風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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Q.どうしてポポを主人公にしたんですか?
A.自己評価低い系ヒロインって素敵だと思いません?

 というわけで。どうも、ふぁもにかです。この作品はバッドエンドから逆行するストーリー展開ゆえに序盤はどうしても暗くなります。そこを乗り越えた後は、ステラグロウらしく程よく和気藹々とした明るい感じになるかと思われますので、それまでの辛抱なのです。



2周目 原作開始前
1話.ポポのリスタート


 

 

「……ん、ぅ」

 

 目が覚めた時。ポポはベッドに背を預けて眠っていた。窓から太陽の日差しが差し込む中、ポポは寝ぼけ眼でゆっくりと体を起こす。

 

 そこはポポが一人で暮らしている小屋の中だった。港町ポート・ノワールから少々離れた草原に建てられた小屋は1つの大きな部屋で構成されていて、ベッドや台所やダイニングテーブルなど、本来であれば別々の部屋に備えつけてこその家財が一部屋に纏まっている。

 

 

「?」

 

 ポポは違和感を感じていた。ポポはいつの間に寝ていたのだろう。それに、ポポは昨日、何をやっていたのだろうか。

 

 昨日の自分が何をしていたのかを思い出せない。そのことに不思議さと若干の不安を感じつつ、ポポはひとまず眠気覚ましのためにいつも愛飲しているたんぽぽコーヒーを作ろうとする。と、その時。ポポの目が、とある物を捉えた。それは、歌唱石だった。レグナント王家が代々受け継いできた宝剣であり、指揮者のアルトがポポたち魔女を奏でて強大な合奏魔法を行使するために欠かせない道具だった。

 

 

「あッ……!」

 

 それを見た瞬間、ポポは全てを思い出した。

 ポポの脳裏に、月でのカルテジアンとの戦いの中で調律騎士団の仲間たちが次々と倒れる姿がフラッシュバックする。アルトの上半身が、カルテジアンのレーザーで消し飛ばされてしまった姿が脳裏に焼き付き、離れない。

 

 

「うぅぅあああああああッ!」

 

 ポポは頭をかきむしりながら、叫んだ。涙をボロボロと零す。ポポはぶんぶんと頭を左右に振って、脳内の映像を振り払おうとするも、まるで効果がない。そうこうしている内にポポは段々と体の平衡感覚がわからなくなり。ポポはふらついた足取りでベッドまで向かおうとして、何もないところでつまずき、頭から派手に転んだ。

 

 

「ぅぅ……」

 

 頭がジンジンと痛む。頭に手を当てると、指に血が付着していた。ポポはとっさに風魔法『リトルヒール』を用いて頭の怪我を治す。

 

 痛みは時に人を冷静にさせる。ポポもまた、転んだことで少しだけ冷静になった。ポポは、周囲を改めて見渡してみる。が、小屋の中にブブがいない。ブブは元々群れで各地を転々とする旅ブタで、3年前に群れからはぐれていたブブをポポが保護してからというもの、ポポはブブと常に行動を共にしていた。だがしかし、今ポポの小屋の中にブブはいない。

 

 ポポはゆっくりと立ち上がり、テーブルの上に置いてあるタオルで指の血を拭いつつ、壁に貼り付けているカレンダーを確認する。カレンダーの日付は、ポポたちがカルテジアンと戦った運命の日より、3年と110日前になっている。

 

 

 ――ポポ。今から私は、あなたにとても残酷なことをするわ。……私の魔法であなたを過去に飛ばす。

 

 と、ここで。ポポの脳裏にヒルダの言葉がよみがえる。カレンダーの日付。小屋にいないブブ。ベッドの上の宝剣。ヒルダの遺した言葉。3年前のポポだと使えないはずの魔法『リトルヒール』を今のポポが使えること。その全てが、1つの事実を示していた。

 

 ポポはヒルダの魔法で3年前に逆行したのだと。

 決してポポが長い長い悪夢を見ていたわけではないのだと。

 

 

「どうして、ポポなの……?」

 

