーは口内の蹂躙を辞
めた。
……もう泣きそうですよ神、なぜ覚えもない行為を糾弾されなければならないのか。
「ほら、もう出て行きなよ。こう見えて僕も忙しいんだ。明日からの生活が楽しみだね、陽炎」
「っ…」
こちとら楽しみどころか恐怖の符号しか浮かんでこないよ畜生!
クソ……でも命拾いしたのは確かだ、目元に浮かぶ生暖かい物を拭って部屋の扉に手をかけ
「……そそるな」
悪魔のような時雨のつぶやきを背中に受けた。
――――――――――――――――――
「……ウウ、口の中が痛い、胃も痛い……」
悪魔のような時雨の部屋から出た俺は、宛もなく鎮守府内をふらふら彷徨っていた
何故かって?提督はすやすや寝てるし、自分の部屋があるかどうかも分からない上、下手に他の艦娘の部屋に行こうものなら時雨のような展開が待ち受けていないとも限らない。
少なくとも俺を襲ってきた艦娘のうち、時雨と叢雲は敵意剥き出しだったし。夕立はまだよく分からない。
一番の安牌は雷、次点で夕張。不知火はまだ分からない
6分の3が危険を孕む中、呑気にどこかの部屋を開け放つ訳にもいかず。
眠気を堪えながらの鎮守府探訪、霞む目を擦りながらぼやっと視線の先に映るのは……見覚えのある桃色で
「陽炎……?陽炎……!心配しました、医務室へ行ったら貴女の姿がどこにも見えず……!」
心配そうな声と共に駆け寄ってくる、駆逐艦不知火。
どうやら不知火は敵じゃないらしい、戦艦でも殺しそうな双眸を不安げに歪めて、たったっと軽い足取りが近寄ってくる。
「……しら、ぬイ。」
「陽炎?陽炎……!?重い……のですが。」
そして遠くなる意識、度重なる心労(主に時雨の)のせいにより、俺の体は限界だったらしく。
最後に感じたのは、不知火の甘い匂いと、触れ合った柔らかい女の子の体の感触。
倒れそうな俺を抱えた不知火はそのまま耐えきれず、押し倒すような形で下に敷いてしまったようで。
白い頬を耳まで真っ赤に染めた不知火の横顔が、やけに記憶に残った。
時雨は提督に対して忠犬のようなイメージがあり
あくまでそれは提督に対してのもの、提督を害する可能性のあるものには噛み付くような、そんなイメージがあります。
夕立にも同様のイメージがありますが、夕立の場合は表立って提督を守ろうとするイメージ。
時雨に関しては影から提督への危険を排除するイメージがあります。
勿論清楚な時雨も好きですが……