風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。ユアンとの出会い回後編です。当初の想定より原作の過去編が長めになってますが、今回を含めてあと2話使ったら、原作の時間軸に到達できるかと思われます。



11話.男装チャレンジ

 

 神聖レグナント王国のお膝元、王都ランベルト。その一角のカフェにて。ポポは対面に座るユアンに対し、ユアンが当初構想を練っていたポポのアイドル&売り子化計画を断りつつも、ユアン商会がポポグッズを販売することは承諾した。

 

 しかし、ユアン商会のみが一方的に得をするポポの提案にユアンは異を唱え、ユアン商会がポポグッズを販売する許可を得たことと同等の要求がないかとポポに問いかけてくる。そんなユアンに対し、ポポは2つの依頼を持ちかけることに決めた。1つは、ユアン商会だからこそお願いできること。そして、もう1つは――。

 

 

「――ポポ、変装したいんだ」

 

 ポポは今現在、3年後のエクリプスに備えて、月を削って変質させた風のクオリアを世界各地に埋め込んでいる。しかし、この風のクオリア埋め込み世界行脚には、どうしても避けられない課題がある。

 

 それは、ポート・ノワールでも風のクオリアを埋め込まないといけないということだ。現在、ポート・ノワールでは、ボナンザ町長によりポポの身に覚えのない悪評が広まり、ポート・ノワールの一般常識レベルにすっかり浸透している。そのため、ポポがいつもの格好でポート・ノワールを訪れれば町はたちまちパニックに陥ってしまい、悠長に風のクオリアを埋めるなんてことはできなくなってしまう。

 

 それに、ボナンザ町長に『世界を守るためにポート・ノワールを離れる』ことを高らかに宣言して旅立った以上、すべてが終わるその時までボナンザ町長と再会したくない、という気持ちもあった。単純に、顔を合わせるのが恥ずかしいのだ。

 

 加えて先日、ファーレンハイトに潜入しようとして失敗し、ドロシーに顔バレしたこともある。あの一件により、ポポは福音使徒に絶対に目をつけられている。今までは、福音使徒のポポへの印象は、世界中を旅する魔女程度だったかもしれないが、今は敵として認識されていてもおかしくない。いつ、どこで。福音使徒に闇討ちされてもおかしくはないのだ。

 

 かといって、ポポの使い魔を呼び出し、彼らにポポの代わりに風のクオリアを埋めてもらうのは、とても非効率だ。魔物は常に討伐対象なので、王立騎士団に見つかり次第、すぐに討滅させられるだろう。それに、魔物が風のクオリアをそこらかしこに埋め込みまくるという奇妙な行為を目撃されれば、目撃者に妙な誤解を与えるかもしれない。何なら、目撃者が埋め込んだ風のクオリアを掘り返そうとするかもしれない。

 

 よって、今後も世界中に風のクオリアを埋め込むお務めを継続するためには、ポポの素顔を隠し、身分を偽って、活動するより他はないのである。だけど、ポポには変装の方法がまるでわからない。そこでポポは、今回のユアンの提案にありがたく乗っかる形で、ユアンに相談することにしたのだ。

 

 

「変装、ですか?」

「うん。ポポにはやるべきことがあって、そのために世界中を旅しているんだけど……近い内に、正体を隠してポート・ノワールに行きたいんだ」

「なるほど。確かにカシミスタンでは大人気なポポさんですが、奇妙なことにポート・ノワールでのポポさんの評価は真逆。ポポさんの良いうわさはまるで聞きませんね。何かあったんですか?」

「……」

「っと、すみません。つい探ってしまって。うずく好奇心を上手に制御できないところが僕の悪癖ですね」

「あ、違うから。気にしないで、ユアン。ポポはただ、ポート・ノワールのみんなに嫌われてるってだけだから」

「明朗快活で、万人受けしそうな性格をしているあなたが、特定地域の住民にのみ嫌われてる、ね……。興味深い話ですが、詮索はよしましょう」

 

 ユアンはカフェの給仕から受け取った紅茶を一口含みつつ、ニィィと口角を吊り上げて笑う。いかにも何かを企んでいそうな顔だ。どうやらユアンは、ポポとポート・ノワールとの関係性を直接追及するつもりこそないものの、ポート・ノワールに探りを入れる気満々のようだ。

