My FMO   作:長瀬敬

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4章

 基地全体はさながら洪水のようだ。

 数棟の格納庫が炎上し、基地要員が慌しく消火活動にあたっている。

 その間にもロケット弾が各所に着弾しているが、退避せず勇敢だった。

 ヴァンツァーが格納されているハンガーにも着弾している。

 頭が働くよりも身体が先に動いた女は、屋根の一部が崩れ落ちたハンガーへと滑り込んだ。

 中は蜂の巣を突く有様だ。

 パイロットや整備士が右往左往し、激しい怒号が辺りに飛び交っている。

 女のヴァンツァーは無事だった。

 すぐさまロッカーからパイロットスーツを取り出し、走りながら器用に着用する。

 整備台をよじ登り、コックピットに飛び込んで愛機を起動させる。

 

「クラッシュ! どうする気でえ!?」

 

 無事だったボブは女の様子を見るなり、警報にも勝る地声で喚いた。

「これは敵襲だろう。出るぞ!」

「んなことはわかってらあ! まだ他の奴らの準備ができてねえんだぞ!」

「だったら早く出撃できるように尻でも叩いとけ!」

 

 女は愛機の出力を上げる。

 崩れ落ちた屋根の残骸を強引に退かしながら、ハンガーを飛び出した。

 

「こちらクラッシュ。状況を確認したい。指令室、応答せよ」

 

 通信回線を開いて基地の指令室を呼び出す。

 その間にも女は手早く愛機の装備をチェックしていた。

 笑ってしまえるほどの武装だった。

 両手にあるのはナックルのみ。

 今すぐにハンガーへ取って返したい衝動に駆られるが、時間が惜しい。

 他の装備は、肩にある注文通りのチャフグレネードのみだ。

 ご丁寧にチャフ、スモーク、閃光弾が装填済みである。

 

「ボブめ。貴様の仕事の早さに心から拍手を送りたいよ」

 

 ワイヤー固定式のベルトがないからといって、アナコンダライフルまで降ろす事はないだろうにと、女はあえて自分の迂闊さを棚に上げて笑う。

 ストライカーとして、己の腕のみで戦う状況が、戦士の闘争心を刺激したからだ。

 

「こちら指令室。聞こえるか? ソルジャークラッシュ。基地の警戒線にU.S.N.軍のヴァンツァーを捉えた。数はおそらく十数機、他は戦闘車両と確認」

「情報をはっきりしてくれ。ヴァンツァーが何機で、戦闘車両は何両だ? 戦車なのか装甲車なのかも詳しく知りたい。ヴァンツァーの部隊構成と、戦闘ヘリの有無はどうなんだ?」

 

 基地からの返答にしばらく間があった。

 ちょうど丘陵に差し掛かったところで、女はヴァンツァーを停止させる。

 軽量のセンサーを搭載していれば自分で確認出来ただろうが、今の愛機はジェットバックパックを搭載していた。

 ただ、基地に駐留中であればそちらの情報を拾ったほうが早いのも事実。

 しかし、機先を制されて混乱している指令室の情報は曖昧だった。

 せっかく優位な高所に陣取っても、狙撃ライフルを装備していないので対応する術もない。

 女はコックピットを開き、双眼鏡で前方を見据えた。

 水平線の彼方から白い筋が放物線を描いて基地に向かっている。

 発射されているロケット弾がヴァンツァーからなのか、戦闘車両からなのかは分からない。

 大体、これだけ見通しが良いのに接近されるまで基地が気付かないのもおかしい。

 

 ――またECMか。

 

 部隊構成に電子作戦機のジャマーを入れるのはもはや定石となっている。

 レーダーセンサーが無効とされれば残るはソナーセンサーだが、デコイさえ用意すれば幾らでも誤魔化せる。

 頼りになるのは目視での偵察のみだ。

 すると、指令室はそのような状況は把握していたのだろう。

 女の頭上を小型無人偵察機が通過した。

 あれと情報を共有する戦術データリンクシステムを搭載していれば、自分でも状況を掴めるが、残念ながら愛機にその機能はない。

 歯痒い思いをしながら双眼鏡を目に当てる。

 水平線が土煙で霞み、肉眼での索敵は限界のようだった。

 その時、指令室から通信が返ってきた。

 

「悪い知らせが二つある。まずは敵の編成からだ。ヴァンツァー10機、戦車が10輌。そちらの前方に展開されているのはロケット弾を搭載した装甲車両10輌だ」

 

 女はコックピット内で盛大な舌打ちをする。

 数が以外に多い。

 メナサ基地は前線よりも近からず遠からずなのだが、ここまで敵の侵入を許すとはO.C.U.軍が押されている証拠だろう。

 

