風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。当初、本作品は30話くらいで完結予定のつもりでしたが、現状の物語の進み具合を見るに、おそらく完結は40~45話が目安となりそうです。そんなわけで、今後も引き続きポポたちのアナザーストーリーをお楽しみいただければ幸いです。



19話.敵か味方か

 

 ヒルダの魔法で約3年前の過去に逆行してからというもの、ポポは未来の悲劇:エクリプスから世界を、みんなを守るために、風魔法で月を削って入手した月のクオリアを風のクオリアに変質させて、世界各地に埋め込むお務めを継続してきた。しかし、このお務めには避けては通れない難題が立ちふさがっていた。それは、福音使徒が拠点にしている廃都ファーレンハイトでどうやってお務めをするか、ということだ。

 

 すでに現時点でファーレンハイト以外の地域に風のクオリアを埋め終えることのできたポポは、この難題に対し、1つの方針を打ち立てた。それは、リゼットが歌を歌えるようになってからファーレンハイトでお務めを行う、というものだ。

 

 

 ポポが過去に逆行する前、祝歌計画が完遂されるまでの大まかな流れは以下の形だった。

 

・祝歌計画完遂のため、陛下の命の下に第9小隊が結成される。

 (この時、水の魔女のリゼットは第9小隊に加入済。だけどまだリゼットは歌を歌えない)

・第9小隊がポート・ノワールで風の魔女ポポを保護。

・第9小隊がアマツで火の魔女サクヤを保護。

・第9小隊がカシミスタンで土の魔女モルディモルトを保護。

・魔女4人が王都にそろったことで焦った福音使徒が王都に侵入し、偶然出くわしたリゼットを襲撃。リゼットに魔女殺しの魔剣カルブンケルの呪いを行使した後に撤退する。

・魔剣カルブンケルを破壊してリゼットの呪いを解くため、第9小隊は、福音使徒を追跡していた人造天使ジゼルの報告を信じて、廃都ファーレンハイトへ進軍する。

・第9小隊は福音使徒との戦いの末にカルブンケルの破壊に成功し、福音使徒は拠点のファーレンハイトから敗走する。この一連の出来事を経て、リゼットは歌えるようになる。

・魔女4名が王都で四部合唱の練習を重ねた末、祝歌を発動させる。

 

 ポポはこの、福音使徒が敗走した後のタイミングで、もぬけの殻となったファーレンハイトでお務めを実施することで、全世界に風のクオリアを埋め込むお務めを完遂する方針を固めていた。これこそがポポが第9小隊に4人目の魔女として加入する方針で動いている要因の1つであった。

 

 しかし、ポポは先日、ふと思い出した。そういえば、過去に戻る前は、第9小隊が4人目の魔女である土の魔女を保護しにカシミスタンに出陣した時に、孤月の丘で福音使徒のリーダー:ヒルダと、福音使徒の幹部全員(ダンテ、ドロシー、ルドルフ)との決戦になったような、と。

 

 そこで、ポポは1つの可能性に至った。ポポが過去に逆行した世界で、第9小隊が3人目の魔女として、土の魔女ニキを保護しようとカシミスタンに向かった時、もしかしたらカシミスタンの地で、ヒルダたち福音使徒の主要人物が一堂に会し、総員の力を結集してニキを殺しにかかるのではないかと。その場合、福音使徒の拠点のファーレンハイトはかなり手薄になるのではないかと。だったら、わざわざリゼットに魔剣カルブンケルの苦しみを味わわせることなく、ファーレンハイトでのお務めを完遂できるのではないかと。

 

 ゆえに、ポポはここ数日、3年前に哀れな福音使徒から奪った福音使徒の正装(ドロシーに斬られたフードの部分は、ポポが苦戦に苦戦を重ねつつ頑張って補修した)に身を包み、ファーレンハイトでのお務めに興じていた。同時に、先のアマツでの一件のように、ポポの想定外の事態によりニキや第9小隊の面々が死んでしまう可能性を警戒し、ポポは随時、対話を重ねて手懐けた渡り鳥の一部隊を一定の時間ごとにカシミスタン方面に派遣し、常に状況を報告してもらっていた。

