風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。ここ最近、何か空気だったかもしれない人に今回は登場してもらうことにしました。さて、誰でしょうね。なお、此度の登場人物よりも遥かに空気な方々のことは一旦忘れることとします。すまぬ。



37話.サプライズ

 

 それは、調律騎士団が土・水・火・風・時の星歌の楽譜をすべて集め終え、5名の魔女が調律ノ館で星歌の五部合唱の練習を始めてから、数日後のこと。調律騎士団に所属する、頼れる兄貴分ポジションに収まっている軟派男ことラスティは己の耳を疑った。

 

 現在地は、騎士団庁舎内のポポの自室。目の前には、1人の少女。金糸のように輝きゆらめく金髪をツインテールに束ねた、風の魔女ポポ。今朝、彼女から神妙な面持ちで「ラスティに相談したいことがあるから後で部屋に来て!」と話を持ちかけてきたため、言われるがままにポポの自室に入ったラスティは、そこで普段のポポならまず絶対に言わないことを告げられたため、つい己の耳を、あるいは正気を疑ってしまったのだ。

 

 

「あー。……悪い、聞き逃した。もう1回、言ってくれるか?」

「だから、ラスティに女の子の口説き方を教えてほしいんだよ!」

「そっかそっか、聞き違いじゃなかったかぁ」

 

 ラスティはポポの相談内容を再度確認した後、腕を組んでコテンと首をかしげる。今現在、ラスティの頭の中では大小様々なハテナマークが次々と沸き上がり、脳内スペースを占拠している状態だった。それくらい、ラスティにとってポポから女の子の口説き方を乞われる状況は奇妙すぎたのだ。

 

 

「というか、そもそも俺より適任がいるだろ?」

「え?」

「アルトだよ、アルト。我らが調律騎士団の団長様さ。あいつ、騎士団に入ってから色んな女を攻略してるじゃねぇか。騎士団の女性メンバーの大半はもうアルトのことを恋愛的な意味で好きって状態だろ? 俺のナンパ術はあくまで『オネーチャン』に特化してて『女の子』相手にゃ向かないから、俺じゃなくてアルトに相談してみろよ」

「それはそうだけど、でもアルトって、素の性格が魅力的だからみんなアルトを好きになってるってだけで、アルトが狙って相手を攻略してるわけじゃないよね? だから、アルトに女の子の口説き方を指南してもらうのは難しいかもって思って、だからラスティに聞いてるの。ねぇ、教えてくれないの? 今のポポにはラスティの技術が必要なんだよ! お願い! 教えてくれたら、ポポのとっておきのたんぽぽコーヒーふるまうから!」

「おい、さりげなくお礼に見せかけた罰ゲームを仕掛けてくるんじゃねぇよ」

 

 ゆえに。ラスティはポポの頼みを快諾せず、一旦ポポの相談先を己からアルトへと移そうとする。しかしポポはどうしてもラスティから教えを乞いたいようで、パンッと両手を合わせて必死にラスティに頼み込んでくる。そのような、落ち着きのないポポを上から見下ろしている内に、ラスティも段々と己の平静を取り戻してきた。

 

 

「だいたい、どうして女の子の口説き方なんて知りたがってんだよ? お前、そーゆー色恋好きなキャラじゃないだろ?」

「そ、それは、その…………最近ニキと全然話せてないから」

「なんだ、喧嘩したのか?」

「喧嘩じゃない、と思う。多分。ただ……復活祭があって、ポポが秘密をみんなに話した後から、ニキに避けられてるみたいなんだ。星歌の練習の時はニキと一緒にいられるから、色々話そうとしてみたんだけど、上手く会話を続けられなくて。もう何日もニキとちゃんとまともに話せてないんだ」

「ほー。それで、心当たりは?」

「……これかな、って候補はあるよ。あんまり自信ないけど」

 