「もう一つの悪いほうは?」

「先の制圧射撃で基地のヴァンツァー稼動数が少ない。周辺の部隊へ救援要請を出したが、到着まで三十分はかかる」

「他に戦闘部隊はいないのか?」

「補給で立ち寄っていた陸防軍の戦車中隊“ウォンバット”が出撃準備中だ」

「有難い戦力だよ、まったく」

 

 それを聞いた女は、あまりの戦況不利に舌打ちをする。

 ここまで出たはいいが、単機で戦おうとはさすがに思っていない。

 基地に駐留中のヴァンツァーが出てくるまで攪乱していれば良かったのだが誤算である。

 友軍機が来ないとなると引くしかない。

 戦力がヴァンツァー1機と戦車部隊だけでは持ち堪えるのは困難だ。

 U.S.N.軍の構成はヴァンツァーを主軸とした機甲打撃群と推測される。

 基地の占拠ではなく、駐留した部隊と基地機能の喪失を狙った編成であろう。

 であるならば、素直に引いて救援部隊と共に反撃に出たほうが理に適っている。

 だが、その行動は、基地の壊滅的被害を招く。

 自分が引く事で、自分だけが助かる事で。

 合理的な戦術的撤退を行う事で。

 

「……そんな事、出来るわけないだろう!」

 

 女は首もとの認識票を掴み、叫んだ。

 誰かを犠牲にする戦いに、何の合理性があるというのだ。

 

 ――妙案を考えろ。

 

 頭脳をフル回転させ、他に有効な策がないか考える。

 瞬きを止めた目が、双眼鏡越しに敵影を射抜いた。

 戦車発見。

 大口径と重装甲を備える陸の王者。

 未だ陸戦の重要な駒として覇を誇る怪物だ。

 しかし、戦車の他は見当たらない。

 ヴァンツァーと離れ、挟撃戦術で基地を叩くつもりだろうか。

 ある意味、好都合かもしれない。

 各個撃破の契機、この絶好の機会を逃すのは馬鹿げている。

 

「指令室。敵戦車部隊を発見。ヴァンツァーは不明。これより戦車部隊と交戦に入る」

 

 そう告げると女は愛機のコックピットに収まり、高台から降りた。

 正面から戦車と相対するのは正直、御免だ。

 主砲の火力はヴァンツァーの装甲を易々と貫通する。

 速力を活かして回り込み、側面から叩く。

 側面装甲であれば、ナックルの衝撃で搭乗員を戦闘不能に出来るだろう。

 懐にさえ飛び込めば、視界の悪い戦車など造作もない。

 

「ちょい待ち! おたく一人で戦うのは無茶やで!」

 

 素っ頓狂な声が女の耳を劈いた。

 周囲を確認すると、後方に不恰好な多脚型ヴァンツァーが歩いている。

 

「うちの支援があれば、無茶やないけどね」

 

 モニターに相手のパイロットが映った。

 先程、食堂で会った少女、アリスが片目を瞑ってこちらを見ている。

 これには正直、驚いた。

 今は喉から手が出るほど欲しい戦力だ。

 是が非でも手伝って貰いたいのだが……。

 

「きみのヴァンツァーは……、非武装に見受けられるが……」

「その通りや! 背中にセンサー、右腕にECM、左腕にラジオとMULS-P規格外の特注兼自作の支援特化型戦闘ポンコツヴァンツァーやで!」

 

 自信満々に言いのけるアリスを前に開いた口が塞がらない。

 現状の戦闘戦力が必要な状況下で、まったくの役立たずとはこの事だ。

 

「おいおい、何て顔をしているんだ、君は。戦いは情報戦を制したほうが勝つんだよ?」

 

 今度は別の意味で驚いた。

 あのスーツ男のショウも一緒のヴァンツァーに搭乗している。

 

「……自称整備士が、戦闘のイロハを語るのか?」

 

 疑わしそうに聞く女に、ショウは胸を張って答えた。

 

「戦闘は苦手だけどね、生き残るっていう術は心得ているつもりだよ」

 

 頼もしい発言なのは分かっている。

 だが、何度も言うように、今は戦闘部隊に対抗出来る戦力が必要なのだ。

 

「私も手を貸そう」

 

 今度は物の見事にコックピットで突っ伏してしまった。

 

「大佐!? あなたは状況を理解しているのですか? 基地司令官が現場に出てどうするのです? おまけにそのヴァンツァー、テンダスではないですか!」

 

 パネルにぶつけた額を擦りながら、女はこの狂った変人達を奇妙な目で見据える。

 

「何を言うか。テンダスは優秀な機体だ。現に君だって闘技場で良い結果を残している」

「それは、軍の支給額で買えるヴァンツァーがあれしかなかっただけで……」

 

 個人でヴァンツァーを所有するのは簡単だ。

 軍の横流し品や型落ち品等で市場は溢れ返っている。

 女はテンダスでなくとも良かったが、偵察機動部隊で使用する愛機に金をかけたかったので、仕方なく安価なヴァンツァーを買ったに過ぎない。

 というか、そんなテンダスの事より司令官が前線に出ているほうが問題だった。

 

