どうも、ふぁもにかです。今回は火の魔女サクヤを保護した王立騎士団第9小隊視点となりますね。もしかしたらこの辺からポポ視点の話は控えめになるかもです。ま、ポポは前回苦しい思いをしたので、しばらく休んでいてもらいましょう。
アマツで焔鎮めの儀を終えたサクヤが、従者ののかと大荷物を伴い、第9小隊とともに王都ランベルトへと向かってから3日後。王都ランベルトでの日々にサクヤとののかが溶け込みつつある中、第9小隊隊長クラウスは、隊員全員(アーチボルト、ラスティ、アルト、リゼット、サクヤ、ののか)を作戦室に招集した。
「先日、我々第9小隊は福音使徒の妨害に打ち勝ち、火の魔女サクヤの保護に成功した。この調子で近日、次の魔女の保護のため、出立する予定だ。次の目的地は王都の西方に広がるムシャバラール砂漠、その中心に位置するカシミスタンだ」
「ということは、土の魔女を保護しに行くんですね。でも、隊長。カシミスタンは土の魔女の結界が張られていて、結界に認められた人しか出入りできないって話でしたよね?」
「その通りだ、アルト。ゆえに我々がアマツへ遠征している間、王国は結界を出入りできるカシミスタン出身の文官を使者に任命してカシミスタンに派遣し、領主のニキと交渉を行っていた。その結果、我々第9小隊が結界を超え、カシミスタンの土を踏む許可を取りつけることに成功した。よって我々が結界に阻まれる心配はない」
「なるほど……」
クラウスの提示した方針を受けてアルトが率直な疑問を呈すると、クラウスはよどみなくアルトに回答する。アルトの質問は想定の範囲内だったようだ。
「カシミスタンの領主が結界を出入りできる人を選べるってことは、そういうことよね、隊長?」
「え、え? サクヤ様、どういうことですか?」
「うむ、そういうことだ。現カシミスタン領主のニキ、ないしニキの側近が土の魔女を継承したと推察できる。土の魔女の居場所をほぼ特定できたことが、カシミスタン遠征を決めた最たる要因だ。風の魔女は今も調査隊に捜索させているが、一向に足取りをつかめていないのでね」
と、ここで。クラウスが風の魔女ではなく土の魔女保護の方針に踏み切った理由を察したサクヤが、敢えて己の推測を口に出さず意味深にクラウスを見つめると、クラウスはサクヤの目線を受け止めてうなずき、言葉を紡ぐ。そんなサクヤとクラウスとの間に挟まれたののかはわたわたと戸惑うばかりだ。
「だが、遠征を始める前に。皆に伝えなければならないことがある。3年前の、カシミスタンの大乱のことだ」
「カシミスタンの、大乱?」
「おい隊長、別にガキどもに話さなくたっていいだろ……!」
「いや、ラスティ。この一件は皆に共有する必要がある。あの日、カシミスタンで何が起こったのか。それを知らずしてカシミスタンへ踏み込んでも、土の魔女の理解は得られまい。カシミスタンに住まう土の魔女にとって、王国の騎士団は、敵に等しいのだから」
「……」
クラウスが『カシミスタンの大乱』というワードを持ち出すと、場の雰囲気がガラリと変わる。唯一、記憶喪失ゆえに大乱のことを知らないアルトがコテンと首をかしげる中、ラスティは声を荒らげつつクラウスの肩を掴んで黙らせようとするが、対するクラウスは頑として受け入れず、大乱について話を進める。結果、ラスティは深いため息とともにクラウスから目をそらした。
「敵って、どういうことですか?」
その後、リゼットの疑問を契機として、クラウスは語り始めた。
元々、カシミスタンは代々、土の魔女の魔力によって栄えてきた都市であること。その都市が3年前、当時カシミスタンに駐屯していた王立騎士団の団長ルドルフが、カシミスタン領主である土の魔女:サイージャを殺し、街に火を放ち、仲間の福音使徒を招き入れたことを契機として、福音使徒と騎士団との泥沼の殺し合い――カシミスタンの大乱――が発生したこと。この大乱に巻き込まれて、大多数のカシミスタンの住民が命を落としたこと。もはや滅ぶしか道のなかったカシミスタンは、風の魔女の必死の救助活動のおかげで、かろうじて滅亡を回避したこと。
「大乱の後、王都は騎士団を通じて、カシミスタンに多大な人的支援と救援物資を提供し、復興に助力してきた。だが、騎士団長のルドルフが裏切ったという明確な事実がある以上、カシミスタンの住民の騎士団への不信は拭えない。……私がここで皆にカシミスタンの大乱について話したのは、カシミスタンを訪れた時に、必ずしも領主や住民に歓迎されないことを覚悟してほしかったからだ」
