風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。
 あけましておめでとうございます(大遅刻)
 本作品における復活祭の出来事を執筆できたことに満足しまくってた結果、しばらく筆を置いていましたが、連載再開します。今年中に本作品を完結させることが目標です。今年も本作品をよろしくお願いします。



33話.ポポが歩んだ過去の話

 

 地水火風の魔女4名が祝歌を奏でたことを契機とした一連の衝撃的な出来事ラッシュが終了し、ランベルト城に勤める勤務医によりニキの右手が適切に治療された後。しばらくして。救護室にはそうそうたる面子が集結していた。

 

 まずは、王立騎士団第9小隊のメンバーたる、アーチボルト・ラスティ・アルト・リゼット・サクヤ・ののか・ユアン・ニキ。続いて、これまで第9小隊と幾度となく敵対してきた福音使徒、ヒルダ・ダンテ・ドロシー・ルドルフ。そして、神聖レグナント王国の頂点に君臨するアナスタシア陛下。及び彼女を支える重鎮エルマー閣下。

 

 本来なら決して交わることのない面々が、救護室に集結していた。彼らの合計28の瞳から注がれる視線の先にいるのは、1人の少女。金糸のようにきらめき輝く金髪をツインテールに束ねた風の魔女、ポポだ。

 

 

「……」

 

 だが、皆の注目を一手に集める当のポポの様子は少々おかしかった。汗をダラダラと流し、せわしなく視線を右へ左へと動かす様はまるで、己が意図せずやらかしてしまったいたずらについて親に叱られることを恐れおののく幼子のようだった。

 

 

「ね、ねぇニキ」

「何かしら、ポポ?」

「え、えと。確か、クラウス隊長とジゼルと戦わないで2人を退散させるために、ニキがクラウス隊長を思いっきり馬鹿にして、プライドを粉々にするって作戦だったよね?」

「うん、その通りよ。そんなに改まって、どうしたの?」

「んと、その。ニキはポポのお願いを叶えるためにすっごく頑張ってくれたんだけど……その時にさ。ポポのこと、なんて言ったの? クラウス隊長がポポのことを見てすっごく怖がってたことといい、みんなの視線から、何かこう、圧を感じることといい……みんなにすごく誤解されてる気がするんだけど」

「心配しないで、これがポポに与えられるべき正当な評価よ。ポポはそれほどのことをしたんだから。私はただ、クラウス隊長に、アルトたちに、ポポの魅力をほんの少しだけ教えてあげただけよ」

「な、なるほどー?」

 

 ポポは居ても立っても居られなくなり、ポポの隣に悠然とたたずむニキにこしょこしょと耳打ちで今の状況の発生原因を問う。対するニキは、誇らしげな笑みを携えて、祝祭の間でクラウス&ジゼルを退けるために、ポポのことにも軽く言及したことをそれとなく伝えた。結果、ポポは引きつった笑みをニキに返すことしかできなかった。

 

 

(絶対、ほんの少しだけ教えたわけじゃないよね!? 絶対、ポポのことをあることないこと言いまくったよね、ニキ!? じゃないとみんなからの視線がこんなにザクザク突き刺さってくるわけがないもん!)

「あ、あの。みんな。ニキが祝祭の間で何を言ったのかはポポにはわからないけど……ポポはポポだよ。今までと何も変わらない、ポポなんだよ。だからその、いきなり態度をガラッと変えられると、違和感が凄いというか、居心地が悪いというか……」

 

 沈黙。否、ニキ以外のみんなが、ポポの一言一句を漏らしてなるものかといった様子で、ポポの口から語られる事情を待っている。一方のポポは、ニキからの助け舟が期待できない状態で、皆からの無意識な精神攻撃にわたわたすることしかできず、ただいたずらに時間が過ぎていく。

 

 

「――お、ここにいたッスか。おっす少女、来たッスよ」

「あ、博士!」

 

