風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。とりあえずサブタイトルはちょっとばかり不穏ですが、今回はほのぼの回となる予定なので、ご安心を。もうね、まるでお日様の暖かな光に包まれてのんびり日向ぼっこをしているかのような、そんなほのぼのとした話、間違いなしなのです。



35話.加害者同士

 この世界の真実。そして、ポポが歩んだ軌跡。容易には受け入れがたい、衝撃的極まりない情報を否応にも知ることとなったアルトたちは結局、アルトが団長を務める調律騎士団として、マザー・クオリアと戦う道を決断した。それから一夜明けて。調律騎士団は、マザー・クオリアと対等に戦うために欠かせない、星歌の楽譜をすべて回収するべく、王都ランベルトを発つこととなった。

 

 歌うことで感情エネルギーを操り魔法を行使できる魔女が集い、歩調をそろえて行使する合唱。これが強大な力を呼び出す儀式と形容するならば、楽譜とは、魔女が生み出した力の使い道を定義する道しるべ。この道しるべがなければ、天使たちを滅ぼしマザー・クオリアを弱体化させる星歌はその真価を発揮することができない。ゆえに、マザー・クオリアと戦うのであれば、星歌の楽譜の収集は避けて通れない。

 

 ヴェロニカ博士が言ったように、たとえポポが天使の大量討伐によりレベルアップを繰り返し超強化されているとしても、マザー・クオリアとの戦いの勝率アップに繋がる星歌を完成させずに月に乗り込む選択肢を選ぶほど、調律騎士団は冷静を欠いた集団ではないのだ。

 

 しかし、当の星歌の楽譜は、力の使い道を悪用されることを警戒した千年前の当事者たちにより5分割され、千年前の魔女5名――土の魔女ウクナ・水の魔女フランジスカ・火の魔女カエデ・風の魔女ミリー・時の魔女ヒルダ――がそれぞれ管理することとなった。そして、今や所在がはっきりしている楽譜は、ヒルダが肌身欠かさず所持していた『星歌の楽譜~時』しかない。そのため、調律騎士団は残る地水火風の星歌の楽譜を集めるために一度、王都を離れる必然性に迫られたのだ。

 

 だが。幸いにも、星歌の楽譜の行方は、1周目を経験したポポがしかと把握している。そのため、2周目の調律騎士団は、ポポからリークされた情報に基づき、星歌の楽譜を集めるべく旅立った。それが今朝の出来事だ。

 

 ちなみに。ポポは調律騎士団と一緒には行動せず、王都に残されることとなった。エクリプスにより天使が大量降臨した際に、天使を1匹残らず殺すポポの歌を奏でる際に、ポポの歌を最も響かせやすく、かつ歌う際にポポの体に最も負担が少なく済ませられる場所が調律ノ館の他に存在しなかったからだ。

 

 

「……」

「メディア、だいじょーぶ。天使は全部ポポが倒すから」

 

 動物と会話できるポポが手懐けた渡り鳥から、天使大量降臨の情報を受け取ったポポは早速、調律ノ館に飛び込む。ポポが世界中の天使を倒すための歌を歌うごとに5日間の寿命を縮めることを、おそらくアナスタシア陛下経由で知ったであろう、調律ノ館の管理人ことメディアが痛ましげにポポを見つめる中、ポポはメディアの視線に込められた意味を極力無視して、メディアにニコリと笑いかける。

 

 

「〜〜〜♪」

 

 ポポは深く息を吸い込み、歌う。みんなを救う。世界を救う。どこまでも洗練された救済意思を胸に宿して、渾身の歌を世界に浸透させる。ポポの歌は世界中に埋め込まれた風のクオリアを励起させ、人類に仇をなす天使たちを、風のクオリアから生成された風の刃で容赦なく切り刻んでいく。

 

 

「――ふぅ」

 

