風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。サブタイトルから察せられるかもしれませんが、今回は温泉回です。しかもこの作品はポポが主人公なので、女湯サイドの描写が用意されている可能性がメッチャ高いです。やったー!



28話.覗き覗かれ

 ニキ、リゼット、サクヤ、ポポ。地水火風の魔女による祝歌の練習は順調に進められていった。そして、祝歌完成の目処がついたことにより、祝歌を奏でてヒルダの堕歌による街や人の結晶化を解除する一大イベント『復活祭』の開催日程が確定した、そんなある日のこと。第9小隊に思わぬ朗報が飛び込んできた。これまでの第9小隊の慰労と親睦を兼ねて、一泊二日の慰安旅行が手配されたのだ。

 

 発起人はアナスタシア陛下。彼女が第9小隊の働きに少しでも報いたいと願い、ユアンにこっそり相談した結果、ユアンが国内最高峰の超人気温泉旅館こと『はなれ湯 華蝶庵』の予約を取りつけてきたのだ。

 

 唐突に降ってわいた朗報に、第9小隊は歓喜した。しかし、華蝶庵に泊まる当日、ニキの気持ちは沈んでいた。どうせならニキだけでなく、妹のモルディモルトや、なんだかんだ付き合いの長いキースも華蝶庵に連れて行きたかったのだが、ユアンに相談した結果、『残念ながら、今回は第9小隊の人数分しか予約を確保できませんでした。なにぶん、急な話でしたので。すみませんね、ニキさん』と謝られてしまったからだ。

 

 

「……」

「全く、いつまで落ち込んでるのよ、ニキ。せっかくの華蝶庵なんだから、楽しまないと損よ」

「それは、そうなのですが……」

「ニキは今まで領主として頑張ってきたんだから、これはご褒美だと思って、今日をいっぱい楽しもうよ。モルディだって、ニキの幸せを願って、代わりにカシミスタンの領主になったんだから」

 

 華蝶庵の従業員によって、男女別に割り当てられた大部屋に案内された後も、ニキの心は継続して沈んだままだった。モルディモルトは今、カシミスタンで領主代理の務めを果たしている。キースはモルディモルトの護衛に徹している。それなのに、ニキだけが華蝶庵での宿泊を堪能することへの罪悪感に心を痛めていると、いい加減に痺れを切らしたサクヤがニキに声をかける。続けて、リゼットもモルディモルトの名前を持ち出して、ニキが華蝶庵で過ごす時間を前向きに捉えられるように言葉を紡ぐ。

 

 

「その言い方はズルいですよ、リゼット。……わかりました、暗い気持ちを引きずるのはここまでです。では、華蝶庵の温泉へ行きましょうか」

 

 結果、どうにか気分を持ち直したニキの宣言により、第9小隊の女性陣(ニキ、リゼット、サクヤ、ポポ、ののか、マリー)は華蝶庵の女湯へ向けて出発する。

 

 

(あれ、このにおい……もしかして)

 

 と、ここでポポは気づいた。ポポはにおいに敏感だ。その優れた嗅覚は、第9小隊の貸切状態であるはずの温泉旅館に、第9小隊と華蝶庵の関係者以外の存在を感知していた。しかし、ポポは敢えてそのことを話さないことにした。ここでポポが女性陣にネタばらしすることを、決してユアンは望まないだろうと判断したからだ。

 

 

「ポポ、どうしたの?」

「あ、マリー。何でもないよ」

「……ほんとうに?」

「うん、本当だよ。そんなに心配しないでよ、マリー」

 

 ポポがふと立ち止まったことにマリーがいち早く気づき、ポポを見上げて問いかける。ポポが軽くごまかすと、マリーが訝しげな視線とともに再度確認してくる。マリーは、ポポが血の涙を流しながらも何ともなさそうにマリーに伝言を残してマリーの元から去ったあの一件以降、ポポが何か無茶をしているのではないかと少々過剰に心配するようになっているのだ。ポポはマリーに気を遣わせてしまっていることに申し訳なさを感じつつ、マリーに柔和に微笑みかけた。

 

 そのような会話を挟みつつ、ポポたちは脱衣所で服を脱いで、バスタオルとともに女湯へと入っていく。刹那、ニキ・リゼット・サクヤ・ののかが、まさかの光景を前に驚愕の声を上げる。

