風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。凄惨な展開に拍車がかかるばかりのポポ編ですが、そろそろピークに達する頃なのでご安心ください。さて、佳境に差しかかったポポ編の続きを紐解いていきましょうか。

 ちなみに今回は、ヒルダに厳しい回になっていますので、ヒルダをこよなく愛する方は閲覧注意です。



25話.ポポの調律①

 

 福音使徒が滅ぼしたばかりのポート・ノワールの中央通りにて。幾多の建物から炎が舞い上がり、福音使徒の繰り出す凶刃により絶命したポート・ノワールの住民を次々と炎に呑み込む中。

 

 

「さようなら、風の魔女」

 

 絶望に打ちひしがられ、その場に膝をつくポポの首筋にデスサイズを添えていたヒルダは、無言を貫くポポの様子から遺言の類いを口にする意思がないものと判断し、ポポの首を切断するためにデスサイズを振り抜こうとする。

 

 

ぽぽは、しなないよ?

 

 が、ヒルダがデスサイズでポポの首を切断するよりも早く、ポポは己を起点として強烈なかまいたちを発生させる。何の前触れもなく突如として発生した暴風に、ポポを四方から取り囲んでいたヒルダ・ダンテ・ドロシー・ルドルフはその場に踏みとどまることができずに、なすすべもなく吹き飛ばされてしまう。

 

 

「こいつ、何の予備動作もなしに風を呼べるのかよ!?」

「やはり風の魔女の実力は他の魔女と比べ、明らかに実力が突出しているようだな」

「あーあ、あのまま大人しくヒルダに殺されておけば良かったのに、抵抗するんだ。だったら、徹底的にミンチにしないとね! おいで、デクリンちゃんたち!」

 

 ダンテ、ルドルフ、ドロシーは吹き飛ばされつつも空中で体勢を立て直して何事もなく地面に着地する。その後、ダンテとルドルフはポポの実力の一端に驚愕しつつも即座に周囲にハンドサインを送り、ポポを包囲するように幾多もの福音使徒の戦闘員を展開させる。ドロシーもまた己の周囲に二足歩行のウサギの姿をした殺戮人形『デクリン』を召喚し、ニタァと凶悪に笑う。

 

 

ねぇ、ひるだ。おねがいがあるの

 

 しかし、ポポは自身が大勢の福音使徒に囲まれているにも関わらず、彼らの存在を欠片も意識していない。ポポの目線は、ダンテたちと同様に何事もなく地面に着地したヒルダに固定されていて。まるで隣人に朝のあいさつをするかのような軽い口調でヒルダに話しかけ、テクテクとヒルダに近づいていく。

 

 

「気にくわねぇな、そのすまし顔。テメェはここで死ぬんだよ!」

「風の魔女よ、ここで終幕としようか」

「ざーんねん☆ ヒルダには指一本触れさせないよ! やっちゃえ、デクリンちゃんたち!」

 

 ヒルダへと歩み寄ろうとするポポを看過する福音使徒ではない。ダンテ、ルドルフ、ドロシーがポポの行く手に立ち塞がりつつ、同時に配下の福音使徒の軍勢やデクリン人形軍団に、ポポに一斉攻撃を仕掛ける旨の指示を下す。

 

 ポポの強さを警戒した上で、福音使徒の最大戦力を一気に叩きつけるというダンテたちの判断により、ポポの命はもはや風前の灯火。この場の誰もがそう思っていた。

 

 だが、この時、誰もが想定できていなかった。魔女とは、己の体に宿したクオリアの魔力を使って魔法を行使できる存在である。ゆえに、通常であれば、魔女は己の中のクオリアに貯蔵された魔力分の魔法しか使えない。

 

 しかし今、ポポが背負っているリュックの中には、ポポが月から削って入手した月のクオリアを変質させた、風のクオリアが大量に詰め込まれていて。ゆえに、ポポがその気になれば、この場の福音使徒の軍勢を一掃できる大規模魔法を行使できるということを。福音使徒は誰一人として、その可能性に思い至ることはなかった。

 

 

「「「――ッッ!?」」」

 

 ポポはリュックの中の全ての風のクオリアから膨大な魔力を取り寄せて大規模な風魔法を発動させる。突如、ポート・ノワールの上空にエメラルド色の強大な魔法陣が展開され。直後、ポート・ノワールの中央通りに、文字通り全てを押し潰す暴風が招来された。暴力的な圧力を伴った暴風を上空から叩き込まれたことで、福音使徒の軍勢は、デクリン人形軍団は、ダンテたち福音使徒の幹部は、容赦なく全身を斬り刻まれてしまう。

