風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。此度は救護室での会話フェイズの後半戦です。また、今回は色んなメンバーの台詞多めで突き進みたいと思います。ここの所、空気化している方々が結構いましたからね。



34話.みんなと歩む未来の話

 

 王都ランベルトが管轄する救護室に集結した15名の面々。

 王立騎士団第9小隊のアーチボルト・ラスティ・アルト・リゼット・サクヤ・ののか・ユアン・ニキ。福音使徒のヒルダ・ダンテ・ドロシー・ルドルフ。そして、アナスタシア陛下・エルマー閣下・ヴェロニカ博士。

 

 

「ポポが今日、ポポの事情をいっぱい話したのはね、これから先の未来の話をしたかったからなんだ。――マザー・クオリアと戦うか、戦わないか。みんなは、どっちにしたい?」

 

 ポポは己の歩んだ過去を打ち明けた後、彼ら15名に向けて、今後の皆の人生を大きく左右する、非常に重要な選択肢を突きつけた。2周目の世界の結末は、1周目の世界を経由した部外者のポポではなく、2周目の世界のみを生きている彼ら当事者が決めるべきだと考えたからだ。

 

 

「マザー・クオリアと戦わない? そもそもそんな選択肢があるのかよ、ポポ?」

「うん、あるけど? どうして?」

「いや、お前が色々暗躍していた理由の1つに、俺たちを福音使徒と戦わせて強くするって目的があっただろ? てっきりこれからマザー・クオリアと戦う前提かと思ってな」

「ポポは、マザー・クオリアと戦いたいよ。だから、みんなに強くなってもらったんだ。でも、1周目のポポたちは、ボロボロに負けちゃったし、今もどうすれば勝てるのかわかっていないから……勝率の低い戦いにみんなを無理やりには巻き込めないよ。だから、みんながマザー・クオリアと戦いたくないなら、みんなの気持ちにポポも従うよ」

 

 ポポの問いを受けて、ラスティが己の疑問を軽い口調でポポに投げかける。すると、ポポは己の個人的な気持ちを表明しつつも、皆の気持ちが最優先だと主張した。その上で、ポポは1つ目の選択肢の詳細へと話題を移す。

 

 

「まずはマザー・クオリアと戦う時の話をするね。この道を選んだ場合は、まず第9小隊と福音使徒が一緒に協力することが必要だよ」

「は? こいつらと協力? マジで言ってんの? ありえないんだけど☆」

「いくら世界を守るという目的があったとはいえ、これまで幾多の街を襲い、多くの人々を殺し、陛下の御心を痛ませてきた福音使徒と我々が協力できるとは思えんがな。福音使徒は風の魔女とは違い、世界を救うために目の前の命を蔑ろにする手段を選んだ連中なのだぞ?」

「だって、マザー・クオリアの力を弱める星歌を奏でるにはヒルダを含めた魔女5人の合唱が必要だし。それに1周目のポポたちはヒルダ・ダンテ・ドロシーと一緒に戦って、それでも負けたから。それくらい、敵は強い。みんな、思うところはあるだろうけど、マザー・クオリアに勝ちたいのなら、第9小隊と福音使徒の協力は欠かせないよ。……ポポが福音使徒の人をたくさん殺しちゃったから、福音使徒のみんなが協力してくれるかは、わからないけど」

「「……」」

 

 第9小隊と福音使徒が協力する。ポポが提唱した内容にドロシーが吐き捨てるように呟き、エルマー閣下も福音使徒を睨みつけながら己の心境を零す。結果、救護室の雰囲気が険悪ムードに傾く中、ポポは今以上に雰囲気が悪化しないように少々早口に言葉を紡ぐ。そのポポの主張に、ドロシーもエルマー閣下も沈黙で返す。感情ではポポの主張を打ち崩したくとも、ポポが正論を言っていることを理性では理解できているからだ。

 

 