「いいから基地に戻って下さい!」

「なに、私には優秀な副官がいる。今は何よりヴァンツァーが必要だろ? 指揮は君が取りたまえ。一介のヴァンツァーパイロットとして君の指示に従う」

「ええなそれ! うちらでスコドロ結成やね」

 

 頭がくらくらしてしまった女だ。

 ど正論なのだが、禿親父のレクチャーを受けても上達しなかった大佐の腕に、ポンコツ支援機のアリス&ショウ等は邪魔にしかならない。

 とてもじゃないが、スコードロンとしては致命的な編成だ。

 

「で、どないする? クラッシュ?」

「何から手を付けるのかい? 大尉?」

「作戦は? ウィザード?」

 

 三者三様、どれもがお守り確実で立派な”戦力”なのに、声だけはやる気に満ちている。

 頭痛を覚えた女は大きく溜息を吐き出して、気力を奮い起こした。

 敵がすぐそこまで迫っているので、口論している場合ではない。

 不屈の精神で盛大な文句を飲み込んだ。

 

「目の前の戦車部隊はわたしが叩く。アリスと大佐は敵ヴァンツァー部隊を見付けろ」

 

 返答を聞く前に女はヴァンツァーを疾駆させた。

 この2機はどう考えても足手纏いだ。

 それなら後方に下げ、未だ発見していない敵ヴァンツァーの索敵が適任だろう。

 目の届く範囲で、死なれたくない。

 予断を許さない状況なのはわかるが、せめて自分が死んでから死んで欲しい。

 自分が死ねば、否応なしにアリスも大佐も下がるだろうから。

 そんな後ろ向きな思考を中断させる甲高い声が通信機に入る。

 

「クラッシュ、朗報や! うちのラジオが航空部隊を捕まえたで。帰還中やけど爆弾持っとるらしいから、今からおたくに繋ぐわ!」

 

 瞬時にパネルを操作して、アリスが捕らえた通信に接続する。

 航空支援があれば戦局は覆せる。

 すぐさま通信機から、航空部隊の陽気な声が流れてきた。

 

「こちら空防軍実略部攻撃戦術航空団“ブルーバード”のノン。クソッタレU.S.N.の頭上に爆弾をお見舞いにきたぜ」

「偵察機動部隊のクラッシュだ。貴君の援護に感謝する、ブルーバード。さっそくだが、そちらで地上の敵ヴァンツァーを確認できるか?」

「いや、上空からだと敵味方の区別はできない。すまないが、落としてほしいところに赤外線ビーコンで誘導してくれ」

 

 女は盛大な舌打ちをする。

 いつも常備している赤外線誘導装置を所持していなかった。

 おまけにもっとも厄介な敵ヴァンツァー部隊を、上空からでも発見出来ていない。

 ならば、目の前の戦車部隊を優先させるしかないが、どうやって正確に爆撃させるか。

 

 ――スモーク弾だ。

 

 女はブルーバードに問いかける。

 

「ブルーバード! 今から爆撃ポイントにスモーク弾を打ち上げる。これなら赤外線ビーコンじゃなくても目視でやれるだろう?」

「ああ、恐らく大丈夫だろう。ただし、我々も帰還途中で燃料が少ない。アプローチは一回限りだから正確に頼む」

「到着予定時刻は?」

「三分もないぞ。」

「了解、ブルーバード」

 

 女は一端、ブルーバードとの通信を切ると愛機を加速させる。

 

「まさか、ほんまに突っ込むだけなん?」

 

 アリスの疑わしげな声に、女はにやりと笑った。

 

「効果的な爆撃をするにはそれしかないだろう」

「いやいや、それほんまに無茶やで!? 戦車に囲まれるわ!」

「最初はナックルだけで屠るつもりだった。それを考えれば突っ込むだけなんだから容易い」

「おたく正気なん!? 噂通り、頭がクラッシュしとるやんか」

「ぐちぐち言う暇があるのなら、支援の一つでもしたらどうなんだ」

 

 女のヴァンツァーは黒い機体を疾駆させ、敵戦車部隊の側面へと躍り出る。

 

「分かったわ……。ほんで、何が欲しいん?」

「詳細な地形情報でもくれるんだったら貰ってやる!」

 

 戦車部隊が全速力で駆け抜けてくる女に気付いたようだ。

 基地へと突進しながら、重々しく砲塔を回転させ始める。

 

「ほな、地形追随レーダー走査情報を加工して、と」

 

 砲塔がこちらを向き、愛機が捕らえつつある。

 

「戦術データリンクでおたくのモニターに画像データを送信」

 

