どうも、ふぁもにかです。今回から本格的にカシミスタン編が始まります。話数的には4~5話程度を想定しています。なんたって、原作とこの作品とで土の魔女になってる人がそもそも異なりますからね。それぐらい話数を用いてしっかり描写しなければ。頑張ります。
さてと、ところで次はニキ氏を苦しめる番ですね。大丈夫、サクヤ様も通った道ですし、いざとなったらアルトの調律がありますから!(暗黒微笑)
レグナント王立騎士団第9小隊は、新たに仲間に加わったユアンの手腕により、ムシャバラール砂漠の遠征への準備を非常に円滑に進めることができた。そして、予定を前倒しにして開始された遠征自体も、ムシャバラール砂漠は昼夜の気温差50度を誇る苛烈な気候であるにもかかわらず、これまた順調で。アルトやリゼット等、第9小隊に入るまでは騎士の経験のなかった面々は、優秀な隊商の支援の有無でこうも旅路の快適さに差異が発生するのかと、内心で驚きを顕わにしていた。
そのようなトラブルの欠片もないスムーズな遠征を始めて数日後。アルトたちの前に、幾何学模様を描く純白の紋章が壁を形作り、天までそびえる光景が映し出された。
「これが、土の魔女の作った、カシミスタンの大結界……」
「何と凄まじい。魔女とは、ここまで大規模な魔法を行使することもできるのだな」
「結界の主よ。私は第9小隊の隊長、クラウス。我々第9小隊が結界を踏み越えることを、カシミスタン領主のニキ殿が認めたことは既に周知のことだろう。ここを通されよ」
アルトとアーチボルトが大結界を上から下までしかと見つめて、改めて土の魔女の魔法に圧倒される中。クラウスは結界自体に第9小隊の来訪を報告する。すると、結界の一部分がバキリと砕け落ちて、アルトたちが入れる程度の隙間が発生した。
「ここから入れ、ということか」
「ええ、その通りです。さっさと行きますよ」
結界を踏み越えたことのない第9小隊の面々を代表して、クラウスが隙間を確認しようと歩を進めるよりも早く、ユアンがスタスタと結界の隙間を通り過ぎていく。結界はユアンを拒まなかった。
「全然驚かないのね、そこの銭ゲバ狐は」
「僕は王国全域に支社を持つ、ユアン商会の社長ですよ? 当然、ニキさんからカシミスタンでの商売の許可を、とっくの昔に取りつけています。結界を抜けるのももう慣れっこなんですよね」
「はぁぁ。さっすがユアンさんですねぇ」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう」
火の魔女サクヤから軽く探りを入れられたユアンは、己もまた結界を越えることのできる限られた人間の1人であることを皆に共有する。結果、心の底からユアンの凄さに感心しているののかの反応をもらえたため、ユアンは得意満面に腕を組んだ。
そのようなやり取りを挟みながら、全員が結界を越えると。背後の結界の隙間が光り輝き、次の瞬間には隙間が幾何学模様の紋章で埋められる。と、その時。アルトたちの前方から、2人分の砂を踏みしめる足音が響く。アルトたちが結界から前方へと振り返ると、青髪の小柄な少女と、青紫色と紫陽花色とが織り混ざったストレートの髪をした長身の男性が姿を現していた。
「第9小隊の人たち、で合ってる?」
「いかにも。我々がレグナント王立騎士団第9小隊だ」
「そう。……わたしはモルディモルト。カシミスタンの領主のおねえちゃ――ニキの妹。こっちは護衛のキース。とりあえず、ついてきて」
「え、ちょっとモルディモルトさん?」
「――待て小娘」
「ふぎゅ!?」
青髪の少女ことモルディモルトは、眼前の訪問者が第9小隊であることを確認すると、端的に己とキースを紹介した後、相手方の返事を待たずに背を向けて、スタスタと去っていく。困惑するリゼットのことなどお構いなしだ。が、直後。去りゆくモルディの首をキースが捕まえ、引っ張り戻したことで、モルディモルトが第9小隊を残したまま立ち去る展開は消え去った。