「風の魔女よ、1周目のマザー・クオリアとの戦いに私は協力しなかったのか?」

「あ、ごめん。言い忘れてたね。1周目のルドルフは、エクリプスが発生した時にクラウス隊長やジゼルからみんなを逃がすための時間稼ぎをしてくれて、それで……」

「む、そうか」

「このクソジジイがそんな真似を……」

「まとめると、マザー・クオリアと戦う場合は、みんなで協力して、世界各地に散りばめられた星歌の楽譜を集めて、ポポたち魔女が星歌を完成させてから、月へと向かうって流れになるよ」

 

 沈黙を打ち破る形でのルドルフの問いかけに、ポポは1周目のルドルフの結末を告げる。1周目の末路を知ったルドルフが静かに目を瞑り、ラスティが意外そうにルドルフを見上げる中、ポポはマザー・クオリアと戦う選択肢の先でみんなが行うべき内容を簡潔に提示した。それから、ポポはもう1つの選択肢へと話題を転換させる。

 

 

「次に、マザー・クオリアと戦わない時の話だね。この道を選んだ場合は、マザー・クオリアのエクリプスを止めないわけだから、毎日のように無数の天使は降ってくるけど、心配しなくてだいじょーぶだよ。その度にポポが歌を歌って、世界中の天使を倒してみせる。絶対に、誰も死なせないから」

「ポポの歌で29日間のエクリプスを凌げばいいってことだよね?」

「そういうことだね、リゼット」

「で、でも、これから毎日、人間を殺す気満々な天使が空からいっぱい降りてくる姿を、わたしたちは嫌でも見ちゃうわけですよね。うぅ、憂鬱ですぅ……」

 

 ポポはマザー・クオリアと戦わない選択肢を選んだ後の展開について端的に告げた後、リゼットの問いかけに自信満々にうなずく。他方、ののかはこの選択肢を選んだ後の日常風景に思いをはせて、消え入りそうな涙声を漏らす。

 

 

「ずいぶんと簡単に言ってくれるけど、それホントに大丈夫なの?」

「ほぇ? どうしたの、サクヤ?」

「確かに、アンタは世界中に埋め込んだ風のクオリアを使って、世界中の天使を殺すことができる。それはアンタが地道に続けてきた『お務め』の賜物ね。だけど、その世界中の風のクオリアの魔力は問題ないのかって話よ。アタシたちの胸に埋め込まれたクオリアの魔力は、アタシたちの体を介して自然と魔力が供給されるけど、土の中に埋まった風のクオリアはそういうわけにはいかないわよね? いつかは土の中の風のクオリアの魔力が切れる時が来るんじゃないの?」

「あ、それはね――」

「――なるほど。ここで僕の出番、ということですね? ポポさん」

「うん、その通りだよ」

「いやはや、そういうことでしたか。僕の長年の疑問がようやく解消されましたよ」

 

 が、ここでサクヤがポポに異議を唱えた。サクヤはポポが考慮していないかもしれない可能性を提唱し、ポポに問いを投げかけるも、ポポがサクヤに答えるよりも早く、ユアンが割り込んできた。ユアンはポポからの肯定の返事を受け取ると、1歩前へと踏み出し、クルリと皆へと向き直る。

 

 

「3年前。僕はポポさんと接触し、専属契約を持ちかけました。当時、まだ興したばかりのユアン商会をさらに発展させるために、『慈愛の魔女』としてのポポさんを利用したかったからです。結果として、専属契約は結ばれました。ユアン商会がポポさんの『お務め』を阻害しない形でポポさんを利用する、例えばポポさんのグッズを販売するといった内容ですね、その代わりにポポさんから適宜依頼を受けるという契約です。そして当時、ポポさんから依頼された内の1つが、『ポポさんが採取した翠色の宝石をユアン商会で厳重に保管していてほしい。また、翠色の宝石について詳しいことを一切聞かないでほしい』というものでした。当然僕はこの依頼を快諾し、ポポさんと出会う度に翠色の宝石を預かっていました。この翠色の宝石が、ポポさんが月から削って作った『風のクオリア』だった、そうですよね?」