 通信機から流れる呑気な声でモニターが切り替わり、自機と戦車間の擬似画像が映った。

 戦車から閃光が生まれる。

 高速の弾頭がヴァンツァーの横を通り過ぎ後方に着弾。

 動く目標に砲弾を当てるのは至難の業だし、装甲の薄いヴァンツァーに対しては榴弾を用いたほうが効果的なのを分かっていない戦車兵だ。

 それでも、コックピットまで伝わる弾道の衝撃が女の肌を強烈に刺激した。

 スモーク弾を撃ちたい衝動に駆られてしまう。

 戦慄が迸り、激しいプレッシャーを感じる。

 主砲だけではなく、砲塔に備え付けた自動機関銃までもが火を吹いた。

 女のヴァンツァーは極限まで装甲を削り、余剰出力をすべて機動力に回している。

 12.7mmでさえ命取りになり兼ねない。

 巧みな回避運動を駆使しながら戦車との距離を詰めるが、すぐ傍で地面を抉る主砲の一撃に機体は揺さ振れる。

 

 ――上等じゃないか。

 

 戦場の空気が、装甲を通じて手に取るようにわかる。

 ヴァンツァーの手足がまるで自分の四肢と一体化したように滑らかに動かせる。

 女は自分で意識しない内に唇を吊り上げ、壮絶な笑みを浮かべていた。

 偵察機動部隊に所属してから、激戦区となる最前線の空気を味わっていなかった。

 隠密行動が主体の偵察行動は、慎重に動き、敵に見付からないようにする。

 戦場の暗がりを影のように徘徊する任務は、本来の女の性分ではない。

 だからかもしれないが、

 女は信じられないことに、

 戦闘を楽しんでいた。

 

「アリス! 自機進行方向を起点に前方120度範囲、地面のギャップ情報を出せ!」

 

「了解や!」

 

 繰り出される戦車の砲弾を掻い潜る女のヴァンツァーに対し、U.S.N.軍の戦車部隊は動揺を見せている。

 凄まじい運動性能を発揮するヴァンツァーを止める為、狂った用に砲火が乱れる。

 

「こちらブルーバード。目標まであと20秒を切った。スモークはまだかい?」

 

 時間がない。

 回避運動を止め、一直線にヴァンツァーを加速させた。

 戦車の射撃手にとっては絶好の機会だろう。

 いくらスピードが速くても、真直ぐ突っ込んでくる的ならば当たる。

 数門の戦車砲が一斉掃射。

 必中距離の弾頭は、女のヴァンツァーを間違いなく捉えるはずだった。

 しかし、次の瞬間、漆黒の機体は宙を舞う。地面のギャップ目掛けローラーダッシュし、膝を落としジャンプと同時にジェットバックパックを最大出力。機体を空中回転させた曲芸技で砲弾を回避。勢いをつけそのまま陣営に切り込んだ。

 その有り得ない機動に、U.S.N.戦車兵は口をあんぐりと開けて呆けてしまう。

 戦車部隊のど真ん中に着地した女は、素早くスモーク弾を上空に打ち上げ、左右にいる戦車に目をくれることもなく突き抜けていった。

 

「ブルーバード!! ここに落とせ!」

 

 視界の片隅で3機の航空機が機首を下げ、爆撃体勢に入っているのを確認。

 

「了解。スモークが見えた。ソルジャークラッシュ、離脱してくれ」

「心配無用だ! とっとと落とせ!」

 

 刹那、背後で爆音が轟く。

 無誘導で着弾した対地爆弾の威力は凄まじかった。

 強烈な衝撃と断続的な振動が愛機の背中を震わせるが、それこそが作戦の成功を物語っていた。

 無数の炸裂音からして、クラスター爆弾なのだろう。

 これが通常の無誘導団だったら、その爆風で自機もダメージをもらうところだった。

 

「命中! ナイス誘導だったぜ」

 

 通信機からブルーバードの歓声が流れる。

 モニターにはアリスからの解析情報が映り、すべての戦車が沈黙しているのが分かった。

 女はヴァンツァーを止め、小さく息を吐き出す。

 猪突猛進、破れかぶれの特攻戦法だ。

 こんなのは、作戦などと言えるものではない。

 正直、上手くいくとは思っていなかったが、今はよしとする。

 まだ、戦いは終わっていないのだ。

 

「大尉。無人偵察機によると、敵のロケット自走車両は撤退していくようだ」

「ヴァンツァーは?」

 

 ラインマン大佐は首を振って答える。

 

「基地からサテライトスキャンの要請はできますか?」

「この時間帯に上空を通過するO.C.U.軍の衛星はないそうだ」

 

 女は苛立ち紛れに唇を噛む。

 敵は二手に分かれて基地を打撃しようとしていた。

 時間的にそろそろ強襲されてもおかしくない。

 

「アリス!」

「いや~、おたく、ほんっまに凄いな。何やあの空中機動? 戦闘機のマニューバみたいなもんかいな? どうやってその動きを制御できるん? おたくのCOM解析させて欲しいな」