「今の貴様は王都からの使者を砂漠からカシミスタンまで安全に迎え入れるための案内人だ。そのような無礼な態度でどうする?」
「だって、知らない人がこんなに、いっぱい――」
「貴様の感想など知ったことか。案内人の貴様がそのような不遜な態度では、第9小隊の心証を悪くするばかりだぞ。そうなれば、後の交渉で不利になるのはニキだ。貴様は姉を苦しめたいのか? 姉に頭を下げさせたいのか?」
「それは、嫌。盛らない……」
「ならば案内人として最低限の務めを果たせ。それが案内人を買って出た貴様の義務だ」
「うぅぅ……」
「ったく、なぜこの俺が不出来な小娘を教育せねばならんのだ……」
キースから落ち着いた口調ながらも己の言動を思いっきり咎められたモルディモルトは、自身の感情と案内人との責務との狭間に立たされることを余儀なくされ、苦しみのうめき声を漏らす。一方、案内人として失格なモルディモルトの有様に、キースは頭を抱えて深々とため息をついた。
「相変わらずですねぇ、モルディさんは」
「ユアンは、あのモルディモルトって子を知っているのか?」
「ええ。よく領主館に必要なものを買い出しに、ユアン商会まで来ていましたから。モルディさんは筋金入りの人見知りなんですよ。僕も慣れてもらうまで1か月かかりました。……それだけに、今の状況はちょっと不思議ですけどね。話を盗み聞く限り、その人見知りのモルディさんが僕たちの案内人に立候補したようですし」
「言われてみれば、確かに。人見知りを克服しようとしてみた、とかか?」
「ま、その辺が妥当なところですね」
王都からの使者たる第9小隊の案内人の1人がもう1人に対して、使者の目の前で堂々と説教をかます。突如開催された公開処刑にアルトたちが戸惑う中、ただ1人モルディモルトのことを知るユアンが生暖かい目をモルディモルトに注ぐ。そこでアルトが純然たる疑問をユアンにぶつけると、ユアンはモルディモルトと出会った経緯と、現状に対する不思議な点を口にする。が、アルトもユアンも大してモルディモルトが案内人を務めていることに重要性を見出さなかったため、話はそこで打ち切られることとなった。
「さっきは、失礼な態度を取って、ごめんなさい。お詫びに、カシミスタンまでの道中、あなたたちの質問に、なるべくなんでも答える。それで、許してほしい」
「どうか頭を上げていただきたい、モルディモルト殿。我々王立騎士団がカシミスタンの住民からどのように思われているのかは端から承知の上。カシミスタンに火を放った我々騎士団が、モルディモルト殿に対し、カシミスタンに対し悪印象を抱く権利はない。どうか安心してほしい」
「……別に、わたしはそんなに騎士団のこと、嫌いじゃない。あなたたちが直接、火を放ったわけじゃないし。だから、そんなにへりくだらなくて、いい。わたしの名前も長くてめんどいと思うから、モルディって呼んで?」
「承知した。では、これからはモルディ殿と呼ばせていただこう」
「盛る」
しばし時間が経過した後。案内人としての務めを全うする覚悟を決めたモルディモルトが改めて第9小隊の元へと歩み寄り、深々と頭を下げる。元々、モルディモルトの態度を責めるつもりなど欠片もなかったため、クラウスは膝をついて、頭を下げたモルディモルトと目を合わせて、モルディモルトの態度を咎める意思がないことを伝える。結果、モルディモルトはゆっくりと頭を上げ、己のことを『モルディ』と呼ぶよう要請した。第9小隊と、カシミスタンへの案内人とのファーストコンタクトはどうやら、双方にとって悪くない位置に着地したようだった。
その後、アルトたちは1人1人、モルディモルトとキースに自己紹介をしてから、モルディモルトに先導されるままにカシミスタンへ向けて出立する。
「じゃあ、せっかくモルディから言ってくれたんだし、1つ質問していいかしら?」
「なに、サクヤ?」