「うん、合ってるよ」

「僕がポポさんから預かった風のクオリアの量は相当なものです。商会の倉庫を1つ埋めてしまうほどです。それなら後は、風のクオリアの魔力がなくなった時に、新しい風のクオリアを埋めなおしてしまえばいい。そういうことですよね?」

「そういうことだね、ユアン。今まではクラウス隊長にポポの作戦がバレないように、1人でこっそり世界中に風のクオリアを埋めていたから、3年もかかっちゃったけど、これからは王国の兵士とか、ユアン商会の人とか、とにかくたくさんの人に風のクオリアを埋めてもらえばいいから、風のクオリアの埋めなおしにそこまで時間はかからない。だから、サクヤが心配しているようなことにはならないよ?」

「アンタ、そこまで想定して対策を用意していたのね……」

「うん、ポポは今までいっぱい考えてきたからね」

 

 ユアンはポポと交わした専属契約の詳細を皆に共有し、ポポがサクヤに言わんとしていたことを先回りして告げる。言いたいことをすべて言ってくれたユアンにポポは内心感謝しつつ、ポポはサクヤの異議を解消するべく言葉を重ねる。結果、サクヤは改めてポポという人物の凄まじさに目を見開き、感嘆の声を零した。

 

 

「最後に、2つの選択肢のデメリットについて話すね。まず、マザー・クオリアと戦う道を選んだ場合の最悪のケースは、ポポたちがマザー・クオリアに敗北すること。そうなったら、もう世界は滅ぶしかないから。マザー・クオリアと戦わない道を選んだ場合の最悪のケースは、ポポが病気になったり、事故とかでいきなり死んじゃうこと。ポポがいなくなっちゃったら、1周目の時のように、天使にみんな殺されちゃうことになるから。……それで、みんなはどっちの未来にしたい? みんなの意見が聞きたいな」

「「「……」」」

 

 伝えるべき内容をすべて伝え尽くしたポポは改めて、今後の皆の人生を大きく左右する、非常に重要な選択肢を突きつける。この世界の命運が今、託されている。沈黙が支配する。当然だ、即決できるほど簡単な話ではないからだ。

 

 ポポが観察する限り、腕に自信があったり血気盛んな人ほどマザー・クオリアとの戦いに意欲を見せていて。落ち着いた性格をしていたり己の腕にあまり自信のない人ほどマザー・クオリアに敗北するリスクを警戒して、マザー・クオリアと戦いたくないとの結論に至っていて。そのような様子だった。どちらの選択肢を選ぶのか、皆の意見はちょうど半分に分かれているようにポポには感じられた。

 

 

「――ちょいとここらで口を挟ませてもらうッスよ、風の魔女。このままのんびり静観してるわけにもいかないんでね」

 

 想定通り、皆の意思が1つの選択肢に統一されるまでには相当な時間がかかる。そのように考え、皆の様子を静観していたポポに向けて、ここでヴェロニカ博士が声を上げる。なぜかヴェロニカ博士は不快感を全身で顕わにしており、ポポを睨みつけていた。

 

 

「博士?」

「いやね、自分はアンタの『いくらでも降ってくる無数の天使を全部ぶっ倒す』脳筋の極み戦法は素晴らしいと思ったよ。だからアンタの仲間になると決めたしね。で、何が素晴らしいって、アンタが世界中の天使を狩り尽くしたことで一気にレベルアップしまくって己を超強化した点が何よりも素晴らしい」