 何時間もかけて。空から天使が降り注がなくなるまで世界を救う歌を奏できったポポは小さく息を吐く。復活祭の時のように、加減がわからないまま全力に全力を重ねまくって歌った後に激しくせき込んで倒れる、といった無様な姿をさらすことはなかった。

 

 

「お疲れさま、黄色いカナリアさん。人民の魂を震わせる、素敵な歌声だったわ。はい、これ」

「あ、りがとう。メディア」

 

 ポポはメディアから差し出されたコーヒーカップを受け取ると、適温に調整されたコーヒーをすする。ポポが愛飲しているたんぽぽコーヒーとは全く毛色の違うコーヒーだが、今のポポのカラカラなのどに、メディアの淹れてくれたコーヒーが染み渡る。

 

 

「コーヒー、おいしかったよ。じゃ、ポポは帰るね」

「え、えぇ」

 

 次の天使襲来がいつ発生するかわからない以上、ポポに安穏とする精神的余裕はない。次の天使襲来からみんなを守れるように早く部屋で仮眠をとって、体力を回復しないといけない。ポポはメディア作のコーヒーをごくごくと飲み干すと、メディアにコーヒーカップを返して、足早に調律ノ館を後にする。

 

 

「……」

 

 ポポは、背後から突き刺さる、メディアの視線を極めて頑張って無視した。

 

 

 ◇◇◇

 

 深夜。天使が次々と地上に降臨する。

 ポポは歌を歌って、天使を殲滅する。

 早朝。空を天使の群れが埋め尽くす。

 ポポは歌を奏でて、天使を撃滅する。

 夕刻。世界中に天使のハーモニーが響き渡る。

 ポポは歌を捧げて、天使を掃滅する。

 昼下。天使が人類に凶刃を振るわんとする。

 ポポは歌を献じて、天使を討滅する。

 

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

 

「――カフッ」

 

 世界を救うため、天使が降臨しなくなるまで延々と世界中に己の声を届け続ける。そのようなポポの新たな『お務め』を終えたある時。ふとポポはのどに違和感を感じ、つい咳払いをした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 天使はいつも不意に、どんな状況でも大地へと降臨する。人類の自殺願望を叶えるべく、マザー・クオリアが遣わした天使の大群は、人類の事情など知ったことかと、昼夜関わらず地上へと降り注ぐ。

 

 

「〜〜〜♪」

 

 ポポは己に懐いてくれる小鳥からいつものように天使襲撃の報を聞きつけ、いつものように調律ノ館に飛び込み、いつも通りの歌を奏で始める。祈るように両手を組み、スッと優しく目を瞑り、世界を救うひたむきな意志を歌に乗せて、風に乗せて、世界中に伝播させていく。

 

 しかし。ここで異常事態が発生した。

 

 

(ッ!? 声、が――)

 

 ポポの歌が途切れたのだ。まさか集中が途切れてしまったのだろうか。ポポは慌てて目を開き、歌の詠唱を再開しようとするも、ポポの口から漏れるのは、透き通った声色による荘厳な歌ではなく、ヒューヒューという、かすれた呼吸音のみだ。

 

 

(そんな、どうして!? このままじゃあ、みんなが! みんなが!)

「ぁ、う゛ぁ――!」

 

 ポポはのどに手を添えて必死に歌を絞り出そうとするも、ポポの願いは成就されない。ポポの口からはとても歌とは形容できないうめき声が零れるのみだ。歌が、歌えない。ポポが歌えなければ、天使による人類虐殺を止められない。ポポの顔からサァァと血の気が引き、ポポの顔色がみるみるうちに蒼白に染まっていく。

 

 ポポにはわかる。世界中に埋まっている風のクオリアと感覚をリンクさせているポポにはわかる。天使が次々と地上に到着していく。人々は天使を見ても安心しきっている。人類への殺意をみなぎらせる天使が、ポポの風魔法でなすすべもなく撃滅される。そんな光景を毎日間近で見ているからだ。人々は、ポポが歌えなくなっていることに気づいていない。天使はポポに攻撃されないことを不思議に思いつつも、人々を殺すべく力を行使しようとしている。

 

 

(やだ、やだよ! どうして声を出せないの!? 今歌えないんじゃ意味がないんだよ! お願い、歌を歌わせて! ポポはどうなってもいいから、ポポに歌を――!!)