 

 洞察力・観察力・警戒心に優れたヒルダ・ダンテ・ドロシー・ルドルフが留守にしているファーレンハイトでのお務めは存外、順調に進められていた。しかし、この調子ならファーレンハイトでのお務めも無事に終わりそうだとポポがこっそりほくそ笑んでいたある時、渡り鳥から重大な報告が寄せられた。曰く、【カシミスタンの一番大きい建物(領主館)の中で、熟睡中のモルディモルトを背負って走っているハゲの男がいた】という報告だ。

 

 ポポはこの報告に非常に嫌な予感を感じた。何者かがモルディを誘拐しているのではないか。そう推測したポポは、お務めを中断して一目散にファーレンハイトを後にし、風の魔法で渾身の追い風を呼び寄せながら最速でムシャバラール砂漠へと突き進んだ。その間も、渡り鳥から継続して報告をもらって諸々状況を把握した上で、重傷を負ったキースの元に現れ、キースの怪我を命に別状がないレベルまで治療した後に、リゼットにキースを託して孤月の丘へと急行したのだ。ゆえに。

 

 

「ごめんね、モルディ。いつもいつも、来るのが遅くて」

「それは確かに。でも、来てくれた……!」

「もうだいじょーぶだよ、モルディ。ポポが来たからには、誰も死なせないから」

「盛る!」

(あ、あああ危なかった。あと少しでも遅かったら、ニキが死んじゃってた……。キースも手遅れ寸前だったし……良かった、間に合って良かった! 助けられてよかったッ!)

 

 孤月の丘の崖下で、ニキが自殺のためにトリガーを引いた銃の銃弾の軌道をかまいたちで逸らし。孤月の丘の崖の上でルドルフとドロシーに人質にされているモルディモルトを救うために、崖の上の3人めがけて突風をぶつけた上で、モルディモルトを空中で救出する。そんな華麗な救出劇の主役を担っていたポポはその実、凄まじく焦っていたのだが、ポポの事情を察知できる者はこの場にはいなかった。

 

 

「何も特別な武具を装備せずに、当然のように空を飛んでいる。……まさか、まさかあのレディこそが――」

「いかにも、アーチボルト。あの者こそが、風の魔女ポポだ」

「……あの顔、どこか見覚えがあるような。気のせいかしら?」

 

 崖の上から落下中だったモルディモルトを空中でキャッチし、ふわりと地に着地したポポの姿にアーチボルトが驚嘆し、クラウスが平静を保った口調でアーチボルトの疑問に答え、サクヤがポポの顔にどこか既視感を感じて首をかしげる中。ポポはモルディモルトをお姫様抱っこ状態から解放した後、周囲を軽く一瞥した後、軽やかな口調で言葉を紡ぐ。

 

 

「何だか久しぶりな人が多いみたいだけど、積もる話は後にしよっか。……ニキもごめんね。引き金を引かせちゃって。ポポがもう少し早くここに来れたなら、ニキを苦しませずに済んだのに」

「久しぶりね、ポポ。あの時のように、来て、くれたのね。嬉しい、凄く嬉しい。……でも、どうして来てしまったの? どうして私をあのまま死なせてくれなかったの? どうして私を終わらせてくれなかったの?」

「……ほぇ?」

「私には、母様のような素晴らしい統治はできない。どうあがいても母様のように、カシミスタンを発展させることができない。きっと、みんなもわかっていた。私が未熟で、至らない領主だって。だからきっと、私の治世に不満を爆発させ、福音使徒に寝返ってモルディを誘拐する人が出てしまった。私は、母様に満たない。母様に届かない。それこそが揺るがない事実。私は領主失格。こんな不出来な私に、生きる価値なんて、どこにも……うぅぅ!?」