「「「……」」」
「ま、罵声を浴びせられたり、石を投げられたりくらいはしそうね。ののか、ちゃんとアタシのこと守りなさいよ。アタシの肌に傷1つつこうものなら……わかってるわね?」
「が、がががガッテンです!」
「いえ、レディに体を張らせるわけにはいきません。ののか殿、サクヤ殿はこのアーチボルトが守りますゆえ、そう震えなさるな」
「あ、ありがとうございますぅ、アーチボルトさん!」
「こら筋肉ゴリラ! ののかを甘やかさないの! ののかはこれくらいでちょうどいいんだから!」
クラウスの話が一区切りとなり、シンと室内が静まる中。サクヤがののかをジト目で見つめながら圧をかけると、ののかはブルブルといった擬音を体中に纏わせながらもドンと胸を張る。そんな、絶妙に頼れないののかを見るに見かねたアーチボルトが助け船を出すも、サクヤはすげなく突っぱねる。そんな発言を経る内に、いつの間にか場の重苦しい雰囲気が消え去っていることに、アルトは気づいた。
「だが、何も今すぐカシミスタンへ向かうわけではない。砂漠遠征には、実績のある隊商の協力が必要不可欠だ。その隊商の選別を行う間、第9小隊は待機とする。皆、来たるべき日に備えて、英気を養うように」
そうして。若干ながらも和やかな空気になったところで、伝えるべきことをすべて伝えたクラウスの号令により、この場は解散となるのだった。
◇◇◇
「すまないね、アルト、リゼット。私の仕事に付き合わせてしまって」
「いえいえ。この程度、なんてことありませんよ」
「はい、それに私もちょうど暇していましたから」
作戦室での会話の後。アルトとリゼットはクラウスとともに王都ランベルトの大通りを練り歩いていた。クラウスから直々に、カシミスタン遠征の隊商選びに協力してほしいと頼まれたからだ。
「それにしても、隊商を選ぶのも隊長の役目なんですね。意外でした」
「本来なら国と懇意にしている隊商の中から陛下が選ぶのが筋だ。しかし此度は陛下から、『個性豊かな第9小隊と相性の良い隊商を選んでほしい』と、私に隊商選定を一任なされたのだ。それゆえ、相性の良い隊商を選ぶためには、他の隊員の意見を汲み入れる必要があると考え、アルトとリゼットを誘ったのだ」
「そのような経緯があったんですね。……けれど、どうして隊長は俺たちを誘ったんですか? 第9小隊との相性はともかく、騎士団の遠征のことなんて全然知らない俺たちより、アーチボルトやラスティを誘った方が良かったんじゃないですか?」
「アーチボルトはその出自ゆえ、騎士団の武具の手入れを最優先にする性質でね。今回は残念ながら、手入れが必要な武器が多いからと、断られてしまったよ。ラスティについては、先の会議室の様子から察せられるだろうが、カシミスタンの大乱の当事者だ。ラスティには今、1人の時間が必要だ。だから、アルトとリゼットを誘わせてもらったんだ。……せっかくの2人水入らずの一時を邪魔して悪かったかな?」
「ひゃう!? い、いきなり何を言うんですか、クラウス隊長!? 違いますよ、私とアルトはあくまで家族ですから。そういう関係じゃありませんから!」
「ほう、それはすまなかったね」
「それで、隊商選びですが……俺たちは何をすればいいですか、隊長?」
「そうだね。君たちは大広場の出店から、砂漠の品を販売している店を見つけるんだ。そういう店を一定数見つけ出したら、私に報告してほしい。君たちが報告してくれた店の中から、私が見繕った対象に、ムシャバラール砂漠への遠征の話を持ちかけ、交渉を行うという寸法だ」
「わかりました。アルト、行こう?」
「あぁ」
クラウスから隊商選びの大まかな流れを確認したアルトはリゼットとともに、両隣に立ち並ぶ、数多くの出店の商品を確認しながら、人波をかき分けてゆっくりと大通りを歩んでいく。大通りはいつも通り盛況で、1つ1つの出店の商品に軽く目を通すだけでも一苦労だ。
「砂漠の品、砂漠の品……なぁリゼット。どれが砂漠っぽい商品かってわかるか?」
「うーん、難しいね。例えば、ドライフルーツとか、サボテンとか、そういうのを売ってる店が砂漠帰りっぽいんじゃないかな」
「なるほど……」