 

 

「「「「えッ!?」」」」

 

 ポポたちの目の前にいたのは、1人の少女。

 長い青髪が温泉に浸からないように後ろに束ねた、とても見覚えのある1人の少女。

 

 

「――盛る。みんな、待ってた」

「モルディ!?」

 

 現在、カシミスタンの領主代理を務めているはずのニキの妹、モルディモルトがポポたちを待ち受けていた。そのことに誰よりも驚いたニキの声が、女湯にこだまするのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 どうしてモルディモルトが華蝶庵にいるのか。誰もがその疑問を解消したくて仕方なかったのだが、当のモルディモルトから「まずは、みんなも一緒に温泉に入ろ?」と提案されたため、ポポたちは速やかに体を洗い終えて、モルディモルトの浸かる露天風呂へと合流した。

 

 

「それで、どうしてモルディがここにいるの?」

「まさか無断で華蝶庵に侵入したわけじゃないでしょうね?」

「それは、ない。ユアンから誘われたから、来ただけ。わたしも、久しぶりにお姉ちゃんと会いたかったし」

「え、でもユアンは『第9小隊の分しか予約を確保できなかった』って――」

「――サプライズだって、ユアンは言ってた。せっかくの慰安旅行を盛り上げるために、女湯で待機していてほしいってユアンに頼まれて、だからわたしはここにいる。……今頃アルトたちも、男湯でキースと再会して、びっくりしてるはず」

「はぁぁ、なるほど。ユアンさんって、エンターテイナーさんですねぇ」

 

 皆が共通して抱いている疑問についてポポがモルディモルトに問いかけ、サクヤがジト目でモルディモルトを見やると、モルディモルトは己が華蝶庵にいる理由を告げる。結果、慰安旅行にユアンが仕掛けていたサプライズの存在を知ったことで、ののかはユアンの粋な計らいに感嘆の息を吐いた。

 

 

「けれど、モルディ。カシミスタンを離れてここまで来て、領主の仕事は大丈夫なの?」

「うん、ちゃんと引き継いでるから問題ない」

「そっか。……ねぇモルディ。カシミスタンはどう? 上手く治められてる?」

「今は、比較対象がお姉ちゃんが結界で人の出入りを制限していた時代とだから、みんなからは良い評価を盛ってくれてる。けど、これからが本番だと思う」

「――こらこら2人とも、湯船に浸かってる時までそんなまじめな話をしなさんなっての」

「あ、ごめんなさいサクヤ。つい気になってしまいまして」

 

 ニキがモルディモルトへと近づき、領主不在のカシミスタンを心配して問いを投げかけるも、モルディモルトはニキの質問を想定の範囲内として、即答する。ニキはモルディモルトの成長っぷりに内心で感激しつつ、さらにモルディモルトの領主事情について話を聞きだすも、そこでサクヤにストップをかけられてしまう。結果、ニキはカシミスタン関係のことは後で機会を見つけて、モルディモルトと2人の時に確認することとして、ひとまずサクヤに謝罪し、まじめな話題をひっこめた。

 

 

「あれー? 知らない人がいる」

「盛る?」

 

 と、ここで。アヒルとカメのおもちゃを腕に抱いて、遅れて女湯へと入ってきたマリーが、体を洗ってから、露天風呂に浸かるポポたちに合流し。そこで初対面のモルディモルトを目撃してコテンと首を傾ける。一方、モルディモルトもまた見知らぬ女の子の存在に気づき、マリーへと声をかける。

 

 

「わたしは、モルディモルト。ニキの妹だよ。モルディって呼んで? あなたは?」

「マリーはマリーだよ。よろしくね、モルディ」

「ッ! お姉ちゃん、お姉ちゃん。この子、持って帰りたい。カシミスタンでいっぱい、盛りたい」

「ダメよ、モルディ。マリーにはちょっと込み入った事情があって、第9小隊預かりになってるの。だから、マリーは持ち出し厳禁よ」

「盛る……」

 

 モルディモルトから自己紹介をされたマリーは、天真爛漫な笑顔とともにモルディモルトに己を紹介する。そのマリーの可愛さに心を打たれたモルディモルトは、すぐさまニキへと振り向き、己の願望を告白するも、ニキに速攻で却下されたため、シュンとうなだれることとなった。