「――落ち着きなさい」

 

 刹那。心が絶望一色に塗りつぶされていくポポに、凛とした声が届けられた。同時に、ポポが世界中の風のクオリア経由で観測している光景が停止した。否、極端にスローモーションになった。世界各地で、天使が人間を殺すべく振るわんとする爪の速度が異常なまでに遅くなったのだ。この速度では、天使の爪が人間を引き裂くまでに数時間はかかることだろう。この感覚に、ポポは覚えがあった。時の流れを歪ませる、ヒルダの魔法だ。

 

 

「ヒルダ、ケホッ。どう、じて……」

「無理に声を出さないで。今、治療するから」

 

 背後からポポに歩み寄る、漆黒のとんがり帽子がトレードマークな時の魔女ヒルダ。ヒルダの姿を視認したポポが声を絞り出そうとするも、ヒルダがポポの行為をピシャリと制止する。そして、ヒルダはひんやりとした手でポポの首をそっと触る。瞬間、ポポは己ののどの不調が、のどの違和感が解消された感覚を抱いた。

 

 この現象にも、ポポは覚えがあった。ポート・ノワールの大火の折、暴走中のポポがヒルダの胸をドリルで掘削した時にヒルダが己の時間をひたすら戻して怪我を回復していたように、ヒルダはポポの体の時間を戻して、ポポののどが傷つく前の状態に戻したのだ。

 

 

「声はもう、出せるかしら?」

「……うん、だいじょーぶみたい」

「そう。良かったわ。今から時の流れを元に戻すから、すぐに歌を再開しなさい」

「わ、わかった」

 

 ポポののどの治療を終えたヒルダは、有無を言わせぬ口調でポポに天使殲滅の歌の再開を促す。なぜヒルダがここにいるのかを聞きたくて仕方がなかったポポだが、ヒルダに先手を打たれてしまったため、湧き上がる疑問に一旦蓋をして、スローモーションな世界が速さを取り戻す中、歌を再開する。

 

 

「〜〜〜♪」

 

 ヒルダのおかげで体勢を立て直すことができた結果、ポポの此度の歌でいつも通りに天使を1匹残らず倒すことができた。ポポの歌が途切れて、天使が人類を虐殺する最悪の展開は訪れなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ヒルダ、ありがとう。おかげで、みんなを助けることができたよ」

「お礼ならメディアに言いなさい」

「え、メディアに?」

「えぇ。ポポの歌の調子からポポののどの異変に気づいたのは、彼女よ。世界中の人々を救うポポの魂の歌は、ポポののどに相当な負荷をかけてしまっている。このままポポに歌を歌わせ続けると、ポポののどが潰れるかもしれない。だけど、ポポに歌ってもらわないと世界中の人々が天使に殺される以上、ポポに『歌わないで』と頼むわけにもいかない。だから彼女は考えに考えた末、私に、時を司る魔女に、どうにかしてポポの窮状を救えないかって相談してきたのよ」

「そう、だったんだ……」

「今日からは、ポポが歌を奏でる時に私も立ち会うわ。時を制御できる私がいれば今回みたいに、大概の事態には対処できる。私がいる限り、ポポの歌を阻害するあらゆる原因を排除して見せるから、安心なさい」

 

 エクリプスに伴う天使の無限降臨が終わった後。ポポからお礼を告げられたヒルダはぷいッとポポから視線をズラしつつ、此度己が調律ノ館に訪れた経緯を告げる。ポポの知らぬ間にメディアがヒルダに陰で働きかけていたことにポポが意外そうに眼を見開く中、ヒルダはとんがり帽子を目深に被りなおしつつ、ポポに優しく微笑みかける。