 ポポは一人、虚空に問いかける。今はここにいない、ヒルダに対して問いかける。

 どうしてヒルダはポポを過去に飛ばしたのかがわからない。だってポポは、カルテジアンとの戦いでアルトの足を引っ張って、アルトを死なせてしまったのだ。ポポがアルトを殺したも同然なのに、どうしてヒルダは過去に飛ばす対象として、あの時点で戦闘不能になっていた仲間たちの内でまだ生きていたラスティやサクヤではなく、ポポを選んだのだろうか。ポポはダメで、グズな魔女で。失敗ばかり、間違いばかりで、頭も悪い。そんなことはヒルダもわかっていたはずだ。なのに、どうして。どうして。

 

 

 ――お願い、ポポ。どうか、どうか。エルクが愛した世界を守って。アルトが望んだ幸せな結末を導いて。あなたならきっと、できると信じているわ。

 

 再び。ヒルダの言葉が、ポポの脳裏に響き渡る。あの時、ヒルダは己の背中を黒いものに次々と刺されながらも、慈愛に満ちた眼差しをポポに注いでいた。とても痛かっただろうに、それでもヒルダは温かい微笑みをポポに向け続けていた。

 

 

「……」

 

 どうしてヒルダがわざわざポポを選んだのかはわからない。

 けど。このままポポが何もしなければ、未来を変えられないと諦めてしまえば。あの絶望的な3年後の未来がまたやってくる。もう、あんな思いは嫌だ。大好きなアルトが、大切な仲間たちが死ぬ光景なんて、もう見たくない。

 

 だから、まずはとにかく動こう。未来を変えるために、カルテジアンとの戦いに勝つために。何をどうすればいいかなんてわからないけど。それでも。どうにかして、未来を変えるんだ。だって。ポポはアルトに命を救われたのだから。ポポはヒルダに想いを託されたのだから。

 

 ポポの紺碧の瞳に、強い意志の光が宿った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ポート・ノワールの町役場。町長室にて。椅子に座る町長の中年男性、ボナンザは今現在、虫の居所が悪かった。なぜなら。あれだけポート・ノワールに顔を出すなと言い含めていたにも関わらず、ポポがボナンザに会いに町長室までやってきたからだ。

 

 ポート・ノワールは元々は小さな港町でしかなく、大して経済も発展していなかった。が、選挙でボナンザが町長になった5年前から急激に発展し始めた。

 

 そのカラクリは、ボナンザがポポを『魔女は人の役に立てなければ存在価値のないゴミ』だと常日頃から言い聞かせて、ポポをタダ同然で働かせ、ポート・ノワール一帯で育てている各種作物に合った風を吹かせているからだ。そして、そのポポの絶妙に調整された風で、違法である魔薬マピウムを大量に栽培して売り払い、高額なお金を獲得しているからだ。

 

 それゆえに。ボナンザにとって、ポポがポート・ノワールに頻繁に現れることは非常に都合が悪かった。ポポの発言からマピウムの栽培がバレてしまうかもしれないからだ。それを防ぐために、ボナンザは町長になった時にポポをポート・ノワールから追い出し、ポート・ノワールにポポの悪評を盛大に広めた。ポポが滅多な用事でもなければポート・ノワールにやって来ないようにするために手を尽くした。なのに今。ポポはボナンザの努力をあざ笑うかのように、普通にポート・ノワールの町長室を訪れている。その事実がボナンザを非常に苛立たせた。

 

 

「あのね、町長さん。ポポ、大事な話があるんだ」

「何かね? 手短に頼むよ」

「うん」

 

 久しぶりに見たポポはいつになく真剣な眼差しでボナンザを見つめているが、どうせ大した用事ではないだろうとボナンザは結論づける。ポポの頭の悪さは折り紙つきだ。12歳にもなって未だにロクに四則演算もできないポポの『大事な話』なんて、たかが知れている。

 

 

「ポポね、今日にでもサウス・ヴァレーから離れないといけなくなったんだ」

「……な、に?」

「だから、今までみたいに毎日ポポが風を吹かせて作物を育てたり、ポート・ノワールに来ようとしている魔物を追い払ったりはもうできないの。本当にごめんなさい、町長さん」

 

 ボナンザには、ポポが何を言ってきたとしても軽く言い包められる自信があった。しかし、此度のポポの大事な話は、ボナンザの想定のはるか埒外の内容だった。ボナンザがポポの唐突な衝撃発言に思わず固まっている間もポポの話は進み、ポポは申し訳なさそうに眉を下げつつペコリと頭を深々と下げる。

 

