風の魔女ポポ(逆行)の奮闘記   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。私がポポ逆行モノのステラグロウ二次創作を手掛けるきっかけとして「このシーンを何が何でも書き起こしたい!」という衝動の存在があるのですが、今回の8話はまさに書きたかったシーン四天王の内の1つになります。残り3つのシーンを書ける日はいつになることやら。



8話.逆調律

 

「くそッ……」

 

 ミトラ村北部の森。その奥地にて、アルトは窮地に追い込まれていた。アルトは服の袖を狩人の剣で斬って、右の太ももにぎゅっと巻きつけて止血を行おうとする。現在、アルトの右太ももにはウルフの咬み跡が刻まれており、止めどなく血が流れている。

 

 この日、アルトは狩りに失敗していた。己の力を読み違え、初めて森の奥地での狩りを実行したところ、アルトの想定を軽く超えるウルフの群れ15匹と遭遇してしまったのだ。アルトの周囲を取り囲み、アルトの命を刈り取るべく一斉に飛びかかるウルフの群れに対し、アルトはどうにか包囲の一点を担うウルフ3匹を斬り伏せる形で、ウルフたちから逃げることができた。

 

 しかしその際、アルトの全身にはウルフの爪撃や咬みによる傷が刻まれたために、アルトは逃走を継続させることができず、近場の木陰に身を隠し、深めの傷に対して応急処置を行うことが精一杯といった状況へと追い詰められてしまったのだ。

 

 

(俺にはまだ、森の奥は早かったんだ。くそ、どうすれば、どうすればいい……!)

 

 アルトは数刻前の己の判断を後悔しつつも、打開策を必死に探る。持ち込んでいたヒールハーブはもう尽きている以上、もはや己の怪我をロクに治療できない。よって、このまま木陰に隠れていたところで、ウルフの鋭い嗅覚がアルトの血のにおいを嗅ぎつけるのも時間の問題だ。タイムリミットは刻一刻と迫っている。アルトは、覚悟を決めて木陰を飛び出した。すると、案の定。12匹のウルフが既に集結しており、アルトは再び包囲されていた。

 

 

(ごめん。ローザおばさん、リゼット。俺、ここで死ぬかもしれない……)

「グァウ!」

「ッ!」

 

 ウルフの集団に囲まれ、打開策を見いだせずに絶望するアルトの隙を突くように、1匹のウルフがアルトに飛びかかる。アルトはウルフの攻撃に気づくのが遅れたため、ウルフを狩人の剣で迎撃することも、回避することも叶わない。アルトは為すすべもなく、その首をウルフの爪で掻っ切られ――。

 

 

「させない!」

「ギャン!?」

 

 刹那。アルトの眼前のウルフの前足が、弓で撃ち抜かれていた。結果、ウルフの爪撃がアルトを捉えることなく空を切る中、アルトの目の前に、1人の少女が飛び込んできた。ふわりと着地するその小柄な少女は、きらめく金髪のツインテールをはためかせ、どこまでも澄んだ紺碧の瞳を瞬かせていて。まるで何かのおとぎ話の登場人物かと思えるほどに、とても美しくかわいい女の子だった。

 

 

「風よ、ポポに力を!」

 

 突如乱入してきた少女が一言呟くと、アルトたちを起点としてかまいたちが発生し、周囲のウルフたちを次々と切り刻んでいく。結果、数匹のウルフが多数の裂傷に耐え切れずに倒れ、残りの大なり小なり傷を抱えたウルフたちは、得体の知れない少女に怯え、気を失ったウルフを引きずる形でアルトたちの元から退散した。

 

 

「あ、ありがとう。おかげで助かったよ。ええと、君は?」

 

 アルトは逃げゆくウルフの群れを呆然と見つめていたが、己の命の危機を目の前の少女に救ってもらったという事実を改めて認識した後、金髪の少女にお礼を告げる。その際、アルトは少女の名前を知らないことに気づき、少女に名前を問いかける。

 

 

(……え?)