 正常な思考を取り戻したラスティがポポに動機を尋ねると、ポポはしばし気まずそうに沈黙した後、渋々といった様子で己の事情を明らかにした。一方のラスティはポポから聞き取った動機をベースにポポの本当の望みの有力候補を推測し、ポポに提示することにした。

 

 

「じゃ、ポポの『女の子の口説き方を教えてほしい』って頼みは、言い換えると『ニキと前みたいに普通に話せるようになりたい。そのためにニキとちゃんと会話できる機会を作りたい』ってことで合ってるか?」

「うん。……どうすればいいと思う?」

「んなもん、簡単だろ。ニキに何かプレゼントすればいい。ニキ相手なら、たとえその辺に咲いてる一輪の花を摘んで差し出したって、愛しいポポがくれた物だからって、婚約指輪でももらった時と同じくらい喜んでくれるさ」

「そ、その言い方はニキに失礼だよ! ラスティはニキを何だと思ってるの!? ――って、あれ? ラスティ、もしかしてニキの気持ちを……?」

「たりめーだろ。少し見れば、ニキがポポにそういう想いを抱えてるってことぐらいお見通しだ。この幾多のナンパを遂行した、百戦錬磨のラスティ様をなめるなよ?」

「ほぇー、ラスティ凄いね!」

 

 ポポの本当の望みを把握したラスティは、ニキの機嫌を取り戻せるであろう一案をテキトーに提示する。対するポポはラスティがニキを軽く見ているように感じたためにぷんすかと怒りを表明するも、ラスティがニキの想いを把握済みなことを察し、改めてラスティの人間観察力に対し心から感心する。

 

 

「ま、さっきのはほんの冗談だ。さーて、初対面の女性を口説いてその気にさせるエキスパートなこの俺から、お前がニキと確実に仲直りできる術を特別に伝授しようじゃないか」

「ラスティ……! ありがとう!」

「どういたしまして。……まず、今のニキはお前を避けている。だが本当にポポと何も話したくないのならもっと徹底的に避けるはずだ。ポポと一言だって話さずに済むように上手に立ち回るはずだ。ニキならそれくらい朝飯前だからな。だが、今のニキは中途半端にポポを避けている。ニキが、ポポを本気で拒否する行動を選ばないのは、ニキにもポポとよりを戻したいと願う気持ちがあるが、その心に素直に従うことができていないからだ。それなら話は早い。ニキにサプライズを仕掛けてやればいい」

「サプライズ?」

「あぁ。ニキを驚かせて、ニキのペースを崩して、そこを会話のとっかかりにするんだ。それさえできれば後は流れで元通りの仲を取り戻せるさ。何せ、ポポもニキも、このままの微妙な関係でいたくないって思ってるんだからな。てことで、これが作戦だ。いいか――」

 

 ラスティはポポの願いを叶えるべく、己の脳内で組み上げた作戦をポポに伝授する。もしかしたらニキが偶然近くを徘徊している可能性も否定しきれないため、ラスティは念のため声を殺しつつ、己の作戦をポポにきっちり作戦を教え込むのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「はぁ……」

 

 王都ランベルトのとある人気のない裏通りにて。土の魔女ニキは沈鬱な溜息を零しながら、とぼとぼと歩いていた。ニキの行為に特に目的はない。強いて言うのなら、気分転換だろうか。

 

 

「私、何をやってるんだろう……」

 

 目下、ニキには悩みがあった。ポポと全然話せていないことだ。ポポとニキが頑張って組み上げた作戦により、復活祭当日に、クラウス隊長もとい獅子王ゼノと人造天使ジゼルにより、世界中の人々が殺される悲劇を回避することができた。それ自体はとても喜ばしいことだ。エクリプスから世界中の人々を守るポポの作戦に関与できたこともあり、復活祭の出来事はニキが人生において心から誇れる出来事の1つになったことも確かだ。

 