 

 

「もりたいって、なーに?」

「お姉ちゃん」

「はいはい。いつものね」

 

 うつむくモルディモルトにマリーが問いかけると、再びモルディモルトは弾かれたようにニキを見つめて、対するニキは苦笑とともに、土魔法を行使する。ニキは空中に一塊の柔らかい土を召喚し、湯舟にぷかぷか浮かぶ木製の湯桶の上に乗せる。するとモルディモルトは卓越した手さばきで土をこねくり回し、マリーと瓜二つな土人形を完成させた。

 

 

「わー! マリーがもう1人いる!」

「この子も、マリーと一緒に温泉で盛る盛るしたいって。この子と遊んであげてほしい」

「わかった! もう1人のマリーと盛る盛るするー!」

 

 モルディモルトから土製のマリーをプレゼントされたマリーは興奮冷めやらぬままに、湯桶の上に、土製マリー&アヒルのおもちゃ&カメのおもちゃを乗せ始める。

 

 

「あんなに凄い特技があるんだね、モルディ」

「モルディは昔から土いじりが大好きでしたから。好きが高じて、あそこまで上達したのですよ」

「……やれやれ、温泉でやることが土遊びって、風情の欠片もないわねぇ」

「風情というと?」

「そりゃもちろん、恋バナよ。大人の女性が温泉でやることといったら、恋の話題でしっとりと過ごす。これっきゃないでしょ」

 

 ルンルン気分で桶の上の土人形やおもちゃと戯れるマリーを遠目に見て、リゼットがモルディモルトの技術を称賛し、ニキが誇らしげにモルディモルトの特技が生まれた経緯を語る。一方、マリーのことをほほえましく見守りつつも、サクヤはわざとらしくため息を吐く。そうしてニキの興味を己に引きつけつつ、サクヤはここで満を持して、恋の話題を女湯に持ち込んだ。

 

 

「そういうわけで、ポポ」

「ほぇ?」

「アンタ、第9小隊で気になる人はいないの?」

「え、え? なんでポポにいきなり聞いてくるの、サクヤ……?」

「そんなの、アンタのことを意識してる男衆が多いからよ。軟派野郎(ラスティ)銭ゲバ狐(ユアン)に、あと鈍感男(アルト)。みんなポポを思いっきり意識してるわよ。それなら、当のアンタはどう思ってるのか、気になるじゃない。で、どうなの?」

「あ、あわわわわ」

 

 サクヤが投入してきた恋の話題。その標的として一番最初に指名されるとはつゆほども思っていなかったポポがサクヤの意図を尋ねると、サクヤは好奇心旺盛な眼差しとともに、ズイッとポポへと体を近づけてくる。ポポの心に踏み込んでこようとする。

 

 サクヤの問いにどう答えるべきか。どう答えればいいのか。サクヤにいきなり詰め寄られて、慌てたポポはとっさに風魔法を行使した。ポポが招来した風は、湯桶の上に乗せてあったマリーのアヒルのおもちゃをふわりと浮かべて、湯舟の外へと吹き飛ばしていった。

 

 

「あー! アヒルさんがどこかに飛んでっちゃったー!」

「そ、それは大変だね、マリー! でもだいじょーぶ! ポポがすぐにアヒルさんを見つけてくるから、マリーはここで待ってて!」

「え、ポポ?」

 

 マリーがアヒルの消失に驚いていると、ポポは待ってましたと言わんばかりに立ち上がってアヒルのおもちゃの捜索を宣言し、マリーの返事を待たずに湯舟から脱出していった。

 

 

「……うまく逃げられたわね。まぁいいわ。今回の本命はニキ、あなただもの」

「え゛ッ!?」

 

 そんなわざとらしさ極まりないポポの挙動に、サクヤは獲物を逃がしてしまったことを残念に思いつつも、次なる標的へと視線を注ぐ。結果、ポポと同様に、まさか恋の話題で己を標的にされると思わず驚愕の声を漏らすニキの瞳を、サクヤの鋭い眼光が射抜くのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「どこいったんだろう、アヒルさん」

 