 と、ここで。救護室の重い空気に、朗らかな声が投下される。ポポが弾かれたように救護室の扉に視線を向けると、そこにはポポに向けて軽く手を振りつつポポへと歩み寄ってくるヴェロニカ博士の姿があった。そのような、いつもと何も変わらない普段通りのヴェロニカ博士は、今のポポにとって救世主に他ならなかった。

 

 

「博士!?」

「博士、ポポに会いに来てくれたってことは、その……」

「うぃ。約束通り、仲間になる気で遠路はるばる来たと思ってくれて良いなりよ。風の魔女の策に度肝を抜かれたんでね」

 

 思わぬ人物の登場にアルトたちが目を見開く中、ポポはおずおずとした口調でヴェロニカ博士の真意を訪ねる。期待半分、不安半分といった様子のポポを前に、ヴェロニカ博士は穏やかな笑みを添えて、ポポの望み通りの返答を繰り出した。

 

 

「そっか、ありがとう博士!」

「どういたしまして。いやはや、まさかこのちびっ子があの無数の天使を全部倒す脳筋戦法を選ぶとはねぇ」

 

 ポポはヴェロニカ博士との取引を制することができたことにパァァと晴れやかな笑みを浮かべて感謝する一方、博士は改めてポポの姿をまじまじと眺めて、しみじみと己の正直な感想を呟いた。と、ここで。いつもの調子を取り戻したポポは、仲間となった博士に最初のお願いをすることに決めた。

 

 

「ねぇ博士。仲間になってくれた博士に早速お願いがあるんだ。ポポはこれから、みんなにポポのことを話そうと思ってる。でもその前に、まずは博士から、みんなにこの世界のこととか、博士のこととか、知っていることを全部教えてほしいんだ。ポポだと、上手に話せる自信がないから」

「うへぇ、早速めんどい話が来たッスね。こりゃ、もうちょい時間経ってから合流すべきだったかね。とはいえ、まずはこの場の全員の知識レベルをそろえておかないとそれはそれで一々面倒だし……必要経費と思って諦めるッス。では諸君、1回しか話さないからよく聞くように」

 

 ポポからのお願いにヴェロニカ博士は心底だるそうなため息を長々と吐いた後、結局はポポのお願いを受け入れ、アルトたちへと向き直り、高らかに声を上げる。

 

 

「ホワイトボードプリーズ!」

「はーい!」

 

 ヴェロニカ博士は、ポポが救護室の端から持って来たホワイトボードに、必要に応じて簡易なイラストを描きながら、つらつらと言葉を紡ぎ始める。

 

 それは、第9小隊(+アナスタシア陛下、エルマー閣下)にとっては衝撃的極まりない世界の真実。それは、福音使徒にとっては一部を除き、大方既知の事実。

 

 すべての発端は5000年前の前史時代にまでさかのぼること。

 当時の人類ことテクノロミーは、歌を媒介として、感情エネルギーを物理エネルギーに変換する『魔法システム』を開発したこと。

 その魔法システムでひたすら戦争を続けた末に、テクノロミーの誰もが戦争が終わることを諦めて、疲れた、死にたい、殺したいと自殺願望を持ち始めたこと。

 テクノロミーが無意識に紡いだ膨大な自殺願望が感情エネルギーとなり、魔法となり、結果として巨大なクオリアである月とそれを司るマザー・クオリアを生み出したこと。

 人類の自殺願望から生まれたがゆえに、マザー・クオリアが人類殲滅を目的としていること。

 目的を果たす手段として、魔女を介して人類の感情エネルギーの総量を計測し、総量が基準値を超えたら、29日もの間、無数の天使を何度も地球に派遣して人類を殲滅するエクリプスを発動していること。

 結局、マザー・クオリアのエクリプスにより前史時代は滅び、生き残ったのはヴェロニカを含むほんのわずかな数のテクノロミーだけであること。

 

