風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。ここの所、嫌な予感を抱かずにはいられないサブタイトルが続いているような気がしますが、しょせん気のせいですのでご安心を。だいじょぶだいじょぶ、何とかなりますよ。ええ。



18話.自殺強要

 

 キースがルドルフに敗れたオアシスから南東に位置する孤月の丘にて。リゼットを除いた、アルトたち第9小隊が孤月の丘にたどり着いた時、状況は限りなく切迫していた。切り立った崖の上には、ピンク色のウサギのフードを目深に被った少女ドロシーと、漆黒の隊服に身を包んだ壮年の男性ルドルフと、手首と足首をロープで縛られてドロシー&ルドルフの間に座らされているモルディモルトの姿。一方、3人が見下ろす崖下には、キッとドロシー&ルドルフを睨むニキの姿。そして――

 

 

「よぉ、久しぶりじゃねぇか。わめくだけしか能のねぇ田舎者がよぉ」

「全員、動かないで。少しでも動けばどうなるか、わかるわね?」

「くそがッ……卑怯な手を使いやがって、こんのクソジジイ!」

 

 ニキの元へ駆けつけようとした第9小隊の行く手を阻む、燃えるような赤髪をしたダンテと、絹糸のような銀の長髪をたなびかせる時の魔女ヒルダの姿。ヒルダは第9小隊に強い口調で制止を求め、同時に崖の上のルドルフに目配せをし、ヒルダの視線を受け取ったルドルフは1つうなずき、モルディモルトの首筋に戦斧を添える。モルディモルトの生殺与奪が福音使徒に握られてしまっている現状、第9小隊はうかつに動くことができない。復讐相手のルドルフを視認し、今すぐにでもルドルフを殺したい衝動に駆られているラスティでさえも、ルドルフに怒号を上げることしかできない。

 

 

「アルト、みんな……」

「……」

 

 モルディモルトは首筋から伝わる戦斧の冷たい感触に、消え入りそうな震え声を発することしかできない。他方、ニキは黙したまま第9小隊を一瞥した後、視線を崖の上に戻して会話の口火を切る。

 

 

「それで。モルディを人質にして、私をここまで連れてきて、私に何をさせたいのでしょうか?」

「もうわかってるんじゃないの? 簡単な話だよ。――ここで妹を殺されたくなかったら、今すぐ自殺して☆ はい! じっさーつ! じっさーつ! じっさーつぅ!」

「……目的は私の命1つだけ、そういうことですね? わかりました、私はここで死ぬ運命としましょう」

「ニキ!?」

「おねえ、ちゃん? なにを、言ってるの?」

 

 ドロシーから凄まじくノリノリな音頭とともに自殺を強要されたニキは、淡々とした声色で意外にもあっさりと了承した。まさかのニキの回答にアルトを筆頭とした第9小隊が、モルディモルトが信じられないものを見るような眼差しをニキに注ぐ中、ニキは慣れた所作で腰に吊るしていた4丁の銃を宙に浮かび上がらせ、照準をニキ自身に向ける。

 

 

「ただ、これから死にゆく私への手向けとして、少し教えてくれませんか? 今、私の中にはいくつか疑問がうずまいていて、疑問を放置したまま逝きたくはないのです。……私の願い、叶えてくれませんか?」

「はぁ? なんでドロシーがアンタなんかの言うことを聞かないといけないわけ? ドロシーに命令していいのはヒルダだけ――」

「――承知した、土の魔女よ」

「ちょッ、おま、なんで頷いちゃってんの!? バカなのジジイ!?」

「ありがとうございます」

 

 ニキは己の死の瞬間が近づいているというのに、どこまでも透徹な眼差しでルドルフを見上げて、己の最期の願いを告げる。それをドロシーは容赦なく突っぱねようとして、ルドルフに遮られてしまう。敵に慈悲を与えるなんてバカげている。ドロシーがルドルフを責める中、ニキはぺこりと頭を下げて、問いを切り出した。

 

 

「まず1つ。どうして私を自殺させたいのですか? 私を殺したいのなら、モルディを人質にして私に自死を強制するなんて回りくどい方法を選ばずに、あなたたちが直接、私を殺せばいいのに。まさか、自分の手を汚したくない、だなんて理由ではないのでしょう?」

「次代の土の魔女を万が一にも生み出さないためだ。土の魔女を殺した後、土のクオリアも私の手で完全に破壊する。だが、クオリアには今もなお、未知の要素が多い。例えここでクオリアを砕いたとて、土のクオリアが元通りに復活する可能性は否めない。その時に、この娘が土の魔女を継承しようと思わないように、敢えて残酷に殺すのだ」

「私の自殺する瞬間をモルディに見せつけてトラウマを刻み込むことで、モルディを土の魔女にさせないため、ですか。……理解しました。そこまで残忍さを突き抜けているのはいっそ感心しますね」

「……質問は、それで終わりか?」

「いえ、もう1つあります。こちらが本命の質問です。――あなたたちの目的は、何ですか?」

 

