どうも、ふぁもにかです。前回の8話が全力の回だったので今回は低燃費で書き上げた息抜き回です。ポポの次なる目的地やいかに。
アルトやリゼットと出会いつつ、同時にミトラ村とその周辺一帯に風のクオリアを埋め込み終えたポポは、ミトラ村を後にして北へと歩を進める。ポポの次なる目的地は、北の属州『ソイ=トゥルガー』だ。
ソイ=トゥルガーは氷に閉ざされた年中冬の世界であり、50年前まで存在していたヒルデガリア帝国無き今は、誰一人として住んでいないとされる、忘れ去られた土地だ。
当時、ヒルデガリア帝国を治めていた時の魔女ヒルダは、人類の感情エネルギーの総量が閾値を突破することで発生する人類虐殺システム:エクリプスを防ぐために、国民の感情を強制的に抑制させるべく、『節制10則』という法律を用いて統治していた。
しかし、エクリプスのことなんて知らない、あるいはエクリプスのことをヒルダから伝えられてもスケールが大きすぎて一切信じられなかった国民にとって、節制10則によって国民の生活を厳密に管理されたヒルデガリア帝国は自由のないディストピアでしかなかった。そのため国民は帝国を、ヒルダの統治を否定し、大規模な内乱を起こし。国民の説得を諦めたヒルダは、全国民を堕歌で結晶化させる形で内乱を強制的に終結させた。これが、50年前にヒルデガリア帝国が滅んだ理由だ。
ゆえに。ソイ=トゥルガーに居住する住民は誰一人としておらず、当然交易もない。そもそも一般人の立ち入りはレグナント王国が禁じている。ポポが今、向かっているソイ=トゥルガーとは、そういう場所だ。
「むむ……」
ただいま、ポポは悩んでいた。理由は簡単。ソイ=トゥルガーは今、ヒルダが率いる福音使徒の活動拠点として利用されているからだ。福音使徒にとって、住民がいないソイ=トゥルガーは格好の潜伏場所だったというわけだ。
福音使徒はエクリプスを発動させないことを活動目的としている。そのために、ある時は街を滅ぼし、人を殺して、感情エネルギーの総量を減らし。ある時はマザー・クオリアの眷属である魔女を殺して、マザー・クオリアが人間の感情エネルギー量を測定できないようにしていた。
そんな福音使徒の前に風の魔女であるポポがうかつに姿を現そうものなら、ポポの末路は想像に難くない。仮に上手いことポポが魔女だと見破られなかったとしても、福音使徒以外存在しないソイ=トゥルガーに歩を進める旅人の女の子なんて、怪しまれるに決まっている。ポポのお務めを見逃してくれるとは思えない。
でも、だからといって。ポポがソイ=トゥルガーに赴かないなんて選択肢はあり得ない。来たるべき日のために、風のクオリアを地面に埋める作業は、全世界で行わなければ意味がない。クオリアを埋めていない地域があっては、ポポの策は無に帰してしまうからだ。
「むむむむ……」
ゆえに、ポポは悩んでいた。どうすれば、元ヒルデガリア帝国領地にて、福音使徒に見つかることなく、仮に見つかっても襲われることなく、穏便に風のクオリア埋め作業を行えるのか。その解についてポポは熟考しながら、1歩1歩雪を踏みしめていく。ヒルデガリア帝国の首都だった廃都ファーレンハイトに着く頃には、きっと何かしらアイディアを思いつけるだろう。ポポはそのように期待していたのだが、結局ポポは無策のままファーレンハイトにたどり着き、ファーレンハイトの荒廃した門を視界に収めることとなった。
(う。もうファーレンハイトに着いちゃった。うーん、結局どうしようかな……?)