 

 ポポはニキの元へと駆け寄り、顔色をうかがいつつ謝罪する。土の魔女の魔力で宙に浮かべていた4丁の銃を地面にポトリと落としている今のニキは、呆然とポポを見つめながら、ポツリポツリと己の心境を告げる。ニキから漏れ出る言葉はまるで、ポポがニキの命を救ったという事実にこそ絶望しているようで。ニキからの思わぬ反応にポポが困惑していると、ニキが突如としてうめき声とともに体を抱きしめてうずくまってしまった。

 

 

「ニキ!? どうしたの、だいじょーぶ!?」

「え、え、お姉ちゃん!?」

「ッ! 今の鎖は……!」

「アルト、何か見えたの!?」

「――あぁ。今のニキには調律が必要だ。悪いけど、君の心に触れさせてもらうぞ!」

 

 明らかに異様なニキの様子にポポとモルディモルトがワタワタとしていると、アルトが何かに気づいたのか、ハッと目を見開く。もしかして、魔女の心にまとわりつく鎖を見たのだろうか。ポポが鎖自体には言及せずに問いかけると、アルトはコクリとうなずいた後、ニキへと手を伸ばし――刹那、アルトとニキを中心に激しい光の奔流が弾けて、アルトとニキの姿が消失していた。2人だけではない。モルディモルトも、第9小隊もそろって姿を消している。きっとアルトがこの場の仲間を全員、ニキの精神世界に連れ込んだのだろう。

 

 結果、今現在。孤月の丘に存在するのは、ポポと、そして福音使徒のヒルダ・ダンテ・ドロシー・ルドルフの、計5名となった。

 

 

(ポポ、アルトに仲間外れにされた……。あ、でも仕方ないよね。だってポポ、第9小隊に入ってないし。でも、第9小隊のメンバーじゃないはずのモルディはアルトと一緒にニキの精神世界に入っていったけど……。いや、それは多分、アルトがニキの調律にモルディが必要だと判断しただけで、それは決してポポを信用できないと思われたとは限らないわけで――)

「まさか、よりにもよって魔女狩りを他ならぬあなたに邪魔されるなんてね、風の魔女」

 

 ポポが今のアルトから仲間判定されていないことに内心で割とショックを受けている中、ヒルダは深くため息を吐き、漆黒のとんがり帽子をかぶり直した後に、ポポに冷徹な視線を投げかけてくる。瞬間。突如として、世界が遅くなる。ポポの体を吹き抜ける風の速度が、ポポの空を優雅に浮遊する雲の速度が、何物にも囚われないはずの太陽の速度が、極端に遅くなる。

 

 

「けれど調律者アルトは、風の魔女を土の魔女の精神世界に誘わなかったようね。これは不幸中の幸いだわ」

「もしかしてだけど……今、ヒルダはポポたち以外の時間の流れを遅くしてる?」

「察しがいいわね、風の魔女。その通りよ。アルトが土の魔女の調律を終えて、皆を引き連れて帰ってくる前にはっきりさせたいことがあったから、時の流れを歪ませてもらったわ」

「はっきりさせたいこと?」

「単刀直入に言うわね。……風の魔女。あなたが、私たちにアナスタシアが祝歌計画を進めているという矢文を送った張本人ね?」

「ほぇ!? な、なんのこと、かなぁ……?」

「とぼけても無駄よ。少し考えればわかることだわ。風の魔女、あなたは福音使徒のアジトを3年前に知った。なのに、あなたはそのことを王国に告発していない。告発していたのなら、とっくの昔にファーレンハイトに王都の追討軍が派遣されるはず。……それなら、矢文を放てるのは福音使徒のアジトを知るあなたしかいないのよ。偶然にも、あなたの武器も弓のようだからね」

「あ、あわわわわ……」

 

