風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。原作とは異なるカシミスタン編を無事終わらせることができたので、今回は小休止回です。あと、今回は少々意外な人が初登場します。はてさて、誰でしょうねぇ。



21話.ささやかな宴

 

 第9小隊がカシミスタンで土の魔女ニキを保護してから数日後。ポポは現在、王都ランベルトに滞在していた。福音使徒が次にどのような打ち手を講じるかは確定していないが、ポポが孤月の丘で福音使徒に己の実力を見せつけた以上、福音使徒はポポではなく、王都に保護されているリゼット・サクヤ・ニキを狙うのではないかと推測したからだ。

 

 つまり。ポポは今、ポポが過去に戻る前と同様に、福音使徒が王都に潜入して、リゼットに魔剣カルブンケルの呪いを行使してきた時に備えて、王都で待機しているのだ。ポポが過去に戻る前、アルトが魔剣カルブンケルを破壊して呪いを解呪するまで、リゼットは耐え抜いた。だけど、リゼットが魔剣カルブンケルにそのまま呪い殺される可能性は十分にあった。

 

 そのため、ポポの治癒魔法で少しでもリゼットの命の制限時間を延ばす。そのつもりでポポは今、王都にいる。リゼットが魔剣カルブンケルに呪われて、想像を絶する苦しみに襲われる展開自体を防ぐつもりのないポポ自身に、果てのない罪悪感と嫌悪感を抱きながら。

 

 

「あー、うー」

 

 そんな折。昼下がりの王都ランベルトのカフェの店内にて。かつてユアンから相席を求められた時と同様に、ポポはテーブルに頭を突っ伏し、消え入りそうな声色でうめき声を漏らしていた。どうにもポポには、何か難題にぶつかった際に、このカフェに足を運ぶという謎の癖があるようだった。

 

 

「ほぇぇ……」

 

 目下、ポポには悩みがあった。きっかけは、第9小隊が土の魔女ニキを保護したことで、いよいよ地水火風の4魔女が祝歌を奏でる時が近づいてきたからと、祝歌をトリガーとして発生するエクリプスの発動日の己の動き方について、ポポが改めてシミュレートしていた時のこと。ポポは、気づいたのだ。ポポが行おうとしている方法は、ポポ1人では実現不可能だと。最低でも1人、協力者が必要だと。

 

 

(今の時点でポポの計画に問題があるって気づけたのは良かったけど、でも……誰にポポのことを話せばいいんだろう? ポポの秘密を全部話した時、クラウス隊長が世界を滅ぼそうとしている敵だって言った時、それを丸ごと信じてくれる人。……うぅぅ、難しいなぁ。だって隊長のことは疑えないよ。みんな、隊長はレグナント王国に誠実に尽くす良い人だとしか思ってないもん。ポポだってそうだったし。だからエクリプスが起こって、みんな、みんな天使に殺されちゃったんだし)

「ん? お前、ポポじゃねーか」

「うん? あ、ラスティだ」

 

 これまでポポが単独で進めてきた方針に誰を巻き込むべきか。ポポが眼前の難題にうんうんとうなっていると、ポポの上から見知った声がかけられる。ポポがテーブルに突っ伏していた顔をのそりと上げると、不思議そうな顔つきでポポを見下ろすラスティの姿があった。

 

 

「こんなとこで何してんだよ。お務めとやらはどうしたんだ?」

「別にポポは24時間ずっとお務めしてるわけじゃないよ? 今は休憩中。それよりラスティはどうしてここに?」

「俺の場合は、下見だな。今、目をつけてるオネーチャン好みの店はないかなって物色中なのさ。こういう地道な下準備の積み重ねが、ナンパ成功の秘訣ってこった」

「へぇー」

 

 ラスティはポポの対面の席に座り、カフェの店員に紅茶を頼んだ後、率直にポポに疑問をぶつけてくる。結果、ポポは一旦難題のことは忘れて、ラスティとの雑談に興じることにした。

 

 

「にしても、ここでポポに会えたのはラッキーだな」

「?」

「なぁポポ。俺からお前に2つ、頼みがあるんだ。聞いてくれないか?」

「うん、いいよ」

「ありがとな。じゃあまずは、これを受け取ってくれ」

「へ?」

 