 ボナンザにとって、ポポの今回の発言は想定外もいいところだった。なぜなら。ポポは故郷のポート・ノワールを、サウス・ヴァレーを心から愛していて。どれだけボナンザがポポをこき使っても、どれだけポート・ノワールの住民から嫌われようと。ポポはポート・ノワールの役に立てることをやりがいに感じて毎日一生懸命務めを果たしていた。だからこそ。ポポがその愛する故郷を自分から離れようとする日が来るなんて、ボナンザは考えたこともなかったのだ。

 

 

「なぜだ。なぜ、離れないといけないんだ?」

 

 たまらず、ボナンザはポポに理由を問いかける。

 ポポの存在は、魔薬の大量栽培に欠かせない。ポート・ノワールのさらなる発展のため、そして私財を蓄えるために。ポポを絶対に手放すわけにはいかない。そのためにはポポから理由を聞き出した上で説得して、サウス・ヴァレーに留まってもらわなければならないからだ。

 

 

(風の魔女の様子からして、私が魔薬を育てていることがバレたというわけではないだろう。だからこそ、余計にわからない。一体なぜ、風の魔女はサウス・ヴァレーから去ろうとする?)

「それは、えと。……言わないと、ダメ?」

「あぁ、ダメだ。穢れた魔女の分際で理由もなしに仕事を放棄しようだなんて、そんなことは許されないからな」

 

 ボナンザの質問にポポは口を閉ざそうとする。が、ボナンザが高圧的な口調で問い詰めると、ポポはおずおずと理由を口にした。

 

 

「ポポが頑張らないと、この世界はもうすぐ滅んじゃうから」

「……はぁ?」

「だから、どうしてもポポは今すぐ行かないといけないんだ。ポポに何ができるか、全然わからないけど。それでもポポは足掻かないといけないんだ。ポート・ノワールを、世界を守るために」

「世界が滅ぶだぁ? 何を言うかと思えば……そんな世迷い言、信じられるものか! 一体誰にそんな大嘘を吹き込まれた! くだらないホラ話を真に受ける暇があるなら、さっさと働け! 全く、これだから貴様はまるで使えない、グズな魔女なんだよ。一体いつになったら理解するんだ、ええ?」

「嘘じゃないし、誰にも吹き込まれてないよ。もうすぐ、3年後に世界は滅ぶ。ポポにはわかるんだ」

 

 今度こそ、ボナンザは言葉を失った。ポポが何を言っているのかがまるで理解できなかった。ゆえに、ボナンザはひとまず怒鳴りつける勢いでポポに強く当たる。そうすれば、ポポは己の主張を引っ込めて、蚊の鳴くような小さな声で謝るはず。だが、ボナンザの予想と反してポポは一歩も引かなかった。ポポは慎重に選んで言葉を紡ぎながら、ボナンザを凛とした眼差しで、しっかりと見つめていた。

 

 

(まさか、まさか本当に、世界が滅ぶというのか? 魔女には、世界の滅びを察知する力があるというのか? あり得ない、と一蹴したいところだが……)

「もしも、もしもだ。万が一、億が一。3年後に世界が滅ぶというのなら、証拠を見せろ」

「……ごめんなさい、町長さんに見せられるような、形のある証拠はないんだ。でも、ポポを信じてほしい」

 

 いつになく強気で、己の主張を譲る気のないポポの姿を目の当たりにして、ボナンザは思わず気圧された。そして、事の深刻さを理解し始めたボナンザは、しかしそれでも世界が滅ぶということを信じきれず、ポポに証拠の提示を求めた。しかし、ポポは確たる証拠を一切見せようとしない。ただただポポを信じてほしいと真摯な視線をボナンザに注ぎ続ける形で、ボナンザの情に訴えるだけだ。この手の目をした奴を説得するのは無理だとボナンザは経験則から知っている。ボナンザは深々とため息をついた。

 

 ポポを利用できなくなる以上、魔薬の生産は安定しなくなり、採算が取れなくなる。ポポのせいで魔薬以外の手段でポート・ノワールの経済を発展させる必要が生じてしまった。

 しかし、これも良い機会なのかもしれない。そもそもポポ1人に依存した、今までの危ういビジネスモデルを変えるべき時なのかもしれない。

 

 この2年間はポポを利用して上手いことポート・ノワールを活性化させることに成功していた。だが、今回のポポのサウス・ヴァレー離脱に限らず、仮にポポが怪我や病気で死んでしまえば、このビジネスモデルは瞬時に破綻してしまう。