改めて自分に策を閃くという行為が向いていないということを思い知らされることとなったポポは、コテンと首を傾げる。
「誰だ、貴様!? 福音使徒じゃないな、なぜここにいる!?」
「ッ!」
と、その時。ポポの背後から威圧的な男性の声がぶつけられた。ポポが反射的に振り向くと、全身を黒を基調としたコートに身を包み、フードで顔を隠した1人の男性が敵意に満ち満ちた眼差しとともにポポへと槍を構えていた。この格好と、発言からして眼前の男性は明らかに福音使徒だ。結局ポポは無策のまま、早速福音使徒とエンカウントするという最悪の形に陥ってしまった。
(ど、どどどどどうしよう!? 一旦逃げた方がいいかな!? でもこの人がポポのことをヒルダたちに伝えたらますますファーレンハイトの警備が厳重になっちゃうよね!? そんなことになったらお務めができなくなっちゃう!)
「まさか貴様、王都の騎士か!? くそ、こうしちゃいられない! ヒルダ様に報告だ!」
「待って! それはダメ!」
「ぎゃあ!?」
ポポが内心で慌てふためいている中。福音使徒の男性は小柄な女の子が1人でファーレンハイトまで足を運んでいるという状況から、なぜかポポを王都の騎士だと断定し、ポポと戦わずに速やかにヒルダにポポのことを報告しようとする。背中を翻し、ポポの目の前から走り去ろうとする福音使徒。彼を行かせてはならないと、ポポはとっさに風魔法を行使する。結果、福音使徒を足止めするつもりで放ったポポの竜巻は福音使徒を派手に宙へと吹き飛ばし、福音使徒はなすすべもなく頭から地面に落下し、まもなく気絶した。
「あ、やっちゃった……」
ポポはしばし呆然と、白目を剥いて倒れる福音使徒の男性を見下ろす。と、そこで。ポポの脳裏に、閃光のように、1つの策が閃いた。
――この人の服を借りて、ポポが福音使徒になりすませばいいんじゃないかな?
「……ごめんね。本当にごめんね」
ポポは男性から福音使徒の服を脱がし、小柄なポポが使用するにはあまりに大きい福音使徒の隊服を風魔法でちょうどいい長さに切断した上で、身につける。続けて、ポポは風魔法で足元の雪を巻き上げて簡易的なかまくらを作成する。その後、ポポはリュックから毛布を取り出し、下着姿で路上に倒れる男性を包んでかまくらの中にそっと置いてから、他の福音使徒に見つかる前に速やかにその場を離れるのだった。
◇◇◇
ソイ=トゥルガー東部の森にて。ポポは例のごとく月を削り、月の欠片を風のクオリアへと変化させ、付近に埋めるいつものお務めを進めていく。この時、ポポは油断していた。福音使徒の服を手に入れた以上、仮に福音使徒に見つかったとしても、ポポが福音使徒ではないと、でもって風の魔女であるとバレる可能性は低いと高を括っていた。
だからこそ。
「アンタ、誰?」
「へ!?」
不意にポポの背後から刺々しい声をかけられたポポはビクッと肩を震わせた後、おずおずと後ろを振り向く。ポポの視界に映ったのは、ピンク色のウサギのフードを目深に被り、色とりどりのアクセサリーがいっぱい取り付けられた、デコデコとした厚手の服に身を包んだ、ポポよりも背丈の小さい女の子の姿だった。ポポはこの女の子の正体を知っている。
(ド、ドロシー!? どうしてここに!?)
時の魔女ヒルダを心から慕う福音使徒の幹部の1人、ドロシーだ。「デクリン」という名前の人形を自在に操り、ドロシー本人は、時に自分が傷つこうとも構わずに、刀やチェーンソーを全身全霊で振り回す。そのような危険な戦闘スタイルを採用するドロシーに、かつて福音使徒と敵対していた頃のポポたちが命を奪われかけたことは一度や二度のことではない。
おそらく福音使徒の中で最も物騒で、過激。ゆえに、ソイ=トゥルガーで最も出くわしてはいけなかった人物。そんなドロシーが今、目の前にいる。ポポの頬に焦燥の汗が伝った。
「だ、誰って? ポ……私のことをお忘れですか? ドロシー、様?」
「アンタみたいな奴、ドロシー知らないんだけど☆ 福音使徒じゃないくせに福音使徒の格好して、ドロシーの名前を知ってて、森に潜んでるとか、メッチャ怪しくな〜い?」
「わ、私は新入りですから。それにしても、こうも忘れ去られるなんて、酷いなぁ、あはは」
「てことで、処刑決定! 死ねぇ!」
(ひゃぅ!?)