「レベルアップ?」

「諸君も武器を手に持ち敵と戦う戦士である以上、これまで数十回くらいは経験したんじゃないッスか? 敵を倒した時、自分自身に力がみなぎり『あ、己の殻を破ることができたな』と感じたことが。その感覚を自分は『レベルアップ』と定義してるッス。敵を倒す経験を重ねる度、人はレベルアップを繰り返し、より強大な力をその身に宿すことができる。んで、ポポはエクリプスの時に、無数の天使をすべて殺し尽くしてみせた。……もはや風の魔女の今のレベルが、実力がいかほどか、もはや想像つかねーッスね。何ならマザー・クオリアを星歌なしに単独で倒せる段階に至っているまであり得るッス」

 

 どうしてヴェロニカ博士がポポを睨んでいるのか。ポポが当惑する中、ヴェロニカ博士はポポの仲間になる気になった理由を告げる。いきなり飛び出てきた聞きなれない『レベルアップ』との単語にアルトが首をかしげる中、ヴェロニカ博士はこの場の皆を一瞥しながらレベルアップの概念と、ポポの現状について共有する。

 

 

「え、そうだったんだ。ポポ、知らなかったよ……」

「なんだ、レベルアップのことは知らなかったッスか。てっきり1周目の自分がどっかで話したもんかと思ってたなりよ。ま、この話はどーでもいいんで、話を戻すッスよ。ポポの脳筋戦法だが、これはメリットばかりの戦法じゃない」

「は、博士! それは――」

「もう自分はアンタの仲間なんだ。ならば、この世界の輝かしい明日を願う仲間として、世界の命運を決める重大な選択肢に潜むリスクを皆にちゃんと伝えてやらんとフェアじゃない。悪く思うなよ、風の魔女」

「うッ……」

「……ポポ? ポポは何かを隠しているの?」

 

 ポポはヴェロニカ博士の言葉を遮ろうとする。しかし博士はポポを黙らせた。ポポをじろりと睨み、強圧的な言葉をポポに浴びせる。ポポとヴェロニカ博士のやり取りを見て、ニキが不安そうに声を上げる中、ヴェロニカ博士は続きを口にする。

 

 

「魔法には対価が必要だ。どんなにしょぼい魔法でも、魔力(SP)を消費するようにだ。世界に歌を轟かせて無数の天使を殺し尽くす風の魔女の歌。こんな尋常じゃない歌、それこそヒルダ姐さんのタイムトラベルの魔法のように、何か相応の対価を払わないと歌えないはずだ。それで? 風の魔女よ、アンタは何を対価に捧げているんスか?」

「え、えーと……そ、それはポポにもわからないんだ。あの歌を歌って疲れはしたけど、でも対価なんてそんな大げさなもの、ポポは払ってないよ?」

「嘘ッスね。魔女が自分の魔法の詳細を知らないなんてこと、ありえないッスよ。ヒルダ姐さんが一度もタイムトラベルの魔法を使っていないのに、自分の命を対価にしないとタイムトラベルの魔法を使えないということを知っていたのが何よりの証拠だ。ほら、アンタの偽証はもう論破した。これ以上ごねても時間の無駄なりよ。ほら、諦めてキリキリ話せや」

 

 ヴェロニカ博士はポポをねめつけて、詰問する。先ほどまでは幾分か和やかな雰囲気だったのに、どうしてヴェロニカ博士がそのような雰囲気を破壊して、ポポを問い詰めにかかっているのか。誰もが状況を理解できない中、しばしの沈黙の後、ポポは観念したかのようにうなだれて、一言、ポツリと呟いた。

 

 

「…………寿命、だね。1回歌う度に5日くらい、減ってると思う」

「「「ッ!?」」」

 

 刹那。空気が、凍った。

 

 

「想定より幾分かマシな対価だったッスね。オーケー、じゃあ計算開始だ。まず前提として、エクリプスの発生条件は、人間の感情エネルギーの総量が閾値を超過することだ。仮にマザー・クオリアと戦わない選択肢を選んだ場合、風の魔女が天使から人間を守り続ける以上、人間の感情エネルギーの総量は減らない。そうなれば、29日のエクリプスが終わったとしても、またすぐに次のエクリプスが発生する、ということになるッスね。その上で……少女よ、あんたの肉体年齢は今いくつだ?」