 以前、ファーレンハイトに放ったポポの矢文についてヒルダから言及されたポポは、ヒルダの問いがあまりに想定外だったために、すっとんきょうな声を零し、ヒルダから目線をそらして問い返す。ポポは脳内で必死に『矢文はポポのものではない』ことを示す言い訳を考えるも、ヒルダからすかさず追撃をもらった結果、ポポは動揺と狼狽に満ちた鳴き声を漏らすことしかできなかった。

 

 

「こいつ、ヒルダの鎌かけに簡単に引っかかってるぞ」

「キャハハ! 見た目通り、頭が悪いんだね☆ アンタが他の奴に福音使徒のアジトをバラしたって言い訳すれば、矢文を放った正体がアンタだって、ドロシーたちにはわからなかったのに」

「ほぇ!? ポポ、騙されたの!?」

「……あなたは隠し事が苦手そうね」

 

 そんな挙動不審極まりないポポの様子に、ダンテがジト目でポポを見つめ、ドロシーがポポを小馬鹿にする。そのようなダンテとドロシーの反応からようやく、ヒルダが矢文を放った人物について確信を持っていなかったことに気づいたポポが素直に己の心境を叫ぶと、ヒルダは再びため息を吐き、生暖かい目でポポに視線を注いできた。

 

 ポポは、改めて福音使徒の皆を、ヒルダを見つめ返す。ヒルダはあの時、カルテジアンとの絶望的な戦いの最後で、己の時のクオリアを砕いて、ポポに思いを託して、ポポを3年前へと転送した。そのヒルダと今、こうして、対面している。ヒルダも今はまだ、生きている。

 

 

(……何だろう。この、不思議な感覚。ヒルダが生きていてくれて嬉しいって気持ちと、でもそれだけじゃない。ポポは、何に違和感を感じているんだろう?)

「それなら素直に聞かせてもらいましょうか。風の魔女、あなたの目的はなに? 矢文で福音使徒に味方したかと思えば、今はこうして土の魔女を助けて、福音使徒の邪魔をする。……あなたの行動には矛盾があるわ。結局、あなたは何が目的で、動いているの?」

「……それは、言えない」

「質問を変えるわ。あなたは福音使徒の敵? それとも味方?」

 

 ポポがヒルダを見つめながら内心でクエスチョンマークを浮かべていると。ヒルダが単刀直入にポポの目的を問いただしてくる。こればかりはバレるわけにはいかない。ポポが回答を拒否するも、ヒルダは別の角度から再度質問をぶつけてくる。ヒルダはポポのごまかしを一切許さないつもりらしい。

 

 

「言えない。それしか、言えない」

 

 だけど、それでもポポは明言を避けた。ここで福音使徒にすべてを打ち明けてしまえば、クラウス隊長もとい、マザー・クオリア側である獅子王ゼノにもバレかねない。ポポの策は、お務めは、ゼノに気づかれていないからこそ効力を発揮するものなのだ。ゆえに。

 

 

「ポポは、お務めを果たすだけだよ。ポポの望む、未来のために」

 

 ポポが具体性に欠ける回答でお茶を濁し、ヒルダの追及から逃れようとした、刹那。ポポの周囲にまばゆい閃光が放射され、一瞬にしてアルトたち第9小隊(+ニキ&モルディモルト)が姿を現す。どうやらアルトによるニキの調律は無事完了したようだ。

 

 

「ポポ、ごめんね。さっきは酷いこと言って」

「ううん、気にしないで。ニキが元気になってくれてよかった!」

「ふふ、ありがとう」

 

 ニキがパタパタとポポに駆け寄りペコリと頭を下げてくる一方、ニキに罪悪感を抱いてほしくないポポはニコリとニキに微笑んだ。ニキも、ポポの意図を察して、少しぎこちないながらも微笑み返す。しばらく笑うことを忘れていたニキが素直に笑えた瞬間だった。

 

 