ポポがとっさに震え声ながらも福音使徒っぽい発言を繰り出し、ドロシーを騙そうとした所で、ドロシーが唐突に刀を逆袈裟に振るう。ポポは悲鳴を飲み込み、背後に跳躍することで間一髪、ドロシーの刀を避けるも、風にたなびくフードはドロシーの刀に真っ二つに斬られてしまった。結果、ポポの素顔がドロシーの前に晒されることとなった。
「キャハハッ☆ やっぱり福音使徒じゃなかった。アンタみたいな金髪女、ドロシー知らないもん。ドロシーの勘は今日も絶好調だね!」
「え、え? ポポが福音使徒じゃないってわかってなかったの? ポポが福音使徒かもしれないのに殺そうとしてきたの!?」
「当然。だって、ドロシーに怪しまれるようなことをしたアンタが悪いんじゃん☆」
「ほぇぇ!?」
(ドロシー怖い、超怖いぃぃぃ!)
もしも一瞬でも反応が遅れていたら、ポポの首がドロシーにより刎ねられていた。しかもドロシーは、ポポが敵だとの確証を持てない状態で、そんなこと知ったことかとポポを殺す刀の一撃を放った。その事実に、ポポのドロシーへの恐怖心がどんどん積みあがっていく。
つい先日、アルトに対して「人はね、知らないことを怖いって思っちゃうんだよ」などと話したポポだったが、今のポポはまさにそんな心境だった。ドロシーの心境が、思考回路が読めなさ過ぎてただひたすらに怖いのである。
「アンタはちゃーんと捕まえて、入念に拷問しないとね☆ そんで、スパイを捕まえたこと、ヒルダにいっぱい褒めてもらうんだ! 今晩は人肉のミンチ! ぶつ切り、削ぎ切り、細切り、薄切り――どれにしよっかなぁ、ドロシー迷っちゃう♪」
クルリ、クルリと。雪の上を華麗にターンしながら、ドロシーはポポの殺し方のパターンを次々と提示してくる。ポポは完全にドロシーに気圧されていた。ドロシーに怯えていた。ゆえに、ドロシーがポポをどのように惨殺するか妄想し、凶悪な笑い声を零している間に。ポポがドロシーに背を向けて、風の力を目一杯借りて、全力疾走でドロシーから逃げ出すのは当然の帰結だった。
「あぁ!? 待て! デクリンちゃんたち、あいつを逃がすなッ! 殺せ! ミンチにしろぉ!」
数秒後。脱兎のごとく逃げ出すポポにようやく気づいたドロシーがポポを指差し、声を荒らげながら指示を飛ばす。すると、ドロシーの周囲から音もなく、つぎはぎで所々綿の飛び出ているウサギの人形『デクリン』が次々と現れ、俊敏な動きでポポを追い立てる。だが、小柄なウサギの二足歩行によるダッシュでは、追い風の恩恵をその身に受けて逃亡するポポに追いつくことはできなかった。
かくして。ソイ=トゥルガーでのポポの行き当たりばったりなお務めミッションは、運悪くドロシーに見つかり襲われる形で、失敗に終わるのだった。
ポポ:風の魔女たる15歳の金髪ツインテールな少女。特にこれといった作戦を用意せずに、ミトラ村とほど近いソイ=トゥルガーでのお務めにチャレンジしてみるも、見事に失敗した。この度ポポが無策だったのは、アルトと邂逅したばかりでテンションが上がっていたことも影響している。
ドロシー:魔女ヒルダに心酔し、ヒルダに付き従う福音使徒の1人。デクリンという名の自立人形を自在に操り、本人は刀やチェーンソーを振り回す過激な戦闘スタイルが特徴的。性格もまた過激で血の気が多い彼女は、「疑わしきは罰せよ」精神の体現者と称せるかもしれない。ちなみに現時点では8歳であるという衝撃の事実。
というわけで、9話は終了です。ドロシーちゃんは過激かわいい。プラス、ドロシーしかり、ののかしかり、顔を隠して立ち回る系のキャラは大好きなのです。