 

 結果として、徐々に暴風が収まった時、ポポの大魔法を喰らって、意識を保っている者は誰一人おらず、皆等しく地に伏していた。中には、腕や足がもがれ、耳が削がれ、目が抉られ、明らかに意識を永遠に闇に落としていると判断できる者もいた。

 

 

「そん、な……」

 

 偶然か必然か、幸か不幸か。ただ1人、ポポの魔法の範囲外にいたヒルダは、一瞬で配下の福音使徒たちが死屍累々の様相を呈していることに、声を失い、ただ立ち尽くす。風の魔女は強い。孤月の丘で第9小隊と戦った際に、風の魔女の強さを認識したはずだった。しかしそれすらも、見込み違いだったという事実を、多くの福音使徒の死という形で突きつけられたヒルダは、ただただ目を見開くことしかできない。

 

 

ひるだ

 

 瞬間。ヒルダの耳元から少女の声が発せられる。ヒルダがギョッと肩を跳ねさせて、声の元に視線を移すと、ヒルダの目と鼻の先でポポがヒルダを見つめていた。今さっき多くの福音使徒を殺したにも関わらず、ポポの紺碧の瞳は凪いでいて。ヒルダを確かに捉えているはずのポポの瞳は、しかしヒルダの背後のポート・ノワールの街並みを見据えているようで。ヒルダは、ポポに心の底から恐怖した。ヒルダの山吹色の瞳はポポに釘づけとなり、己の体がまるで金縛りにあったかのように動けなくなってしまう。

 

 

ときのくおりあ、ちょうだい?

 

 身動きを封じられたヒルダをポポは押し倒し、ヒルダの下腹部の上にまたがるように膝をつき、一言お願いを口にした。同時に、ポポは右手に風をまとって簡易的なドリルを構築すると、それをヒルダの胸に突き刺した。

 

 

「――ぁあ゛あ゛ッ!? か、ふぁ……!」

 

 風のドリルでポポに胸を抉られ始めたことで体の硬直状態が解除されたヒルダは痛みに絶叫し、吐血を繰り返しながらも、気力を振り絞って己に予備動作不要の時魔法を行使する。己の時間をポポに攻撃される前の時間に戻すことで、体の怪我を直す時魔法だ。しかしヒルダは、ポポがヒルダの胸を風のドリルで抉る攻撃自体を遮ることができず、それゆえにヒルダは延々と己の胸をドリルで抉られ続ける地獄を味わうことになった。

 

 

「ア゛ッが、ァッぐ…が゛ぁッッッ!!」

あ、ひるだ。もしかして、ときのまほうでじぶんのけがをなおしてるの? それとも、じぶんのからだをすこしまえのじょうたいにもどしてるのかな? そういうこともできるんだ。はじめてしったよ。でも、やっかいだね。それをされると、ひるだのからだのなかから、ときのくおりあをさがすのがたいへんになっちゃう。それなら、くびをおとしてから――

 

 声を枯らして絶叫するヒルダを見下ろしながら、ポポはなんでヒルダの胸を風のドリルで掘り進めているのにヒルダが死なないのかについて脳内でクエスチョンマークを浮かべ、その後ヒルダに己の推測を問いかける。今のヒルダがポポに回答できるわけがないことを把握しているのかしていないのか、ポポはヒルダの回答を待たずにまずは確実にヒルダを殺してから、ヒルダの体から時のクオリアを回収しようと、左手にも風のドリルを構築してヒルダの首へと振りおろ――。

 

 

「ポポ! 何やってんだよ!」

……あると?

 

 ――そうとして、ポポの行動は阻害された。ポポが視線のみ背後に移すと、アルトがポポを羽交い締めにしていて。アルトはポポをヒルダから遠ざけるように、ポポとともに速やかに後退していく。羽交い締め状態でアルトに体を持ち上げられているポポは両手の風のドリルを解除すると、己を起点に竜巻を発生させてアルトを吹き飛ばし、アルトの羽交い締めを解除してからアルトへと向き直る。否、ポポの苛烈なドリル攻撃が終わったことを機に意識を失ったヒルダを守るようにポポに立ち塞がる第9小隊へと向き直る。

 

 

……どうしてひるだをかばうの? みんなにとって、ひるだはてきだよね?