 マリーが持ち込んだアヒルのおもちゃを風の力で吹き飛ばすことで、サクヤから吹っ掛けられた恋の話題を回避することに成功したポポは、アヒルのおもちゃを捜している風を装いながら、付近をうろうろと歩く。アヒルのおもちゃはポポの風魔法で吹き飛ばしたため、当然ながらポポはアヒルのおもちゃが今、どこに落ちているかを把握している。だが、すぐにアヒルのおもちゃを見つけて湯舟に戻れば、サクヤから同じ話題を再度振られるかもしれないため、敢えてアヒルのおもちゃの捜索行為で時間稼ぎをしているのだ。

 

 

「……」

 

 ポポが恋の話から逃げたくなった理由。それは、ポポがこの世界の真実に気づいてしまったからだ。過去に戻る前にヒルダがポポに遺した言葉の真の意味に気づいてしまったからだ。気づいてさえいなければ、ポポは過去に戻る前と同様に、「アルトが好き」だと素直に主張したのだろう。だけど、気づいてしまった今は、ポポが内に秘める好意を、誰かに伝えることは、非常にはばかられた。

 

 ポポはしばらくアヒルのおもちゃの捜索という名目で時間を潰す。しかしいつまでもこの名目だけで乗り切ることは不可能だろう。体も少し冷えてきたことだし、そろそろアヒルのおもちゃを発見したということにして、サクヤたちと合流しよう。ポポが方針を決定し、岩陰に転がるアヒルのおもちゃを拾い上げ、湯舟へと戻ろうとして――。

 

 

「あッ」

「ほぇ?」

 

 そこで、ポポはふと空を見上げて。そこで塀の上から女湯を覗き込む目と、ポポは目が合った。その澄んだアメジスト色の瞳は、間違いなくアルトの瞳だった。

 

 そういえばそうだった。ポポが過去に戻る前に、華蝶庵での慰安旅行に向かった際、確かアルト・ラスティ・アーチボルトが各々の方法で、女湯の覗きをしていたのだ。アルトと視線が交差したことを契機に、逆行前の華蝶庵で発生した出来事を思い出したポポは、困り顔を浮かべた。

 

 

(……どうしよう)

 

 過去に戻る前だと、アルトたちの覗き見は、ののかに察知されてバレることになる。その後、慰安旅行は微妙な空気になったものだ。サクヤやリゼットがぷんぷん怒って、アルトやアーチボルトがひたすら謝り倒して、喧嘩ムードにマリーがおろおろして。覗きに何ら関与していなかった男性陣や、覗かれたことをいつまでも引きずらないタイプの女性陣だけが悠々と華蝶庵の夜を堪能する。そんなカオスな時間だった。

 

 

(せっかくの華蝶庵なのに、サクヤやリゼットに怒られちゃうのはかわいそうだよね?)

「ち、違うんだ、ポポ。俺はラスティに無理やり誘われただけで、これは決して俺の意思じゃ――」

「……アルト、そろそろ塀から離れた方が良いよ。このまま女湯を覗き見してたら、きっとののかに気づかれるから」

「え、ポポ?」

「それじゃ、また後でね。このことは内緒にするから、安心して」

「……」

 

 汗をダラダラ流しながら早口に言い訳を口にするアルトに、ポポはそっと微笑みかけて、覗き見を切り上げるようアドバイスする。そして、困惑に満ち満ちた視線をポポへと降ろすアルトに、ポポは人差し指をピンと立てて己の唇に押し当てて、「しーっ」というジェスチャーを残して、女湯の湯舟へと戻っていく。

 

 

(ふぅ。これでアルトたちも華蝶庵での時間をじっくり楽しめるはず。良かった良かった)

 

 ポポの関与により、覗き見を気づかれたアルトたちが怒鳴られる展開はなくなった。ポポはアルトたちを救うことができたのだ。ポポは満足げな表情を浮かべる。

 

 だが、この時のポポは知るよしもなかった。ラスティに巻き込まれる形とはいえ、女湯を覗き見するという恥ずべき行為を行ってしまったアルトとアーチボルトのまじめコンビにとって、女性陣から盛大に怒られるよりも、覗き見がバレたにも関わらず、当の覗かれていた側の女性から、覗き見を怒られずに許されるという結果の方が、はるかに罪悪感が増し増しとなり、華蝶庵の時間を純粋に楽しめる精神状態でなくなってしまうということを。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 時は少々さかのぼる。

 

 