 ゆえに、本来ならニキが落ち込み、ポポを避ける理由はどこにもないように思える。だけど、それでもニキは何となくポポを避けてしまっていた。その理由に、ニキは何となく察しがついていた。この件について、誰が悪いかといえば、間違いなくニキが悪い。だけどニキはポポに謝るとっかかりをどうしても掴めず、こうしてもう何日もポポを避けてしまっている。どうにかポポがニキと元の仲を取り戻そうとしていて、だけどニキがぎこちない返しをするせいで、ポポを悲しませてしまう展開を、もう何度も作ってしまっている。

 

 

(いい加減、ポポと仲直り? しないとね。このままだと下手したら星歌の完成を遅らせてしまうことすらあり得るもの。ポポの寿命が私のせいで余計に減っちゃうだなんて絶対に認めない。でもどうしたら……)

「――そこの方」

 

 ニキがうんうんと真剣にうなりながら、とぼとぼと裏通りを歩んでいると、ニキの前方から中世的な声が届けられた。ニキが改めて意識的に視線を前方に向けると、そこに1人の小柄な人物がニキをしかと見つめていた。紺色のテンガロンハット、白のシャツ、栗皮色のコート、黒のズボン、ダークブラウンの厚底ブーツといった服装に身を包んだ、金髪の人物が、その両眼でニキをしっかりと捉えていた。

 

 

「え、え? あれ、あなたは……?」

「ボクはタンポポ、流浪の旅人です。突然ですが、あなたを一目見て、惚れました。どうか、今からボクとデートしてくれませんか? あなたのことをもっと知りたいのです」

「え、えええええええええええ!?」

 

 ポポと激似な顔立ちをしている人物からいきなりデートの誘いを受けたニキは驚愕の声を場に轟かせる。常人なら思わず耳を塞ぎたくなるほどの声量でつい叫んでしまったニキだが、しかしいきなりデートを申し込んできた相手はニキの絶叫を全く気にせずニコニコ笑顔をニキに向けていた。

 

 

「え、うん? ちょっと、なに、どういうこと? タンポポ、さん? え、ポポじゃないの? ホントにポポじゃないの、この人? でもすごくポポと顔似てるよね? あれ、ポポって兄弟姉妹いたかな? それとも双子? いや、でもポポの家は明らかに1人暮らしな内装だったし、でも……」

「……ボクのデートの申し出に、戸惑っているのですか? それは、無理もありませんね。あなたにとっては突然のことでしたから。だけど、そんな困っているあなたも、とてもきれいです。まるで高名な画家の方が手掛けた幻想的な絵画のような美しさですね。あぁ、なんて美しい」

「はわぁッ!??」

「それで、返事はどうだろう? ボクとデートをしてくれませんか?」

「あの、あう、えっと、えぅ、ふぇ……」

 

 ただでさえ大好きなポポと酷似した謎の人物:タンポポから思いっきり好意を寄せられてきていることにニキの頭はますます混乱方向へと突き進んでいく。そのようなニキの混乱っぷりなんて知ったことかとタンポポがニキに返事を催促すると、ニキは言語能力を失い、真っ赤に火照りまくった表情で、多種多様な戸惑いの鳴き声を漏らすことしかできなくなった。

 

 

「――ポポ? お前なにやってんだ?」

「ほぇ!?」

 

 が、刹那。状況が一変した。ニキと、タンポポと名乗る謎の人物の2人しかいない裏通りに第三者の声が届いたのだ。ニキがハッと我を取り戻し、正常な言語能力も取り戻しつつ、声の元へと弾かれたように振り返ると、そこにはオレンジ色の髪をした青年:ラスティがいた。彼が心底不思議そうに自称タンポポに声をかけると、当の自称タンポポは動揺に満ち満ちた声を発しつつ、慌ててラスティへと振り返った。

 

 

「ポ、ポポ? それは誰のことかな? ボ、ボクはタンポポ。その、ポポって人じゃない。人違いじゃないかな? 全く、困るね。世界には、自分に似ている人が3人いる、って話は本で読んだことはあるけどさ……」

