『ヤメロ!ワタシヲ!矮小ナ器ナゾニ……!再ビ艦娘二モドルコトナドッ……!』
『さーんきゅっ、なんて別れの言葉には相応しくないわね。もし混ざってもまた会えたら、一緒にお茶でも飲みましょう?あとは、不知火に宜しく』
『それよりもほら、貴方は他に怯えてる子のケアしてあげないと。ね?』
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……知らない天井だ
と思ったのは、不知火の胸部だったと、本人に伝えたら怒られるだろうか。
昨日よりもスッキリとした目覚め……とは言い難い倦怠感と訳の分からない喪失感
なにか夢を見ていたようで、それが思い出せないのがもどかしい。
あるよねこういうの!寝しなに取っておきのネタを思いついて寝たら翌朝思い出せなかったり。ネタになるような夢を見ても朝さっぱり忘れていたり。
……さて、こんな支離滅裂な思考に身を浸しているのは、どう考えても今が冷静でいられる状態では無いからだ。
何せ目の前には不知火の寝顔、すうすうと寝息を立てる桜色の唇に、瞳の鋭さは消え失せた子供のように愛らしい寝顔。何処からか香る甘い桃の香り。
全身真っピンクな少女趣味のパジャマだけは子供っぽいと感じざるを得ないが。
だけならば、まだ耐えられた。しかしこの不知火は……『相変わらず寝相が悪い』のである。
同じ枕に頭を乗せたこの状態、不知火の細く白い指は俺のうなじに添えられているし、脚に至っては恋人同士のように絡んでいる始末。
何処かひんやりとした体温が脚を伝わって脳髄にまで駆け登り、軍人として鍛えられた筋肉の中であっても、大いに存在する女の子の柔らかさが俺を責め立てる
……こんなの理性が弾け飛ぶだろう、と普通なら思うところなのだが。
何故だか、俺の胸中に飛来するのは興奮ではなく、庇護欲で。
絹糸のようにサラリとした桃色髪を2本の指ですくった、毛先を人差し指と中指で擦り合わせれば。ふわりと鼻をつく桃の香り。
甘い香りの出処はここだったのかと、寝起きの霞む頭で考えつつ、パチリと開いた不知火の瞳。
透き通るような海の色、凛々しい碧眼のレンズの中には。陽炎が映っていて
「……陽炎、泣いているのですか?」
そこで初めて、自分の頬を伝う水滴に気が付いた。
「わぷっ……」
「陽炎、不知火は……もう逃げません。」
そうして、抱きしめられた。
降りかかる声はどこまでも優しい声色で、慈しむような音色を持っていた。
背中に回される腕は痛いほど不知火の感情を伝えて。
……端的に言えば内臓が出そうなくらいの力と言うべきか、艦娘じゃなかったら死んでそう。
って不知火タンマタンマ……!これまじで死ぬ奴……!背中タップしてるから!タップしてるから!離して……
「ふふっ、あやされるのは不知火ではなく陽炎のはずなのに……優しいですね」
違っ……断じて違う……世間知らずにも程があるぞ不知火。
「か、陽炎?陽炎……?」
やっと気づいたかおマヌケさんめ……
―――――――――――――
「……それでは、朝食に行きましょう。」
「しーらーぬーいー?」
「……申し訳ありません。」
誤魔化そうとする不知火にジト目アタック、不知火は凛とした顔をすぐに歪めて申し訳なさそうに頭を下げた。
傍から見れば穏やかな朝の姉妹同士の会話と言った所だろうか。
朝焼けの小鳥の声に耳を傾けながらそんなことを考えていたら
……不知火が急に脱ぎ出した。
「ヴェッ!?し、不知火どうし……っ!」
「どうしたって……食堂に行くのですから、着替えるのは当然では?」
「アっ……アアッ……それはごもっともね……ごめんなさい」
「それに、不知火と陽炎の仲なのですから。今更だと思いますが」