「……さて、土の魔女の自殺教唆には失敗したけれど、福音使徒のやることに変わりはないわ」

「違いねぇ。ここに都合よく魔女が3人もいるんだ。1人でもやっちまえば、俺たちの勝利だ」

「あぁ。ここで魔女を殺し、因縁に決着をつけようか」

「キャハハ☆ 今日はミンチを大量生産できるね! おいで、デクリンちゃんたち!」

 

 が、和やかな空気はいつまでも続かない。アルトたちがニキの精神世界から戻ってきたことでポポと対話を続ける機会を逸したヒルダは、遅くしていた時の流れを元に戻しつつデスサイズを構えて、第9小隊並びにポポたちにへの殺意を行動で示す。ヒルダに呼応して、ダンテ、ルドルフ、ドロシーもそれぞれ武器を構え。直後、ヒルダたちの周囲に、ヒルダの時魔法で転送されてきた福音使徒や、ドロシーが召喚した殺戮人形『デクリン』が次々と姿を現す。

 

 

「総員、福音使徒を撃滅する! 私に続け!」

「じゃあまずは、ポポの番だよ」

 

 対する第9小隊は、クラウスの号令を起因として、それぞれ戦闘態勢を取る。ここでポポは第9小隊を支援するべく、胸にそっと手を当てて歌を奏で始めた。ポポの歌は気ままに砂漠を渡りゆく風に浸透し、アルトたちの体を優しく包み始める。

 

 

「これで戦いやすくなったかな?」

「おぉ、なんと面妖な。まるで体が羽のように軽く……!」

 

 ポポが一節を奏で終えた後、感想を問いかけると、アーチボルトが大仰な反応とともに普段では考えられないほど機敏に鎧を動かし、ポポの支援の尋常でない効果を実感する。

 

 

「ありがとう、ポポ! これなら――勝てる!」

 

 こうして。ポポの歌により軽やかな疾風のごとく動けるようになった第9小隊は、その素早さを十全に生かして福音使徒への突撃を開始し、疾風怒濤の勢いで福音使徒やデクリン軍団を撃退していく。また、肝心の福音使徒の幹部であっても。

 

 

「クソジジイ! ここで引導を渡してやる!」

「むぅ、ラスティ……!」

 

 ただいま絶賛、復讐に己が体を燃やすラスティが、ポポの風魔法でさらなる速さを得たことで、ルドルフに反撃を許すことなく一方的にナイフの連撃を繰り出し。

 

 

「さーて、イカレウサギ。あの時の借りを返してやるから覚悟しなさい」

「にんにん! お命頂戴いたします!」

「あぁぁぁあああもう! 調子に乗るな、ウザいっての!」

 

 サクヤとののかの息の合った連携プレーでドロシーを着々と追い詰め。

 

 

「ダンテ! 今の俺をミトラ村の時の俺と一緒にするなよ!」

「チッ、少しはマシになったみてぇだな!」

 

 アルトとダンテが互いの剣と槍を幾度もぶつけ合い、互いに一歩も譲らぬ攻防を繰り広げる。結果、ポポの支援により超強化された第9小隊は、福音使徒の幹部すらも抑え込むことに成功したことで、福音使徒との全面戦争を優位に立ちまわることができていた。

 

 

「風の魔女。彼女の歌1つで、こうも戦況をひっくり返されるなんて――ッ!」

 

 福音使徒の劣勢に歯噛みするヒルダは、ここで遥か天空から迫りくる矢の雨に気づき、とっさに上空に時魔法を放つ。上空の空間を歪ませる特異点を召喚し、矢の雨を時空の狭間に奪い去る。

 

 

「ほう、よく気づけたじゃないか」

「もう、キースさん! 無茶しないでください! あなたはさっきまで瀕死だったんですよ!?」

「心配は無用だ。貴様とポポのおかげで、だいぶ楽になった。それに、俺は契約に誓った守るべき相手を、他人に守らせたまま安穏と過ごす趣味はない」

 