 

 

「要するに、ポポさんの2つ目の依頼は、変装の方法を指南してほしい、ということですか?」

「うん。ポポ、変装なんてしたことないから、どうすればいいかわからなくて……」

「わかりました。それでは、まず変装の目的からはっきりさせましょうか。ポポさんは、ポート・ノワールの住民に自分がいることを気づかれたくない。これがポポさんが変装する目的ですね?」

「うん。そうだよ」

「それは言い換えると、ポポさんが風の魔女だとバレなければいい、ということですよね?」

「うん、そういうことになる、のかな?」

「だったら話は簡単です。ポポさん――男に変装してみませんか?」

「へ!?」

 

 ユアンに変装の方法を持ちかけたポポは、ユアンからの思わぬ提案につい驚愕の声を漏らす。ポポがイメージする変装とはあくまで、例えばジゼルが全身にフード付きマントをまとって己が人造天使であることを隠すといったものであり、まさか性別まで隠す方向に話が広がるとは全然想定していなかったからだ。

 

 

「風の魔女だとバレたくないのなら、男装するのが一番手っ取り早いです。何せ、男の魔女は過去に類がありませんから。ポポさんが男の格好をするだけで、あなたが風の魔女と疑われる機会はグッと減ることでしょう」

「そっか、確かに男の魔女っていないよね! さっすがユアンだよ! そんな方法があるなんて……!」

「いえいえ、この程度、なんてことありませんよ」

「……でも。ポポに男の人の真似ができるかな? ポポ、演技下手だよ?」

「問題ありませんよ。幸いにも、ポポさんは小柄ですから。肌の露出を控える服を選定すれば、後は変声期を迎えていない子供の真似をするだけで、性別なんて簡単に隠せます」

「ほ、ほぇー」

「とはいえ、ポポさんが異性に変装することに抵抗があるのなら、男装はやめにして別案を考えますが……いかがでしょう?」

 

 ユアンから提示された男装の提案。それは、ユアンから話を聞けば聞くほど、とても魅力的な提案にポポには感じられた。何せ男のフリをするだけで、ポポが風の魔女だとバレるリスクが一気に減るのだから。ユアン風に言うのなら、ローリスクハイリターンな男装という手段に、ポポはすっかりその気になっていた。

 

 

「ポポ、やるよ! 男の人に変装する!」

「乗り気のようで安心しました。では早速、変装してみましょうか。変わった自分の見た目を確認してから、男に変装する方針を変えたっていいですしね。ちょうど王都に、ユアン商会と懇意にしている凄腕のスタイリストがいるんです。今から彼女のお店に行きましょう」

「え、でもいきなり押しかけてもいいの?」

「大丈夫ですよ。懇意にしているといったでしょう? さぁ、善は急げです! 行きますよ!」

「あ、待ってよユアンー!」

 

 ユアンは勢い良く立ち上がると、レジでさりげなくポポの分も会計を済ませた上で、意気揚々とカフェを飛び出し、スタイリストの店に向かう。ポポはあまりのユアンの行動の速さに席に座ったまま目をぱちくりとさせるも、ユアンを見失わないように慌てて後を追うのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 それから、ポポはユアン商会とつながりのあるスタイリストの店で、『男装したい』との要望に基づいたコーディネートを受けた。どういう服をそろえればいいか、どんな髪型がいいか、どんなアクセサリーが必要か。そのような観点でポポはスタイリストからの熱心な指導を受けた。

 

 

「ふふ、またのお越しを」

 

 そして、2時間後。ポポは、スタイリストの女性の声を背に受けながら、店を後にする。しばらくは自分の格好が様変わりしたことへの実感が全くないポポだったが、スタイリストからお近づきの印にと、無料でもらった手鏡を見て、付近の店のガラスの反射で映る己の全身を見て。段々と己がしっかりと男装できているという実感を得ることができた。

 

 

「ほぉわぁぁぁ……!」

 