 

 だが、少女はアルトの問いに答えない。ただ、透き通った紺碧の瞳でアルトを見上げるのみだ。沈黙が森を支配する中、アルトは再度少女の名を訪ねようとして、気づいた。少女の頬を静かに涙が伝っていることに。

 

 

「なんで、泣いてるんだ?」

「え、あれ。どうして、ポポ……」

 

 初対面の少女がアルトを颯爽と助けてくれた、かと思えばなぜかボロボロと涙を零し始める。わけがわからないながらも、アルトは少女に対し、努めて柔らかな口調で、少女の涙の理由を問う。すると、そこで初めて自身が涙を流していることに気づいたらしい少女は、慌てて手の甲で涙を拭う。

 

 

「大丈夫か? もしかして、さっきのウルフにどこか怪我させられたのか!?」

「う、ううん! そういうのじゃないからだいじょーぶ! ただ、えっと、さっき目に木の枝が刺さっただけ――」

「木の枝が!? それ本当に大丈夫か!? 下手したら失明するぞ!? ちょっと見せてくれ」

 

 自分を急いで助けようとしたせいで少女が目に怪我を負ってしまった。その事実への罪悪感からアルトは、自身の怪我のことなど忘れて少女の目の怪我の様子を確認しようとする。森で狩りを行う以上、アルトには応急処置の心得がある。その心得を今、自分のせいで怪我をしてしまった少女への罪滅ぼしとして、役立てたかったのだ。

 

 

「だ、だだだいじょーぶだから! ポポは頑丈だから! ホントにだいじょーぶだから! だからそんなに顔を近づかないで……あぅぅ」

 

 そのため、アルトは少女の制止をスルーして、顔を真っ赤にする少女の瞳を近くで確認する。確かに、少女が「大丈夫」と連呼する通り、目に傷は存在しない。少女の言葉は決して強がりではなかったようだ。

 

 

「問題なさそうだな、良かった……」

「ごめんね、いきなり泣いちゃって、心配させて。それで……えっと、名前だったね。ポポはポポだよ。アル――じゃない。あなたのお名前は?」

「俺は、アルトだ。……ミトラ村に住んでる」

「そっか。アルト、よろしくね。――って、名前を聞いてる場合じゃなかったね。早くアルトの怪我を治さなきゃだ! いくよ、リトルヒール!」

 

 少女――ポポはアルトと名前を交わした後にようやく、今のアルトが傷だらけであることに気づき、慌ててアルトに手をかざす。すると、アルトの体を淡く優しいエメラルドの光が包んだかと思うと、アルトの怪我がすっかり治っていた。アルトは自身の体を襲ったまさかの出来事に目をまん丸に見開く。

 

 

(嘘、だろ!?)

「ポポ! 今のは……!?」

「あ、えーと、ね。そう! 実はポポ、凄腕のお医者さんなんだ。もうね、ポポほどの腕になると、一言おまじないを言うだけで簡単に怪我を治せちゃうんだ。すごいでしょ!」

 

 どうして何も道具を使わず、短い単語を唱えただけでアルトの傷が治ったのか。アルトが驚愕冷めやらぬままポポを見つめて問いかける。対するポポは見るからにしどろもどろで、声も所々裏返っていて。すぐにポポがアルトに嘘をついているのだとわかった。

 

 

「あぁ、凄い。凄いよ、ポポ。さっきのウルフを倒した風といい、まるで魔女が使えるっていう魔法みたいだ!」

「ギクゥッ!?」

 

 ただ、アルトに命の恩人であるポポの嘘を追求するつもりはなかった。アルトはポポの主張を信じている。その旨がポポに伝わるように、アルトはポポの治療術を魔法に例えて絶賛したが、ポポはますます動揺してしまう。何かマズいことを言ってしまったのかもしれないが、アルトには何がポポにとってのNGワードなのか、まるでわからなかった。

 

 

「ア、アルト。ポポのことはいいから、それより早く村に帰ろう? リゼットが心配してたよ」

「リゼットのことを知っているのか?」

「うん。さっきミトラ村のお祭りで知り合ったんだ。それで、アルトが帰ってこないって不安そうにしてたから、ポポがアルト探しを引き受けたんだよ」

「そうか、それでここまで……」

「ほら、アルト。行こう?」

 

 ミトラ村の住人じゃないポポがわざわざミトラ村の北の森でアルトと出会った理由を知ったアルトは、ポポから差し出された手を取らなかった。小動物みたいにかわいい、女の子のポポの手を取ることを恥ずかしく感じたからではない。アルトの中に、迷いがあったからだ。