アルトがリゼットの助言を参考にしつつ、改めて幾多もの出店に軽く目を通していると、ここで。アルトはふと、とある店に視線を集中させる。リゼットの言う、砂漠っぽい商品があったわけではない。ただ、その出店には――アルトにとって非常に見覚えのある、金髪ツインテール少女の姿が描かれた、茶碗、タオル、アクセサリー等の商品がずらりと並べられていたからだ。
「アルト、これ……!」
「あぁ。ポポ、だよな」
アルトとリゼットは、出店に並べられた展示用のタオルを手に取り、生地にプリントされているポポをじっくり見つめる。アルトもリゼットも、ポポとは3年前のミトラ村のお祭りの日にしか会っていない。だけど、両者ともにポポの印象は、脳裏に強く焼きついている。
「『慈愛の魔女、ポポ。関連商品を期間限定で復刻。今ならポポ商品が全品3割引!』。……リゼット、魔女って地水火風時の5人しかいないって話だったよな。慈愛の魔女なんていたか?」
「ううん。5人しかいないはずだよ。でも宣伝文句に『魔女』って言葉を採用してるってことは、まさかポポは――」
「――ほーう? ポポさんグッズに興味を持つということは、あなた方も慈愛の魔女:ポポさんのことにご興味が?」
「「え?」」
アルトは、出店の傍らの看板にふと視線を向けて『慈愛の魔女』というワードに疑問を口にする。リゼットがアルトの疑問に、今の己の推論を述べようとした時、アルトとリゼットに第三者から声がかけられた。アルトたちが出店の奥に視線を向けると、出店から栗色の短髪に、腰に装着したふさふさの尻尾が特徴的な、1人の少年が姿を現していた。
「お初にお目にかかりますね、お客様。僕はユアン、ユアン商会の社長を務めています。どうぞよろしく」
「ユアン商会って、もしかしていつも村に来てくれる行商の……」
「ふっふっふ、いつもご愛顧、ありがとうございます」
レグナント王国の全域に支店を持つ、巨大商社ユアン商会。その社長だと主張する目の前の少年ユアンは、アルトが零した発言を受けて、得意満面な笑みとともに腕を組み、感謝を告げる。
「だけど、そのユアン商会がどうしてポポの絵を描いた商品を販売してるの? こういうのって本人から許可をもらわないで勝手にやったらいけないんじゃないの?」
「勝手に、と言われるのは心外ですね。我々ユアン商会は、ポポさんと専属契約を結んでいます。ユアン商会がポポさんに便宜を図る代わりに、ポポさんを使って商売することを認めてもらう、そういう契約です。こうしてポポさんの似顔絵を用いて商売することを、本人から直々に認められているんですよ」
「――風の魔女ポポと専属契約を結んでいる、か。つまり、ミスター・ユアン。君は風の魔女たるポポの行方を把握している、ということだね?」
リゼットがユアンの商売方法に疑義を抱くと、ユアンは不満げに頬を膨らませながら、いかにユアン商会が特別なのかを声高に語る。と、ここで。アルトとリゼットの背後からユアンへの問いが投げかけられる。いつの間にか、アルトとリゼットの元にクラウスも赴いていたようだ。
「おや、あなたは?」
「王立騎士団第9小隊隊長のクラウスだ。よろしく頼むよ」
「あぁ。あなたが最近うわさの第9小隊の隊長ですか。ええ、よろしくお願いします」
ユアンからの疑問の眼差しに対しクラウスが端的に自己紹介を行い、互いに紳士的に握手を交わす中。アルトとリゼットはしばし衝撃に固まっていた。今まさに、クラウスの口からさらっと、『風の魔女ポポ』というワードが飛び出したからだ。
「隊長。今のって、どういう意味ですか? ポポが、風の魔女?」
「あぁそうだ。風の魔女の名はポポだが……どうしたんだい? 2人とも、動揺しているようだが」
「あ、えと、その――」
「――俺とリゼットは、3年前にポポと会っているんです。その時、俺はポポに命を、心を救われていて。だから過去の恩人が実は風の魔女だった、ってことについ驚いてしまって……」
「なるほど。そんな縁があったんだね」
アルトが動揺冷めやらぬ間にクラウスにポポのことを尋ねると、クラウスから改めて『風の魔女=ポポ』という確定情報を提示される。その後、クラウスからの疑問に、アルトがリゼットに代わり過去のポポとの縁を伝えた時、ようやくアルトの中でポポが風の魔女であるという事実に得心できた。
あの日、アルトがポポに救われた日。狼はアルトを起点とした竜巻のようなものに切り刻まれたように見えた。また、ポポが『リトルヒール』と唱えただけでアルトの怪我を治したあの御業も、魔法だったと考えれば納得できるからだ。