 どうやらラスティはポポに用事があったようだ。何の用だろうとポポが首をコテンと傾けていると、ラスティはおもむろに財布から5万ゴールドを取り出し、ポポに差し出してきた。

 

 

「……え、えっと? ポポ、身売りはしないよ? ごめんね?」

「ちげーよ!? 何が悲しくてお前みたいなガキンチョを買わなきゃいけねーんだよ! ……これはあの時、俺を救ってくれた礼だ。ポポと別れた後で、介抱してもらったのに何も礼をしてないことに気づいてな。いつかお前と再会して、落ち着いて話せる機会があったら渡したいってずっと思ってたんだ。だから、こいつをもらってくれ。ポポ」

「え。で、でもこんな大金、受け取れないよ!」

「はッ。ポポ、お前……まさか俺が薄給だとでも思ってんのか? 天下の騎士様を舐めるなよ? この程度の出費なんざ、痛くもかゆくもねぇ。だから、遠慮せず受け取ってくれ」

 

 ラスティがいきなり大金をポポに捧げようした意図がわからず、とりあえず身売りを警戒すると、危うい誤解をされたラスティが慌ててポポの推測を否定する。その後、ラスティはポポに5万ゴールドを渡す理由を告げる。5万ゴールドの受け取りをためらうポポの様子から、自分のことを気遣ってのことかと推測し、ラスティは5万ゴールドがはした金であることを主張し、ポポが素直にお金を受け取ってくれるよう言葉を重ねる。

 

 ポポは、過去にさかのぼる前の世界で、風の魔女として第9小隊に所属した経験を持っている。そのため、騎士という職業がどの程度の稼ぎを得られるかを知っている。5万ゴールドは、決してはした金ではない。ラスティは明らかに無理をして、ポポにお礼をしようとしている。

 

 

「……わかった。それじゃあ、もらうね」

「あぁ、そうしてくれ」

 

 ポポはしばし悩み、ラスティからのお礼を受け取ることにした。ラスティの気持ちを無下にしないことを最優先にしたがゆえの結論だった。ポポはおずおずとラスティから5万ゴールドを受け取り、財布にしまい込む。

 

 

「それで。もう1つ、ポポに頼みごとがあるんだよね?」

「あぁ。ポポ、今から俺とちょいと付き合っちゃくれねーか?」

「ほぇ? ……ポポ、もしかしてデートに誘われてる? あ、それとも今すぐ第9小隊に入ってほしいって話? それならこの前も言ったけど、ポポはまだ入らないよ! まだお務めが終わってないし!」

「いや、デートでも勧誘でもねぇよ。ただ、お前と会わせたい奴がいる。もちろん、クラウス隊長じゃない。これはあくまでプライベートな話だからな。で、どうだ? こっちに関しては無理強いはしねぇけど」

「んー。……わかった、いこっか」

 

 一体、ラスティはポポに誰に会ってほしいのか。少なくとも第9小隊の誰かではないだろう。ラスティの言い方から想像するに、ポポがまだ会ったことのない誰かに会わせたがっているようだ。一体誰に、一体なぜ。疑問がポポの脳裏でうずまく中、ポポはラスティの頼みごとを了承した。ラスティが何の目的を持っているにせよ、ポポに不利益なことにはならないだろうと、ポポはラスティを信じているからだ。

 

 かくして。さらっとラスティにおごられる形で会計を済ませてカフェから退出したポポは、ラスティの案内のままに王都を歩き進める。幾多の女性をナンパし、口説き落としてきた実績のあるラスティなだけはあり、ラスティの目的地へと向かう道中、ポポとラスティの会話は弾みに弾んだ。

 

 

「それで、どこに行くの?」

「赤熊の酒場ってところだ。ほら、ここだ」

 

 そんな中。ポポは会話が途切れたタイミングで、ふとした疑問をラスティに投げかけると、ラスティは待ってましたと言わんばかりに、右手に鎮座する、モダンな外装をした酒場を指差すのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ラスティが赤熊の酒場の扉を開き、ポポを招き入れる。橙色の照明で彩られたその酒場は、統一感のあるテーブルや椅子、物珍しい骨董品やお酒で飾られていて。俗すぎることもなく、高級すぎることもない、なじみやすい雰囲気を醸成していた。

 

 

「おう、いらっしゃい」

 

