風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。ポポの好きなところは色々あるのですけれど、一番好きなのは、合奏の際に毎回、割と本気で嫌がってるのが好きです。いつまでも歌唱石に風のクオリアを刺されることに慣れないんだなぁとほっこりします。と、ここまで書いていて、己の性癖がヤバいんじゃないか疑惑が私の中で膨らみつつある今日この頃。



2話.ヴェロニカ博士の知恵袋

 

 

 ボナンザ町長からサウス・ヴァレーを離れる許可を得たポポは、小屋に戻って旅支度を整えた後。早速出発した。

 

 目的地は、サウス・ヴァレーから北に位置するレグナント王国の王都ランベルト。その東に広がる森の奥にひっそりとたたずむ、ヴェロニカ博士の研究所である。

 

 ポポたち調律騎士団は3年後、人類を守るためにカルテジアンと戦い、そして敗北した。その敗北という結末を変えるべく、ヒルダはポポを3年前の過去へと飛ばした。だけど、ポポにはどうすればあの凄惨な未来を変えることができるのか、わからなかった。考えても考えても、ポポの頭では何一つアイディアが思い浮かばなかった。

 

 ならば。わからなければ、人に聞けばいい。頭が良くて、ポポが未来から来たということを信じてくれそうな人に事情を話して、知恵を乞えばいい。そのような発想にポポが至った時。真っ先にポポの脳裏に思い浮かんだのはヴェロニカ博士だった。

 

 旧時代の人類代表であり、約5000年間も生き続けてきた賢者、ヴェロニカ博士。

 普段は研究熱心で知識欲の塊な気質を拗らせて、天使を改造したり人体実験をしたりと危ない性格をしたヴェロニカ博士であるが、彼女の本質が責任感の強い大人であり良識人であることをポポはよく知っている。だからこそ、ポポはヴェロニカ博士を頼ることを即決した。

 

 ポポが東の森を奥へ奥へとふわふわと飛んでいると、目的地の研究所が段々とその全容をあらわにしてくる。

 

 研究所にはヴェロニカ博士が改造した見張りの堕天使がいるはずなのだが、今日は一体も見かけなかった。ヴェロニカ博士が警報装置を作動させていないのか、それとも3年前の時点では見張りの堕天使は作られていないのか。理由はわからないが、たった1人で堕天使集団を相手せずに済んだのは間違いなく幸運だ。ポポは研究所の前に降り立ち、息をいっぱい吸い込んだ。

 

 

「ごめんくださぁぁぁい! ヴェロニカ博士ぇ、いますかぁぁぁああああッ!」

 

 ポポは両手を口元に添えて元気いっぱいに研究所に呼び掛けてみるも、研究所の周囲の森にポポの声は吸い込まれ、付近はすぐに元の静寂を取り戻してしまう。ヴェロニカ博士は今、不在なのだろうか。それとも研究所の中で研究に没頭していたり、気持ちよく眠っているだけなのだろうか。

 

 

「カァー」

「そうなの? わかった、教えてくれてありがとう!」

 

 と、その時。研究所の屋根の上にいた一匹のカラスがポポに向けてひと鳴きする。ポポには動物と会話できるという傑出した特技を持っている。カラスの鳴き声から【この建物に住んでる人間なら、今は中にいるぞ】との情報を入手したポポは、カラスに感謝の言葉を告げた後、改めて声を張り上げた。

 

 

「すみませぇぇぇぇえええんッ!!」

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! 何なんスか、もう! うるさいッスね! そんなに自分の実験体になりたいッスか!?」

 

 直後。ポポが叫び終わるよりも早く、研究所の扉が勢いよく開かれ、1人の人物が飛び出した。丸い眼鏡に、オレンジを基調として先端が金色に輝く髪が特徴的な長身痩躯の女性:ヴェロニカは、寝ぐせで四方八方に跳ね回る長髪をガシガシと乱雑に掻きながら苛立ちを露わにし、ポポをビシッと指差すのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 ポポがヴェロニカ博士にお願いしたいことがあると告げると、当のヴェロニカ博士はしばし逡巡した後に、ポポを研究所へと招き入れてくれた。

 ポポはきょろきょろと研究所内を見渡す。研究所は3年前から相も変わらず、色々な機材や道具でごった返していて、足の踏み場が中々見つからない。

 

 

「そんで、君は一体何なんスか?」

 