「あぁ、確かにヒルダは敵だ。だけど俺は、ヒルダに死んでほしいとも思ってないし、ポポに人を殺してほしいとも思ってない。だからポポを止めるんだ!」

「ポポ殿、罪人は国家が裁くべきだ。罪状に応じて国家が相応の刑罰を科すべきであり、私刑がまかり通ってはならない。ゆえに、ヒルダはあくまで捕縛すべきであり、今ここでヒルダを殺害することは決して容認できない。頭を冷やしてはもらえないか、ポポ殿?」

ぽぽのじゃまをしないで。ぽぽは、ひるだにようがあるんだから。じゃまするならぜんいん、ぽぽのめのまえからきえてよ

 

 ポポの問いかけに、アルトは感情論から、クラウスは理性論からポポのヒルダ殺害を妨害する理由を告げる。しかし、2人の言葉はポポの心を何ら震わせない。第9小隊は、ポポが時のクオリアで再び過去に戻ることを邪魔する敵。そのように解釈したポポは、再び天空から、福音使徒を虐殺した暴風を招来しようとして、リュックの中の風のクオリアの魔力が枯渇していることに気づき、代わりにポポの使い魔であるポイズンウルフ10匹とアネモネ5体を召喚し、使い魔を第9小隊にけしかけた。

 

 

「クラウス隊長!」

「わかっているとも。皆、アルトがポポ殿を調律できるように、ポポ殿への道を切り開くのだ!」

 

 アルトの意図を察したクラウスが第9小隊に指示を飛ばしたことを機に、第9小隊は束になって襲いくるポポの使い魔たちに応戦する。一方、アルトは自らが戦うことをせず、仲間を信じて、ひたすらポポの元へと駆けていく。

 

 

「アルト、どうかポポのことを頼みます! あなただけが頼りなんです!」

「アルト、あなたの力でポポさんを助けてあげてください!」

 

 漆黒の体毛に覆われたポイズンウルフの群れがアルトの首を噛み切るべく飛びかかる。しかしポイズンウルフの牙は、ニキがポイズンウルフの眼前に生み出した土の壁によって遮られる。ニキの土の壁をかいくぐってアルトに爪撃を繰り出そうとしたポイズンウルフは、しかしユアンの銃撃で狙い撃たれたことにより、アルトを傷つけることができずに倒れ伏す。

 

 

「進め、アルト! アルトへの攻撃の一切をこのアーチボルトの盾で防いでくれよう!」

「アルトへの攻撃は私のバリアで守ってみせる。だからアルトは、ポポを救うことだけ考えて!」

 

 蝶の羽で羽ばたかせて宙に浮き、弓をつがえたアネモネがアルトめがけて射出する弓の一撃を、弓の射線上に割り込んだアーチボルトが盾で防ぐ。アーチボルトの盾の範囲外からアルトを射抜こうとしたアネモネの矢は、しかしリゼットがアルトを包むように展開したバリアで、アネモネの弓を弾き飛ばす。

 

 

じゃまだよ、みんな。じゃまじゃまじゃま! さっさときえてッ!!

 

 ポポはさらにポイズンウルフとアネモネの群れを追加召喚し、段々とポポの元へと近づいてくるアルトを迎撃するべく使い魔たちを一斉に突撃させる。

 

 

「は、この程度の攻撃で俺たちをどうにかできると思ってんのかよ、ポポ」

「ホント、このヘソ出し娘には舐められたものよね。笑っちゃうわ」

「サクヤ様の仰る通りです! 忍びのわたしを差し置いて、アルトさんに近づけると思わないことです!」

「アルト、ここは我々に任せて、己の力を信じて突き進め!」

 

 しかし、ラスティ・サクヤ・ののか・クラウスという第9小隊きっての武闘派な面々が、アルトを襲撃せんとするポポの使い魔たちをアルトから引き剥がし、使い魔を各個撃破していく。

 

 

「ポポ!」

 

 かくして。仲間たちの献身によりポポの目の前までたどり着いたアルトは、すかさずポポへと手を伸ばす。刹那、光の奔流がアルトとポポの間を取り巻き、しかし、アルトはポポの精神世界に入り込めずにいた。ポポの心に上手くアクセスできない。ポポの心が、アルトの調律を拒絶しているのだ。

 

 

きえてきえてきえてきえてきえてきえてきえてきえてきえて!

