風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は久々にあのキャラが再登場します。この作品におけるポポの行動指針を決めるという重大な役割を果たしたはずなのに、その後なぜか欠片も存在感を放たなかったあのお方です。さて、誰でしょうね。……ちなみにこの人の発言を再現するの、結構難しいんですよね。



30話.決戦前夜の会合

 

 第9小隊が『はなれ湯 華蝶庵』での一泊二日の慰安旅行を満喫してから、時は過ぎ。地水火風の魔女は王都の調律ノ館で毎日、祝歌の練習を重ね――結果、ついに祝歌は完成した。そして、祝歌を奏でて、ヒルダの堕歌で結晶に閉ざされた街や人を救うこととなる復活祭の前日。祝歌の最終リハーサルを終えた魔女4名は、王都ランベルトの療養所に赴き、収容されている結晶化済みの人々を目に焼きつけて、明日への意気込みを共有した後、それぞれ解散することとなった。

 

 

「……」

 

 その後、ポポは王立騎士団の庁舎には戻らず、一人こっそりと王都から離れていた。風をまとい、軽やかに空を舞うことのできるポポは、軽々と王都の城門を越えて、東の森を駆けていく。そして、目的地――ヴェロニカ博士の研究所にたどり着いたポポは、3年前と同じように元気いっぱいにヴェロニカ博士に声をかけた。

 

 

「ごめんくださぁぁぁい! ヴェロニカ博士ぇ、いますかぁぁぁああああッ!」

 

 ポポの呼びかけが森に何度か反響し、ポポの声が夜の静謐な森に吸い込まれて消えていく。3年前と同様に居留守をしているのか、それとも本当に博士は不在なのか。ポポはとりあえずもう1回、研究所に向けて声を張り上げようとして。そこで研究所の扉がゆっくりと開かれ、3年前と全く容姿の変わらない女性:ヴェロニカ博士が姿を現した。

 

 

「あーはいはい。いるッスよ、少女。久しぶり」

「あ、博士。今回はすぐに出てきてくれたんだね」

「ちょうど、研究に一区切りついてたんでね。それに自分が出てくるまで、いつまでも少女にギャーギャー騒ぎ立てられちゃ迷惑極まりないッスしね。……さて、自分に用があるんスよね? 入るッスか?」

「うん!」

 

 ヴェロニカ博士は緩慢な様子で、非常に面倒くさそうに頭をガシガシと搔きつつも、ポポの来訪を拒絶せず、研究所へと誘ってくる。ヴェロニカ博士がポポの来訪をすんなり受け入れてくれたことに、ポポはパァァと笑顔を浮かべて元気よくうなずくと、ヴェロニカ博士の後に続いて研究所に足を踏み入れた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「それで。前に少女と会ったのは、5年前だったか10年前だったか……何千年も生きてると、エピソード記憶が脳みそに残りにくいんスよね」

「ポポが博士と会ったのは、大体3年前だね」

「そうなんスか。じゃ、そゆことにしとくッスか」

 

 ヴェロニカ博士の研究所に招かれたポポは、幾多もの動かぬ天使の模型に見下ろされながらも、ヴェロニカ博士に指定された椅子にちょこんと座る。対面のヴェロニカ博士はマグカップに注いだコーヒーをズズッと音を立ててすすりながら、ポポとの初対面の時がいつだったかについて、思いを馳せる。そこにポポがフォローを入れると、ヴェロニカ博士は心底どうでもよさそうにポポに同調した。

 

 

「ごめんね、博士。3年前に、ポポは博士から世界を、みんなを救う方法を教えてもらう見返りに、はぐれ天使の手羽先を博士にあげるって言った。でも結局、ポポははぐれ天使を見つけられなくて、天使の手羽先は集められなかった。博士との約束を破っちゃって、ごめんなさい」

「そんな神妙な顔しなさんな、風の魔女。前のエクリプスは千年前だったんだ。千年も経ったんなら、地上に残ったはぐれ天使もさすがにほとんどいないだろうし。……それに幸いなるかな、天使の養殖にも成功したんでね。天使の手羽先が欲しくなったら養殖物の天使からむしり取るだけでよくなった以上、自分に、少女から献上される手羽先のことを当てにする必要はなくなった。……だから、そんな気にすることねーッスよ」

 