 今のポポは、紺色のテンガロンハットを目深に被り。白のシャツに黒のズボンで肌をしっかり隠し。シャツの上から全身をすっぽり覆えるサイズの栗皮色のコートを羽織り。絹糸のような金髪をツインテールではなくローポニーテールに束ねてコートの内側に隠し。ダークブラウンの厚底ブーツを履いている。そんな、いつものポポからはまるで想像できないレベルの、あまりの変貌っぷりにポポはつい、驚愕と興奮の声を響かせる。

 

 

「第一印象は『謎多き流浪の旅人』といった所でしょうか、様になってますね。かっこいいですよ、ポポさん」

「か、かっこいい!? ポポ、かっこいい!?」

「はい」

 

 かっこいい。なんて言葉は今までのポポとはまるで縁がないものだったので、ポポはますます興奮する。尤も、ユアンに褒められて有頂天になり、キャッキャとポーズを取りまくる今のポポの態度からはかっこよさの欠片も感じられないのだが、当の本人には知る由もない。

 

 

(何だか、ポポがアルトになったみたいだよ……! すっごくワクワクする!)

「苦しそうだな、ポポ……。大丈夫だ、俺が助けてやる――!」

「……それ、誰かのモノマネですか?」

「え、あ! や、気にしなくていいよ、ユアン!」

「?」

 

 ポポは興奮のあまり、ついつい過去にアルトがポポに向けて投げかけてくれた印象深い言葉を模倣するも、すぐ近くにユアンがいることを思い出したことで、ポポは少しだけ平静を取り戻す。

 

 

「では、かっこよくキマったところで、自己紹介の練習といきましょう」

「練習?」

「ええ。今の格好をしたあなたは、相手から名前を問われた時にどのように答えるつもりなのかをここで試してもらいたいなと思いまして」

「へぇー、面白そう!」

「では早速やってみましょうか。……コホン。そこな旅の方。名をうかがってもよろしいでしょうか?」

「――ポポはポポだよ。よろしくね!」

「はい失格です」

 

 見た目が様変わりした今のポポの姿での自己紹介の練習。ユアンの提案を快諾したポポは、ユアンから名前を尋ねられ、いつものテンションで名を名乗り、朗らかな笑みをユアンに返す。すると、ユアンは両腕で×マークを作ってポポに即刻、失格を通達した。

 

 

「え、そんな……どうして!?」

「あのですね。ポポさんが男装するのは、ポポさんが風の魔女だってことを隠すためですよね? 正直に名前を名乗ったんじゃ、男装の意味がありませんよ」

「な、なるほど! ポポ、気づかなかったよ。さすがユアン!」

「どういたしまして。ということで、今からポポさんの偽名を決めましょう」

「偽名?」

「ポポさんが己の正体を隠すためには、見た目だけでなく、名前も違うものを用意しないといけない、ということです。せめて、急に後ろから名前を呼ばれても反応して振り向けるくらいに親近感のある偽名が望ましいですが、何か『これだ!』って名前はありますか?」

「う、うーん?」

 

 どうやらスタイリストに男性っぽい見た目をコーディネートしてもらうだけでは、己の正体を隠す男装としては不足しているらしい。ユアンから指摘されて初めてそのことに気づいたポポは、ユアンに促されるまま、自身の偽名を、もう1つの名前について思考を巡らせる。時折うなり声を漏らし、ショートしそうになる頭をどうにか思考放棄しないよう保ちつつ、熟考すること数分。ふと、ポポの脳裏に一案が浮上した。

 

 

「――タンポポ、って名前じゃダメかな?」

 

 タンポポ。この名前にたどり着いたのにはいくつか理由がある。まず、ポポがたんぽぽコーヒーをこよなく愛していること。次に、名前に『ポポ』が含まれていること。これなら、ユアンが偽名の条件として示した『親近感のある』偽名に合致しているのではないかとポポは考えたのだ。

 

 

「タンポポ、ですか。良いんじゃないですか? あまり男らしい名前ではないですが……今回決める偽名で何より大事なのは、名前から風の魔女を連想させないことと、ポポさんに馴染みやすい名前であることですから。それに、男らしさは話し方でカバーすればどうとでもなります」