 赤熊の酒場に入るなり、1人の男性がポポとラスティを出迎えてきた。黒いサングラスに、右目を中心に縦の刻まれた傷跡が特徴的な、強面な男性だ。しかし一見すると怖そうな顔立ちをした男性は、その見た目とは裏腹の気さくな声色でポポとラスティに声をかけてくる。

 

 

「おーす、カヤジ。来たぞ」

「ラスティか。今日もいつも通り女連れ――って、おいおい。ラスティ、その娘はさすがにマズいだろ。まだ12歳か13歳って感じじゃねぇか。……お前さんは、自分の行いに責任の持てる姉ちゃんしか相手にしないと思ってたんだがなぁ」

「誤解すんなよ、今日はそういうのじゃねぇ。カヤジ、こいつが例の風の魔女――慈愛の魔女のポポだ。会いたがってただろ? だから連れてきたんだ」

「ッ!」

 

 カヤジはラスティの傍らのポポを見るや否や、ラスティが女児に手を出そうとしているのではないかとの考えに至り、ラスティを咎める視線を注ぐ。が、一方のラスティは、カヤジの反応を想定の範囲内として、カヤジの誤解が深まる前に本題をカヤジに告げる。カヤジにポポを会わせに来たのだと。

 

 

「ほぇ? ラスティがポポに会わせたかったのって、この人なの?」

「あぁ。意外だったか?」

「うん。てっきり、この酒場で誰かと待ち合わせしてるのかなって思ってたから」

 

 まさかラスティがポポをカヤジに会わせたがっていたとは。ポポは全く想定していなかった展開に目を丸くする。

 

 

「……ラスティ、それマジか?」

「カシミスタン絡みでお前を茶化すわけないだろ。本当だ」

「そうか……」

 

 ラスティからポポを紹介されたカヤジはしばしの呆然状態の後、本当に眼下の子供が風の魔女なのかについて、真偽をラスティに問いただす。そして、ラスティの回答から、ポポが本物の風の魔女であると理解したカヤジは突如、サングラスを外し、ポポに深々と頭を下げてきた。

 

 

「え? え? いきなりどうしたの!?」

「ありがとう、嬢ちゃん。嬢ちゃんのおかげで、あの日の、3年前のカシミスタンの大乱で、オイラのカシミスタンのダチが死なずに済んだ。みんな、みんな、慈愛の魔女がカシミスタンに砂の雨を降らせて、炎を鎮めてくれたおかげで助かったって言っててな。いつか会って、直接礼を言いたかったんだ。ありがとう、本当にありがとう……!」

 

 カヤジから心の底からの感謝を届けられたポポは、その言葉を素直に受け取ることができなかった。だって、ヒルダの魔法で3年前の過去に戻ったポポには、これから起こる未来についての知識があった。カシミスタンの大乱が起こることを知っていたのだ。

 

 なのに、ポポは気づくのが遅かった。ボナンザ町長に会うよりも早く、ヴェロニカ博士に会うよりも早く、カシミスタンの大乱に思い至り、すぐさま行動できていれば。きっと、カシミスタンの大乱を防ぐことができた。なのに、ポポはダメでグズでノロマな魔女だから。カシミスタンの大乱の終盤になってからしか介入できなかった。カシミスタンを、中途半端にしか救えなかった。

 

 

「ポポに、お礼を言われる資格はないよ。ポポがもっと早くカシミスタンに行けていれば、もっと多くの人を救えていた。あの大乱自体、防げたかもしれない。……ごめんなさい」

「……嬢ちゃん。これは人生の先輩からのちょっとしたアドバイスなんだが、あんまり完璧な自分を追求しなさんな。人間、どっかには不完全なところがある。欠点がある。そういうもんだ。……完全無欠な理想な自分ばかり追い求めていると、いつか現実の至らない自分とのギャップに心を焼かれて、耐え切れなくなって自分を殺しちまう」

「自分を、殺す……」

「嬢ちゃんは風を使って色々できるスゲー魔女らしいじゃねぇか。確かに、嬢ちゃんの動き次第で、嬢ちゃんがもっと多くのカシミスタンの住民を救える、そんな未来もあったのかもしれねぇな。……だが、嬢ちゃんが大乱の中で一生懸命手を尽くしてくれたのは事実で。嬢ちゃんが救ってくれた住民の中に、オイラのダチがいたのも事実だ。だからオイラは嬢ちゃんに心から感謝したいんだ。嬢ちゃんの中には『もっとこうすればよかった』っていう後悔がマグマのように煮えたぎってるんだろうが……オイラの感謝は、どうか受け取ってほしい」