 ポポはまず、3年前に博士に世界を救うための知恵を授けてもらったにもかかわらず、その対価である天使の手羽先をヴェロニカ博士に提供できなかったことを謝罪する。だが、当のヴェロニカ博士は対価のことなど欠片も気にしていないようで、天使の模型の1つをトントンと叩いてポポに微笑みかける。

 

 

「……ありがとう。博士は、優しいね」

「カッカッカッ! この典型的なマッドサイエンティストを捕まえておいて『優しい』だなんて、笑わせるッスね。自分にそんななよなよとした言葉は似合わんスよ」

「えぇ? そんなことはないと思うけど」

「それにしても、聞いたッスよ。ポート・ノワールの大火の件。少女よ、君はあの場で福音使徒を殲滅する大魔法を使ったとのこと。ふむふむ、随分と思い切ったことをしたじゃないか」

「ほぇ!? どうして博士がそのことを知ってるの!? ポート・ノワールでポポがやった過ちは、王国が隠しているはずなのに――」

「――あの程度のずさんな隠蔽工作なんて、この自分の知識欲の前じゃ無力ッスよ。それで、あの時少女が大魔法を行使した際に使った風のクオリアの魔力なんて微々たるものだろう? これなら3年前だったかに自分が提示した、毎日コツコツ月を削って風のクオリアに変えた物をひたすらため込んで、マザー・クオリアとの戦いで有意義に使い果たして奴に勝利する。この方法も中々に現実味を帯びてきたんじゃないッスか?」

「……そのことについて、ポポから話があるんだ」

 

 ヴェロニカ博士から不意にポート・ノワールの大火の話題を投げかけられたポポは驚愕の声を零すとともに、なぜ王国で秘匿する方針となった極秘情報を当然のように博士が知っているのかと尋ねる。対するヴェロニカ博士はニタァと邪悪な笑みを形作りつつ、3年前にポポに授けた己の策が順調に実っているかどうかについて改めてポポに問いかける。すると、ヴェロニカ博士の問いをトリガーとして、ポポはヴェロニカ博士に本題を持ちかけた。

 

 

「ポポはね、博士から世界を救う方法を教えてもらった後に、それとは別の方法で世界を救おうと動いていたんだ」

「ほぅ?」

「ポポは、偶然ポポの中で思いつけたこの考えで突き進むって決めて、今日までずっと準備を進めてきて、3年かけて、準備を全部終えた。……明日、復活祭が始まる。ポポたちは祝歌を歌って、エクリプスを始める。その時に、ポポは仕掛けようと思ってるんだ」

「……」

「だから、だからね博士。明日の、世界の行く末を博士の目で見ていてほしいんだ。そして、もしもポポの思いついた策に、博士が負けを認めたのなら、気に入ってくれたのなら――ポポたちの仲間になって、マザー・クオリアを倒すのに協力してほしいんだ」

 

 3年前。ヴェロニカ博士は、世界の救い方を何も思いつけないポポに、最終的にはアイディアを授けてくれた。だけど、それだけだ。あの時、ポポがうかつに未来のことを話したせいで、調律騎士団が敗北する未来を知ってしまった博士は、きっと。復活祭を経てエクリプスが始まった後もなお、ポポが過去に戻る前と違って、頼んだところで決して調律騎士団の仲間になってはくれないだろう。マザー・クオリアを生み出してしまった前史時代の最後の人類である博士は、マザー・クオリアを滅ぼすことこそを至上命令に据えている。そんな博士には、マザー・クオリアに負ける可能性の高い調律騎士団に加わる理由がないのだ。

 

 でも、それではポポたち調律騎士団が困るのだ。博士の卓越した知恵は、知識は。調律騎士団がマザー・クオリアに勝利するために絶対に欠かせない。ポポはこれまで、みんなを救うために、未来から過去に持ち込んだ知識を用いて、様々な過去改変を行ってきた。その結果、1回目と2回目とで随分と展開が変わってきた。そんな今、ポポの持つ1回目の世界の知識だけでは、立ち行かなくなる場面がきっと、いや絶対に、この先の未来で待ち受けている。その時に、的確に状況を読み取って最善の一手を提示できる、頼もしい味方が調律騎士団には必要だ。何としてでも博士は仲間にしないといけないのだ。

 