「ちゃんと彼女の情報を調べたかい、アリス? 闘技場でテンダスジェットナックラーの異名を馳せてたじゃないか。多分、その時の経験を蓄積させてたんだと思うよ」

 

 多脚ヴァンツァー二人組みの呑気な会話が女の癇に障るが、指摘している暇はなかった。

 

「いいからヴァンツァーを探せ!」

 

 再び高所へと愛機を走らせた女だったが、有視界において敵の姿は見当たらない。

 基地に戻って待ち構えるのも一つの手とも言える。

 しかし、そこで乱戦にでもなれば基地の壊滅的打撃は明白だ。

 少女の駆るヴァンツァーのセンサーでも捕らえらない状況を加味すれば、相手部隊は相当の手練れに間違いない。

 

「O.C.U.のサテライトスキャンは無理やけど、うちらなら、と」

 

 愛機のモニターが高高度の画像へと摩り替わった。

「E.C.軍や関連企業の打ち上げた衛星なら、あるで!」

 

 戦術データリンク接続と表示され、衛星画像が青と赤の色に染まる。

 

「んで赤外線モードに変えれば、相手にECMがあろうと、関係ないわ!」

 

 敵ヴァンツァー部隊と明確に分かる熱源を捕らえた。

 十の熱源は基地の北側正面より大きく迂回し、後方より接近していた。

 女は操縦桿を傾けヴァンツァーを転回させる。

 接敵まで時間がない。

 

「大佐! ウォンバット隊を座標A-03へ!」

「了解した」

 

 後方無警戒のところに敵ヴァンツァーが襲来したら戦車部隊は一溜まりもないが、当該座標も後退させる場所としては不適切だった。

 だが、ラインマン大佐は女の意図を知ってか知らずか、素直に応じる。

 女は無心でヴァンツァーを駆った。

 敵が基地へ到達する前に行かなければならない。

 愛機は装甲を削りに削った極限までの軽量化は、膨大な余剰出力を生み出している。

 機動性や運動性は通常のヴァンツァーより抜きん出ていた。

 その速度を存分に活かし基地正面から入り、南端まで一気に縦断する。

 横を通り過ぎるウォンバット隊はもとより、負傷者の救護、復旧作業をしている基地要員は一人残らず絶句していた。

 ヴァンツァーが歩行で出せる速度ではない。

 ランドホイールを使ったローラーダッシュと大差ないスピードだった。

 これでは脚部のアクチュエーターどころか、相対的に降る両腕にも大変な負担だろう。

 整備士のボブが見たら頭を抱えたに違いない。

 いくら軽量化を極めたとしても、十数トンはある鋼鉄の巨体だ。

 オーバーホールは確実だろう。

 それでも、大事な愛機を病院送りにしなければならなくても、

 

 ――急がなくては。

 

 

 

 U.S.N.軍のヴァンツァー部隊は、作戦の成功を確信していた。

 秘匿行動を続けて警戒ラインに侵入し、メナサ基地目前に迫れた。

 誤算だったのは戦車部隊が航空爆撃で壊滅したくらいだったが、陽動の目的は成功した。

 後は基地に残る残存部隊の掃討と、基地施設の破壊のみ。

 たかだか十分程度の仕事で、救援が到着する前には撤退する算段だった。

 しかし、レコンより通信が入り、一機のヴァンツァーが急速接近しているところから、すべての作戦が台無しとなった。

 驚異的な速度を発揮する漆黒ヴァンツァーを前衛4機で包囲しようとしてもするりとかわされ、易々と後衛機を食われてしまった。

 何とか体勢を立て直すも、その機動性に翻弄され弾は当たらず、こちら側の損耗ばかりが蓄積されていく。

 相手はたった一機の、しかも近接格闘のみのストライカーだ。

 容易く葬れるはずがこの様である。

 ところが、何を思ったか漆黒のヴァンツァーは退避行動を取り始める。

 まさかラジオによる航空支援要請かと警戒したが、周囲に航空機の影はない。

 その様子を見た漆黒のヴァンツァーは一端停止してから、すぐさま走り出す。

 完全に舐められている。

 U.S.N.ヴァンツァーは、漆黒のヴァンツァーの追撃を開始した。

 

 

 

「やっぱりおたく、無茶にも程があるで!」

 

 通信機からアリスの叫びが流れる。

 正面のU.S.N.部隊の構成はアサルト4、ジャマー2、レコン1、その他支援機3。

 バランスの取れた激戦区に相応しい構成に対し、たった一機に挑むのは無謀だ。

 それでもマシンガンとライフルの弾幕に怯むことなく正面から切り込む。

 操縦桿を傾け急速転回。弾幕をすり抜け後衛に接近。速度の乗ったナックルがセンサーを背負ったレコン機を粉砕。モニターに有視界ロック表示。光跡が一直線に迫る寸前、肩のチャフを展開。軌道が狂ったミサイルは中空で爆散。残光の合間に控えるECM機もナックルの餌食とした。