 

 

「ありがとう。すっごく、頼もしいよ」

 

 この時。ポポはヒルダがなぜ福音使徒の皆から尋常じゃなく好かれているのかの一端を、改めて垣間見た。それくらい、今のヒルダがカッコよかったのだ。

 

 

「……ポポ。私からも改めて言わせてちょうだい」

「ほぇ?」

「世界を救ってくれてありがとう。エクリプスが発生してなお、みんなが生きている。誰1人として天使に理不尽に殺されない。そんな、最良の道を諦めずに追い求めてくれて、突き進んでくれてありがとう」

 

 と、ここで。ヒルダはしばし口をつぐんでポポをジッと見つめた後、おもむろに己の心境を吐露する。ポポに、己の偽らざる本音をぶつけていく。

 

 

「私は、福音使徒は諦めていた。世界と目の前の命とを天秤にかけて、世界を守ることを選んだ。もしも諦めなければ、私も、私だって、ポポみたいに、世界も目の前の命も守る、そんな欲張りで素敵な道にたどり着けたかもしれないのに」

「ヒルダ……」

「だけど、私は諦めた。私の、千年に渡って実践してきた世界を救うためのあらゆる策を、いつもあざ笑いながら踏みにじってくる残酷な世界に、ついに私は屈してしまった。それから私は、『世界を守る』ことを免罪符にして、色んな悲劇を生み出してきた。幾多の街を堕歌で結晶化してきた。結晶化を妨害する者たちを容赦なく殺してきた。私は、世界を守るために、目の前の命に見向きもしなかった。……私は滅びの魔女になるしか、世界を守る道がないと思っていた。諦めさえしなければ、私もあなたみたいに、時の魔女だからこそできる方法で、世界も目の前の命も救える方法を思いつけて、もう1人の慈愛の魔女になれたかもしれなかったのにね」

「……」

「結局、福音使徒がやってきたことは、『世界を守る』という題目で世界中にただただ不幸を振りまいていただけだった。しかもそれはクラウスに、獅子王ゼノに良いように踊らされていただけのことだった。私たちは、福音使徒はゼノの手のひらで操られていることに気づけないまま、ひたすら意味のない罪を重ね続けた。あなたの故郷:ポート・ノワールだって滅ぼした。……本当に、ごめんなさい」

「ヒルダ……」

「すべてが終わった時、私はしかるべき罰を受けるわ。だからどうか、あなたの故郷を滅ぼした主犯格が今こうして、あなたの傍で平然と生きていることをどうか、今だけは許してほしい」

「……」

 

 ヒルダがとんがり帽子を手に取り、深々と頭を下げる。さっきまで凄まじく頼もしかったヒルダが、ポポにはとても小さく見えた。今、ポポの目の前にいるヒルダは、己の犯した大罪を自覚し、怯えて震えて身をすくませる、か細い少女でしかなかった。

 

 

――そりゃ人間、これが最善だって信じて選んだ行動が逆効果になる時はあるさ。自分のせいで事態を余計に悪化させることだってよくあることだ。でもさ、俺は思うんだ。大事なのは、結果だけじゃないって。

 

――だって、ポポが今まで頑張って色々動いていた動機は、悪意からじゃないだろ? いつも、いつだって。ポポは人のためを思って、善意で動いていた。だからこそ、ポポは今、『慈愛の魔女』って二つ名と一緒に、多くの人から慕われてるんだ。

 

――たとえポポが動いて、望み通りの結果を得られなかったとしても、人の幸せを想って動いた優しいポポ自身のことまでは否定しないでやってくれないか? だって、ポポは善意に従って、最も正しい選択肢に従って、動こうとしただけなんだから。

 

 

 刹那。不意にポポの脳裏に、アルトがポポを調律した時の言葉がよみがえる。

 今のヒルダには、あの時ポポがアルトからもらった言葉が必要だ。

 