……思わず取り乱したが、確かにその通りではある。不知火にとっての陽炎は俺なわけで……俺にとっての陽炎も俺、なので不知火の生着替えを見るのは特別恥ずかしいことでもない……
ん、いや……不知火と陽炎の仲って言うのが引っかかる、まさか姉妹で危ない関係だったりしたのか、なんて妄想を
「アの……不知火?私と不知火の関係って」
「勿論、姉妹ですが……」
「ア!アア!そうよね!あははは……」
セーフ!腐った思考で姉妹の仲に亀裂を産まないで済んだ!そりゃそうか姉妹か!そうだ姉妹なら何の問題も無かった、少し前の俺を殴ってやりたい……
……いや、にしては不知火がちょくちょく俺……陽炎に対して赤面するのは些か疑問が残るのだが
ただの照れ屋さんなのだろうか。
「それで、陽炎は着替えないのですか?着替えは不知火なものが……」
「……ああ、その胸では少し、難しいかも知れませんね、一応着てみますか?」
「し、不知火のエッチ」
「なっ!?」
今やチャームポイントとして意識している潮由来のこの胸、でかくて邪魔なのが玉に瑕ではあるが。
それをぐーっと両腕で強調するようにして不知火へのジト目アタック。
本日1度目の赤面を披露する不知火は慌てて声にならない呻きをあげて誤解だと言わんばかりに両手を振り振り
「……心外です、ですがそれならば。無理やり陽炎を剥いでも文句は言われないはず」
「エッ」
〜この後めちゃめちゃ着せ替えられた〜
――――――――――――――
そして俺は今、胸がパッツンパッツンの不知火の制服を来て食堂に居るのだった
朝が早いということもあって、食堂はスッカラカン、道中不知火が手を繋ぎたがるという可愛いハプニングもあったりして俺の心は有頂天なのである。
何故だが胸部に刺すような視線を感じなくもなかったが。
「陽炎の分も取ってきます。不知火は鮭定食にしますが……」
「じゃア私もそれでいいわよ。」
「承知しました、では。」
俺の要望を受けてカウンターへ近づく不知火、カウンター越しに見える間宮さんが手を振ってきたので手を振り返してみたり。
はてさて、朝から怒涛のハプニング続きではあったけど、やっと体も目も休まる……
昨日は時雨に虐められたり廊下でぶっ倒れたりと本当に大変だったからなぁ。
「おはよう陽炎、昨日はよく眠れたかい?」
そうそう、俺の隣に座るこんな悪魔が昨日……
「………………せ、席はここ以外にも空いてるわよ」
「何を、キミの近くに居ないと何をしでかすか分からないからね」
ぎぎぎ、と壊れたおもちゃのように首を動かすと……そこに居たのは紛れもなく奴だった。
オデノカラダハボドボドダ!
「おはようございます時雨、今朝は早いですね」
「うん、昨日は寝つきがよかったからね。」
お盆を手に帰ってきた不知火にヘルプミー!という視線を送ってみても不知火は小首を傾げるばかり。
そりゃそうか……俺が昨日時雨リンチに会ったことを不知火は知らないわけだし。この悪魔……目立たないとこばっかり攻撃してきたからな。
寝つきがよかったのもストレス発散出来たからだろうよ!
「時雨の分も取ってきましょう。何がいいですか?」
「それじゃあ僕も二人と同じもので、賑やかな朝食は楽しいからね。」
賑やかだと……俺の胃のことも考えろ……
ああ不知火が去っていく……時雨と二人にしないでくれ頼むから
「そう警戒しないで欲しいな、キミが何もしなければ僕も何も言わない。思った以上に楽しかったからね」
「ひぎゥ……わ、分かった分かったから見えないように背中つねるの辞めて……」
「これくらいは児戯の範疇じゃないか、じゃれているようなものだよ。」
何が子供の遊びなもんか!ガッツリ背中の肉ちぎれそうなくらいつまみやがってるくせに!痛い痛い!
不知火!不知火ぃぃぃぃぃぃ!!!早く来てくれええええ!!!
