どうも、ふぁもにかです。最近は仕事が忙しくなってきたため、執筆速度が遅くなっています。ホントすみませんね。本作はできれば3日に1話投稿したいつもりだったのですが、現状を鑑みると5日に1話投稿が精いっぱいとなりそうです。
第9小隊と福音使徒との決戦の舞台となった、孤月の丘。その場には今、数多くの人物が集結していた。
第9小隊の面々(クラウス、アーチボルト、ラスティ、アルト、リゼット、サクヤ、ののか、ユアン)に、カシミスタンの面々(ニキ、モルディモルト、キース)。そして、風の魔女ポポ。
「ポポ、久しぶりだな」
「久しぶり、アルト。……うん、3年ですごくかっこよくなったね」
「ま、ミトラ村で狩人やってたし、今は第9小隊の一員として毎日鍛えてるからな。3年前に比べれば、さすがに変わるだろ」
誰もがポポに視線を集中させる中、真っ先にポポに語りかけたのはアルトだった。ポポはアルトに歩み寄り、全身をまじまじと見つめた上でポツリと感想を零す。対するアルトは、3年前も今もまるで雰囲気の変わらないポポの様子に改めて安堵の息を吐いた。
「ポポ。さっきはありがとな。ポポがいなかったら、ニキは亡くなっていた。モルディだって危なかったかもしれない」
「キースさんのことも、ありがとうね。ポポが治療を手伝ってくれなかったら、キースさんの怪我の治療も、間に合わなかったかもしれなかったから」
「そっか、キースのことも助けてくれたんだな。……3年前といい、ポポにはいつも助けられてばかりだな」
ニキの自殺を止められなかったアルト。キースの致命傷レベルの怪我を1人では回復しきれなかったリゼット。2人の心の片隅には、己の無力さを責める負の感情が宿っていた。その気持ちゆえに、アルトとリゼットは心の底からポポに感謝の意を表明する。対するポポは、アルトとリゼットの態度に首を傾げた。
「アルト、リゼット。どうしたの? 何だかちょっと様子が変だけど。……もしかして、自分のことを責めてたりする?」
「「ッ!」」
「確かに、もしもここにポポがいなかったら、ニキも、モルディも、キースも死んでたかもしれない。でも、そういうネガティブな『もしも』を抱えていても気持ちがどんよりするだけだよ。色々あったけど、今はこうしてみんな無事に生きてる。だったら、めでたしめでたしってことでいいんじゃない?」
「ポポ……」
日頃、自己肯定意識の低いポポゆえに、今のアルトとリゼットが抱えている気持ちを察知できたポポは、2人にどうにか元気になってほしい一心で、ポポなりに励ましの言葉を選んで語りかける。
「いやー、さすがは慈愛の魔女。先ほどの一連の事態においても、二つ名に違わない見事な活躍ぶりをみせてくれましたね。さてさて、慈愛の魔女のさらなる逸話が増えたご感想はいかがですか? ポポさん」
「か、からかわないでよユアン! その呼ばれ方、すごくむずむずするんだから!」
と、ここで。ユアンがにこやかな笑顔を張りつけながらポポの二つ名いじりを仕掛けてきたため、ポポは思わず恥ずかしさに頬をわずかに赤らめつつ、慈愛の魔女に関する話題をすぐさまシャットダウンしようとする。結果、ポポがいたからニキたちが無事に済んだとか、ポポがいなかったらニキたちが死んでいたかもしれないといった仮定の話が再度アルトやリゼットから持ち出されることはなくなり。ポポたちを取り巻く雰囲気が段々と和やかなものへと変質していった。
(ユアン……気を遣ってくれたのかな?)