「いやどうみてもポポだろ、お前。なんだ、その男っぽい恰好? 男装の趣味でもあるのか? 意外だな、お前はその手の趣味を持たない素直な奴だと思ってたよ」

「んぐぅ!?」

 

 タンポポ、もとい男装中のポポがどうにか口調を取り繕ってラスティを納得させにかかるが、対するラスティは目の前の人物が『タンポポ』を名乗っているだけのポポであることを確信する姿勢を一切崩さない。

 

 

「ですよね、ラスティさん! この人、ポポで合ってますよね!? 決して『タンポポさん』とかいう人ではありませんよね?」

「当たり前だろ。むしろニキはこいつがポポじゃない別人に見えてるのか?」

「み、見えませんが……そうですね、すみません。動揺していたようです。ポポが福音使徒やポート・ノワールの人に見つからないように男装していたことは知っていましたが、こうも印象が変わるものなのですね……」

 

 難攻不落のラスティに自称タンポポが困り果てている中、ニキがラスティに詰め寄り、自称タンポポをビシッと指差して問い詰めると、ラスティは呆れ半分な表情でニキに尋ね返す。そのようなラスティの態度を見て、次にラスティの言動に動揺しまくっている自称タンポポを見て、ニキはようやく確信できた。眼前の自称タンポポが、男装したポポであると。

 

 

「ねぇ、ポポ。どうしてこんなことをしたの?」

「そ、それは……最近ニキと話せなくて、寂しかったんだ、だから、別人に変装して、初対面のフリをして話しかければ、ニキも聞いてくれるかなって思って、こうして話しかけたんだよ。……ごめんなさい」

「ポポ……」

 

 ニキがポポへと歩み寄り、此度のポポの行為の原因を問うと、ポポはうなだれて、観念したかのようにポツリポツリと理由を口にする。その理由を聞いて、ニキはポポの不可思議な言動の原因を知ると同時に、ポポへの愛おしさと、ポポへの申し訳なさが、己の心の中にみるみる内に膨れ上がっていった。だからこそ。

 

 

「――ポポ」

 

 ニキは、スッと己の右手を、うなだれているポポに見えるように差し出した。ニキの手が視界に入り、不思議そうにニキを見上げるポポに、ニキはにんまりと笑顔を浮かべて、言葉を続けた。

 

 

「私とデート、してくれるんだよね? エスコートしてくれる?」

「ッ! うん! 任せて! 最高の日にしてみせるよ!」

 

 ポポはニキから差し伸べられた手をギュッと握ると、ニキを伴って軽やかな足取りで裏通りを離れていく。

 

 

(上手くいったみたいだな)

 

 そんな、遠ざかっていくポポとニキの後ろ姿を眺めて、ラスティは心の中でひとりごちる。そう、此度、ポポがタンポポの姿になってニキにデートを申し込み、ラスティがタンポポの正体を明かすことで、『タンポポ=ポポ』だとニキに間接的にネタ晴らしする、という一連の流れはラスティの策だった。すべては、『ニキを驚かせて、ニキのペースを崩して、ポポとニキがちゃんと話せる機会を作り出すため』だ。

 

 

「あとは頑張れよ、ポポ」

 

 策が上手く決まった今、もはやポポとニキが完璧に仲直りをするのは時間の問題でしかない。よって、もうラスティが円滑な2人の仲直りに関与する必要はない。それゆえに、ラスティはおもむろに独り言を呟き、彼もまた裏通りから姿を消すのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 裏通りでポポがニキにサプライズを仕掛けた後。ポポはニキを伴い、王都ランベルトでのデートを開始した。当のデートプランはラスティが緻密に組み上げた代物だ。さすがは幾多もの経験を重ねたラスティ考案のデート内容なだけはあり、ポポはラスティの案を忠実に実行するだけで、ニキを大満足させるデートを行うことができた。恋愛マスター、ラスティ様様である。