 

 

「俺は、このまま帰っていいのかな?」

「……アルト?」

 

 気づけばアルトは。ポポを相手に、己が秘め続けていた思いを零した。誰にも言うつもりなんてなかったのに。つい口を滑らせてしまったのは、森の中にアルトとポポの2人しかいなく、目の前の少女がミトラ村の人ではないからだろうか。それとも。

 

 

「俺には、記憶がないんだ。……3か月前に森で倒れている所をリゼットに見つけられて、ローザおばさんとリゼットの家族になったけど。そもそも俺がどういう人間なのか、わからないんだ。アルトって名前はリゼットがつけてくれたもので、俺が14歳ってのも、ローザおばさんとリゼットの推測でしかない。俺は、何もわからないんだ。手掛かりは、俺が見つけられた時に持っていた、この碧のペンダントだけだ」

「……」

「俺は、ローザおばさんに、リゼットに迷惑をかけている。ミトラ村のみんなは、俺を家族として迎え入れたローザおばさんの判断を咎めている。素性の知れない子供を家族にするなんて軽率だって、みんな言ってる。……なぁ、ポポ。俺は本当に、このまま帰っていいのかな? ここで死んだ、ってことにして、ミトラ村からいなくなった方がいいんじゃないのか?」

 

 一言、口に出したら最後、アルトの口はもう止まらなかった。困惑するポポを前に、アルトは己の心境をどんどん吐露していく。と、ここで。アルトはどうして自分がこんなにも饒舌に本音をさらしているかに気づいた。

 

 ポポの瞳だ。ポポとは初対面のはずなのに。ポポがアルトにそそぐ視線に、並々ならぬ、万感の思いを感じて――もしかしたら、ポポは記憶を失う前のアルトを知っているのではないかと思ったからだ。

 

 

「なぁ、ポポ。これは俺の勘なんだけどさ。ポポは、記憶を失う前の俺を知っているんじゃないのか? 教えてくれ。俺は、誰なんだ!? 記憶を失う前の俺は、何をやっていたんだ!? 何をやっていたら、記憶を失って、着の身着のままで森で倒れる、なんてことになるんだ!?」

「アルト……」

 

 アルトは矢継ぎ早に言葉を紡ぎ、よろよろとした足取りでポポに詰め寄る。一方、返答に窮したポポはアルトを見つめたまま、アルトが近づくに合わせてアルトから後退する。アルトはポポから距離を離されるに合わせて足を踏み出す。そんなアルトとポポの行動は、ポポの背中が木に当たり、ポポが後ろに下がれなくなったことで終了となった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

(……そっか。こんなにも余裕がなかったんだ。昔のアルトは)

 

 ポポは知らなかった。

 記憶喪失であることが、自分の歩んだ人生の軌跡を何も思い出せないことがどれほど怖いのか。

 

 ポポは知らなかった。

 アルトが記憶喪失であることをこんなにも怖がっていた過去があったことを。

 

 ポポの知るアルトは、いつも頼もしくてカッコいい、ポポのヒーローだった。

 だけど、今のアルトは、とてもヒーローとは程遠い、ただの男の子だった。

 

 

 ポポのよく知る、いつも頼もしくてカッコいいアルト。

 そんなアルトはいつだって、ポポ1人ではどうにもならない思いを抱え込んだ時に、ポポを調律して解決してくれた。いつだってアルトは、弱くて情けなくてグズなポポと真剣に向き合ってくれて、ポポが心の奥底で欲しがっている言葉を投げかけてくれて、ポポを導いてくれた。ポポを救ってくれた。

 

 

 ――今度は、ポポの番だ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「アルト! ぎゅぎゅぎゅぎゅーッ!」

「ッ!?!?」

 

 ポポの口から、アルトの待ち望んでいた言葉が紡がれる。そう期待してアルトがポポを見つめていると、いきなりポポがアルトに思いっきり抱き着いてきた。まるで想像してなかったポポの抱き着き行為にアルトは声にならない驚愕の声をあげる。

 

 