 ひとまず、ポポはヴェロニカ博士に示された椅子に座ると、テーブルを挟んだ向かい側の椅子に腰を下ろしたヴェロニカ博士が、テーブルに肘をついて顔を手で支えながら、気だるげにポポのことを尋ねてきた。

 

 

「ポポはポポだよ。よろしくね、博士」

「いや。名前なんて聞いてねぇから。自分が聞きたいのは、誰の紹介で自分のところに来たのかとか、風の魔女が自分に何の用なのかとか、初対面のくせになんでそんなに親しげに話しかけてくるのかとか、そういった諸々なんスけど」

「ほぇ? ポポが風の魔女だってどうしてわかったの?」

「んなもん、一目見れば君が風のクオリアを宿してるかなんてすぐにわかるなりよ」

「そうなんだ! さっすが博士!」

「おい。話を逸らそうとすんな。何が目的か、キリキリ話せや」

 

 ポポとしては素直にヴェロニカ博士を褒めたつもりだったのだが、ヴェロニカ博士的にはポポがわざと話を本線から脱線させているように感じたらしい。すぐにでも本題に入らないと気分屋のヴェロニカ博士はポポの話を聞いてくれなくなるかもしれない。ポポは1回深呼吸をした後、ヴェロニカ博士をしかと見つめて言葉を紡いだ。

 

 

「ポポはね、3年後の世界から来たんだ」

「……ふむ、続けて」

「3年後の世界で、エクリプスが起きちゃったんだ。ポポたち4人の魔女が祝歌を歌って、ヒルダの堕歌による町や人の結晶化を解除しちゃったから。そのせいで、人間の感情エネルギーの総量がマザー・クオリアが目覚めるラインまで増えたから、マザーが人間を滅ぼすために動き始めた。ポポたちはマザーを倒すために月に行って、戦って、でも負けちゃった」

「で。君は過去に戻って、マザーに勝つための方法を求めて自分の知恵を借りに来た、と」

「うん」

「んー。にわかにゃ信じられない話ッスねー。ふーむ……」

 

 ポポの話を一通り聞き終えたヴェロニカ博士は難しい顔をして熟考し始める。果たして、ヴェロニカ博士はポポの言葉を信じてくれるだろうか。ポポは唸りながら思考を巡らせるヴェロニカ博士を緊張の面持ちで見つめていると、一旦考えを纏めたらしいヴェロニカ博士がポポへと向き直った。

 

 

「少女よ。君はこの世界の真実についてとてもよく詳しいようッスね。だが、今の話はこの世界の真実に明るい人であれば言える範疇の話だ。だから、残念ながら今の話が、君が3年後の世界から来たという証明にはならない」

「……どうすれば博士はポポを信じてくれるの?」

「……そうッスね。例えば、自分が誰にも話していない秘密でもちょっと言ってみるッスよ」

「えっと。博士は実は5000年くらい生きている最後のテクノロミーで、大好きな天使の手羽先を食べることでずっと長生きできていて、1000年前もエルクレストや魔女たちと一緒にマザーを倒しに月に行った、とか?」

「おっとぉ? テキトーに無理難題を吹っ掛けたつもりだったのに、的確に応えてきたッスね。……これは、本当に君が未来から過去に逆行しているっぽいかな? 君がやたら自分に親しげなのもそれで納得いくし」

「博士……!」

 

 ヴェロニカ博士はポポの話を信じるか否かの判断材料を欲して、試しにポポの口から己の秘密を吐き出させようとする。対するポポが知っている限りのヴェロニカ博士の情報を告げた結果、ヴェロニカ博士はポポの話を真実であると認めたようだ。博士はポポを信じてくれた。ヴェロニカ博士を信じてよかった。ポポはパァァと笑顔を綻ばせる。

 

 

「いやぁ、マジ興味深い検体ッスね! カッカッカッ!」

「ポポ、身売りはしないよ?」

「えー、そりゃ残念。こんなに魅力的なのに手を出せないなんて何という生殺し! いやはや、君は女泣かせッスなぁ。……んで? マザーを倒して世界を救う方法について自分の知恵を貸してほしい、だっけ?」

「うん。もしもポポが何もしなかったら、今回も3年後と同じ結末になっちゃう。ポポたちは負けて、世界はマザーに滅ぼされちゃう。だから――」

「じゃあ大人しく滅ぼされちゃえばいいんじゃないッスか?」

「……へ? 博士?」

 