「……1周目から3年前の世界に戻った時は15歳だったから、今は18歳だね」

「ふむ。そんじゃ、少女の寿命が80歳、かつ今日が少女の18歳の誕生日、かつ今年がうるう年の翌年だと仮定する。少女に残された人生は後62年。後22645日。さらにエクリプスによる天使の襲撃が1日に2回発生すると仮定すると、少女は1日に11日分の寿命を消費することになる。そうなれば少女の寿命は後『2058』日、5年と半年そこらで寿命で死ぬことになるな?」

「……」

「さて諸君。今の自分の話も踏まえた上で、決断しようじゃないか。マザー・クオリアと戦うか、戦わないか。勝率こそ低いがみんなが助かるかもしれない素敵なハッピーエンドを目指すか、少女を生贄にして何てことない日常を数年間だけ謳歌するか。さぁ、どうするッスか?」

 

 しかしどれだけ空気が凍っていようとただ1人平常運転をキープし続けるヴェロニカ博士がポポの寿命を計算してから、改めて、選択肢を提示する。それは、ポポが提示した選択肢と全く変わらない内容だ。しかしヴェロニカ博士が提唱したポポの寿命の情報、それを否応にも耳にしたことで、状況は完全に変わっていた。

 

 

「――決まってる」

 

 冷えつくような、痛い静寂の中。口火を切ったのは、アルトだった。

 アルトの瞳には、確かな決意の炎が宿っていた。

 

 

「今までは、ポポに守られてきた俺たちだけど、いつまでもポポにおんぶに抱っこじゃいられない。俺たちの未来は、ちゃんと俺たち全員の力で勝ち取らないとダメだ。俺は、マザー・クオリアと戦いたい。戦うことから、逃げたくない。例え勝率が低いのだとしても、俺は、戦いたいッ!」

「けッ、そこの優男に同調するのは癪だが、オレも戦う方に賛成だ。オレが今日まで鍛え上げてきたこの力は、この世からクソ天使を1匹残らず狩り尽くすための力だ。毎日がエクリプスで、毎日クソ憎たらしい天使の顔を拝む生活なんて死んでもお断りだ」

 

 アルトが己の秘めたる気持ちを表出させる。アルトの主張に、天使への復讐の念を心に宿すダンテが同調する。それを契機に、皆も次々と己の意思を声高に主張する。皆の意思は、マザー・クオリアと戦う方向へと統一されていた。誰1人として、マザー・クオリアと戦わないで、ポポに任せる選択肢にすがる者はいなかった。

 

 

「みんな……」

「残念だったッスね。望み通りに、緩慢に自殺できなくて」

「……え? そんな……ポポは、ポポはそんなこと思ってないよ。だって、そうだよ。ポポだって、戦いたかったんだ。今度こそみんなを救いたかったんだ。だから、博士には感謝してる。ありがとう、博士」

「あぁそーッスか。ま、今はそーゆーことにしておくッスよ。……ただ、これだけは言っておいてやる。アンタの命はもはや、アンタ1人の裁量でどうこうできるほど軽い価値じゃないなりよ。それだけアンタはこの2周目の世界に多大な影響を与えている。これからアンタがいかなる手段で自殺しようと企もうとも、アンタのことが大好きなすべての人間が、アンタを全力で妨害するだろう。……自責の念に苛まれるのは結構だが、罪滅ぼしの手段として自殺にすがるのはもう、やめておけ」

「……」

 