 そして。時は過ぎ。1000年前にエクリプスが再発動した際、1人の少年こと英雄エルクレストが立ち上がったこと。

 その身に星のクオリアを宿し『調律』という魔法を使える指揮者たるエルクレストが、マザー・クオリアのしもべでしかなかった5人の魔女を調律し、仲間に引き入れたこと。

 そうして、エルクレスト・彼の親友の獅子王ゼノ・ヴェロニカ・5人の魔女の計8名で、マザー・クオリアを倒すべく、世界樹を登って月に向かい、マザー・クオリアと戦ったこと。

 天使たちを滅ぼし、マザー・クオリアを弱体化させる星歌を5人の魔女が奏でたことで、途中までは戦闘を優勢に進められていたこと。

 しかし戦いの中で、マザー・クオリアに人格が宿り、マザー・クオリアが強化された影響で、エルクレストたちは敗北し、月にゼノを残して地球へと敗走したこと。

 マザー・クオリアの負の感情に焼かれて重症だったアルトを当時の水の魔女が1000年かけて治療したこと。

 その果てに、1000年後にエルクレストが目覚め、しかし記憶をなくしたためにアルトという名の別人として生き始めたこと。

 

 一方、己の時魔法で生き続けられるヒルダは、もう二度とエクリプスを起こさせないようにあらゆる手を尽くしてきたこと。

 その手段の1つが、人間を結晶化させて人間が発する感情エネルギーの総量を減らす『堕歌』であり、福音使徒は主にヒルダの『堕歌』活動を支えるために、ヒルダが結成した組織であること。

 

 他方、ゼノは、マザー・クオリアに愛された(壊された)ことにより、マザー・クオリアを崇拝するクラウスという存在に変貌したこと。

 クラウスはマザー・クオリアの崇拝者としてエクリプスの発動を悲願としており、そのためにアナスタシア陛下に取り入り、祝歌計画を実行させたこと。

 アナスタシア陛下の元、結成された第9小隊の活動により地水火風の魔女4名が集結し、祝歌を奏でたことで、1000年ぶりにエクリプスが発動したこと。

 

 

「ふぃー。これで持ってた手札は大体フルオープンッスよ。こんなもんでどうッスか?」

「うん、十分だよ。ありがとう、博士」

「じゃ、こっから先は自分もあっちの聴衆の方に混ざるッスよ」

 

 世界についての丁寧な講義を終えたヴェロニカ博士は、ポポの願いを叶えられたかどうかを確認した後、気だるげな歩調でポポの元から離れて、救護室の壁に背中を預け、腕を組んだ。

 

 

「みんな。博士の話したこと、理解できた?」

 

 ポポはこれから自分のことを説明するにあたり、皆の様子をうかがう。ヴェロニカ博士の話をしっかり理解していないと、ポポの話には到底ついていけないからだ。だが、ポポの心配は杞憂らしく、ポポが確認した限り、皆、博士のわかりやすい説明のおかげで、博士の話を各々の理解に落とし込むことができた様子だった。

 

 

「あまりにも壮大な話だったから飲み込むのに時間はかかったけど、何とかな。でも、俺があの英雄エルクレストなのか……」

「アルトは記憶をなくしてるから、実感がなくても仕方ないよ」

 

 己のルーツを知ったがために複雑な表情で己の手のひらを見やるアルトに、ポポは寄り添うような言葉を放ちつつ、ヴェロニカ博士が説明に使ったホワイトボードを回して真っ白な裏面を用意する。

 

 

「それじゃ今から、祝歌計画が終わった後で話すって約束してた、ポポのことを話すね。……まずはこれを見てほしいんだ」

 

 ポポは懐から短剣を取り出し、皆の前に差し出す。それは、神聖レグナント王国に代々受け継がれてきた宝剣、歌唱石と非常に酷似していた。

 

 

「これって、歌唱石か!?」

 