「お待たせしました、間宮さんに早く持って行ってやれと急かされたのですが……何故でしょう」
「さあ、ご飯が冷めないようにっていう気遣いじゃないかな」
不知火ぃ!間宮さん!ナイスゥ!
早く飯をかっこんでこの場から離れたいものである。
不知火の手によって目の前に置かれたホカホカご飯と焼きたての鮭の香りが食欲をそそる。
大根とワカメの味噌汁に……おお、これは水の時点からワカメを入れたトロトロ具合。
小鉢に入っているのはこんにゃくの入ったひじきに、ほうれん草のおひたし、The和食って感じである。
「司令はまだお休み中ですか?」
「そうだね、ここの所ずっと寝られなかったみたいだし、誰かさんのせいで」
まずは汁物を1口、これは市販の出汁に甘えない昆布で取った出汁が憎らしい。味噌は薄味の白味噌、体に優しく老後にも毎日飲みたくなる1品である。
流石は間宮さん。
「ですが、これで司令の心配事の1つも無くなるでしょう、不知火もようやっと落ち着けそうです。」
「ふふ、そうだね。出撃回数は少しは減らされそうだし、休養にも当てられそうだ。」
「ここの所出撃続きでしたから、申し訳ありません、不知火のワガママで」
「構わないさ、いや……構わなくなった。という所かな。とにかく気にしないで不知火」
味噌汁という水分を得た事により、目が向くのは他のおかず、赤く輝く銀鮭の身を箸でほぐして……
よく鮭には醤油と言うけれど、これは焼く段階で強めに塩が振られているのが見える、そのため醤油など使わずとも
……口に運んだ時の感動、思えばまともな朝ご飯なんか何時ぶりだろうか。一人暮らしの大学生活なんか食生活ボッロボロな訳で
「それで、今日の予定は……」
「ああ、今日は一日休養とするらしい、要するに自由行動だね。」
「なるほど、承知しました。」
「仕事人間の不知火はどう過ごすつもりだい?やっぱり陽炎と過ごすのかな」
「そうですね、それを陽炎が許してくれるのなら。ただ、陽炎の新しい制服の発注などもしなければ。」
銀鮭と白米の取り合わせは最高よ!と某戦車乗りも言っていた。鮭……白米、味噌汁のコンボはお世辞にも……最強
箸休めに摘むひじきもちょうどいい塩梅の味付けが憎らしい。俺……間宮さんに惚れそうだよ。
「だったら少しだけ陽炎を貸し」
「お断りします。」
「まあ分かってたけど。」
「ご馳走様!」
もぐもぐもぐもぐ!ご馳走様!
さっきから必死で聞こえないように飯食ってたけどこちとら聞こえてるんですよ!
チラチラこっちを見る時雨に視線を合わせないようにするのが大変だったよ畜生!
「あっ……陽炎、もう行かれるのですか?」
「陽炎、もう行くのかい?」
「ちょっと海を見てくるだけよ、逃げないから大丈夫」
同じ言葉でもそこに込められた期待が180度違うのがわかりますよ神。
不知火と一緒にいられないのは残念だけど、残ったご飯を水で流し込んでお盆を手に持ちはいサヨナラ
カウンターに食器を戻し際、間宮さんに美味しかったですと伝えるのも忘れずに
嬉しそうにありがとうございますってはにかむ間宮さん天使か。
それはもうダッシュするくらいの勢いで食堂を退去しようとすれば
「ぽいぽいぽーい、あさごはんぽーい、ぽっぽぽぽぽぽぽーいぽーい、ぽっぽぽぽぽぽぽっぽいぽいっぽーい!みぎゃ!?」
「ふぎゅう!?」
出口付近で激突したのは白露型の夕立、おでこ同士がごっつんこした勢いで白い額が真っ赤になっていた。
尻もちを着いたことで開かれた足の影響で見える赤と白のシマシマが……
「エッチっぽーい。」
……ささっと下着を隠す姿は乙女らしい。
埃を払って立ち上がると、俺は夕立に対して手を伸ばした。
あぁ……次は夕立だ……