 と、その時。ヴェロニカ博士がポポにだけ聞こえる声量で、告げる。一瞬、ポポにはわからなくなった。己がどうしようとしていたのか、どうしたいと願っていたのか。しかし、ポポ自身もまた、マザー・クオリアに勝ってみんなを救いたかったのは事実。その気持ちを、小声でヴェロニカ博士に伝えると、ヴェロニカ博士は不機嫌オーラをしまい、いつになく真摯な眼差しをポポに注ぎつつ、心からのアドバイスをポポの心に刻み込む。だが、当のポポは何を思ったか、ヴェロニカ博士の心遣いに沈黙で返した。

 

 

「それで、マザー・クオリアと戦うってことになったけど……」

「それならまずは新しい騎士団の名前と、騎士団長を決めないといけないね」

 

 ポポとヴェロニカ博士が小声で会話を続けていた一方。マザー・クオリアと戦う決意表明を1人1人行ったアルトたちは、改めてポポを見つめる。ポポはヴェロニカ博士によってグチャグチャにされていた気持ちをどうにか切り替えると、アルトの言葉に同調して、まず皆が何をしなければいけないのかを告げた。

 

 

「それは……今まで通りの王立騎士団第9小隊のままではダメだということか?」

「ダメだよ、アーチボルト。ニキは、クラウス隊長が陛下を殺そうとしたところで、ポポたちの作戦通りに動いたんだよね? だったら、広場のみんなは、クラウス隊長が王国を裏切ったことを知っている。陛下を殺そうとした隊長が率いていた王立騎士団の名前のままだと、みんなからの印象が悪くなっちゃうんだよ。だから、変えないといけないんだ」

「むぅ、確かに」

「まずは、団長から決めようか。その方がきっと、新しい騎士団の名前も決めやすいしね。みんなは、誰が良いと思う?」

「「「……」」」

 

 わざわざ騎士団名を変更する理由について疑問を提示するアーチボルトに、ポポは簡潔に根拠を示し、アーチボルトを納得させる。その後、ポポが皆を一瞥しつつ問いを投げかけると、この場の約半数からの視線がポポへと突き刺さっていることに気づいた。

 

 

「え、えーと? みんな?」

「……団長は、ポポが向いてるんじゃないか?」

「ほぇッ!? ポポが団長!?」

 

 ザクザクと突き刺さる意味深な視線にポポが困惑していると、アルトが意味深な視線たちに込められた気持ちを言葉に変換して、ポポに伝えた。まさか己が団長候補として選出されるだなんてつゆほども思っていなかったポポは目を見開き驚愕の声を響かせる。

 

 

「あぁ。ポポは世界を救うために今まで動いてきた。それも自分にできること、できないことをちゃんと理解して、自分に足りない所はヴェロニカ博士やユアンやニキに、その状況で一番適切な人に頼って、エクリプスが発生してなお誰も死なない未来を創り出してみせた。俺は、目的を果たすためにしっかり作戦を練って、ひたむきに走り続けていたポポこそ、世界を救う騎士団の団長にふさわしいと思ってる」

「アルト……無理だよ。それは、無理だよ。ポポには向いてない。ポポにはみんなと違って1周目の知識があった。みんなにはポポがすごく頭が良い人に見えているかもしれないけど……ポポは、未来の知識を使ってインチキしてただけだよ。ポポはただの、バカだよ。ポポは団長にふさわしくないと思ってる。誰よりも、誰よりも」

「そんなことない。ポポ、お前は――」

「――そんなことあるよ! ポポは今日、復活祭の瞬間にみんなをエクリプスから守って、1周目の時と全然違う未来を創った。でもそうしたことで、もうポポの1周目の知識は役に立たなくなったんだ。1周目の知識を頼れなくなった今、これから何が起こってもおかしくなくなった今、みんなの命を預かるのは、ポポには無理だよ……」

 

 ポポこそ団長にふさわしいと判断したアルト。己が団長だなんてありえないと断ずるポポ。決して交わらない立場からの言葉の応酬。そのような平行線の一途を辿るだけだった状況に、ヒルダはため息を1つ零した後、切り込んだ。

 

 