 いつもアルトが魔女と一緒に合奏魔法を行使する際に使用している宝剣をポポが持っていることに誰よりも驚いたアルトが慌てて自身の懐から宝剣を取り出す。ポポの持つ短剣と、アルトの取り出した宝剣。その2つは、細部に至るまで全く同じ造形をしていた。ゆえに、ポポの持つ短剣もまた、歌唱石であることは疑いようのない事実といえた。

 

 

「しかし、王家に代々伝わる、たった1つしかないはずの宝剣がなぜ2つもあるのでしょうか? それも、なぜポポが――」

「――なるほど、そういうことだったのね」

 

 皆の頭の中で思い浮かぶ疑問をアナスタシア陛下が口にしてコテンと首を傾ける一方、しばし黙考していたヒルダはここで、ポポが歌唱石を通して伝えようとしている内容について察しがついた。

 

 

「何かわかったのか、ヒルダ?」

「ええ。つまり、ポポ。あなたは――私の時魔法で、未来から過去にタイムトラベルしたのね」

「タイムトラベル、ですか?」

「私が使える魔法の中には、誰か1人を過去や未来に飛ばすというものがあるわ。どのくらいの年月を飛ばせるのかは試してないからわからないのだけど……」

「うん、正解だよヒルダ。ポポはヒルダの魔法で3年と110日前の過去にタイムトラベルしたんだ。ポポが歌唱石を持っているのは、過去に戻る前にヒルダから渡されたからだよ。……その時はポポに歌唱石を持たせた理由はわからなかったけど、多分、ポポがタイムトラベルをしたことを、みんなが信じやすくするためだったんだと思う」

 

 ダンテから話を促されたヒルダはポポに対し己の推測を投げかける。さも当然のようにヒルダの口から飛び出てきた『タイムトラベル』という壮大なワードにユアンがきょとんとした声を上げる中、ヒルダは己の使用できる魔法を1つ明かす。ここでポポはヒルダの推測に首肯で応じた後、歌唱石を懐にしまう。

 

 

「まさかそのような魔法まで使えたとはな」

「ええ。黙っていて悪かったわね。けれど、このタイムトラベルの魔法を話すこと自体が大きなリスクだったから、今まで誰にも話さなかったのよ。……タイムトラベルの魔法は、私の命を対価にしないと使えない。たった1度しか使えない魔法なの。それがわかっていて、それでも私がポポを過去にタイムトラベルさせたということは――それしか選択肢が残されていないほどの酷い出来事があった、そうよね?」

「…………うん、順を追って話すね」

 

 ルドルフから向けられた視線を、福音使徒にすら隠し事をしていたヒルダを咎めているものだと勝手に解釈したヒルダは、ルドルフに謝罪しつつ、タイムトラベルの魔法を隠していた理由を告げる。そして、ヒルダが己の次なる推測をポポに投げかけると、ポポもまた再びヒルダの推測を頷いて肯定しつつ、ホワイトボードを使って説明を始めた。

 

 

「まず、ポポが一番最初に経験した世界を『1周目』、ポポが今経験しているこの世界を『2周目』って呼ぶね。そうしないと説明しにくいから」

 

 ポポは横方向の矢印を2本引き、各矢印に『1周目』『2周目』と名称を記載する。そして矢印の上に『3年前』『今』『未来』といった大雑把な時間を記載する。

 

 

「ポポは1周目の世界で、アルトたちと同じように世界を経験したんだよ。アルトと出会って、第9小隊の皆と出会って。風の魔女として皆の役に立ちたい、皆を助けたいって思って、クラウス隊長の下で、一緒に祝歌計画を成功させられるように頑張ってきた。でも、クラウス隊長に騙されていることに気づかないまま復活祭の日を迎えちゃって、祝歌を奏でることでエクリプスが始まっちゃって、たくさんの人が天使に殺されて。……陛下もクラウス隊長に殺されて。ポポたちは、あまりに多くの大事なものを失っちゃったけど、それでも諦めなかった。ポポたちは、第9小隊は福音使徒と協力して、アルトが率いる調律騎士団として、エクリプスを引き起こすマザー・クオリアを倒すために月へ行った。そして、ポポたちはマザー・クオリアと必死に戦って、戦って。でも、相手が強すぎて、ポポたちは負けたんだ。みんな、みんな、1人ずつ殺されていって、それで、それで……」