 あっという間に二機を屠った相手に動揺したU.S.N.部隊だが、すぐさま体勢を立て直した包囲の構えを見せる。

 支援機をカバーするように4機のアサルトが再接近するも、速力を活かした女のヴァンツァーは残るジャマー機に突進した。

 そこへ待ち構えるように、支援機の持つバズーカが火を吹く。

 視界に端で映し出される地面のギャップを確認。刹那のローラーダッシュ。瞬時のジェット出力最大。三半規管から愛機の状態を把握。柔軟なアクチュエーターの成せる業。

 バズーカの弾頭を浅い角度で突き出したナックルに当てる。

 瞬間、白跡が逸れて後方地面へ着弾。爆風を纏いたままジャマー機へ飛翔。片膝を突き出しコックピット部分にワイヤーカッターを突き出す。

 その感覚を操縦桿からダイレクトに感じた女は、苦渋の表情を浮かべながらも動きは止めなかった。衝撃で圧し折られたワイヤーカッターをジャマー機に残し、離脱行為に入る。

 体勢の整ったアサルト機が猛反撃を開始する前に距離を取った。

 

「大尉。ウォンバット隊が位置に付いたぞ」

 

 ラインマン大佐からの通信だ。

 これ以上の近接格闘は危険である。

 動揺を突いての戦いだからこその3機撃破だ。

 連携の取れる前衛専門のアサルト4機を相手にするのは分が悪すぎる。

 それに、手玉を取られた相手が背を向けるとどうなるか。

 

 ――やられたほうは躍起になって追撃してくる。

 

 女は転進し、一目散な退避行動に移った。

 まだ冷静にいられたならば、容易に想像が付く行動だ。

 更に一度、脚を止めて振り返る。

 この仕草で反応すれば、完全に術中に落ちたと確信出来た。

 案の定、残ったU.S.N.ヴァンツァーが猛然と迫って来る。

 再度、愛機を加速させ脱兎の如く逃げの演出をする。

 

「な~るほど。それ報告書で見たわ。おたくの得意の手っちゅ~ことやな」

「なに? どういうことだい、アリス?」

「えぇ? ショウさんがくれた報告書に載っとるやん。自分で渡したのに覚えてへんの?」

「こう見えても僕は戦闘は苦手でね。クラッシュの取る戦術なんてちんぷんかんぷんだよ」

 

 まるで鼻歌を歌うような気軽の会話だ。

 お遊びでやっているわけではないのだが、アリスの的確な支援の賜物もある。

 女は黙って通信機のお喋りを聞きながら、予定ポイントを通過した。

 追ってくるU.S.N.ヴァンツァーも同じルートをトレースしている。

 レコンが入れば気付けただろう。

 ジャマーがいれば欺けただろう。

 だが、そのヴァンツァーはいない。

 目と耳と口という欺瞞を削ぎ落としたのだ。

 岩場の点在する地面を良く見れば、砲塔が突き出しているのは分かったはずだ。

 怒れる猛犬に成り果てたパイロットに、その注意深さはない。

 窪地に配置されたウォンバット戦車中隊の十字砲火が炸裂した。

 地面が轟き、土煙が舞ったと同時に、爆炎と黒煙が吹き荒れた。

 U.S.N.ヴァンツァーの半数が各坐している。

 戦車砲の圧倒的な火力をまともに受けては、さしものヴァンツァーも一溜まりもない。

 女のヴァンツァーは停止して振り返る。

 大破を免れたヴァンツァーも無傷なわけがなく、各部パーツが吹き飛んだ状態だ。

 まだ腕が無事なヴァンツァーが、果敢にも銃口を向けてくる。

 しかし、女は避ける動作もしなかった。

 モニターに現れるフレンドリー反応。

 救援に向かって来た友軍機だ。

 それらから放たれたミサイルが、アリスのセンサーに誘導されて、残ったU.S.N.ヴァンツァーに命中する。

 平原の夕焼けを、よりいっそうの朱色に染めた業炎が広がった。

 まるで、自分の業を象徴するかのような光景だろう。

 女はこの小さな勝利に、微塵も喜びを感じる事が出来なかった。

 

 

 

「こんっの馬っ鹿野郎!! 整備したてのヴァンツァーをスクラップ寸前にしやがって!」

 

 コックピットのハッチを開け、タラップに足を下ろした瞬間、名整備士の大音声が帰還したばかりの女の鼓膜を直撃した。

 目下の髭面が顔中を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。

 女は溜息を吐き出しながら、階段を降りてボブの前へと進んだ。

 

「見ろ、そこらじゅう弾痕だらけだ! どんだけ弾っころ浴びればこうなるんでえ!」

 