 

 そうして。ポポとニキが充実したデートを楽しんだ夜のこと。

 デーとの終点である王都の展望台にたどり着いた、ポポとニキは互いに見つめあう。

 

 

「ニキはどうして、最近ポポのことを避けていたの?」

 

 そこで。ポポはずっと気になっていたことをニキに尋ねた。

 ずっと気になっていて。しかし尋ねることのできなかったポポの問い。そんなポポの問いかけを受けて、薄々ポポから問いかけられるだろうと想定していたニキは、深々と頭を下げた。

 

 

「え、え? ニキ?」

「ポポ、ごめんなさい。あなたは何も悪くない。悪いのは、私なの……」

 

 困惑するポポをよそに、ニキはポポに心から謝罪する。

 その後、ニキは真意を、己の気持ちをポポに明かし始めた。

 

 あの時、華蝶庵でポポの過去を知った時、ニキはポポの特別になれた気がして嬉しくなったこと。

 ポポから頼まれた、ゼノとジゼルと戦わずして退けるという難題をクリアし、復活祭の日を何の犠牲もなしに無事に乗り越えたことで、ニキは、ポポがもう重荷を抱え込まないでよくなるだろうと勝手に期待していたこと。

 だけど、そんなニキの気持ちが、すぐに裏切られたこと。

 

 

 ――人類を滅ぼすべく、マザー・クオリアが地上に向けて無数に派遣する天使の大群。その群れを全滅させる歌を歌うたび、ポポの寿命が5日減る。

 

 

 その事実は、ニキにとって青天の霹靂だった。

 ポポにはまだ隠し事があった。それは、とんでもない隠し事だった。

 ニキにも教えてもらえていない隠し事だった。

 

 ポポは復活祭を終えてなお、1周目の顛末を知っていると2周目の仲間たちに告白し終えてなお、未だに重荷を背負ったままだった。しかも重荷は、ヴェロニカ博士がポポ相手に強烈に指摘しなければ、明るみにならなかった可能性すらある代物だった。

   

 ニキは、自分がポポの役に立てていると思っていた。

 ポポは復活祭を迎える前に、ニキだけに秘密を話してくれた。だからこそニキは、ポポのお願いを叶えることで、ポポの力になれていると思っていた。ポポの幸せな未来に貢献できていると確信していた。

 

 だけど、それは勘違いだった。

 その証拠に、ポポは復活祭を誰1人の犠牲なしに乗り越えるという最良の未来を迎えてなお、未だに秘密を抱えて、自分から重荷を背負おうとしている。寿命をすり減らそうとしている。

 

 そのことを知ってしまい。思い知ってしまい。

 ニキは、己の無力さに失望していて。ニキは、無意識の内にポポに怒っていて。

 その気持ちが態度に発露したからこそ、ポポを何となく避けてしまっていた。

 

 そう、ニキは言葉を綴る。

 目の前の最愛のポポに、己がポポを避けていた最低な理由を包み隠さず語った。

 

 

「……そう、だったんだね」

「うん、そうだったの。……だけど、誰にだって秘密はあるわ。私だって、何を引き換えにしても、ポポに言いたくない秘密はある。それなのに、私が抱えている秘密は隠したままで、ポポの秘密は全部教えてくれないと納得できないだなんて思って、教えてくれなかったポポに怒って、避けちゃって……」

「……」

「結局。私は勝手にポポに期待して、勝手にポポに失望して、勝手にポポに怒ってただけよ。なのに、ポポにこんなに気を遣わせちゃって、男の姿でデートに誘わせちゃって……つくづく面倒くさい、嫌な女ね」

「そんなことない! ニキは何も悪くない、悪いのはポポだけだよ!」

「ポポは優しいからそう言ってくれるけど、今回は私に譲ってほしいな。そうしてくれないと、ポポと前みたいに普通に話せなくなっちゃうかもだから」

「ニキ……」

 