 

 ホワイトボードの1周目の矢印の下に、ポポは『第9小隊と出会う』『エクリプスが始まる』『マザー・クオリアを倒しに月に行く』と、1周目の出来事の概要を端的にまとめて書き連ねる。だが、マザー・クオリアとの戦闘を話題に出した途端、ポポの脳裏に、あのカルテジアンとの絶望的な戦いで次々と殺されていく仲間の姿が鮮明にフラッシュバックする。段々とポポの声に震えが生まれ、ホワイトボードの文字が目に見えて歪んでいく。

 

 

「ポポ」

「――あ、ぅ。ごめん、ニキ。もうだいじょーぶ」

 

 唯一ポポの事情を事前に知っているために今のポポの心境を察したニキが優しくポポの名を呼ぶ。ニキの声を契機として、何とか平静を取り戻したポポは、ホワイトボードの歪んだ文字を書き直しながら、説明を再開する。

 

 

「調律騎士団で、戦える人はもうポポと、ヒルダしか残っていなくて。そこでヒルダが自分の命を対価にして、ポポを過去の世界に飛ばしたんだよ。ここで、ポポは1周目の世界の知識を持ったまま、2周目の世界を経験することになったんだ」

 

 ポポは、ホワイトボードの1周目の矢印の先から、2周目の矢印の末端へと斜めに矢印を引き、『ヒルダの魔法』と記載する。また、2周目の矢印の末端に『未来を知るポポ』という文字と、デフォルメされたポポのイラストを描く。

 

 

「ポポは2周目の世界で、今度こそ世界を救うためにはどうすればいいかをずっと考えながら行動してきたんだ。まずはヴェロニカ博士にお願いして世界を救うヒントをもらって、そのヒントを元に、『ポポの風魔法で月のクオリアを削って、ポポの魔力で月の欠片を風のクオリアに変化させて、それを世界中の土の中に埋めて、エクリプスの時に降ってくる天使を風のクオリアを使って全部倒す』って方法を思いついた。それから、3年前のカシミスタンの大乱のことを思い出してカシミスタンに行ったり、砂漠で倒れてたラスティを介抱したり、アルトの無事を確かめたくてミトラ村に行ったり、ファーレンハイトに行ってドロシーに追い返されたり……世界を救うために、世界中に風のクオリアを埋める『お務め』を果たすために世界を巡っていたんだ」

 

――アルトは理解した。どうして初めて会った時のポポが、アルトを見て涙を流したのかを。

――ラスティは理解した。どうして初対面のくせにポポが知ったようなことを次々と言ってきたのかを。

――ユアンは理解した。どうしてポポがユアンの持ちかけた専属契約の提案を対価もなしにあっさり受け入れようとしたのかを。

 

 

「そうして3年経って、第9小隊が祝歌計画を成功させるために魔女を保護しようとし始めた時に、クラウス隊長にポポの作戦がバレないように気をつけながら動いていたんだ。福音使徒に祝歌計画のことを矢文で密告したのは、マザー・クオリアとの戦いに向けて、第9小隊と福音使徒とで戦ってもらって、強くなってほしかったからだよ」

 

――福音使徒の4名は理解した。どうしてポポが矢文による密告で福音使徒に味方したかと思えば、土の魔女ニキの自殺を妨害して福音使徒の邪魔をしたりと、行動がちぐはぐだったのかを。

 

 

