どうも、ふぁもにかです。せっかくポポが主人公だというのに、なぜか今まで全然出番のなかったあのキャラに今回スポットライトが当たります。お楽しみに。
ポポはラスティを介抱した後も、カシミスタンを拠点として、カシミスタン復興の手伝いと、月から削って変化させた風のクオリアをムシャバラール砂漠各地に埋めるお務めを毎日毎日続けていた。そんな砂漠での日々が3か月目に差し掛かった折。
「〜〜♪」
ポポは誰一人足を踏み入れない未踏の地であるムシャバラール砂漠奥地へと赴き、そこで月から月のクオリアを削るべく歌を奏でていた。3か月を経た今もなお、月を削る時にポポは慎重に慎重を期している。ただでさえ頭が悪くて、要領の悪いポポが月削りに慣れて、慢心してしまえば、マザーを目覚めさせてしまうという大失態を犯してしまう未来が透けて見えるからだ。
「ぶぃ……」
「ひゃッ!?」
そうしてポポが月から削り取った月のクオリアを自身の手のひらに回収していると、ポポのふくらはぎにふと、少々湿った冷たい感覚が走る。不意の冷たさにポポがその場で小さく跳ね、弾かれるように己の背後を見やると、そこには淡いピンク色をした小柄でまん丸な子豚がすがるような眼差しでポポを見上げていた。
(この子、ブブッ!? うそ、本当に!?)
ポポは瞬時に子豚の正体に気づいた。ブブは、ポポがヒルダの魔法で過去に逆行する前の世界で。3年前にサウス・ヴァレーを襲った凄い嵐の夜に、仲間の旅ブタの群れからはぐれていたところをポポが自分の小屋で保護してからというもの、常に行動を共にしてきた友達兼家族である。ゆえに、ポポがブブを瞬時に見破るのも当然の帰結だった。
「……え、と? 旅ブタの君がどうしてここで1匹でいるの? 仲間のみんなはどうしたの?」
「ぶぶぃ、ぶぃ……」
ポポは『ブブ』と名前を呼びたい衝動を必死に抑えながらブブに事情を尋ねると、ブブはか弱い鳴き声で返答する。ポポは動物と会話できる特技を持っているため、ブブの鳴き声から、ブブの主張を把握することができる。ブブ曰く、仲間の旅ブタと一緒に砂漠を旅していたところ、大規模な砂嵐に飲み込まれ、仲間とはぐれてしまったとのこと。また、ここ2日飲まず食わずであったため、何か飲食できる物をもしも持っているのなら、ぜひ恵んでほしいとのことだった。
「わかった、ちょっと待ってて」
ポポがブブの頼みを断るわけがない。ポポは急いで背負っていたリュックから水を取り出し、マグカップに水を注いでブブに差し出す。もっと大きくて液体を注げるお皿を持っていればよかったのだが、あいにく今は飲み物を注げる容器はマグカップしかない。そのため、ポポはすぐにマグカップ内の水を飲み干すブブのために何度か水を補充しつつ、別の皿にクルミやナッツを盛ってブブに振る舞う。そうして。ポポが自身の所持していた水と食料のほぼ全てをブブに捧げた結果、どうにかブブの飢えやのどの渇きを癒すことに成功した。
(よ、よかった。ポポの持ってた食料で足りて、本当によかった……)
「それで、これから君はどうするつもりなの?」
「ぶっぶぶぶぃ(訳:仲間を探しに行くよ。みんな、心配してるだろうし)」
「そっか。じゃあポポもその仲間探し、手伝うよ!」
「ぶぃ?(訳:いいの?)」
「うん、困った時はお互いさまだからね。ポポはポポだよ、よろしくね」
「ぶぃぶ。ぶっぶぶっぶい!(訳:ありがとう。ブブはブブだよ。よろしく、ポポ!)」
(やった!)