 

 このままではマズい。アルトが手こずっている間にも、目の前のポポは息を吸うように次々と使い魔を召喚している。第9小隊は総員、使い魔を倒すことよりもアルトを使い魔から守ることを優先しているため、アルトがこのままポポの精神世界に入れなければ、第9小隊はポポの使い魔の物量に押し潰されてしまう。

 

 

「ポポ、俺の声が聞こえるか! 頼む、お前の心を見せてくれ! 俺にお前を救わせてくれ!」

 

 アルトは至近距離から必死にポポに叫ぶ。少しでもポポがアルトの声に反応してくれれば、それがポポの精神世界に切り込む隙になるかもしれないからだ。だが、ポポの心に、アルトの声は相変わらず届かない。ポポの鼓膜は、アルトの言葉に震えない。

 

 

 ――お前に。

 

 と、その時、アルトの脳裏に声が届いた。

 それはかつて、アルトとリゼットの故郷であるミトラ村が福音使徒に襲われた時に、暴走したリゼットを救おうとした時に聞こえた『力が欲しいのか?』という声ではない。

 

 それはかつて、ドロシーにより ゴウラ火山の火口へと突き落とされたサクヤを助けようと、アルトもまた火口へと飛び込んだ時に聞こえた『少女を調律しろ』という声ではない。

 

 

 ――お前ごときに、ポポが救えるのか。この世の真実を何も知らない、無知なお前に。ポポに助けられてばかりの、無力なお前に。

 

「あぁ、確かにお前の言う通りだよ! 俺は昔も今も、ポポに救われてきた。救われてばっかりだ! 未熟な奴だって言いたいのならその通りだ! ポポがここまで壊れるのを止められなかったくらい、情けない男だよ、俺は! だけど、だからなんだってんだよ! 俺はポポを助けたい! ここで知ったような口を利くお前なんかより、ずっとずっとポポを助けたい! この気持ちじゃ絶対負けないからな! わかったなら俺に干渉すんじゃねぇよ!」

 

 アルトは脳内で饒舌に自身に語りかけてくる謎の声に対して、吠える。その間も、アルトはポポの精神世界に入り込むために必死に意識をかき集めて、一点に集中させる。

 

 

 ――良い答えだ。お前らしいな。

 

 しばらく経って、アルトの脳裏にその声が聞こえた瞬間。頑なにアルトの調律を拒絶していたポポの心に、隙が発生する。その隙を逃さずアルトが飛び込んだことで、アルトとポポを取り巻く光がますます輝きを増していく。

 

 

 ――ポポのことを、頼む。

 

 ここからが本番だ。そう気持ちを引き締めなおすアルトの脳裏に、ポポを託す旨の声が響いたのを最後に、アルトに干渉してきた声は一切聞こえなくなる。かくして、アルトはポポの精神世界に入り込むことに成功し、ポポを調律する前提条件を達成できたのだった。

 

 

 

 

 

/\

/ 調 \

/  律  \

\  開  /

\ 始 /

\/

 

-begin tuning-

 

 

 

 

 




ポポ:金髪ツインテールな風の魔女。ただいま暴走中。再び過去に戻ってやり直すことを前提で考えているため、今のポポに人を殺すことに何ら躊躇はなく、そもそも人を殺している自覚すらなく。そのため、福音使徒を強大な風魔法で蹂躙した後でヒルダを殺して時のクオリアを奪おうとしたが、アルトたちに妨害された。
アルト:原作主人公にして、記憶喪失な第9小隊の一員。荒れ狂うポポを調律して救うために、第9小隊の仲間たちが切り開いてくれた道を突き進み、どうにかポポの精神世界に入り込むことに成功した。今、最高にアルトが主人公しているのではなかろうか。
ヒルダ:福音使徒を統べる時の魔女。年齢は少なくとも千年以上。今回の被害者枠。己の体をポポの風のドリルに貫かれる前に戻す時魔法を使った側からポポに再び胸をドリルで掘削され続ける壮絶な地獄を味わった結果、アルトがポポのドリル行為を止めたことを機に否応なく意識を失った。

 というわけで、25話は終了です。まぁ、うん。ヤバい回でしたね。ですがアルトがポポの精神世界に入ったことで、割と希望が見えてきたような気もしますよね。はたして、アルトはポポを救えるのか。
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