「さて。先ほどはぐらかされた話を元に戻すとしよう。ユアン、君はポポの居場所を知っている、そうだね?」
「ええ。ある程度は知っていますね。ポポさんには日頃から旅の必需品を補充する際、ユアン商会をご愛顧いただいてますから」
「ならば話は早い。我々は今、陛下から密命を受けて各地を遠征している。その密命を果たすために、魔女を4人、王都に集めなければならない。そこでユアン、風の魔女の居所の情報提供を願えないだろうか?」
「残念ですが、お断りします」
「ほう? 陛下の御心に反する、と?」
「僕は自由な商売人ですからね。陛下のご意向をちらつかせたって無駄ですよ。権力には屈しません。僕にとって何よりも大事なのは、商売相手との信頼関係です。ここでポポさんのことを洗いざらいあなた方に話してしまえば、ポポさんからの信用を失ってしまう。それだけは避けなければいけません。だから、僕がポポさんのことを話すつもりはありません」
「なぜ、風の魔女の情報提供を行うことがユアン商会の信用の失墜に繋がるのかな?」
「あなたが僕にポポさんの行方を尋ねるということは、騎士団の調査隊はポポさんの行方の手がかりを見つけられていないということですよね? まぁそれも当然でしょう。なぜならポポさんは、福音使徒に狙われないように日頃から変装していますから。そんなポポさんのことをあなた方に伝えるということは、ポポさんがどんな変装しているかを伝えるのと同義です。そのようなポポさんを危険にさらす情報提供をすれば、ポポさんは僕に裏切られた、と解釈するでしょうね。当然、ポポさんからの信用も無に帰してしまいます」
「それは理由になっていないな。ポポの変装の目的が、福音使徒から身を隠すことであるならば、我々第9小隊に情報提供しても何も問題ない。我々が王都に魔女を集めているのは、福音使徒から魔女を守るためでもあるのだから。なのになぜ、そこまで情報提供を拒む?」
クラウスはユアンへと向き直り、ユアンにポポの情報提供を求めるも、ユアンは明確に拒否の意思を示した。アナスタシア陛下が発動させた祝歌計画達成を阻害することとなるユアンの動きに対し、クラウスはあくまで冷静に、ユアンが情報提供を拒否する理由を探るための質問を次々と繰り出していく。
「簡単な話です。第9小隊の中に、福音使徒のスパイがいないってどうして断言できますか? そういうことですよ」
「な!? ユアン、お前――俺たちの中に福音使徒がいるって言いたいのかよ!? あんな、サクヤをマグマに突き落とそうとした奴の仲間がいるって本気で思ってんのかよ!?」
「アルト! ちょっと落ち着いて……!」
結果、ユアンが第9小隊に、身内に福音使徒のスパイがいる可能性を警戒していることを知った時、これまでクラウスとユアンの話の推移を黙して見ていたアルトが思わず声を荒らげた。アルトが怒りのままユアンに詰め寄ろうとして、リゼットに手を強く引っ張られて止められる中。ユアンはやれやれとでも言いたげに両手を広げてため息を吐くと、シルクハットを目深に被り直し、言葉を紡ぎ始める。
「クラウスさん。このままあなたが僕にどんな言葉を弄したとしても、僕のスタンスは変わりません。なので、どうしても僕にポポさんの情報を割らせたいのならば、1つ提案しましょう。僕を――第9小隊に加えませんか?」
「なに?」
「僕に、あなた方を見極めさせてください。あなた方の中に福音使徒が紛れ込んでいないか。ポポさんの情報を提供するに値する、信用できる方々かどうか。その結果、信用できると僕が判断したその時には、ポポさんの情報を公開しますよ」
「第9小隊は騎士団の精鋭と、強力な魔法を行使できる魔女を集めた部隊だ。興味深い提案だが、その提案を安々とは受け入れられないな」
「ごもっともな主張ですね。足手まといをひいきで第9小隊に加えたとあっては、第9小隊の立場に悪影響を与えますから。……確かに僕は皆さんほど戦えるわけではありません。少々銃を扱えますが、護身程度の腕前です。しかし、僕は商人です。僕が第9小隊の一員となれば、皆さんの旅路を全面的にサポートし、第9小隊の密命とやらの達成に貢献できますよ? 武器防具兵糧その他必需品を格安で調達できますし、遠征の道中を安全快適に行うようにするためのキャラバン隊の編成や、遠征ルートの構築もお手の物です。僕を加えた時に、第9小隊に絶対に損はさせません。それは僕の商人としてのプライドに賭けて、確約しましょう。……さて、どうしますか? クラウス隊長」