「それじゃあ、行くよ!」
ポポはブブの方針を訪ねた後、ブブと共にブブの仲間の旅ブタ探しに協力する旨を注げる。ブブはただでさえ食料を恵んでもらっているポポにこれ以上迷惑をかけることに躊躇していたが、心からブブの力になりたがっている様子のポポを見て、素直に甘えることに決めた。ポポはブブが己の提案に乗ってくれたことに内心でガッツポーズを取りつつ、ブブを両手で抱き寄せた上でふわりとその場に浮遊し、カシミスタンに向けて飛行し始めた。
「ぶぃ!? ぶっぶぶっぶぃ!?(訳:ポポ、空を飛べるの!?)」
「当然だよ、だってポポは風の魔女だからね! 風はポポの味方なんだ!」
「ぶぅーい!(訳:すごーい!)」
「でしょー?」
ただいま、ポポのテンションはとても跳ね上がっていた。それだけ、ポポはとても嬉しかったのだ。ヒルダの魔法で3年前と100日余り前へと逆行した際、ポポは世界を救うためにすぐさまサウス・ヴァレーを発つ決断をした。だから、ポポはブブと出会う機会を逸してしまっていた。今回は、もうブブに会えないかもしれない。そう、半ば諦めていただけに、この度偶然にもブブと出会えたことが嬉しくて仕方がなかったのだ。
「ねね、ブブの旅の話、聞かせてよ。今までどんな場所を巡ってきたの?」
「ぶぃ、ぶぶぶぶぃ、ぶっぶぶっぶぃ(訳:んとね。王国の東と南は大体回ったよ。ゴウラ火山は本当に暑かったなぁ。この砂漠もおんなじくらい暑いけど、でも焼き豚になっちゃいそうで怖かったのは圧倒的に火山の方だったなぁ)」
「そっかぁ」
ポポはカシミスタンへ向かう道すがら、積極的にブブに話しかけ、ブブの旅の話を引き出していく。過去に逆行してからというもの、今まで全然交流できなかった分の埋め合わせをするかのように、ポポはブブの話を楽しみ、ブブのにおいを堪能し、ブブの声に癒されていた。が、ポポにとっての至福の日々は、唐突に終わりを告げた。
「あ……」
「ぶぃ!(訳:あ、みんながいた!)」
ポポとブブの視界の先に、30匹程度の旅ブタの群れが姿を現したからだ。ポポが思わず飛行をやめてその場に降り立つと、ブブはその場で身じろぎをして、ポポの両腕に抱かれている状態を解除して、スタイリッシュに砂漠の地に両手両足をついた。
「ぶぃ。ぶっぶぶっぶぶぶい!(訳:今までありがとう、ポポ。この恩は、絶対に忘れないからね!)」
「……うん、元気でね。ブブ」
ブブはポポにお礼を告げると、全速力で群れへと突進していく。ポポは去りゆくブブの背中を呆然と見つめていた。前の世界では、ブブの仲間の旅ブタは、いくら探しても見つからなかった。だから、ポポとブブは3年間、友達兼家族として、生活を共にしてきた。共に思い出を、毎日積み上げてきた。
だから、今回も。ブブの仲間は見つからないと思っていた。今回も、ポポはブブと一緒に楽しい時を共有できるものと思い込んでいた。そんなわけがないのに。ポポが前の世界と全く違う行動をしている以上、前の世界と同じ結果を得られるわけがないというのに。
「……ッ」
ブブにとっては、前の世界のようにポポとずっと暮らすよりも、今回の世界のように同じ種族の旅ブタの仲間たちと暮らした方がはるかに幸せのはずだ。だから、旅ブタの仲間たちと合流した方が、ブブにとってはよかったはずだ。なのに。なのに。
(最低だ、ポポ……)
ポポは寂しかった。ブブと一緒にいられないことが、寂しかった。そして、この日。ポポは、無事仲間と合流できたブブの幸せを純粋に喜べなかった己のことが、改めて嫌いになった。
◇◇◇
ブブとの別れに落ち込み、自己嫌悪に陥ったポポだったが、だからといって立ち止まるわけにはいかない。どれほどポポの気分が沈んでいようと、3年後のエクリプスは待ってはくれない。きちんと毎日お務めをして、運命の日に向けて準備をしなければ、待っているのは前と変わらない、凄惨な未来だ。
そのため、ポポはカシミスタン復興の手助けとムシャバラール砂漠全土への風のクオリア埋め込み作業を精力的に続け。そして、3か月後。ポポはムシャバラール砂漠全土にしかと風のクオリアを埋め込み終えることとなった。それは、ポポのカシミスタン滞在の日々の終焉と同義であった。
「ポポ。行っちゃうんだね……」
「……ごめんね、モルディ」
「また、会える?」
「うん。その時はまた、いっぱい遊ぼうね」
「……盛る」