 言われてみれば愛機は酷い有様だろう。

 胴部は元より、肩や腕、脚部等の大抵が被弾している。

 弾痕からいって戦車部隊の12.7mm機銃が至る所に刻まれ、腕の装甲が捲れあがっているのはヴァンツァーのマシンガン、23mm口径相当だろうし、脚部装甲をへこませてたのはショットガンの類だろう。膝のワイヤーカッターは敵機に突き刺して折れたからないのは当然だ。

 いずれにしろ、すべて致命傷にはなっていないのだから、スクラップはないだろうに。

 

「そこまで重傷に見えない。さくっと修理してくれ」

 

 早速、ヴァンツァーの間接部の点検を始めていたボブが悲鳴を上げた。

 

「んだこれ!? アクチュエーターもボロボロじゃねえか! 一体、どんな無茶しやがればここまでぶっ潰せんだ?」

 

 他の整備士もボブに加わり、愛機は装甲を取り外され、瞬く間に丸裸にされる。

 その度に整備士達が驚愕を露わに悲鳴を上げ、ヴァンツァーの惨状を嘆いていた。

 女はハンガー内をぐるりと見渡した。

 襲撃により半壊しかけてたが、中のヴァンツァーは無事で、今はそれらが瓦礫の撤去作業に従事している。砲撃による火災も鎮火され、死傷者も少なく、基地機能に大きな障害はない。

 あれほどの規模の襲撃に対して、軽微な被害で済んだは素直に喜ばしい。

 とにかく戦闘の後だ。

 シャワーで汗を流したい。

 ついでに、一服もしたい。

 とりあえずの方針を決めたので、とっととハンガーを出よう。

 

「おい、待ちやがれ」

 

 その矢先に、ボブだ。

 

「なんだ? わたしは忙しいんだ」

「なんだもヘチマもねえ。てめえのヴァンツァーはパーツ丸ごと交換だ。穴だらけの装甲版も各所ぼろぼろのアクチュエーターも修理ってレベルじゃねえ」

「ならパーツを変えてセッティング仕直してくれ。実機調整は自分でやる」

 

 ここでなぜかボブは、仰々しいほど特大な溜息を吐き出した。

 

「てめえ、金持ってるのか?」

「……は?」

 

 一瞬、何を言われているのか分からなかった。

 

「だから、てめえのIDからパーツ代を差し引こうとしたらよ、足りねえんだ」

「なんだと……?」

 

 女はボブから端末をもぎ取って残高確認をする。

 軍から支給されたハフマンドルが収まる口座の残高が、ほぼない。

 それを横目で見たボブが端末を奪い返し、女の肩に手をやった。

 

「次回の支給まで諦めろ。最低限の補修はしておくが、あんなんで最前線の激戦区に行くんじゃねえぞ。リミッター機構がヴァンツァーの動きを抑制する。てめえお得意の派手な近接格闘も出力制限で真価を発揮しねえ。どのみち、この状態じゃあ戦場にいても役に立たねえ。お荷物扱いされたくなかったら素直に引っ込んでたほうがいいだろうな」

 そう言ってボブは女の手から端末をもぎ取ると、話は済んだとばかりに背中を向けた。

 残された女は唖然としながら、自分のヴァンツァーを見上げるだけだった。

 

 

 

 日が落ちてもメナサ基地近郊に涼しさは訪れない。

 密林地帯に近いのだから当然なのだが、その特有な熱帯気候に辟易する。

 女は生温い夜風に当たりながら、格納庫外の喫煙所に佇んでいた。

 基地の至る所で復旧作業が続き、照明が煌々と輝いている。各作業員が忙しく走り回り、重機と共に作業用ヴァンツァーも駆り出されていた。

 視線を転じれば、基地に補給で立ち寄った戦車部隊が出発しようとしている。

 先の戦闘で火力戦を担った戦車中隊のウォンバットだろう。

 砲塔から乗員が身を乗り出し、こちらに向かって敬礼をする。

 女は何気なく敬礼を返すと、戦車の後方に続く別部隊のヴァンツァーまでが器用に敬礼をしてくる。

 

「ここにいたのか。クラッシュ・ウィザード大尉」

 

 きっちりと身なりを整えたラインマン大佐が声を掛けてきた。

 再度、大佐に対して敬礼をした女は無言のままポケットから煙草を取り出す。

 が、箱の中身は空っぽだったので、力任せに握り潰して灰皿に放り投げた。

 

「ボブから聞いたよ。君のヴァンツァーはCOM以外は丸ごとスクラップだとね。しかも、支給額が足りなくて当分は戦線に復帰でそうもないと」

 

 この上官は余程、暇を持て余しているのだろう。

 たかが、その程度の事をわざわざ言う為にここまで足を運んだのだから。

 

「まあ、激務続きなのだから休暇には持ってこいじゃないだろうかね」

「……わたしから戦いを取ったら、何も残りません」

 