 

「……仕方ないよ」

「え?」

「仕方なかったんだよ。だってヒルダたちは、1周目の知識を持っていたポポと違って、何も知らなかったんだから。ヒルダたちは自分たちが持っている情報から判断して、世界を守るために一番良い手段を選んだだけなんだから。ほら、ヒルダ。顔を上げてほしいな」

「だけど、私たちはポート・ノワールを――!」

「確かに、ヒルダたちはポポの故郷を壊したよ。でも、それは世界を守りたいって願って、エクリプスの引き金になる魔女4人の祝歌を止めるためにポポをおびき出して殺すっていう一番良い手段を選んだ結果なんだよ。ポート・ノワールが滅んでしまった結果には、誰の悪意も関わってない。ただ、ポポや、ヒルダたちの、世界を守りたいって気持ちが、うまく噛み合わなかっただけなんだ。……確かに、福音使徒はたくさん間違ったことをし続けてきたよ? でも、お願いだから、世界を守るために千年間もずっと頑張り続けてきたヒルダ自身のことは、どうか否定しないでほしい」

「ポポ……」

「それに、お互い様だよ。ポポだって、ポポの事情をヒルダに隠してた。でも、思うんだ。ポポがヒルダの魔法で未来から過去に戻ったってことを、ヒルダに伝えていれば、そうすればポポはもっと上手に立ち回れたんじゃないかって。ポポが暴走して、福音使徒を、ヒルダの仲間をいっぱい殺さずに済んだんじゃないかって。……ごめんなさい、ヒルダ」

 

 ヒルダを赦すため。罪に苦しむヒルダを救うため。ポポは必死に頭を働かせて一言一言を絞り出す。そうして、ポポも改めてヒルダに頭を下げて、福音使徒を殺したことをヒルダに謝罪する。それからポポはスッと右手をヒルダに差し出す。

 

 

「ポポはヒルダを許すよ。だから……友達になろう?」

「とも、だち?」

「うん。ヒルダはポポのことを許せないと思う。でも、ポポはヒルダと仲良くしたいよ。ポポたちは、世界を救うために集った、かけがえのない、調律騎士団の仲間なんだから」

「……あなたは、強いわね。……わかったわ。これからよろしくお願いするわね、ポポ」

「うん! よろしくね、ヒルダ」

 

 己の故郷を滅ぼした仇に対して、朗らかな笑みを向けて右手を差し出すポポを前に、ヒルダはとんがり帽子を被りなおして、おもむろに右手を差し出し、ポポの手をギュッと握る。ニコニコと笑うポポと、柔和に笑うヒルダ。仇同士、敵同士の両者の関係はこの瞬間、明らかに変化した。

 

 

「――ヒルダ。話はついたか?」

「いえ、それはこれから話そうと思っていたところよ」

 

 ポポとヒルダがお互いの手を離した時。福音使徒のダンテが燃えるような赤髪を揺らしながら、魔女の園へと足を踏み入れる。あふれんばかりの食料が詰められた紙袋を両手に抱え持っているダンテからの問いかけに、ヒルダは意味深に目を細めてポポを見つめる。

 

 

「話って?」

「もしもポポが私たち福音使徒と一緒にいて不快に感じないのなら、親睦を深めるために私たちと鍋を囲んでみないかと思って、ダンテに食材の買い出しに行ってもらっていたの。……それで、ポポ。どうかしら?」

「……えと、ポポが鍋に参加してもいいの? その、ヒルダは友達になってくれたけど、ダンテたちは――」

「――ドロシーやルドルフの気持ちは知らねぇが、オレはとっくにテメェのことを許してるぜ」

「ほぇ!? そうなの!?」

 