「さて。不測の事態こそあれど、我々は結果的に土の魔女ニキ殿を福音使徒から守ることに成功した。ここは一度カシミスタンへ戻り、今後について方針をまとめようではないか。それでよろしいか、ニキ殿?」
「もちろんです。キースを安静にしてあげたいですし」
「余計な気遣いは無用だ、小娘」
「このように、キースはどんなに自分の体調が悪くても、強がりしか言えない不器用な人なので」
「む、わかったような口を……」
「風の魔女殿もご同行願えるか? 貴殿にも話があるのだ」
「うん、いいよ」
頃合いを見計らったクラウスの提案に、ニキはキースを理由の1つに据えつつ同調する。ニキの論調にキースが異を唱えても、ニキはどこ吹く風だ。クラウスはニキの肯定を確認した後、ポポにも向き直り、カシミスタンへの同行を要請する。ポポもこの提案を敢えて断る理由はなかった。今こそ、ポポから第9小隊に己の方針を伝えるべきだと判断したからだ。
「このメンバーだと、ポポのことを知っている人の方が多いと思うけど……改めて自己紹介するね。風の魔女のポポだよ。みんな、よろしくね!」
ポポは、全員をグルリと見渡した後、朗らかに己の名を告げて、ニコリと太陽のような笑みを浮かべるのだった。
◇◇◇
「ニキ殿。我々は、先日のニキ殿の主張を王都に持ち帰り、陛下を始めとした一部高官で協議を重ね、結果として、カシミスタンで祝歌を奏でる方針に変更しました。これで『ニキ殿が祝歌計画に協力する』ことで『ニキ殿がカシミスタンを離脱する』という図式は消失します。改めて――祝歌計画にご協力いただけませんか?」
カシミスタンの領主館の謁見の間にて。クラウスは以前拒絶された問いを再度、ニキに投げかける。ニキはカシミスタンを離れることを極端に嫌がっていた。そのため、カシミスタンから離れずに済むのなら、ニキに祝歌計画を拒否する理由は存在しないはず。なのだが、以前の荒んだニキの言動を真正面からぶつけられた経験者たるアルトたちは、緊張に満ち満ちた面持ちでニキの回答を待つ。
「わかりました。協力します。祝歌を奏でる場所も王都ランベルトで構いませんよ」
「祝歌計画にご理解いただけるのはありがたい限り。しかし、良いのですか?」
「ええ。福音使徒はカシミスタンを滅ぼすことよりも魔女狩りの方を優先していると、今回の一件で痛いほどに理解しました。土の魔女がカシミスタンに留まること自体が、カシミスタンを脅威に晒している以上、私にカシミスタンに残るという選択肢はありません。先日は偉そうな態度で王都へ赴くことを拒否した手前、恐縮なのですが……私を王都へ、連れて行ってくれますか?」
「承知した」
ニキは、憑き物が落ちたような柔らかな笑みを携えて、クラウスを見つめて祝歌計画に全面的に協力する意思を示した。一方のクラウスはニキの了承の意に安易に飛びつかず、ニキから真意を聞きだした後、ニキから差し出された手を優しくつかんだ。
「それで……」
クラウスとの話が一段落ついた所で、ニキが背後のモルディモルトへと向き直る。心配そうな眼差しを妹に注ぐニキと、力強い意思の光を宿した眼差しをニキに向けるモルディモルト。何だか普段の2人の性格が逆転したかのようだ。
「モルディ。あの時、私の精神世界であなたが言ったことは、その……本気なの?」
「うん。お姉ちゃんがいない間、わたしが代理でカシミスタンの領主をやる。わたしが、お姉ちゃんの帰る場所を、守る。……お姉ちゃんの仕事は、いつも見てたし、たくさん手伝ってきたから。領主がどんな仕事をすればいいかは、たぶんわかる。それに、わたしじゃうまく統治できないかもだけど、それはそれで、アリ。だってそれなら、お姉ちゃんが帰ってきて、領主に戻った時、みんな手放しで歓迎してくれるから」
「もう、モルディったら……」
「お姉ちゃんは、しばらく領主のことなんて忘れて、いっぱい楽しんできて」
「……わかったわ。お土産話をたくさん持ってくるから、期待しててね」
「盛る!」
ニキは、モルディモルトの決意が今もなお変わらないことを確認した後、今度はキースへと向き直る。クラウスがニキに話を切り出す前に、ニキが再三にわたり救護室で休むように伝えたはずなのに、まるで言うことを聞かない頑固者に、ニキは視線を移す。
「キース。モルディのことを、お願いね?」
「む? 貴様について行かなくていいのか?」