 それに。魔薬の生産を続けることは、レグナント王国に事が露見して捕まってしまうリスクをいつまでも抱えることと同義だ。魔薬漬けにした傭兵部隊を私兵として抱えているとはいえ、国を相手取るにはあまりに無謀だ。

 

 それに何より。ここでポポを無理に引き留めたせいで、仮に世界が滅んでしまえば。自分が死んでしまいかねない。仮に死なずに済んだとしても、ポポの世界を救うための活動を妨害したとして、ボナンザが糾弾されるかもしれない。ポポという金のなる木を手放さざるを得ないことは非常に残念極まりないことだ。しかし、己の命には、身の安全には代えられない。

 

 

(……やれやれ、致し方あるまい。ここらが潮時だったというわけだな)

「やはり貴様はどうしようもない馬鹿だな、風の魔女。証拠もなしにこの私を納得させられると思っているのだからな」

「信じて、くれないの?」

「当たり前だ。証拠がないのに世界が滅ぶだなんて突拍子もない話を信じられるわけがないだろう。……ただ、今の貴様のような目をした連中を私はよく知っている。その手の目をした奴は、総じて頑固で、自分の意思を決して曲げない。いくら私が言葉を重ねて貴様をサウス・ヴァレーに引き留めようとしても、貴様がサウス・ヴァレーから出ていくことを止められはしない。そうだろう?」

「うん」

「即答か。全く、生意気な魔女め」

「……ごめんなさい」

 

 ボナンザは嫌味混じりに言葉を吐き捨てる。その物言いから、ポポがサウス・ヴァレーから離れることを一応は認めてくれたと解釈したポポはもう一度改めてボナンザに謝罪すると、ボナンザに背を向けてトボトボと町長室を去ろうとする。が、まだ話は終わっていない。ボナンザは1つ咳払いをした後、ポポの小さい背中に声を投げかけた。

 

 

「それで、貴様はいつ帰ってくるんだ?」

「……え?」

「まさかこのまま一生サウス・ヴァレーに帰らないわけではないだろう? 世界の滅亡を止めるための貴様の活動は、いつまで続ける予定なんだ?」

「えっと。3年と少し、だよ?」

「そうか。ならば、全てが終わったら必ず戻ってこい。……お前はポート・ノワールの住民のために尽くしてこそ、存在価値があるのだということ、ゆめゆめ忘れるなよ」

「――うん。ありがとう、町長さん!」

 

 ポポがいつ帰ってくるのかについて言質を取ったボナンザはもうポポに用はないとの意思表示のために、ポポから視線を外して目の前のデスクへと向ける。ポポが嬉々とした感謝の言葉を残して町長室を去る中、ボナンザは白紙の紙を取り出し、万年筆で経済戦略の案を書き出し始める。

 

 ポート・ノワールにこれといった観光地や特産品はない。あるのは肥沃な大地に水源。それと港町という立地。

 

 これらの条件を用いてどのような手を打てばポート・ノワールを発展させられるのか。あるいは、ポポが戻ってくる3年後までポート・ノワールの経済を破綻させずにもたせることができるのか。この日。ボナンザは町長室で一人、頭を悩ませ続けるのだった。

 

 




ポポ:風の魔女。もとい、風のクオリアをその身に宿し、風の魔法や歌を行使できるようになった15歳の少女。世界を守るためには、ずっとサウス・ヴァレーに留まっているわけにはいかないため、この度自分が出ていくことをボナンザに報告した。ついでにボナンザの魔薬栽培をやめさせようとしている。ちなみにボナンザに証拠として歌唱石を見せなかったのは、見せたら逆に歌唱石を王家から盗んだのではないかと疑われそうだと想定したから。
ボナンザ:風の属州サウス・ヴァレー内の港町ポート・ノワールの町長にして、経済発展のためにまるで手段を選ばない系為政者。まだ原作より3歳若いためか、この作品では若干の良い人補正がかかっている。

 ということで、1話は終了です。ポポが過去に逆行して早速出てくるキャラが主要キャラを差し置いてボナンザ町長という不具合。でもポポがこれから色んな場所に行くことになるのなら、ボナンザ町長との対話は避けて通れませんからね。仕方ないのですよ。
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