 ヴェロニカ博士はポポと談笑しながら、カラカラと笑いながら、何ともなさそうな軽い口調で、唐突に衝撃的な言葉をサラッと放ってきた。ポポは、己の耳を疑った。何か聞き間違いをしてしまっただろうかと、ポポがヴェロニカ博士の目を見て、ポポはビクリと体を震わせた。ヴェロニカ博士の目は、大層冷え切っていた。

 

 

「いや。何を不思議そうな顔してんスか? だって、君たちは勝てなかったんスよね? じゃあもうしょうがないんじゃないッスか? 今回はどうあがいてもマザー・クオリアを倒せない。ならそういう運命だったんだと受け入れて、大人しく星のクオリアを守り育てることに集中して、マザー討伐は次世代に託しましょうや。あとざっと1万年もしたら、星のクオリアも十分に成長して、マザー・クオリアにきっちり対抗できるレベルになってるしねぇ。てことで、はい。話はおしまい。そろそろ帰ってくんない?」

 

 ヴェロニカ博士は投げやりな口調とともにテーブルの隅に鎮座するコーヒーメーカーからマグカップにコーヒーを注ぐ。

 

 

「はか、せ……」

 

 ポポは呆然とヴェロニカ博士を見つめることしかできない。ポポは己の失敗を悟った。博士は、科学者だ。科学者として、5000年前の自分たちテクノロミーが生み出してしまったマザーを確実に破壊することを己の責務と位置づけ、そのために5000年間もずっと生き続けてきた人だ。そんな博士が、3年後にポポたちがマザーを倒すことに失敗したと聞いたら、どう思うかなんてわかりきっていたはずだ。博士が3年後にマザーに勝負を挑むことを放棄し、マザーに確実に勝てる1万年後までずっと待ち続ける方針に切り替えようとすることは、わかりきっていたはずだ。

 

 このままじゃあ、3年後の絶望的な未来を変える方法について、ポポは博士から知恵を借りることができない。それどころか、このままじゃあ、博士は3年後にアルトたちに一切手を貸してくれなくなってしまう。

 

 ポポはヴェロニカ博士に3年後のことを打ち明けるべきじゃなかった。3年後のことを話したせいで、調律騎士団にヴェロニカ博士が参加しない可能性が高くなってしまった。ヴェロニカ博士の知恵と戦力は調律騎士団にとって非常に頼もしかった。しかし、ポポのせいでその頼もしい戦力が調律騎士団から欠けてしまうことになった。3年後にマザーに勝つためにポポは動いているはずなのに、ポポのせいで未来の状況がより悪化してしまっている。

 

 

「ほら。いつまでそこに突っ立ってんスか? 聞き分けないようなら、自分にも考えってもんが……あ?」

 

 研究室から一向に去ろうとしないポポにヴェロニカ博士が痺れを切らし、テーブルに立てかけていた己の杖をポポに向けようとして、意外そうに声を漏らした。気づけば、ポポは頭を床に叩きつける勢いで、土下座をしていた。

 

 

「それ、何のつもりッスか?」

「お願い、します。博士。ポポは、3年後にマザーに勝ちたいんだ。でも、ポポは馬鹿だから、どうすればいいか、わからない。博士に頼るしか、ポポには思いつかない。……お願いします、ポポにマザーに勝つ方法を教えてください」

「だーから、さっき言ったじゃないッスか。3年後のエクリプスの時にマザーと戦うんじゃなくて、星のクオリアが大きく成長するまで待つべきだって」

「そんなの、嫌だよ。だってエクリプスに抵抗しなかったら、みんな、みんな死んじゃう。ポポは、みんなの命を諦めたくないよ。……3年後に勝てなきゃ、ポポがここにいる意味なんてない。ヒルダがポポに全部託して、ポポを過去に送ってくれたのに、何にもできないなんて、そんなのやだよぉ……」

 

 調律騎士団からヴェロニカ博士という頼もしい仲間を奪う大失態を犯してしまった今のポポにできるのは、何としてでもヴェロニカ博士から3年後に世界を救う方法について知恵を得ることだけ。ゆえに、ポポは頭を下げてヴェロニカ博士にお願いをする。その際、ヒルダの名前を出した刹那、ポポの脳裏にカルテジアンとの絶望的な戦闘の光景が、アルトたちが無残に殺される瞬間がフラッシュバックし。ポポはボロボロと涙を零し始める。