「確かに、福音使徒に狙われやすいのは私の方だけど……モルディは戦う力を持っていないから、モルディを守っていてほしいの」
「ふむ、よかろう。貴様らの母と交わした契約の元に、二度と小娘を誘拐させるような失態は犯さんと約束しよう。ただし、ニキ。俺の手の届かない場所で勝手に死ぬなよ。俺の知らぬところで契約が破られることだけは、絶対許さんからな」
「わかってますよ」
亡き母の置き土産たるキースからの言葉を、ニキはしっかりと心に刻み込んで、しかとうなずく。ニキはこの時、モルディモルトとキースからの言葉を受けて、改めて自覚した。ニキの命は、ニキだけのものではないと。ニキの一存で蔑ろにしてはいけない、かけがえのない命だと。
「して。風の魔女、ポポ殿。祝歌計画の成就のために、貴殿にもニキ殿とともに王都までご同行願いたい。そも、祝歌計画というのは――」
「――ううん。説明しなくてもだいじょーぶだよ。ポポは風の魔女だから。風のうわさを集める力もあって、祝歌計画のことは大体知ってるんだ」
「ふむ、風の魔女にはそのような情報収集能力もあるのか。ならば話は早い。滅びの魔女ヒルダが率いる福音使徒による世界の破壊活動はますます苛烈さを強めるばかり。街を、人を結晶に閉じ込める彼らの蛮行を看過すれば、世界の破滅は免れない。ゆえに、ポポ殿にも、結晶化を解除する祝歌計画に加わってほしい。いかがだろうか?」
「……そのことについて、ポポから話があるんだ」
クラウスから提示された、第9小隊への勧誘に対し。ポポはしばし無言を貫いた後。第9小隊の面々に1人1人、視線を移しながら、話を切り出した。それまでほんわかとした雰囲気を放出していたポポが真剣な眼差しを向けてきたため、第9小隊のメンバーは緩んだ気を引き締めてポポを見つめ返す。
「ユアンから大体の話は聞いてるんだけど、クラウス隊長はユアンからポポのことを探ろうとして、でもユアンに断られたんだよね? 実はね、ユアンには事前に『ポポの居場所を尋ねられても答えないでほしい』ってお願いしてたんだ。だから、ユアンはポポのために、クラウス隊長にポポのことを秘密にしてくれてたんだよ。じゃあ、なんでポポが祝歌計画のことを知っていながら、ユアンにポポのことを話さないようにお願いしていたのかっていうと、今のポポに、第9小隊に入る気がないからなんだよ」
ポポの告げた言葉に、第9小隊の面々が息を吞む様子が、風を司るポポには読み取れる。だが、ポポは第9小隊がポポの言葉をかみ砕き、己が理解できる範疇に落とし込むよりも早く、次の言葉を紡ぐ。
「ポポには果たさないといけないお務めがある。そのために、ポポは3年前から世界中を旅してる。そのお務めが終わるまで、王都には行けない。第9小隊に入るわけにはいかない。第9小隊に入っちゃったら、今みたいに自由に世界を巡れないしね。つまり、今はまだ祝歌計画に協力できない。これがポポの答えだよ。……ま。どんなに遅くても、あと1か月もすれば、ポポのお務めは終わる。その時になったらポポの方から第9小隊に入りに行くよ。それじゃあ、ダメかな?」
「……それは、そう易々とはうなずけない話だ。ポポ殿も確かに見たはずだ。福音使徒は、ニキ殿に自殺を強要したように、魔女を殺すために手段を選ばない。ポポ殿を保護せずに放置することは、ポポ殿が福音使徒に殺されるリスクを看過することと同義だ。私は、できることなら今ここで、ポポ殿に王都に来てもらいたいと考えている」
「そっか。ま、もしもダメだって言われても、その時はここから空に飛んで逃げて、みんなとお別れするだけだから、クラウス隊長がどんな考えだろうとポポには関係ないんだけどね」
「ポポ殿……!」
「無駄だぜ、隊長」
ポポは『お務め』を盾にして、第9小隊に入らない旨を告げる。ポポの主張にクラウスが異を唱えると、ポポは己の体に軽く風をまとわせながら、断固として第9小隊入りを拒否する姿勢を見せる。対するクラウスがポポの心変わりに期待して更なる言葉を紡ごうとして、そこでクラウスは肩を強くつかまれる。クラウスが背後を振り向くと、飄々とした様子のラスティが続きを口にする。