「――アルト。あなたが団長になりなさい」

「え、ヒルダ!?」

「さっきポポが言っていたわね? マザー・クオリアに勝つには、第9小隊と福音使徒が協力しないといけないって。でも私は、アルト以外の人間に従うつもりはない。アルトが団長じゃない部隊に属するつもりはないわ」

「何だよ、それ……。俺はアルトだ、エルクレストじゃない。俺はエルクレストにはなれない。ヒルダの願望を俺に押しつけないでくれ!」

「別に、私はアルトにエルクレストを投影しているわけじゃない……とは断言できないけど。でも私は、あなたこそ団長にふさわしいと思っている。あの時、リゼットにかけた魔剣カルブンケルの呪いを解呪するためにアルトたちがファーレンハイトに乗り込んだ時に、私を殺せる状況だったのに、アルトは私を殺さなかった。ポポが私を殺そうとした時も、あなたは誰よりも先んじて私を庇ってくれた。そんなアルトこそが、罪を憎んでも人は憎まないアルトこそが、一番団長にふさわしいと思っている」

「ヒルダ……」

 

 アルトを団長に推すヒルダの意見を受けたアルトは、改めてポポを見つめる。蒼白な表情を浮かべて、消え入りそうな声で「無理だ」と呟き続けるポポを前にして、アルトは改めて先ほど己が発した決意表明を思い出す。

 

 

――今までは、ポポに守られてきた俺たちだけど、いつまでもポポにおんぶに抱っこじゃいられない。

 

 

「……みんなは、どう思う? 俺が、団長で良いと思うか?」

 

 アルトはこの場の全員を見渡して、静かに問いかける。

 皆は、否定しなかった。積極的に団長のアルトを支持する者から、消極的に団長のアルトを認める者まで、反応は様々だったが、誰もアルトが団長として君臨することを真っ向から否定しなかった。

 

 

「わかった。俺が団長になる。……正直、荷が重いよ。エルクレストだった頃の記憶がない俺は、ただのミトラ村の狩人で、ただの第9小隊の一員でしかなかったんだから。だけど、重圧に屈してなんていられない。世界の明日のために、みんなと笑いあえる未来のために、最善を尽くてみせる。……改めて、みんなの力を貸してほしい」

 

 皆の反応を確認したアルトはしばし目を瞑って覚悟を固めた後、スッと目を開き、これから団員となる、頼りがいのある皆に語りかける。そのような団長の風格をまとうアルトの発言に、皆は一斉に首肯した。

 

 

「みんな、ありがとう。色々考えたけど、新しい騎士団の名前は、1周目の時と同じ、『調律騎士団』にしよう。俺たちは、1周目の俺たちの想いも背負っているんだからな。……さて、決めるべきことは決めた。これから早速、マザー・クオリアを倒すための準備を進めよう」

 

 かくして。救護室での非常に密度の高い会話を経て。立ち塞がる強敵ことマザー・クオリアに勝つべく、王立騎士団第9小隊改め調律騎士団は本格的に動き出したのだった。

 

 




 というわけで、34話は終了です。久々に皆を自然な形で会話に混ぜることができて、私は大満足です。ただ、登場キャラが多すぎたので今回は後書きのキャラ紹介を全略しました。ゆるして。

 閑話休題。今回、ポポに対する不穏要素を新たにチラつかせながらこの34話は終了しました。はてさて、ポポの未来は、アルトたちの未来はどのような行く末へと収束するのでしょうね。


 ~おまけ(シリアスシーンにおける他の方々の反応)~

ヴェロニカ博士「少女よ、あんたの肉体年齢は今いくつだ?」
ポポ「……1周目から3年前の世界に戻った時は15歳だったから、今は18歳だね」
アルト@17歳(え?)
リゼット@17歳(ウソ、でしょ?)
サクヤ@17歳(マジ?)
3人(((ポポって、年上!?)))

※アルトは一応、17歳ということになっています。
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