風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 唐突ですが、ステラグロウの不思議7選を紹介するぜ!
1.なぜか全部紫色になってしまうリゼットの料理
2.じゃんけんよわよわサクヤ様
3.ユアンの生い立ち、および性別(+時々勝手に動く外付けふさふさ尻尾)
4.ヒルダによるドロシーの教育方法
5.レグナント王国の禁足地多すぎ問題
6.天使の手羽先を食べるとなぜ長生きできるのか
7.セ ン ス デ ー タ さ ん

 どうも、ふぁもにかです。今回はとあるキャラが登場するのですが、結構ノリノリで執筆できました。この子と私との相性は結構いいのかもですね。ちょっと意外でした。



10話.慈愛の魔女

 

「あー、うー」

 

 神聖レグナント王国の中心たる、王都ランベルト。その一角にあるカフェで、ポポはテーブルに頭を突っ伏し、消え入りそうな声色でうめき声を漏らしていた。ポポの脳裏に思い浮かぶのは先日、北の属州『ソイ=トゥルガー』各地に、風のクオリアを埋め込むお務めをしようとして、速攻で福音使徒のドロシーに見つかり、頓挫したあの一件である。

 

 

「ほぇぇ……」

 

 3年後に発生するエクリプスにより、万単位の人が天使に殺される悲惨な未来。そんな凄惨な未来を回避するためにポポはこれまで、自身が訪れた各地に、月から削ってポポの魔力で変質させた風のクオリアを埋め込んできた。この行為に、例外となる場所があってはダメなのだ。風のクオリアを埋め込めていない場所があっては、意味がないのだ。ゆえに今、ポポはカフェで後悔に後悔を重ねている。ロクに対策を用意せずにソイ=トゥルガーに足を踏み入れ、あっさりとドロシーに見つかってしまった、己のふがいなさに。

 

 

(これから、どうしよう……)

「すみません。相席、よろしいですか?」

「え、うん。だいじょーぶ、だけど?」

「ありがとうございます!」

 

 店員から受け取った紅茶を見つめながら、ポポは今後の己の立ち回りをどうするかについて真剣に考えを巡らせる。と、ここで。カツカツと、軽快な足取りとともに誰かがポポの元へと歩み寄り、申し訳なさそうに相席を提案してくる。ただいま絶賛、頭をフル回転させて考え中だったポポが半ばうわの空で相席を了承すると、相手は非常にうれしそうな声色でお礼を述べて、ポポの対面にストンと腰を下ろした。

 

 

(あれ?)

 

 と、ここで。ポポは気づいた。ふとポポの紺碧の瞳で周囲を一瞥した時に、今ポポが訪れているカフェが全然混んでいないことに。

 

 じゃあ、どうしてこの人はわざわざポポと相席になったのだろう。疑問を胸に、ポポが対面の人物に視線を映した時、ポポは思わず驚愕に目を瞬かせた。栗色の髪を短く切りそろえ、シルクハットを被り、清潔感を重視した服装に身を包みつつも、腰にはふさふさの尻尾を装着させている。この人物のことをポポは知っている。ポポが過去に逆行する前に、ともに戦った調律騎士団の仲間、ユアンだ。

 

 

「あなたがかの有名な風の魔女、ポポさんですね?」

「う、うん。そうだけど? 君は?」

「いやぁ、やっと見つけられましたよ。……おっと自己紹介が遅れてしまいましたね。僕はユアン、ユアン商会の社長を務めています。どうぞよろしくお願いします」

 

 営業スマイルなにこにこ笑顔を浮かべつつ、丁寧な口調で己の身分を明かしたユアンが差し出してくる手を、ポポは素直に握り返す。その一方で、ポポはユアン商会の沿革と、今の時間軸とをどうにか照らし合わせていた。

 

 

(確か、ユアン商会は3年前に10歳だったユアンが作った商社のはず。で、今はポポが過去に戻って半年は経っているから――)

「……ユアン商会って確か、3か月くらい前にできた、あの?」

「ええ、そうです! よく知ってますね!」

「ポ、ポポは風の魔女だからね。風のうわさを集めるのも得意なんだ」

「なるほど! 風の魔女にはそういう情報収集能力もあるんですね! ますます興味深いです! それにしても、ポポさんがユアン商会のことをご存じだったとは、光栄ですね」

 

 ポポがユアン商会のことに言及すると、ユアンは己の商会の知名度が着々と上がっていることに嬉々とした表情を浮かべる。続けて繰り出されるユアンからの問いかけに、ポポがそれっぽい口実を持ち出すと、ユアンはポポの発言を欠片も疑わずに、腕を組んで誇らしげにうんうんとうなずく。ポポは段々と自分の言い訳技術が上達していくことに複雑な心境に襲われつつ、ここでまた別の疑問を抱いた。どうしてユアンは、ポポがユアン商会のことを知っていただけでこうも喜んでいるのだろう、と。

 

 