「俺もポポとは3年前に会ったことがあるが……その時からこいつは『お務め』にご執心だった。要するに、ポポにとっては、祝歌計画よりも『お務め』とやらの方が大事ってことだ。いくら隊長が言葉を尽くして説得しても、こいつの心は動かねぇ。……ま、それでもいいじゃねぇか。ニキの時みたいに、絶対祝歌計画に参加しないって言ってるわけじゃないんだ。ポポの用事が終わるまで気長に待ってみるのも悪くないさ」
「あ、ラスティがいつの間にか怖くなくなってる」
「この方がお前にとっての『いつも通りのラスティ』なんだろ? お前と顔を突き合わせてる時まで、ジジイへの憎しみ全開の態度でいる気はねぇよ。また前みたいにぶっ倒れて、迷惑かけるわけにはいかねぇしな」
「ラスティ……」
ラスティは3年前のポポとの初対面の場面を脳裏に思い起こしながら、クラウスにポポの説得を諦めるよう進言する。つい先ほどまでルドルフへの憎悪に身をやつしていたラスティの雰囲気の変わりようにポポが目を丸くしていると、ラスティはため息まじりに己の心境を綴る。
「私もラスティさんに賛成です。ポポは、カシミスタンの大乱の後、カシミスタンの復興を手伝ってくれた傍らで、半年かけてムシャバラール砂漠で『お務め』を行っていました。ポポが『お務め』に注ぐ熱意は相当なものです。この熱意をねじ曲げてまでポポを無理に第9小隊に加えようとするのは反対です。最悪の場合、ポポの自由意思が阻害されることにより、ポポが歌えなくなってしまいます。アルトの調律があれば問題ない、とお考えになるかもしれませんが、調律については未だ謎の部分が多い以上、過信すべきではありません。……どうか、ご勇断を。クラウス隊長」
「む……」
「ごめんね、隊長。ポポがわがままを言っているのはわかってるつもりなんだ。でも、ポポはどうしてもお務めを最後までやりたいんだ。だから、ポポがやらないといけないことを全部終わらせるまで、待っていてほしい」
「…………承知した。ポポ殿、くれぐれも福音使徒に襲われることがないよう、細心の注意を払ってお務めを完遂していただきたい」
ラスティに続いてニキからもポポを擁護する意見が放たれたことで、祝歌計画を一刻も早く実現させたいクラウスは苦悩する。そこにポポが申し訳なさを前面に押し出した表情と声色でお願いをしたことで、ついにクラウスは折れた。ポポの主張を全面的に受け入れ、今この場ではポポを王都へ連れて行かない方針に舵を切った。
「ありがとう、クラウス隊長。お務めが終わったら、すぐにみんなに会いに行くよ。また近い内に、王都で会おうね。それじゃ、バイバイ!」
ラスティやニキの手助けのおかげで、クラウスから望み通りの回答を引き出せたポポは、感謝と別れの言葉を残して謁見の間から瞬時に姿を消す。かくして。王立騎士団第9小隊はカシミスタンへの遠征の結果。土の魔女ニキの保護にこそ成功するものの、偶然遭遇した風の魔女ポポを囲い込むことには失敗するのだった。
ポポ:金髪ツインテールな風の魔女。此度、第9小隊に面と向かって今すぐには第9小隊に入らない旨を伝えた後、彼らの元から姿を消した。
ラスティ:24歳の騎士団所属の青年。ポポと面と話す時だけは、ルドルフへの憎悪を押し出さないことを心に決めているようだ。
ニキ:土の魔女にしてカシミスタンの領主である緑髪の少女。16歳。この度、モルディモルトとキースをカシミスタンに残して第9小隊に加わることに決めた。また、ポポが第9小隊に入りたがっていない気持ちを汲み取って、クラウスに進言していた。
モルディモルト:土の魔女ニキの妹たる、青髪の少女。16歳。カシミスタンを離れるニキに代わって、カシミスタン領主の代理を務めることにしたようだ。
キース:サイージャとの契約により、ニキとモルディモルトを守る傭兵。21歳。第9小隊に加わるニキと、カシミスタンにとどまるモルディモルト。離れ離れとなる2人をどのようにして守るべきかを秘かに悩んでいたが、ニキの提案により、モルディモルトを守るべくカシミスタンに滞在し続ける方針に決めた。
というわけで、20話にしてカシミスタン編は終了です。人見知りでめんどくさがりなモルディが、それでもお姉ちゃんのためにカシミスタン領主になる展開。これを書きたかったのが本作品の連載を始めた理由の1つだったりします。はたして、モルディの統治スキルやいかに。
モルディモルト「よし。今からカシミスタンを、昼寝王国にする。みんながきびきび働かなくていい、のびのび生きられる場所にする」
キース「ッ!?」