 己がこれから自殺しなければならない理由を知ったニキは、悪態とともに静かにため息を吐く。ルドルフがニキの毒舌を正面から受け止め、次の質問を促すと、ニキは一拍置いた後に、福音使徒の秘密に大きく切り込む根本的な質問を繰り出した。

 

 

「ずっと不思議に思っていました。あなたたち福音使徒はヒルダの堕歌で街を、人を滅ぼしていく。そのような、世界を壊す破滅的な活動を続けています。同時に、あなたたちは世界各地から信徒を取り込み、どんどん勢力を拡大させています。だけど、これはおかしなことです。……だって、もしも福音使徒が世界を滅ぼすことが大好きなだけの、ただの快楽殺人嗜好クラブなら、こうも人が集まるわけがないんです。福音使徒の行いは重罪ですし、一般的な人は破滅願望なんて持ち合わせていませんから」

「……」

「だけど、あなたたちの元には次々と同志が集っています。今だって、カシミスタンを滅亡一歩手前まで追い込んだ福音使徒に、カシミスタンの住民が入信したことにより、私を死に追いやる事態に至っています。これはさすがに、ヒルダのカリスマや人心掌握力だけでは説明がつきません。……事象には必ず理由があるものです。だからこそ、聞かせてください。あなたたちの目的は、何ですか? あなたたちは世界を滅ぼしたその先に、何を見ているのですか?」

「……あまり、己を正当化するようなことを話すのは憚られるのだがな。妹のために潔く命を散らす覚悟を固めた土の魔女に敬意を表し、少しだけ語ろう。……福音使徒は、この世の真実を知っている。その真実はあまりに衝撃が強く、人々を信徒として生きる道に駆り立てるほどの威力を持っている。福音使徒の目的は……そうだな。世界のため、未来のためだ。真実を知る私たちはヒルダの指揮の元、最善の方法で人類の明日を守るために終わりなき戦いに身を投じているのだ」

 

 ニキの独白に近い問いに対し、ルドルフは逡巡の後に、ある程度は抽象的な文言を取り込みながらもニキに正直に回答する。ニキは、己の想定よりも多くを語ってくれたルドルフを心底意外そうに見上げた。

 

 

「ふっざけるなよ、クソジジイ! 何が未来のためだ、人類のためだ! テメェがやってることはただの人殺しだ! 殺戮だ! テメェは自分が正しいって思いこんで、ただ弱者をいたぶって遊びたいだけの気狂いジジイなんだよッ!」

「満足したか、土の魔女よ?」

「ええ、とても興味深いお話でした。誠実に答えてくれて、感謝します」

「では、土の魔女よ。カシミスタンの領主よ。ここで死に、未来のための礎となれ」

 

 ルドルフの回答にブチ切れるラスティをよそに、ルドルフはニキに改めて自殺を強要する。ニキは、宙に浮かべたままの4丁の銃のトリガーを、土の魔女の魔力で押し込もうとして――。

 

 

「やめて、お姉ちゃん! 死なないで! わたしのことはいい、から! だから、こんな奴らの! カシミスタンを燃やして、お母さんを殺した、こんな奴らの言いなりにならないでッ!」

 

 モルディモルトの悲痛な叫びがニキの鼓膜を打ち、ニキは肩をわずかに震わせる。ニキの視線の先で、モルディモルトはボロボロと涙を零していて。ニキもまた、妹をこうも悲しまざるを得ない現状に、何だか泣きたくなってしまった。しかし、ニキは決して、涙を流すつもりはなかった。泣いてしまえば最後、己を殺す覚悟が揺らいでしまうと容易に想像がついているからだ。

 

 

「良くないわ、モルディ。だってあなたは、私の大切な家族だもの」

「お姉ちゃんだってわたしの大切な家族だよ! 早く、銃を下ろして! わたしを、独りにしないで……!」

「あぁモルディ。私の愛しい妹。どうか、生きて。そして――私のようにはならないで」

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」

 

 ニキはモルディモルトの説得を無視して、今度こそ己に照準を合わせた4丁の銃の引き金を、魔力を介して引いた。刹那、乾いた銃声が立て続けに4発、孤月の丘を反響する。

 

 

「いやぁあああああああああああ!!」

 

 モルディモルトが絶叫する。数秒後には確定する悲劇に震えて、モルディモルトが絶望に満ち満ちた悲鳴を轟かせる。この時、誰もがニキの死を確信した。第9小隊はニキの死を止めることのできなかったことを深く深く後悔し、福音使徒は土の魔女殺害により祝歌計画が頓挫したことに歓喜した。

 

 しかし、現実は孤月の丘にいる誰もが想像しえない展開へと舵を切った。放たれた銃弾は、ニキに銃口が向けられていたにもかかわらず、ニキに命中することはなかった。突如ニキを中心に発生した激しいかまいたちにより、銃弾はあらぬ方向へ吹き飛ばされ、砂漠の地に力なく突き刺さる。