「ゴウラ火山で、第9小隊がサクヤを助けようとするのを妨害して、サクヤにみんなが死んだと誤解させてサクヤを絶望させたのは、クラウス隊長にポポの正体を気づかれずに、アルトに調律の力が使えるんだってことを知ってもらわないといけなかったから。1周目の世界では、色々あって、ポポが絶望して暴走したんだ。それをアルトが調律することで、アルトは調律の力に気づくことができた。でも、2周目の今回はポポが暴走しないから、他の誰かに暴走してもらわないといけなかった。だから、サクヤを追い詰めたんだ」

 

――サクヤは理解した。どうしてポポが己の望みと反しようとも構わずに、第9小隊によるサクヤの救出を妨害したのかを。

 

 

「福音使徒がリゼットに魔剣カルブンケルの呪いをかけようとした時にリゼットを助けなかったのは、『お務め』のために第9小隊に福音使徒をファーレンハイトから追い出してほしかったから。ヒルダたちがいる状態でファーレンハイトに潜入して風のクオリアを埋めることはできないって、3年前にドロシーに追い返された時に身にしみてわかったからね。だからポポは第9小隊に、福音使徒の拠点がファーレンハイトにあるって教えて、みんなにファーレンハイトに向かってもらったんだ」

 

――リゼットは理解した。どうしてポポが己の心が壊れようとも構わずに、リゼットを苦しめる魔剣カルブンケルの呪いを引き受けていたのかを。

 

 

「世界中に風のクオリアを埋める『お務め』が終わった後に、ポポが第9小隊のみんなを殺そうとしたのも、みんなに強くなってほしかったからだよ。だから、あの時のポポは暴走していたけれど、暴走していなかったとしても何か理由をつけて1回、アルトたちと本気で戦ったはずだよ」

 

――アーチボルトは理解した。なぜ孤月の丘で出会った時は第9小隊に非常に協力的だったポポが、いくら暴走しているとはいえ、急に手のひらを返して第9小隊に敵意を向けてきたのかを。

 

 

「……ポート・ノワールでアルトに調律されて、第9小隊に入ってからは、復活祭の日に、祝歌を奏でてエクリプスを発動した後に、本性を表してみんなを殺そうとするクラウス隊長とジゼルからみんなを守るために、ニキにポポのことを全部話して、協力してもらうことにしたんだ。そうして今日、ポポは調律ノ館で歌って、世界中の風のクオリアを起動させて天使を全部倒して。ニキはクラウス隊長を思いっきり馬鹿にして隊長とジゼルを逃げ帰らせて。1周目の時と違って、復活祭の日に誰も死なないようにしたんだ」

 

――祝祭の間に居合わせていた当事者全員が理解した。どうしてエクリプスが始まった後に、月より降臨する天使がすべて風魔法で倒されていったのかを。どうして祝祭の間で、クラウス隊長とジゼルを相手に、ニキがあれほど大胆に弁舌を振るっていたのかを。

 

 

「これが、今まで秘密にしていたポポのことだよ」

「「「……」」」

 

 ポポの告白が終わり、救護室に静寂が訪れる。先ほど、ヴェロニカ博士がこの世界のことについて説明した時と同様に、みんなには今、ポポから提供した情報をしっかりと飲み込むための時間が必要なのだ。

 

 ところで今現在、さも己の抱えている秘密をすべて吐き出したかのような雰囲気をまとうポポだったが、この時、ポポはあえて、月の魔女姉妹であるマリーやイヴのことを話さなかった。1周目のポポたちを打ち負かしたカルテジアンについて触れなかった。世界を救うという目的を果たすだけならば、わざわざイヴの精神世界に潜むカルテジアンと戦う必要はなく、マザー・クオリアさえ倒せば良いということを口に出さなかった。そして、1周目のポポたちも、マザー・クオリアを倒すところまでは到達していたことを公言しなかった。

 

 ポポは、みんなを救いたいから今まで頑張ってきた。そのみんなの中には、当然ながらマリーやイヴも存在している。だけど、1周目のポポたちはイヴを救おうとしてイヴの精神世界に潜り込み、そして精神世界に巣食うカルテジアンに敗北したのだ。

 