「……うまく逃げられたわね。まぁいいわ。今回の本命はニキ、あなただもの」

「え゛ッ!?」

「はっきり言うわよ。アンタ、ポポのことが好きでしょ」

「ッッ!?」

 

 女湯の湯舟にて。ポポに続いて、サクヤから恋の話題を唐突に投げつけられたニキは、驚愕の声を上げ。サクヤから続いて飛び出してきた問いかけに、ニキは目を見開き、言葉を失った。そのようなニキの露骨な反応を確認できたサクヤは、己の推測が的中したことに、ニィィと凶悪な笑みを浮かべた。

 

 

「ど、どどどどどうして――」

「――だってアンタ、ポポと話す時は丁寧語じゃなくなってるもの。アルトが相手の時でも丁寧語を崩してないのに。それって、アンタがそれだけポポに心を許している証拠でしょ? アンタが、そうやって話してるの、後はモルディとか、勘違いメガネ(キース)くらいしかいないんじゃないの?」

「そ、それは私とポポが親友である証拠にはなっても、私がポポにそういう想いを抱いている証拠にはならないのではないですか?」

「そうね。だから今、鎌をかけたんじゃない。それに対するアンタのきょどりっぷりが何よりの答えでしょ。何か反論はあるかしら?」

「うぅぅ……」

 

 己の秘めたる想いをサクヤに暴かれてしまったニキは、恥ずかしさのあまり、湯舟に顔を半分沈めていく。この場にいる、ポポ以外の5人に自分の気持ちがバレてしまった。今、自分はみんなからどう見られているのか。どう思われているのか。ニキは不安で仕方がなかった。

 

 サクヤがニキの本心に切り込んだことをきっかけとしたまさかの展開に、話題の外野となったリゼット・ののか・モルディモルトが固唾を吞んで、サクヤとニキの会話の行く末を見守る態勢に入り。マリーが不思議そうにサクヤとニキを交互に見つめる中。サクヤはニキを見据えて語りかける。

 

 

「ニキ。アタシはうっかり同性に恋をしたアンタを責めるつもりで鎌をかけたわけじゃない。いっそニキ、アンタはポポと恋人になるべきよ」

「ん゛ん゛ッ!?」

「あのとことん秘密主義で、何もかも抱え込んで勝手に傷ついていく。そんな厄介極まりないポポの力になりたいのなら、恋仲になって秘密を分かち合うのが一番効果的でしょ?」

「待ってください、サクヤ! 私を置いて話をどんどん進めないでください! 恋仲って、そもそも私とポポは女の子同士ですよ!? 私が告白したところで、絶対ポポに拒否されます。もしポポに気持ち悪いと思われたら、どうしてくれるんですか!? 一巻の終わりですよ、もう立ち直れませんよ!」

「確かに。ポポがニキの告白にどう返事をするかは、ポポの性格次第ね。考えにくいけれど、ポポがニキのことを気持ち悪いって思っちゃう可能性はある。……でもね、ニキ。ポポが女性同士の恋愛をどう思っているかに関係なく、アンタのポポへの気持ちは止められないんじゃないの? だったらアンタは、心に宿っちゃったポポへの恋心と一緒に前進あるのみでしょ。それが、ニキのためでもあり、ポポのためでもある。アタシはそう思っているわ」

 

 女性同士、ニキとポポが恋人になる。そのことをサクヤが全面的に肯定したことに、ニキは驚きのあまり奇声を上げる。そうこうしている内にもサクヤは、ニキがポポへの告白を成功させて2人が恋人になる展開をさも既定路線かのように話を強引に進めていく。ニキは慌ててサクヤを遮り、話題の軌道修正を図るも、サクヤにそのまま押し切られてしまう。

 

 

「サクヤ……」

 

 サクヤは何も面白半分でニキにポポへの告白を推奨しているわけではない。ニキとポポの行く末を案じているからこそ、ここでニキに盛大に発破をかけている。ゆえに、ニキは結局、何も言えなくなった。

 

 