 

 

「お姉ちゃん、これ……」

「まさか……」

 

 原因不明のニキ自殺失敗という予期せぬ状況に。第9小隊も、福音使徒も理解が追い付かない中。ニキとモルディモルトのみが、1つの仮説に到達した。この状況に、非常に覚えがあったからだ。そうだ、3年前のカシミスタンの大乱の時も、絶望的な状況に追い詰められて、ニキが死を覚悟して、モルディモルトだけでも生かそうとした瞬間に、唐突に希望が届けられたのだ。風が、絶望をかき消したのだ。

 

 

「わわッ!?」

「むぅ!?」

「盛る!?」

 

 刹那。崖の上のドロシー・ルドルフ・モルディモルトの背後から強烈な突風が吹き抜ける。不意打ちの突風に3人はその場に踏みとどまることができず、3人まとめて崖から吹き飛ばされてしまう。

 

 

「ドロシー! ルドルフ!」

「モルディ!」

 

 このままでは3人が崖からはるか眼下の地面に落下し、死亡してしまう。ヒルダは自分自身とドロシー&ルドルフとの距離をゼロに変質させる瞬間移動の時魔法を行使することで、ドロシーとルドルフを落下死から救出する。アルトは、ヒルダとダンテの注目が第9小隊から逸れた瞬間を狙って1人駆け出し、モルディモルトの落下地点へと渾身の力で駆けていく。

 

 

(間に合えぇぇえええええええ!!)

 

 しかし、アルトとモルディモルトとの距離が遠すぎる。このままではアルトの手はモルディモルトに届かない。それでもアルトは必死にモルディモルトへと手を伸ばす。その光景を、モルディモルトは上空から眺めていた。己の落下速度はどんどん上がっていく。アルトはきっとモルディモルトを受け止められないだろう。だけど、今のモルディモルトには死への恐怖は欠片もなかった。だって、お姉ちゃんが死ななかったことがモルディモルトの妄想でないのなら、希望が風とともに届けられる未来が確定しているのだから。

 

 瞬間、モルディモルトが想定した通りの未来が訪れる。モルディモルトは地面に落下する前に、空中で誰かにより体をキャッチされた。お姫様抱っこ状態になったモルディモルトが、体を支えてくれている人の顔を見上げれば、そこにはモルディモルトの数少ない親友の顔があった。

 

 

「ごめんね、モルディ。いつもいつも、来るのが遅くて」

「それは確かに。でも、来てくれた……!」

「もうだいじょーぶだよ、モルディ。ポポが来たからには、誰も死なせないから」

「盛る!」

 

 風をまとって空中浮遊していたポポは、風の刃でモルディモルトの手首と足首をそれぞれ縛るロープを切断した後、地上へとゆっくりと着地してモルディモルトをお姫様抱っこ状態から解放すると、福音使徒をしかと見つめて宣言する。そんなポポの横顔はまるで歴戦の戦士そのもので。モルディモルトはポポを信じて元気よくうなずくのだった。

 

 




ポポ:金髪ツインテールな風の魔女。アルトを差し置いてヒーロームーブに専念し、カシミスタン勢の好感度を稼ぎまくるポポの明日やいかに。
ラスティ:養父ルドルフに育てられた砂漠出身の若者。24歳。父親同然に感じていたルドルフがカシミスタンの大乱を発生させたその時から、ラスティの心の中にはいつも復讐が巣食っている。
ニキ:土の魔女にしてカシミスタンの領主である緑髪の少女。16歳。今回の被害者枠1。現状、情緒不安定なニキは、己が死ぬことを躊躇する理由が妹が悲しむ以外で存在しなかったため、あっさりと死を受け入れ、積年の疑問を解消するためにルドルフから情報収集を行うこととした。
モルディモルト:土の魔女ニキの妹たる、青髪の少女。16歳。今回の被害者枠2。ニキがあっさり死を受け入れ、本当に自殺に走ったことが凄まじくショックだった模様。ポポのおかげでニキの死を回避できたため、ポポへのただでさえ高い好感度がますます突き抜けていっている。同時に今回も正ヒロインムーブに拍車がかかっている模様。
ドロシー:魔女ヒルダに付き従う福音使徒の1人。11歳。世界で一番怖いモノになりたいドロシーは、今回メチャクチャノリノリでニキに自殺を強要していた。
ルドルフ:魔女ヒルダに付き従う福音使徒の1人。40代。例えエクリプスから世界を守るために外道に堕ちたとしても、心まで堕ちたつもりのない彼は、ニキの願いに応じ、この世界の真実を少しだけ明かすことにした。

ジゼル「もしも本当に土の魔女が死にそうになった時に備えて、孤月の丘でずっとスタンバっていました」

 というわけで、18話は終了です。ポポが助けに入る確定演出が入ったので、もう第9小隊やカシミスタン勢が追い詰められるということはなさそうですね。いやぁ、良かった良かった。
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