「ポポさん、せっかくのカフェでの安寧の一時を邪魔してしまい、申し訳ありません。今日、こうして僕がポポさんと話す機会を少々強引な形で作ったのは、ポポさんと有益なビジネスの話がしたかったからです」

「ビジネス?」

「ええ。――ポポさん、僕と専属契約を結びませんか?」

「せんぞく、けいやく?」

「言い換えますと、僕とポポさんとで協力関係を築き、ともに助け合うウィンウィンな関係になってくれませんかというご提案です」

「?」

 

 内心でいくつか疑問符を浮かべるポポをよそに、ユアンから早速本題を持ちかけてくる。結果、ポポはますますわからなくなった。

 

 ユアンは、たった3年でユアン商会を巨大商社に成長させた敏腕社長だ。そのユアンがポポに契約を迫ってきた、ということはポポに何か商売としてのチャンスを見出した、ということになる。だけど、ポポにはその理由がわからないのだ。例えばアマツの姫巫女である火の魔女サクヤみたいに多くの人々から絶大な人気を集めているわけではない、そんなポポにユアンが何の価値を見出したのかがわからないのだ。

 

 

「どうして、ユアンはポポと契約したいの?」

「決まっているでしょう! あなたは3か月前の『カシミスタンの大乱』で人命救助に徹し、カシミスタンを滅亡の危機から救った魔女なんですから。滅びの魔女ヒルダが災厄の象徴とするなら、カシミスタンを救った風の魔女ポポは、興隆の象徴。カシミスタンであなたが魔法を惜しみなく振るって、壊れた建物を修繕し、亡くなった人を丁寧に埋葬し、怪我人を献身的に介抱する、そのような姿から、あなたは今、カシミスタンの住民を中心に『慈愛の魔女』と称されているんですよ」

「ふぇ、えええええ!?」

 

 まさか『慈愛の魔女』だなんて、そのような大げさな二つ名がポポにつけられていただなんて。ポポがカシミスタンの復興活動を手伝っていたことを思わぬ形で評価されまくっていた事実を受けて、ポポは思わず驚愕の声を響かせる。

 

 

「あれ? 知らなかったんですか?」

「ポポ、そんなこと全然知らなかったよ……」

「なるほど。確かに、己の評価を把握していなかったのなら、僕がポポさんと契約を交わそうとするのを不思議がるのは当然のことですね。……でも。それなら今は、僕があなたと契約したがる理由に察しはつきますよね?」

「う、うん。なんとなく」

「今、慈愛の魔女であるポポさんのことを知りたいと思う人は存外多いんですよ。そこで僕があなたをプロデュースするんです! まずは謎のヴェールに包まれた風の魔女の特集を大々的に組んだ後、あなたにはユアン商会に所属するアイドル兼、売り子として世間に姿を現してもらいます。これで話題性はばっちりです。あとは僕の秀でた商才と、ポポさんの優れたビジュアル・スター性・人間性を掛け合わせることで、ユアン商会は劇的に成長することでしょう。僕はユアン商会を成長させられて嬉しいし、ポポさんは経済の発展に貢献しつつ、人々に娯楽を提供する形で、人々に心身ともに豊かな暮らしを享受してもらうことができる。慈愛の魔女であるポポさんにとって、この地に住まう人々の幸せは、至上の喜び、そうではありませんか? あぁもちろん、ポポさんにボランティアなんてさせませんよ。当然、報酬も相応の額をお支払いします。――さぁ、どうでしょう? 僕と契約して、世界を変えてみませんか? 世界に革命を起こし、世界中の人々の暮らしをより豊かなものに変えてみませんか?」

 

 ユアンは話している内に段々とヒートアップしてきたのか、早口にポポを巻き込んだ上での今後のユアン商会の展望を語り尽くし、洗練された所作で右手をポポに差し出してくる。だが。正直な所、ポポにとって、ユアンの提案はあんまり魅力的ではなかった。

 

 第一に、ポポがユアン商会と協力した際の、ポポの立ち位置についてだ。ユアンはポポをアイドルや売り子にしたいようだったが、それはポポにとって都合が悪い。ポポがユアン商会のアイドル兼売り子になってしまえば、今までのように世界を巡りながら風のクオリアを埋め込むお務めに使える時間が確実に減ってしまうからだ。

 

 ポポは世界を十分に回れていない。世界中に風のクオリアの欠片を埋め込め切れていない。このままのペースだと、3年後にちょっと間に合わなくなるかもしれない。そのため、ユアン商会の一員の立場に落ち着くことは良策ではないだろう。

 

 第二に、報酬について。ユアンはポポとの専属契約のメリットの1つとして十分な報酬の存在を示したが、ポポはついこの前、ニキからカシミスタンを救った報酬として約100万ゴールドを受け取っているため、お金に困っておらず、お金が欲しいという動機がない。

 