 女はこれが自分の本意だと思っている。

 戦い続けるしか脳がないし、それでしか生きる価値を見付けられない。

 戦っている時こそ、生きてる実感を持てる。

 戦いを止めてしまえば、罪に苛まれるだけだ。

 

「その嗜好品を止めていれば、残っていたんじゃないかな? 健康にも悪いし、財布にも良くない。大分、本数が多いようにも見えるしね」

 

 やはり大佐は皮肉を言いに来ただけのようだった。

 

 ――戦友を死なせた嫌がらせ、か。

 

 ラインマン大佐の視線が、左胸にある戦地殊勲章を捉えている。

 フリーダムでの功績が、大佐にとっては別の意味に見えるのだろう。

 女の心臓が鷲掴みにされたように痛み出した。

 早急にこの場から立ち去りたい衝動に駆られたのか、足が勝手に動き出そうとする。

 

「テンダスで前線に出たのはね、実際に君の戦闘を見てみたかったんだ」

 

 大佐が女に近づき、小さな金属ケースを取り出して中身を開ける。

 

「正にヴィル仕込みの操縦だね。まるで全盛期の彼奴を見ているようだったよ」

 

 ケースには二本の葉巻が入っており、一本を加えた大佐は、もう一本を女に差し出した。

 

「実に見事な戦いだった。想像以上の操縦技術、多彩な運動性。あれらは常人を上回る感性を持っていないと不可能だろう。まるでヴァンツァーが曲芸をしているようだった」

 

 葉巻を受け取らない女だったが、ずっと差し出されていては仕方ない。

 

「……ありがとうございます」

 

 改めて受け取った葉巻を口に咥えて火を付ける。

 初めて吸う葉巻の味は、お世辞にも旨いとは言えず、女の好みにあったものではなかった。

 

「勝利の後はこれだと、よくヴィルと話し合ってたよ」

 

 大佐のほうは余韻に浸りながら煙を吐き出している。

 

「優秀な軍人は戦場において常に慎重であり、それゆえに生き残る。今回の戦闘は慎重をどこかに置き忘れた特攻作戦、一か八かの賭けだ。しかし、多くの兵を救うにはそれしか選択肢がなかった。君は、だから、単機での特攻を選んだ」

 

 基地を救おうと思って動いたわけではない。

 籠城するよりヴァンツァーの機動性を生かした戦いのほうが、被害を最小限を抑えられると思っただけに過ぎない。

 

 それに、

 

「死ぬのは案外、難しいだろう?」

 

 大佐の言葉が女の心を見透かしたように貫いた。

 

「フリーダム市の功績は、軍全体で見れば多くの部隊を救ったのだから名誉な事だ。だが、部下にしてみれば、仲間を全滅させた、忌むべき隊長だ」

 

 言われなくても、自覚している。

 そう言ってくれるほうが、むしろ有り難い。

 

「君は死にたがりのヴァンツァーパイロットだが、同時にタフな”何か”に守られているかのように死ねない。この先、激戦区へ戻る機会があっても、死神の禿親父は君が来る事を拒むだろうからな。その奇怪な特技を生かすかどうかは、君の自由だ」

「……大佐の仰る特技を生かそうにも、今のわたしにヴァンツァーは有りません」

 

 ラインマン大佐は旨そうに葉巻を吸い切ってから、ゆっくりと吸い殻に落とした。

 

「なあに、相手から来るさ」

 

 何が面白いのか、灰色の瞳をきらりと光らせながら微苦笑を浮かべる。

 

「君の操縦技術に惚れ込んでね」

 

 これで話が終わったのだろうか、大佐はくるりと背を向けた。

 

「ああ、それとね」

 

 思い出したかのように俯きっぱなしの女に言った。

 

「彼等が礼を言っていたよ」

「……何の事でしょうか?」

「ワイルドグース隊のエドガー少尉。ドラグーン隊のクロウ少尉。ブルーバードのノン少尉。ウォンバットのビーン少尉。皆、フリーダム市で君に救われた部隊員さ」

 

 女は、はっとなって顔を上げた。

 

 遠く去りゆく戦車の砲塔では、まだこちらに上体を向けて敬礼している。

 

 随伴する二機のヴァンツァーも、片手を上げたままだ。

 

 上空では、轟音を奏でる一機の航空機が翼を振って通過する。

 

「たまたまウォンバット中隊のビーン伍長が君を発見し、皆に連絡したそうだよ。君が助けたフリーダムの部隊だな。航空支援も救援も早かったのは、それが理由らしい」

 

 大佐の言葉が聞きながら、女は基地を後にする部隊を見詰めていた。

 

 夕闇に消えていく、

 

 勇敢な戦士達に、

 

 女は、踵を綺麗に合わせた最上級敬礼で、見えなくなるまで。

 

 

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