 

 

「……はぁぁ、参ったっすね。やれやれ、仕方ないッスなぁ」

「ぇぐ、ひっく」

「ほら少女。協力してやるから顔を上げるッスよ」

「……へ、博士? どう、して?」

「ま、勝ち目がないってわかっている戦いに関わるなんて主義じゃないんスけど、子供に泣かれるのは苦手なんスよ。それに、ヒルダ姐さんが君を過去に飛ばしたってのもあるなりよ。君には、ヒルダ姐さんの想いがこもっている。姐さんの想いを無下にはしたくないんでね」

「博士ぇ……! ありがとう、本当にありがとう!」

「だぁぁああああああ!? くっつくな! 服が、服が汚れるッ!」

 

 ポポはヴェロニカ博士が協力を宣言してくれたことに歓喜の涙を零しながら、感極まってヴェロニカ博士にぎゅぎゅぎゅぎゅーっと抱きつく。そんなポポの渾身のハグに対し、ヴェロニカ博士はポポの頭を押して無理やり己の体から引き剥がすことで、どうにか己の服へのポポの涙の付着を最小限に抑えることに成功した。

 

 

「そんで、君に協力するのはいいけれど……タダで自分の協力を得られるだなんて当然、思ってないッスよね?」

「あ、えっと、ごめんなさい。今、博士に渡せる見返りは何もないんだ。だから、ポポの体を調べてもいいよ? あと、ポポがはぐれ天使を見つけたら倒して、手羽先にして博士に渡す。……これで、どうかな?」

「あー。検体の件は別にいいや。だって君はただヒルダ姐さんの魔法で時間転移しただけで、君自身が特異体質ってわけじゃなさそうなんで。手羽先献上の件は、ぜひお願いしたいするなりよ。天使養殖の研究が難航してる以上、手羽先ストックを増やしておいて損はないッスしね」

「うん、わかったよ」

「よし。それじゃあ自分への報酬も決まったことだし……3年後に控えたマザーとの決戦、その勝率を上げる方法を君に授けようじゃないか」

「ほぇ? もう思いついたの?」

「自分を舐めてもらっちゃあ困るッスよ。一回しか話さないからよく聞いておくッス」

 

 ヴェロニカ博士が長命なのは、普段から天使の翼の手羽先を摂取しているからである。その手羽先をポポがヴェロニカ博士に献上する。代わりにヴェロニカ博士はポポに知恵を授ける。そのような契約が結ばれたことを踏まえ、ヴェロニカ博士はポポにとある策を提示した。その方法は、ポポごときの頭では絶対に思いつけないほどに壮大な方法で。ポポはやっぱり博士に頼ったのは正解だったと心から実感した。

 

 

「さて。これが、自分が即興で思いついた策ッスが……どうッスか? やれそうッスか?」

「うん、すっごく良い方法だと思う! ありがとう、博士! ポポ、これから頑張るね!」

「うぃうぃ。自分としても、久々に興味深い、有意義な話ができて楽しかったッスよ。また何かあったらこの自分の知恵を頼るといいッスよ」

「うん! それじゃあまたね、博士!」

 

 ヴェロニカ博士から提示された策のおかげで、エクリプスが始まるまでの3年強の期間に、己がやるべきことを見出せたポポは、ヴェロニカ博士にブンブンと元気よく手を振って別れを告げた後、研究所を飛び出す。かくして。3年後の凄惨な未来をハッピーエンドに変えるためのポポの奮闘は、ここから始まるのだった。

 

 




ポポ:風の魔女。もとい、風のクオリアをその身に宿し、風の魔法や歌を行使できるようになった15歳の少女。自分の頭の悪さを自覚しているポポはこの度、賢い人に頼るという手段を用いて、世界を救えるかもしれない方法について知ったようだ。
ヴェロニカ:科学者。5000年前の、地球が科学の叡智を極めていた頃の人間の最後の生き残り。己のことを『テクノロミー』と称する。天使の手羽先を食したり、人間を平気で実験体にしたりと、かなりの変人ムーブをするのが日常茶飯事。

 というわけで、2話は終了です。ポポとヴェロニカとの会話シーンを書いていて、時折ポポの反応がマリーっぽく感じられた件。特に「そうなんだ! さっすが博士!」の発言の辺り。ポポとマリーは実は精神年齢が同じだった……?
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