「どうしてアタシたちをここまで出迎えてくれたの? アタシたちは王立騎士団なんだから、わざわざ案内人を、それも領主の妹を差し向けなくても、砂漠で骸骨になんてならずに、問題なく領主のところまでたどり着けたわよ?」
「ありがた迷惑、だった?」
「そういうわけじゃないけど。騎士団に対してちょっと過保護じゃないかって、少し気になったのよ」
「なら、良かった。理由は、3つある。1つ目は、もしもあなたたちが砂漠に慣れてなくて、怪我人や病人がいた時にサポートするため。第9小隊は、元々騎士だった人だけじゃなくて、騎士とは無縁な魔女もいるって話だったから。2つ目は、カシミスタンのみんなから、第9小隊を守るため。わたしはそんなに嫌いじゃないけど、ほとんどのカシミスタンの人は、騎士団のことがだいっきらい。でも、わたしやキースが一緒にいれば、第9小隊に罵声や石は投げられないから。3つ目は、えと――ごめんなさい。理由は、2つだけだった。言い間違い」
「貴様らの中に福音使徒の隠れ信徒がいないか、監視するためだな」
「なッ――」
カシミスタンへと向かう道中に、サクヤが己の中で抱いた疑問を真っ先にモルディモルトにぶつけると、モルディモルトはたどたどしい口調ながらも、なるべく第9小隊が理解できるようにしかと言葉を選んでサクヤの疑問に答えていく。だが、モルディモルトがふと口をつぐんだ時、キースがモルディモルトが言いよどんだ発言の続きを容赦なく放った。瞬間、場が文字通り、凍った。
「キース。わざわざ言わなくても」
「貴様は質問に何でも答えると宣ったばかりだろう? 己の言葉にくらい責任を持て」
「それはそうだけど……」
「貴様ら第9小隊に今の内に告げておくが、今のニキはかなり神経質だ。1年前に教義に傾倒し、暴走した福音使徒が単身でカシミスタンを訪れ、カシミスタンの大乱を再現しようとボヤ騒ぎを起こして以降、土の魔女にカシミスタンを結界で封鎖させ、鎖国じみた統治を行っている。……下手な発言をすれば最後、ニキの逆鱗を買い、交渉は完全に決裂するだろう。心しておくことだな」
「忠告痛み入るよ。肝に銘じるとしよう」
キースはモルディモルトのジト目を難なくはねのけると、第9小隊へと向き直り、ニキとの面会に慎重を要するよう忠告し、クラウスは思わぬ形でキースから貴重な情報をもらえたことに謝意を述べる。この時こそが、これまで和気あいあいとした雰囲気を携えて、順調に進められていたカシミスタン遠征に対し、第9小隊の面々が改めて気を引き締めた瞬間だった。
「お姉ちゃん……」
そして。モルディモルトの憂いを帯びた声は、砂漠を吹き抜ける強風に無情にもかき消された。
アルト:原作主人公にして、記憶喪失の少年。一応、17歳。相変わらず存在感の薄い主人公。だけど、今は第9小隊の代表として渉外を行うのはクラウスなのだから、仕方ないのだろう。
クラウス:レグナント王国の騎士団長にして第9小隊隊長の男性。気難しそうな性格をしている案内人モルディモルトの性格を何となく察した上で接したため、モルディモルトからある程度の信用を勝ち取ることに成功した。
ユアン:ユアン商会の社長。現在は13歳。砂漠遠征に関し、己の力を十全に発揮して全力でサポートを行い、快適な遠征を提供してみせた。モルディモルトとも知り合いのようだ。
モルディモルト:土の魔女ニキの妹たる、青髪の少女。16歳。「盛る」「盛らない」が口癖。原作レベルの悲惨な目に遭っていないため、そこまで引きこもり気質にはなっていない模様。
キース:サイージャとの契約により、ニキとモルディモルトを守る傭兵。21歳。戦う力を持たないモルディモルトが第9小隊の案内人に立候補したため、モルディモルトの護衛のために仕方なく、行動を共にしていた。
というわけで、16話は終了です。こういう和気あいあい(?)としたカシミスタン編というのは中々新鮮ですね。原作カシミスタン編はただただ悲惨さを煮詰めた地獄でしたからね。