 それに何より、今のポポは目立ちたくないのだ。理由は単純明快で、目立ってしまえばその分、福音使徒に命を狙われかねないからだ。特にポポはつい先日、ファーレンハイトに潜入しようとしてドロシーに見つかり逃げ帰ったばかりで、当然ポポのことはヒルダに報告されているはずだ。それなら、福音使徒のポポに対する敵意、殺意はかなり上昇しているに違いない。ここでポポがこれ見よがしに世間に姿を現せば、ポポはもちろん、ユアン商会にも危険が及びかねない。

 

 

「ごめんね、ポポにはまだまだやらないといけないことがあるんだ。それは、お金よりも大切なことで、今しかできないお務めなんだ。だから、ユアンの提案は断るね」

「……そう、ですか」

「あ、でも。ポポがユアン商会にいなくても問題ないことなら好きにしていいよ? 例えば、ポポのグッズを販売する、とか。そういう専属契約ならだいじょーぶ」

「へ?」

「だって、ユアンは良い人だって、話していてよくわかったから」

 

 結果、ポポはユアンの専属契約の打診を断った。慈愛の魔女ポポが首を縦に振りそうな提案を練った上で今日という日を迎えたユアンが、ポポと専属契約を結べないという結果にシュンとうなだれる中、ポポは代わりの提案をユアンに示す。その思わぬ提案に、当惑とともに顔を上げるユアンに対し、ポポはにへらと微笑んだ。

 

 ユアン商会は、王立騎士団第9小隊にとって、調律騎士団にとってとても大切な存在だ。ユアン商会があったからこそ、王立騎士団第9小隊は、全国各地の魔女を保護するための旅を安全に行うことができた。エクリプスが発生した後も、ユアンが多大な私財を投げ打って人命救助を働きかけてくれたおかげで、レグナント王国はどうにか滅亡一歩手前で踏みとどまることができた。

 

 

「ダメですよ、ポポさん。そうは問屋が卸しません」

 

 だからこそ。ポポを商売に活用することでユアン商会が成長できるのなら、喜んで。そのような心境でポポは、ユアンの当初の考えとは異なる形の専属契約を提案したのだが、対するユアンは、不満げに腕を組みながら、ポポの提案をすげなく断った。

 

 

「ほぇ?」

「商人の世界はギブアンドテイクこそが鉄則です。ポポさんの心遣いは嬉しいですが、一方的に相手から施しを受けて終わり、なんてことは絶対に受け入れられません」

「でも、ポポは気にしないよ?」

「あなたが気にしなくても、僕が気にするんです! ユアン商会が一方的に施しを受ける契約はNGです。ユアン商会の名が廃ってしまうじゃないですか! ……ポポさんのグッズ販売の許可をいただけるのはとても助かります。ですが、ユアン商会だけが得をするという状態は捨て置けません。……聞かせてください。あなたは僕に何かしてほしいことはありますか? 僕にできることなら何でも取り計らいますよ? さぁ、遠慮せずに言ってみてください。まさか、何もないとは言いませんよね?」

「ユアンにしてほしいこと……」

 

 先ほどユアンから示された専属契約を断った時とは違い、ユアンはポポから何か要求を引き出すまで、引くつもりはないようだ。ユアン商会に何をお願いしよう。うーん、うーんとしばらくポポが頭を悩ませていると、ここで。2つ、ユアン商会に頼みたいことを思いついた。

 

 

「それじゃあ、ユアン。2つ、お願いしたいことがあるんだ。無理なら断ってね?」

「わかりました。まずは内容を聞かせてください」

「うん。1つ目は――」

「ふむ、なるほど。その程度ならお安い御用です。ぜひユアン商会をご愛顧ください」

 

 ポポが1つ目のお願いをユアンに告げると、ユアンは即決でポポのお願いを引き受けてくれた。このお願いは断られることはないだろうと想定していたポポだったが、ユアンから明確な回答をもらえて初めて安心する己が存在することを自覚した。

 

 

「それで、もう1つは何でしょうか?」

「うん、えっとね――」

 

 ユアンに2つ目のお願いを促されたポポは一拍置いた後に、ユアンを見つめて、お願いの内容を切り出した。

 

 

「――ポポ、変装したいんだ」

 

 




ポポ:風の魔女たる15歳の金髪ツインテールな少女。己が慈愛の魔女として評価されていることを知らなかった。ちなみにユアンに提示した、2つのお願いの内の1つはまだ秘密。いつか明かされる予定。
ユアン:10歳にしてユアン商会を立ち上げ、どんどんと規模を拡大している新進気鋭の性別不詳の社長。現在は11歳。風の魔女ポポの人気を活用してユアン商会を発展させるべく、今回接触してきた。この度、ポポを王都のカフェで発見できたのは全くの偶然だったりする。

 というわけで、10話、もといユアンとの出会い回前編は終了です。まさかの前後編となったことにびっくりしています。いやはや、ユアン回でまさかこうも文字数が増えるとは思いもしなんだ。
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