 己の心の内をすべてポポに吐露したニキは、己を蔑む乾いた笑みを浮かべる。ポポはニキの痛ましい姿を見ていられなくて、どうにかニキに元気になってほしい一心で必死に説得を試みるも、巧みなニキの話術により丸め込まれてしまう。

 

 

「私は、ね。この世で一番大好きなポポに幸せになってほしいの。そのために、私が頑張らないとって今までは躍起になってた。だから、ポポが私にさえも明かしていなかった秘密の存在を知って、すごくショックを受けて、ポポに怒ってもいた。……でも、それは悪い考えだわ。ポポは私の所有物じゃない。ポポの人生は、ポポが決めるものであって、私が決めるものじゃない。……ポポ。あなたが幸せそうに笑う、そんな未来を私は見たい。だから、だから――」

 

 ポポが押し黙ってしまったタイミングを見計らって、ニキは己の内なる想いをこれでもかとポポに叩きつける。ポポの瞳をしかと見つめて、ニキは己の偽らざる等身大の気持ちをひたすらにぶつけていく。

 

 

「ポポが私に話したくないことを秘密のままにしておくのは、もういいの。私は気にしない。でも、今後――私の力を借りたくなった時は、華蝶庵の夜の時みたいに、また相談してね。その時は、私は全力で力になる。私は、惚れた人にどこまでも尽くすタイプだから。私がどれだけポポのために頑張れるかは、もうポポは知ってるでしょ?」

「うん……だからこそ不安だけどね。……もう、ポポのせいで怪我とか、しないでね?」

「わかった。誠心誠意、努力するわ」

「断言は、してくれないんだね」

「だって、仕方ないじゃない。私のポポへの恋心がいつどういう風に暴走するかは、私にだってわからないもの」

「ほぇ……」

 

 ニキから不敵な笑みを向けられたポポは、数日前の記憶がフラッシュバックする。復活祭の日、ゼノの槍の一撃により右手に大きく風穴を穿たれ、苦しんでいるニキの姿だ。ゆえに、ポポが上目遣いにニキにお願いするも、ニキは覚悟の決まったにんまり笑顔を返すのみだ。すっかり覚悟の決まりきったニキを前に、ポポは己の願いをニキに押し通すことができずに、気まずそうに笑みを浮かべることしかできない。

 

 

「ポポ。これからも、よろしくね」

「……うん」

 

 己の気持ちをすべて発露しすっきりしたニキは、ポポにスッと手を差し伸べる。一方のポポはニキの今までの言動に色々と戸惑ったままであったが、元々こうしてニキと1対1でじっくり対話をする機会を作るために暗躍してきた経緯を持つポポは、ニキの手をおもむろに握り返した。

 

 かくして。幾多の星々が各々の輝きを放ち、地上の民を照らす中。

 ポポとニキは復活祭以前のように、スムーズに対話できる仲に戻るのだった。

 

 




ポポ:金髪ツインテールな風の魔女。復活祭の日以降、すっかり微妙な関係となってしまったニキと仲直りするためにどうすればいいかを必死で悩み、ラスティに相談しようと決断した。その結果は大正解だった模様。
ニキ:土の魔女にしてカシミスタンの領主だった緑髪の少女。16歳。ポポに対する恋心を拗らせているために、今回みたいに面倒な女ムーブをしてしまうこともある。ニキかわいい。
ラスティ:養父ルドルフに育てられた、砂漠出身の調律騎士団の団員。24歳。ポポからのまさかの相談内容にしばし冷静を欠いてしまうものの、最終的にはポポの願いを読み取り、ポポの望む未来へのお膳立てをきっちりこなしてみせた。さすがはラスティ。

 というわけで、37話は終了です。原作と違い、エクリプス開始に伴う天使の人間虐殺が発生していない場合、エクリプス開始後でも今回のような純度100%のほのぼの話を展開させることができる、という話でした。
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