「――ふむ、いいだろう。ユアン、君を仲間として歓迎するよ」
「ありがとうございます!」
ユアンの提案に対し、クラウスは当初のムシャバラール砂漠への遠征のための隊商選定という目的から、ユアンを第9小隊に加えるという提案は有益だと捉えつつも、一度提案を拒否し、ユアンの出方をうかがう。その後、己を巧みに売り込むユアンの様子から、ユアンなら第9小隊に加えても問題ないと判断し、クラウスはユアンを迎え入れることとした。対するユアンは満面の笑みで元気よく感謝の言葉を顕わにした。
「ということで、お二人もこれからよろしくお願いしますね」
「あ、あぁよろしくな、ユアン。にしてもお前凄いな、隊長と真っ向から交渉するなんて」
「うんうん! こんなに小さいのに、ユアン君ってすごいんだねぇ」
「ちょっと、子ども扱いしないでください! 尻尾も触らないで!」
「あはは、ごめんね、ユアン君。ユアン君が見た目の印象と違ってあまりにもしっかりしているものだから、てっきり狐でも化けてるんじゃないかって思っちゃって」
「全く、マナーのなってない人ですね……」
その後、アルトとリゼットに頭をぺこりと下げるユアンに、アルトとリゼットはユアンに対する今の心境を素直に口にする。さらにリゼットがつい衝動的にユアンの頬を触ったり、ユアンの腰でゆらゆら動く尻尾をさすったりしていると、どのリゼットの行動がすべてユアンの地雷だったようで、ユアンは先ほどまでの上機嫌だった様子から一転、腕を組んでぷんすかと怒ってしまう。一方、ここで初めてユアンの年相応な一面を垣間見たアルトたちは、内心でこっそり安心する。
「さて、我々の目的は果たした。今日はここで解散としよう」
かくして。クラウスは隊商選定を終えた旨を陛下に報告するため、アルトとリゼットはせっかく大通りにいるのだからと買い物を行うため、ユアンは出店をユアン商会の従業員に引き継いだ後、第9小隊の元に赴くため、4人は一時解散とするのだった。
◇◇◇
ユアン商会の出店から、クラウス・アルト・リゼットが去った後。出店の奥の路地裏から、タンポポ(♂)に扮したポポがおもむろに姿を現した。
「ごめんね、ユアン。ボクのことを隠してもらって。陛下に逆らうことを言わせちゃって」
「構いませんよ、他ならぬあなたからの頼みですからね。むしろ僕のほうこそ、風の魔女の情報を盾にして、第9小隊に入ることができたことに感謝したいくらいです。いやはや、陛下の密命を受けて秘密裏に動く第9小隊……ビジネスのにおいがプンプンします! これからが楽しみですねぇ」
ユアンは本当に気にしていないみたいだ。ユアンに無理強いしてしまったのではとこっそり罪悪感を抱いていたポポだったが、口角を釣り上げてニタァと笑うユアンを前に、ホッと胸をなでおろすのだった。
ポポ:金髪ツインテールの風の魔女。レグナント王国が風の魔女の手がかりを捜している以上、いずれユアン商会にたどり着くと考え、事前にユアンにポポのことを情報提供しないようお願いしていた。その目的は、ポポ自身にまだ第9小隊に入る意思がないため。
アルト:原作主人公にして、記憶喪失の少年。一応、17歳。今回あまり存在感がなかった勢にして、この度ようやくポポが風の魔女であることを知った勢の1人。
リゼット:少々くせっ毛のある淡い赤髪をした水の魔女。17歳。今回あまり存在感がなかった勢にして、この度ようやくポポが風の魔女であることを知った勢の1人。ユアンの地雷を踏むのが上手なフレンズでもある。
クラウス:レグナント王国の騎士団長にして第9小隊隊長の男性。おそらくユアンは第9小隊に入るためにしばらく販売していなかった風の魔女グッズを『復刻』と称して販売を再開し、その出店の店員をしていたのだろうと想定しつつも、敢えてユアンの思惑に乗ることにした。
ユアン:ユアン商会の社長。現在は13歳。この度、第9小隊の新メンバーとなった。なお、王都ランベルトの大通りでポポ商品を出店で売っていたのは、アルトたちを出店におびき寄せて接触し、ユアンが第9小隊の一員に加わるための布石だった。
ということで、15話は終了です。原作ではポート・ノワールで加入するユアンが、本作品ではこのタイミングで加入することになりました。やっぱり私はユアンの発言内容を考えるのが一番楽ですね。ホント、ユアンと相性良いんですねぇ、いやでもマジでなんででしょうね? 謎は深まるばかりなのです。