 直後。崖の上にキースとリゼットが姿を現す。ポポとリゼットの手厚い治療の甲斐あって、動ける程度には回復したキースは、己の髪をかき分けつつ、ヒルダのとっさの判断を称賛する。キースの傷はまだ完治したわけではないため、キースの無茶にリゼットはわたわたと慌てるばかりだが、そんなリゼットの一切の所作をキースは完全に無視して言葉を紡ぎ続ける。

 

 

「「キース!」」

「よもや、あの傷で生きているとは……」

「俺は王の器を持ちし男。あの程度で死ぬわけがなかろう。さぁ、さっきの意趣返しだ。ぜひ味わってくれ。まさか、あの時小娘を、モルディモルトを盾にした貴様が卑怯とは言うまいな?」

 

 キースの無事な姿を目撃して、キースの安否を誰よりも心配していたニキとモルディモルトが歓喜の声を上げる中。ルドルフがキースを尻目に確認し、驚愕に目を見開き、対するキースは得意満面な好戦的な笑みを携えて弓に矢をつがえる。

 

 

「……ここまでね。皆、撤退するわ」

「ヒルダ! ドロシーはまだ戦えるよ!」

「そうだ、俺たちは負けちゃいない!」

「戦況は厳しいわ。相手は風の魔女の魔法でかなり強化されている。その上、崖上を射手に確保されている。このまま戦闘を続ければ私たちに無視できない損害が発生してしまう。今は玉砕覚悟で戦うタイミングではない……総員撤退。命令よ」

 

 彼我の戦力差。戦場の配置。諸々を考慮した結果、ヒルダは撤退の判断を下す。ヒルダの判断にドロシーとダンテは異を唱えるも、ヒルダは撤退を決断した理由を端的に述べた後、有無を言わせず時魔法を唱える。

 

 

「クソが! 逃がすかよッ!」

 

 結果。ラスティの刃がルドルフに届くよりも早く、ヒルダの時魔法の詠唱が完了し、福音使徒は全員、孤月の丘から転移する。かくして、ニキの側近により、モルディモルトが結界の外へと誘拐されたことを契機とした一連の動乱は、福音使徒を取り逃がしこそしたものの、最終的には被害者ゼロで乗り切ることができたのだった。

 

 




ポポ:金髪ツインテールな風の魔女。残るお務めポイントがファーレンハイトのみとなったため、福音使徒幹部たるヒルダたちの不在のタイミングを狙って、こっそりファーレンハイトに潜入していたが、手懐けた渡り鳥からの報告を機に、カシミスタンへと急行し、良い感じにアルトたちの元に参上した。その後の福音使徒との戦闘の際、ポポはアルトたちに歌魔法「かぜにのって」を行使し「移動力上昇&速度上昇」の支援を行ったが、今の逆行ポポは凄まじくレベルが高いため、歌魔法の効果もまた、とてつもなく効果が高く、結果としてポポの歌魔法が、此度の第9小隊と福音使徒との戦闘の勝敗の決め手となった。
アルト:原作主人公にして、記憶喪失な第9小隊の一員。一応、17歳。此度、前領主であり母であるサイージャと比べて己の統治が劣っていることに悩み苦しみ、生きる価値さえ失いかけていたニキの精神世界に潜り込み、ニキを調律することに成功した。具体的にどんな対話を経てニキの調律が完了したのかは読者の皆様のご想像にお任せします。
ヒルダ:時の魔女。年齢は少なくとも千年以上。福音使徒に祝歌計画のことを矢文で密告した人物として、風の魔女を第一候補に据えていたため、今回ポポと話す機会を偶然得られたことを機に、ポポに鎌をかけて情報を引き出すことに成功した。本当は、もっと多くの情報を引きずり出す予定だったが、アルトがニキの調律を完了してしまったため、断念することとした。

 というわけで、19話は終了です。本作品で本格的な戦闘を描写したのは0話以降初めてですが、戦闘シーンはホント難しいですね。ちゃんと描写できている気がしません。……これは多少なりとも今後のことが心配になってきました。
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