ただいま、ポポはカシミスタンの城門前にて。ニキ、モルディモルト、キースに見送られる形でカシミスタンを発とうとしていた。今にも泣きそうな顔つきでしゅんとうなだれているモルディモルトの姿に、ポポは後ろ髪を引かれる思いに駆られたが、理性で感情を抑え込み、モルディと最後の言葉を交わす。
「ポポ。はい、これ」
「ニキ、これは?」
「いいから、受け取って」
と、ここで。ニキが白く大きい巾着袋をポポに渡してくる。ニキから有無を言わせず渡された巾着袋はとても重く、自然と中身が気になったポポは巾着袋の中身を覗き込み、仰天した。巾着袋にはお金で満たされていた。軽く見積もっても、100万ゴールドはありそうだ。
「えぇ!? こ、こんなにもらえないよ!?」
「いいの、もらって。ポポがいなかったら、半年前にカシミスタンは間違いなく滅んでいた。私も死んで、生き残りは多分、土のクオリアを預けたモルディだけになっていた。ポポはカシミスタンの救世主なんだから、このくらいの報酬は当たり前よ。……本当ならこの10倍は払いたい気持ちなのだけど、今の財政状況じゃこれ以上はさすがに厳しくてね。ごめんね、ポポ」
「で、でもだからって――」
ポポはニキからの大金の受け取りを拒否しようとする。これほどのお金をもらえるほどのことをしたつもりなんてなかったし、ポポにお金を渡すくらいならそのお金をカシミスタン復興のために使ってほしかったからだ。
「小娘。ずべこべ言わずにもらっておけ。その金は貴様の働きに対する正当な対価だ。拒絶するのなら、それこそニキを侮辱することになるぞ? 貴様は恩人に報いたいと考え、ささやかながらも報酬をかき集めたカシミスタン領主の好意を無下にして、ニキの顔に泥を塗るのか?」
「うぅッ!?」
「もう、キース。わざわざそんな言い方をしなくてもいいじゃない」
「……キースは、いじわる」
「事実を言ったまでだ。何が悪い」
だが。キースの援護射撃により、ポポはニキからのお礼の大金を受け取らざるを得ない構図へと追い込まれる。ニキとモルディモルトはキースを半眼で見つめて彼の発言を咎めるも、当のキースはどこ吹く風だ。
「……」
ポポはじっと手元の巾着袋を見つめる。半年前にサウス・ヴァレーを発った時に、ポポはコツコツ貯金していたなけなしのお金をすべて持ち出した。しかし、そのお金はこの半年間でほとんど使い切っていて、現状、ポポの所持金は非常に心許なかった。ゆえにポポは、しばし逡巡した後、今回はニキの好意に甘えて、お金をありがたくもらうことにした。
「……わかったよ。じゃあ、もらうね。ありがとう、ニキ」
「どういたしまして。……また、カシミスタンに遊びに来てね、ポポ。その時までには、かつてのカシミスタンの活気を取り戻してみせるから!」
「うん、楽しみにしてるね。――それじゃあ、またね。ニキ、モルディ、キース!」
ポポは巾着袋をリュックにしまうと、元気よく手を振ってニキたちに別れを告げる。そして、クルリと体をターンさせて3名に背を向けると、一歩一歩、歩を進めていく。次は、どこへ行こうか。ポポは次の目的地について軽く思案しつつ、カシミスタンの地を後にするのだった。
ポポ:風の魔女たる15歳の金髪ツインテールな少女。半年間のカシミスタン滞在で色々な出会いと別れを経験した彼女は今、何を思うのか。
ブブ:群れで行動する旅ブタの子供。逆行前はポポと3年間を共に暮らしていたが、今回は早々に群れと合流したため、ポポと一緒に暮らす展開はなくなったと思われる。
ニキ:土の魔女たる緑髪の少女。ポポとの別れを悲しむのは妹のモルディの役目だとして、ニキ自身は笑顔でポポを送り出すこととした。その際、今を逃せばもうお礼としてポポにお金を渡せる機会はないかもしれないとして、大金も渡した。
モルディモルト:ニキの妹。13歳の青髪の少女。「盛る」が口癖。ポポとの別れはとても悲しいが、いつかまたポポと再会できるその時を楽しみに取っておこうと、どうにか気持ちを切り替えることに成功した。
キース:サイージャとの契約により、ニキとモルディモルトを守る傭兵。18歳。傭兵らしく、労働には正当な対価があって然るべきと考えているため、ポポにニキからの大金を受け取らせるべく、少しばかり工夫して発言した。
というわけで、6話は終了です。これにて原作前カシミスタン編は終わりです。次回以降は別地方の話になりますが、カシミスタン編ほどはがっつりやりません。さらっと流していきます。早く原作の時間軸と合流したいのでね。仕方ないですね。