「ポ、ポポ!? いきなり、どうしたんだよ!?」

「ごめんね、アルト。ポポはアルトが記憶を失う前のことは、言えないんだ」

「知っては、いるんだな?」

「ほんの少しだけだけどね。ポポから言えるのは、アルトの帰る場所はミトラ村だってことだけ」

「…………そう、か」

 

 今はポポに抱き着かれているから、表情からポポの発言の真偽を読み取ることはできない。だが、ポポの落ち着いた声色から察するに、ポポの発言は嘘ではないのだろう。アルトは、肩を落とす。ミトラ村に帰れば、またローザおばさんやリゼットに迷惑をかけてしまう。

 

 

「ねぇ、アルト。人はね、知らないことを怖いって思っちゃうんだよ。アルトが記憶がないことを怖く感じるみたいに、ミトラ村のみんなも、アルトのことがよくわからないからアルトを怖がってるんだ」

「……」

「アルト。今日はミトラ村でお祭りがあったよ? どうしてアルトはお祭りに行かないで、森の奥で狩りをしてたの?」

「そんなの、俺が村にいたら、ローザおばさんやリゼットの迷惑になるからに決まってるだろ……」

「アルトのことをよく思わない人から逃げたくなる気持ちは、ポポにもわかるよ? でも、家族に迷惑をかけたくないなら、ミトラ村のみんなに怖がられたくないなら、アルトは自分のことをいっぱいみんなに教えてあげないといけないんだ。……アルトのことをたくさん知ったなら、みんなだって、アルトのことを村の仲間だって認めてくれるよ」

「……何を、教えるんだよ。俺は記憶喪失なんだぞ? 俺に話せることなんて何も――」

「記憶がなくても、話せることはいっぱいあるよ? 例えば、リゼットのお母さんやリゼットのどんな料理が好き、とか。ミトラ村の近くの森の地形や動物の生態がどうなってるのか、とか」

「……」

「話せることはいっぱいあるよ。だからね、一歩、踏み出してみない? 最初は上手くいかないかもしれないけど、大丈夫だよ。アルトには味方になってくれる素敵な家族がいるし、アルトは勇気を持って一歩を踏み出せる人だもん。……それに、ポポも。ポポも、アルトの味方だから」

「……そっか」

 

 ポポはアルトに抱き着いたまま、アルトを見上げて太陽のような微笑みを浮かべて、アルトに優しく語りかけてくる。ポポの柔らかな声が、ポポの温かな眼差しが、ほのかな温もりが。アルトの鬱屈とした感情を少しづつ突き崩していく。解きほぐしていく。気づけば、アルトの後ろ向きな感情は消え去っていて、アルトはとても久々に、自分の心が軽くなったことを自覚した。

 

 

「なぁ。ポポは俺のことを、どこまで知ってるんだ?」

「それは秘密。いつか話せる時が来たら、きっと話すよ。だから、それまでのお楽しみってことで。アルトの秘密を知りたかったら、もう家族の迷惑になるからミトラ村からいなくなった方がいい、とか思っちゃダメだからね!」

 

 ポポがアルトを抱きしめる腕の力を緩めたことをきっかけに、ポポの抱き着きから解放されたアルトは、改めて疑問をポポに投げかける。一方のポポは、アルトが失った記憶について、話すつもりはないようだった。

 

 だが。アルトとしても、ポポの投げかけてくれた言葉の数々の影響により、己の失った記憶への執着心が薄れていた。ポポが記憶を失う前のアルトのことを多少なりとも把握している、という事実を知って、安心したからこそ、消失した記憶へのこだわりが薄れたという理由もあるのかもしれない。

 

 今の俺はミトラ村出身のアルトで。ローザおばさんとリゼットの家族。今はこの立場から始めて、村のみんなに『アルト』のことを知ってもらって受け入れてもらう。きっと、今の俺はそれでいいのだろう。記憶を失う前の俺のことを知るのは、今の俺の地盤を固めてからでも遅くはない、ということなのだろう。

 

 だからこそ。アルトはもう、アルトの失った記憶について知っているポポを問い詰めることはしなかった。

 

 

「はは、そう来たか。わかったよ。こんなにポポに励まされたのに結局逃げたんじゃ、凄くかっこ悪いしな。やれること全部、やってやる」

「ッ! うんうん、それでこそアルトだよ!」

 