「そう? 良かったぁ」

「あとは、一人称も変えましょう。候補は、俺か、僕。これが無理なら私、自分、某、我。この辺りでしょうね。何せ、今のポポさんは、自分で自分のことをポポと名乗ってますからね。いくら完璧な変装を施していても、それっぽい偽名を名乗ろうとも、一人称が『ポポ』のままだと意味がありません」

「ポポのことをポポと言わないようにしないと、なんだね。できるかな……?」

「そのための練習です。では、もう一度自己紹介をしてみましょう。はい、どうぞ」

「ポ……ボクはタンポポ、だ。よろ、しくな」

「まだぎこちないですが、場数を踏めば慣れるでしょうし、及第点ですね」

 

 男装している時は、タンポポという名を名乗る。一人称を『ポポ』以外に変える。口調は男らしい話し方を意識する。これらを踏まえて、ポポはユアンに再度自己紹介を行う。結果、さっきのようにユアンから失格の評価を下されることはなかった。

 

 

「さて。男装の仕方もわかり、偽名も手に入れた。これでポポさんの2つ目のお願いは叶えた、ということで良いですか?」

「うん! ありがとう、ユアン! すっごく助かったよ!」

 

 ユアンのおかげでポポは今後、旅人タンポポ(♂)に扮して世界を旅する手段を確立することができた。そのことにポポは多大な感謝を表明する。

 

 

「でも、ユアン。本当にいいの? ポポ、こんなにユアンによくしてもらったのに、ポポは全然ユアンに見返りをあげられてないと思うんだけど……」

 

 が、ここでポポは唐突に不安になり、ユアンに問いかける。ユアンの主張する、ギブアンドテイクの鉄則。ポポは今回、ユアンからギブばかり受け取っているように感じられたからだ。

 

 

「あなたは本当に、根っからの慈愛の魔女ですねぇ。あるいは、無欲の魔女とでも言いましょうか。……僕としては、この程度じゃポポさんグッズ販売の専売特許を得られた見返りに満たないと思ってるんですよ? だから、また何か思いつきましたら、ぜひユアン商会を頼ってください。僕は、ユアン商会は全身全霊、あなたの頼みに応えてみせますから」

「ユアン……」

 

 だが、ユアンはポポとは全く逆で、ユアンばかりがギブを享受しているという認識だったようだ。ユアンはやれやれと両手を広げつつも、栗色の瞳でポポをしっかりと見つめながら、真摯に言葉を紡ぐ。そのようなユアンの威風堂々とした姿は、ポポにとって非常に頼もしく映った。

 

 

「では、僕はそろそろ行きますね。また会いましょう、ポポさん」

「うん! またね、ユアン!」

 

 かくして、ポポとユアンは別れを告げて、お互いに背を向けて歩を進めていく。

 

 

 ポポより年下だけど、ポポより小柄で一見かわいらしい見目をしているけれど、ポポより頭が回り、ポポより将来を見据えていて、ポポより素敵な人。ユアンと出会ったのは全くの偶然だったけれど。今日、ユアンと出会えてよかった。この度、ユアンの頼もしさを、改めて実感するポポなのであった。

 

 




ポポ:風の魔女たる15歳の金髪ツインテールな少女。今回、ユアンの力を借りることで、今後は男装した『旅人タンポポ』として風のクオリアを埋める旅を行えるようになった。
ユアン:10歳にしてユアン商会を立ち上げ、どんどんと規模を拡大している新進気鋭の性別不詳の社長。現在は11歳。最初こそポポをビジネスチャンスとしてしか捉えていなかったが、ポポと会話を重ねる内にポポの性格そのものに好感を抱くようになった。

ユアン「あ、しまった。僕としたことがポポさんとの契約を書面に残し忘れてしまいました。あの慈愛の魔女と相対して、柄になく舞い上がっていたんでしょうか。僕もまだまだですね。……ま、いいでしょう。次に会った時に改めてサインしてもらえば、それで」

 というわけで、11話は終了です。最近何かと顔が曇りがちだったポポが心の底からはしゃいでる姿を描写できて私としても安心しました。なお、今後は……ゴホン、なんでもありません。

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