「さて。そういうわけだから、今日ポポにアタックしなさい」

「ん゛え゛ッ!? 今日!? 今日って言いましたか!? いくらなんでも、いきなり過ぎませんか!?」

「ニキのタイミングに合わせてたらいつまでも告白しなさそうだもの。だから今日アタックしなさい。じゃないと、アタシからポポにバラすわよ?」

「脅迫じゃないですか!? ……うぅぅ。どうしても今日じゃないと、ダメですか?」

「当たり前でしょ。むしろ、この五つ星の最高級旅館『はなれ湯 華蝶庵』の夜っていう絶好の機会を選ばないで、いつ告白するってのよ」

「うぐぐッ」

 

 が、サクヤの猛攻はまだまだ止まらなかった。ポポへの告白を今日行うよう宣告されたニキは、しかしサクヤから脅され、退路を断たれてしまい、うめき声をあげることしかできなくなった。今日ポポに告白するか、サクヤ経由でニキの想いをポポにバラされてしまうか。唐突に突きつけられた選択肢を前に、ニキは必死に考えて、考えて、考えて考えて考えて。チラリと、モルディモルトに視線を送る。モルディモルトは、ニキの視線を受け止めて、ニキの背中をそっと押すように、しかと首肯した。

 

 

「わかりました! やりますよ、やればいいんでしょう! 今日アタックしますよ! もし玉砕しても絶対に笑わないでくださいよ!」

「人の恋路を笑ったりなんてしないわよ。安心して特攻なさいな」

「特攻とか言わないでください! もう!」

 

 覚悟を決めたニキはサクヤに向けて半ばやけくそな口調で宣言する。そして、にこにこ笑顔なサクヤに対し声を張り上げた後、サクヤに背を向けて今宵の告白に向けての作戦を練り始める。

 

 

「さて、後は吉報を待ちましょ」

「これ、どうなっちゃうんだろう。私、ワクワクしてきたよ」

「ニキさんの告白、上手くいくといいですね」

「ドキドキ、盛る盛る……」

 

 そんなニキの後ろ姿を見つめて。サクヤは、リゼットは、ののかは、モルディモルトは。それぞれニキに期待の眼差しをこれでもかと注ぐ。

 

 その後。まもなくしてポポがマリーのアヒルのおもちゃとともに湯舟に戻ってくる。かくして、華蝶庵の温泉でのハチャメチャとしつつも充実した一時が過ぎていくのだった。

 

 




ポポ:金髪ツインテールな風の魔女。この度、サクヤからの恋バナ攻撃から逃げるために一旦、湯舟から逃げたポポ。その際、湯舟側からそこそこの声量でサクヤやニキが話していたのだが、幸か不幸かポポの耳に届いていなかった模様。
リゼット:ミトラ村出身の水の魔女。17歳。恋に関心があるお年頃だが、自分に話題を振られたくはなかったため、サクヤが恋の話題を持ち込んだ時は、さりげなく存在感を消していた。その後は、ニキの恋の行く末を見守り隊の一員となった。
サクヤ:火の魔女にして、アマツの姫巫女として奉られている少女。17歳。この度、恋の話をポポやニキに仕掛けてきたのは、サクヤなりの心遣いである。興味本位な一面もあったことも確かではあるが。
ニキ:土の魔女たる緑髪の少女。16歳。今回の被害者枠。サクヤに己の秘めたる想いを盛大に暴かれ、さらには今日中の告白を強制されたニキは、葛藤の末に覚悟を決めたようだ。
ののか:サクヤに仕える、ウカミ一族の忍者。18歳。サクヤへの恩義に報いるために、精一杯サクヤの護衛に努めている。常日頃から段ボールを頭に被っていたり、露出度の激しい服をしていたりと、見た目は色々と危ういが、性格は真っ当な部類である。この度は、存在感が薄いながらもニキの恋の行く末を見守り隊の一員となった。
マリー:記憶喪失の少女。見た目年齢は10歳くらい。またポポがおかしくなってしまわないか心配している。此度、モルディモルトからプレゼントされた土製のマリーを大層気に入った模様。
モルディモルト:土の魔女ニキの妹たる、青髪の少女。16歳。姉の秘めたる想いは何となく察していたため、ニキから視線を向けられた時は、ニキの背中を押すべくうなずいてみせた。カシミスタン領主としても、どうにかうまいこと立ち回れているようだ。

 というわけで、28話は終了です。女湯でみんながワイワイとはしゃぎまくる素敵な回でしたね。しかし、原作と違って、華蝶庵回はまだ終わりません。はたして、ニキポポのカップリングは成立するのか。
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