 アルトはポポを問い詰める代わりに、ポポに勝気な笑みを向けて高らかに宣言する。すると、ポポは一瞬だけ意外そうにパチクリと瞬いた後、晴れやかな笑みを携えて何度もうなずいてきた。そんなポポの姿はまるで、憧れのヒーローの誕生を手放しで賞賛する、純粋無垢な子供のように、アルトの瞳には映った。

 

 

「アルト。もう、平気だよね?」

「あぁ」

「それじゃ、村に帰ろっか。みんな、待ってるから」

「そうだな。……ありがとう、ポポ。おかげで元気が出たよ」

 

 ただリゼットに頼まれてアルトを探しに来ただけのポポに随分と迷惑をかけてしまったことを受けて、アルトは謝罪ではなく感謝の言葉をポポに告げる。だが、ポポからの返事はなかった。

 

 

「……ポポ?」

 

 気づけば、ポポの姿はアルトの目の前から消失していて。

 ポポがついさっきまで立っていた場所から、アルトの方へと緩やかな風が通り過ぎるだけで。

 まるで、ポポという少女がいたことが、夢だったのではないかと、アルトは一瞬、錯覚してしまった。

 

 だけど、アルトは知っている。

 記憶を失い、知らないことに怯えることしかできないただの子供に誠心誠意尽くして、真摯な言葉を重ねてくれた、少女の存在を忘れはしない。なぜなら。少女の声は、眼差しは、温もりは。しかとアルトの心に刻み込まれているのだから。さっきまでの少女との邂逅は、決して錯覚でも、幻でもない。

 

 

「――帰るか、俺の家に。俺の、故郷に」

 

 アルトは、確かな足取りで、ミトラ村へと歩みを進めた。

 

 

 その後、無茶な狩りを強行しようとしたことをミトラ村のボーゲン村長に怒られた翌日から、アルトは怖がらずに己のことをミトラ村の住人にさらすようになった。その結果、どういう人物なのかが少しずつ村に知れ渡り、少しずつアルトがミトラ村の住民として村のみんなから認められることとなるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 まばらな雲と夕焼けの光が、ミトラ村北部の森をより幻想的に彩る中。アルトの元から姿を消したポポは、森の木の幹に腰を下ろし、おもむろに目をつむる。

 

 時の魔女ヒルダは、英雄エルクレストと世界を守る約束をしたから、千年間も頑張り続けることができた。その気持ちが今、ポポにも少しわかった。

 

 五体満足で生きているアルトを見て。

 アルトの声を聞いて。

 アルトのにおいを感じて。

 アルトの体温を受け取って。

 

 先ほどのアルトとの出会いを脳裏でしばらく反芻した後、ポポはゆっくりと目を開く。そして、沈みゆく太陽に向けて、ポポは己の思いの丈を宣言した。

 

 

「ポポが、みんなを守るんだ。……今度こそ、今度こそ!」

 

 




ポポ:風の魔女たる15歳の金髪ツインテールな少女。今回、負の感情に呑まれているアルトに対し、かつてアルトがポポにしてくれたように、アルトと真剣に向き合い、真摯に言葉を投げかけ、実質調律っぽいことをしてのけた。ちなみに、ポポが最後に何も言わずにアルトの元を去ったのは、あれ以上アルトの傍にいたら、ポポが未来から逆行していること等々、ポポが抱えていることをすべて暴露しそうになってしまったから。
アルト:原作主人公にして、記憶喪失の少年。倒れていたところをリゼットに拾われ、家族となり、リゼットに『アルト』の名前を与えられた。一応、14歳ということになっている。今回、己が記憶喪失であること、ミトラ村にあんまり受け入れられていないこと、ローザ・リゼット母娘に迷惑をかけていることが影響して割とネガティブ状態だったが、ポポのおかげで気持ちを持ち直すことができた。

 というわけで、8話は終了です。いやはや、この話は中々に難産でした。何せ、以前連載が止まっていたのは、今回のポポとアルトとの具体的な対話の内容が思い浮かばなかったからでしたからね、それぐらいの難産回でした。でも、この回は妥協できない回だったので、形になってよかったです。
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