「…………うん。お友達、生きててよかったね」

「あぁ、まったくだ。今のオイラが酒を酌み交わす相手に困らないのは、嬢ちゃんがダチを守ってくれたからだ。本当にありがとうな、嬢ちゃん」

 

 ポポがカヤジの感謝を拒否すると、カヤジはポポの沈痛そうな表情からある程度ポポの考えを察知した上で、年長者としてポポに忠告を交えつつも、改めて感謝の気持ちをポポに伝える。今度は、ポポはカヤジの感謝を正面から受け止めた。そのようなポポの様子を受けてひとまず満足したカヤジは場の空気を転換するために、パンパンと軽く手を叩く。

 

 

「さーて、まじめな話はここまでだ。――ラスティ、嬢ちゃん。今日は全部オイラのおごりだ。好きなだけ頼んでくれや!」

「マジか!? サンキューな、あんたはつくづく最高の店主だぜ! さーて、なに頼もっかねぇ。いつもだったら手堅くビールから入るんだが、金の心配がねぇのにビールなんて野暮だよなぁ? いっそ年代物のワインから始めてみるかぁ?」

「えっと。おごりって、だいじょーぶなの? ラスティが料金の高そうなお酒を狙ってるみたいだけど……」

「あぁ問題ねぇ。オイラは酒場の店主だ! 人に感謝の気持ちを示す時は、これが一番ってな。オイラのダチを救ってくれた恩人の嬢ちゃんに、その恩人を連れてきてくれたラスティ。2人に盛大に礼をしたいんだ。嬢ちゃんもオイラのことは気にせず、そこのラスティみたいに楽しんでくれ」

「う、うん。ありがとう、カヤジ」

 

 カヤジがラスティとポポにおごる宣言をしたことで、それまでポポとカヤジのやりとりに口を挟まず見守っていたラスティがここぞとばかりにハイテンションになり、カウンターの奥の棚に並べられたあらゆる種類の酒のどれを堪能するべきかを品定めし始める。ポポとしてはカヤジの懐事情が少々心配だったのだが、カヤジの反応からして杞憂だったようだ。今日は人から感謝されたりお礼としてお金をもらったりおごられたりする不思議な日だと、ポポは内心でひとりごちた。

 

 そして数分後。ポポの手には並々と注がれたオレンジジュースのグラス。ラスティとカヤジの手にはジンロックのグラスが握られていた。

 

 

「さて、何に乾杯すっかな。カヤジ、良い案あるか?」

「あるぜ、オイラに任せてくれ。では、このメチャクチャ悩みの多そうな嬢ちゃんの実りある前途を祈って――乾杯ッ!」

「乾杯ッ!」

「か、かんぱーい!」

 

 かくして、ポポとラスティとカヤジという不思議な面子での食事会が開催された。食事会は数時間続き、ポポは最終的に、ハメを外しすぎてグロッキー状態と化したラスティの介護をカヤジに任せて、赤熊の酒場を後にすることになるのだった。

 

 




ポポ:金髪ツインテールな風の魔女。自己肯定感の薄い性質ゆえに相手からの感謝を素直に受け取れない、そのような難儀な性格をしている。
ラスティ:養父ルドルフに育てられた砂漠出身の若者。24歳。以前、カヤジと酒を酌み交わした際に、カヤジが「風の魔女に会って感謝したい」との本音を零していたため、この度ポポを連れてきた。
カヤジ:王都ランベルトで赤熊の酒場の店主を担う男性。酒場はそこそこの人気を誇り、売上は安定している模様。3年前のカシミスタンの大乱からダチを救ってくれたポポに感謝したいとの気持ちを、3年間ため込んでいたこともあり、ガチなムーブでポポに感謝の意を表明した。

 というわけで、21話は終了です。イケオジ店主カヤジさんの登場回にして、過去に逆行したポポがカシミスタンの大乱に介入したことで、カヤジ救済ルートに突入する、そういう話でした。やはり、逆行系の作品では、1周目の世界との差異を描写する時が1番楽しいですね。
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