 ヒルダから鍋の誘いを受けたポポはおずおずとダンテに視線を送りつつ、ヒルダに問い返そうとする。が、ここでポポの言わんとしている内容を察したダンテが、ポポの発言に割り込んで己の心境を表に出した。福音使徒の中で誰よりもポポのことを恨んでいそうな人筆頭のダンテからの想定外極まりない発言に、ポポは思わず目を丸くする。

 

 

「そもそも先にポート・ノワールに手を出したオレたち加害者側が許すも許さないもねぇんだが……あの憎たらしいクソ天使どもを毎日景気よく容赦なくスプラッタにしてくれるテメェのことは、結構気に入ってんだぜ? だから、来いよ。オレがテメェに最高の鍋をふるまってやる」

「ああ見えてダンテの料理の腕は一級品よ。必ずやポポの舌を満足させることを保証するわ。それに、もしも鍋の最中に無粋な天使が襲来した時は私が時を遅らせてポポの歌を間に合わせるから、ポポは何も気にしないで、安心して、私たちとの鍋を楽しんでほしい。……さ、行きましょう?」

 

 ダンテはまるで新たな獲物を見つけたかのような邪悪な笑みを浮かべながら、鍋へのポポの参加を歓迎する。ヒルダもまた、ポポが鍋を断る理由にしそうな要素に対して先回りして回答しつつ、再度ポポへと手を差し出してくる。

 

 福音使徒の皆との鍋。一体どんな鍋になるのか想像できないし、ドロシーやルドルフがポポのことをどのように思っているかもわからない。けれど、鍋の誘いと相対して、ポポの心をいち早く支配した感情は、不安ではなく期待だった。

 

 

「……うん、わかった。それじゃ、ごちそうになるね!」

 

 ポポはヒルダの手を取った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その後。調律騎士団の庁舎の一室にて。

 ポポは、ヒルダ・ダンテ・ドロシー・ルドルフの5名で鍋をつつき合うこととなった。

 

 鍋パーティーの開幕早々、ルドルフからの空気の読まない謝罪(という名の恐ろしく速い指詰め行為)を、レベルが上がりまくっているポポの俊敏な動きでどうにか未遂で済ませる一幕があったり。福音使徒の仲間を殺したポポが、福音使徒よりも良い方法で世界を守っているということに複雑な気持ちを抱え持つドロシーが、己の気持ちを清算するために唐突にポポに鍋の大食い勝負をけしかけてきたり。ハチャメチャな展開が立て続けに起こる鍋パーティーだったが、天使から皆を守るために常に気を張っていたポポはこの時、ずいぶんと久しぶりに心を休めることができたのだった。

 

 




ポポ:金髪ツインテールな風の魔女。天使が襲来する度に渾身の歌を奏でていた結果、かなりのどに負担がかかっていた模様。ヒルダがいなければ大惨事待ったなしだったため、ヒルダをメチャクチャリスペクトすることとなった模様。
ヒルダ:福音使徒を統べる時の魔女。年齢は少なくとも千年以上。メディアから相談され、ポポののどを治すためにポポと接触した。その際、これまでそれとなく避けてきたポポとしっかり向き合うこととなったヒルダは、ポポに謝罪し、ポポに許され、新たな友達となったようだ。
ダンテ:魔女ヒルダに付き従う福音使徒の1人。18歳。悪人面をしているが、実は家事特化型のオカン属性を保持していたりする。毎日天使の無残な姿をいっぱい見せてくれるため、ポポへの好感度が高め。
メディア:先祖代々、調律ノ館を管理する、王室付き楽師な女性。ポポの歌の調子から、ポポののどに負担がかかっていることに気づいた彼女はどうすればいいかを考えに考えた結果、ヒルダに頼るという最適解にたどり着いた。

 というわけで、35話は終了です。宣言通り、最初から最後まで一貫してほのぼのとした話でしたね、ええ。ちなみに、肝心のポポと福音使徒たちとの鍋でどんな会話が繰り広げられたかは、読者の皆様の想像にお任せします。
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