 もしも2周目のみんながその事実を知ったのなら。イヴを救おうと思わなくなるかもしれない。イヴの救済を諦めてしまうかもしれない。だからポポは、今もなお、みんなに言えない秘密を抱え持つこととなった。

 

 

(ごめんね、みんな)

「ポポ、調律した時も言ったけど、改めて言わせてくれ。今まで、俺たちのために、世界のために、頑張ってくれてありがとう」

「アルト……」

「ポポ、あなたの心からの献身のおかげで、この国の民は無事で済みました。愚かな私に代わって、民を守っていただき、ありがとうございます」

「ほぇ!? へ、へへへ陛下!? そんな、顔を上げてください! ポポはただ、未来の知識を使って、ポポにできることをやっただけ、なので! どうか、自分を責めないでください。……それに、お礼はまだ早いです。まだ世界も、みんなも救えたわけじゃありません。たった1回、エクリプスを防いだだけ、ですから」

 

 ポポが、未来の出来事を『1周目』として経験したたった1人の人間として、2周目の世界を守るために、常に最善の道を求めて、ただひたすらに暗躍していた。

 

 その事実を受けて、アルトは改めてポポに真摯にお礼を告げる。アルトに続いて、アナスタシア陛下も言葉だけでは表現できないほどの感謝の意を伝えるために、ポポへと深々と頭を下げる。一方、アナスタシア陛下からの恐れ多い行為にポポはたじたじとしつつも、しかし感謝の言葉を受け取らなかった。まだ、2周目の世界の命運は確定していないからだ。

 

 

「ポポが今日、ポポの事情をいっぱい話したのはね、これから先の未来の話をしたかったからなんだ。――マザー・クオリアと戦うか、戦わないか。みんなは、どっちにしたい?」

 

 ゆえに。ポポは改めてアルトたちに向き直り、今後の皆の人生を大きく左右する、非常に重要な選択肢を突きつけるのだった。

 

 




ポポ:金髪ツインテールな風の魔女。一度、ニキに己の事情を話した経験が功を奏し、今回は己の事情をわかりやすく皆に共有することに成功した。なお、せっかくの機会なのに己の持つ知識をフルオープンしなかったのは、3年前にヴェロニカ博士に未来のことをうかつに話して失敗した過去の経験あってのこと。
ニキ:土の魔女にしてカシミスタンの領主だった緑髪の少女。16歳。みんなから注目されてワタワタしているポポのことを内心で愛らしく思ったり、カルテジアン戦のトラウマがフラッシュバックしたためにおかしくなりかけたポポの平静を取り戻してみせたりと、何かとポポの正妻ポジションを満喫している模様。
ヒルダ:福音使徒を統べる時の魔女。年齢は少なくとも千年以上。己が時魔法を扱うこともあり、ポポの事情をいち早く察した切れ者。内心で、ポート・ノワールの大火の折に暴走したポポが、時のクオリアを求めてヒルダの胸をドリル掘削したのも、時のクオリアで過去にタイムトラベルしようとしたからなのだろうと納得している。
ヴェロニカ博士:科学者。5000年前の、地球が科学の叡智を極めていた頃の人間の最後の生き残り。己のことを『テクノロミー』と称する。此度は原作同様、皆にこの世界のことを伝える講師役を担うこととなった。ちなみに、ヴェロニカ博士が、ポポの『天使を全部ゴッ倒す』脳筋戦法のどこに度肝を抜かれたのかという具体的な話は次回にて触れる予定。
アナスタシア陛下:神聖レグナント王国の女王陛下。平静を装っているようにみえて実は、ポポの暗躍がなければ、自分のせいで自国の民を殺していたという事実に、酷く沈鬱としている。

 というわけで、33話は終了です。此度の救護室での会話フェイズは実は2話構成となっていました。当初は1話ですべてまとめるつもりだったのですが、さも当然のように文字数が1万5千文字に到達したあたりで、分割することとしました。
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