 ゆえに。ポポはヴェロニカ博士に取引を持ちかけた。ヴェロニカ博士が食いついてくれそうな取引を、ニキと一緒に一生懸命に考えて、そして今日、ヴェロニカ博士に突きつけた。博士がポポの取引に興味を持ってくれなかったら、応じてくれなかったらその時点でおしまいの賭けに、打って出たのだ。

 

 

「……大した自信ッスね。少女よ、君は自分が何を言っているか、理解してるんスか?」

「だいじょーぶ。ポポなりに、わかってるつもりだよ」

「そうッスか。つまりぃ? この、五千年間生き続けて、前史時代もエルクレストの時代も現代も、すべて知り尽くしていて。日々研究に明け暮れていてこの世の理を世界で一番よーく知っている。そんな自分の導きだした、世界を救う策。これを超えてみせると言ってるんスよ? この自分を相手に、頭で、頭脳で、上回ってみせると宣言してるんスよ?」

「……ポポは頭の悪い魔女だよ。だから、基本的には頭じゃ博士には勝てない。……でも、月を削って手に入れた風のクオリアで、みんなを、世界を救う策。この1点だけなら、きっと博士の策を超えている。ポポの思いついた策の方が、博士の策より優れてる。そう、確信してるんだ。確信してるからこそ、博士に取引をしに来たんだ。……それで。博士は、取引に乗ってくれる?」

「……」

 

 ヴェロニカ博士を調律騎士団の一員に加えるべく、ポポが博士に突きつけた取引、もとい挑戦状。たかがこの世に生を受けて十数年程度の小娘に真正面から挑発されたヴェロニカ博士は、ジッとポポを見つめて、黙考する。

 

 ポポの取引に乗ってしまえば、最悪、ヴェロニカ自身が人間の輪の中に入って、敗北する可能性の高いマザー・クオリアと戦いに参加しないといけなくなる。それは嫌すぎる。それならば、ポポの取引なんぞ瞬時に断って、マザー・クオリアに確実に勝てるほどに、指揮者アルトの中にある星のクオリアが成長しきるまでひたすら待ち続ける方がいいに決まっている。わかっているのに。ポポの取引に応じた方が面白い、そう断ずるヴェロニカが確かに存在する。

 

 

「……3年前とは見違えるようッスね、風の魔女。まさかそんな大見得まで張ってくるとは。……そんじゃ、明日はお楽しみッスね。期待外れじゃなければいいッスけどね」

「それじゃあ!」

「あぁ、乗ってやるとも。てか、そもそも自分にはこの取引に乗らない以外の選択肢はねーッスよ。だって、この勝負から降りたら、もうその時点で自分の負けを認めたようなものじゃないッスか。全く、意地の悪い取引なりよ」

「ご、ごめんなさい」

「謝ることないッスよ、むしろ自分は今、少女に感謝してるんスよ。少女のおかげで、自分の無駄に長い人生の楽しみが1つ増えた。……未知こそが、真実の探究者たる自分にとっての極上のエサだ。風の魔女ポポよ、願わくば――自分の想定を超えてくれ」

「うん!」

 

 取引の応じる意思を示したヴェロニカ博士に、ポポは喜色満面に何度もうなずく。これで、ヴェロニカ博士が調律騎士団に加わってくれる可能性が生まれた。後は、その可能性を決して逃さずつかみ取るだけだ。ポポは強固な意志にあふれる瞳で、悠々とした様子でマグカップの中のコーヒーをすする博士を見つめた。かくして、復活祭前日における、風の魔女と前史時代の人類代表との隠れた会合は幕引きとなるのだった。

 




ポポ:金髪ツインテールな風の魔女。言葉を駆使してヴェロニカ博士を仲間に引き込む仕込みをするため、この度ヴェロニカ博士と接触した。
ヴェロニカ:科学者。5000年前の、地球が科学の叡智を極めていた頃の人間の最後の生き残り。己のことを『テクノロミー』と称する。3年前とはすっかり雰囲気の変わったポポの繰り出した取引を前に、マザー・クオリア相手の確実な勝利よりも、ポポの取引に応じることで生じるであろう面白い未来を優先した結果、ポポの取引に応じることにした模様。

 というわけで、30話は終了です。事前にニキと作戦を考えているとはいえ、ヴェロニカ博士を相手に取引を持ちかけて望んだ結果を入手するポポに成長を感じる今日この頃。
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