ゼロの少女と食べる男   作:零牙

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 お久し振りです。
 またしても前の投稿から約1ヶ月が経過してしまいました……
 『早くて1週間、遅ければ1ヶ月』と気長に構えて頂ければ……


ACT-7 洗濯

 

 

 

 ――夜が明けた。

 

 

 

 朝になり、太陽の光が窓から差し込む。

 ルイズの部屋も例外無く光で満ち溢れ、眠りの世界からの帰還を余儀無くされる。

 

 先に覚醒したのはボルトだった。

 陽光で明るくなったとは言え、まだ早朝であるにも関わらず藁の山から体を起こす。

 無言で立ち上がり、服に付いた藁を払う。

 

『野宿よりはましだ』

 

 昨夜ルイズに言った言葉は嘘ではない。

 1つの村・街・国に留まらず、放浪の冒険屋であるボルトは野宿も少なくない。

 岩を壁に木陰を屋根に。

 草木を枕に大地を寝床に。

 都会の喧騒ではなく、日の出と鳥の囀りで目覚める朝も悪くはない。

 

 しかし、雨風を凌げる場所の方が落ち着けるというのも本心だ。

 ただ寝心地は今一つだったのか、首を左右に傾けコリを解す。

 

「……ん……」

 

 人の気配を察したのか、部屋の主であるルイズがベッドの上で毛布に包まったまま身じろぐ。

 もぞもぞと毛布からゆっくりと手を伸ばすと、傍らの籠を指差す。

 

「……それ……洗っといて……」

 

 その手はまたゆっくりと毛布の中へ戻る。

 そして毛布をまた頭から被り、陽光を遮断し目覚めを拒否する。

 ボルトがその籠を見ると、昨日着ていたであろう制服や下着が入っていた。

 

「……」

 

 籠を見下ろしたまま無言で佇む。

 ちなみに彼は洗濯が出来ないわけではない。

 基本旅人の様な生活なので、自分で洗濯する必要が有るからだ。

 だが今回問題なのはそれが『女性の下着』という点。

 

 一見しただけで高級そうな生地と意匠。

 当然だが『そんな物』の洗濯の経験は無い。

 今着ている物は彼にとって特別な物だ。

 洗濯時には丁寧に洗うようにしてはいるが、果たして同じように洗って良いものか……

 

 

 

 しばらくしてボルトは籠を抱えて部屋を出た。

 そして未だ誰一人として動く者の無い女子寮の廊下を、靴音を響かせ歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ACT-7 洗濯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅ……んん……」

 

 息苦しくなったのか毛布から出した顔に容赦なく日の光が降り注ぎ、ルイズは目を覚ます。

 

「ふぁああああああああ~~ぁ」

 

 ベッドから体を起こし、大きなあくびをしながら伸びをする。

 眠い目を擦りながらベッドから降りて着替え始める。

 ネグリジェを脱ぎ、下着を付け、制服を着る。

 ここまではいつも通りだった。

 

「……水が無い……」

 

 毎朝メイドが洗濯物を取りに来て、同時に顔を洗う水を置いていく。

 どうやらいつもよりも早くに目が覚めてしまったようだ。

 

「……はぁふ……眠い……」

 

 顔を洗ってないせいかぼんやりしたままの頭で、椅子に座りテーブルに突っ伏す。

 そしてそのままうとうとしてしまう。

 

(……ん……何か忘れ……て……る…………気が…………す……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   『……ボルト……ボルト・クランク……ボウケンヤだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「使い魔っ!」

 

 叫び声にも似た言葉と共に、髪を振り乱しながら勢い良くテーブルから顔を上げる。

 

「そうよ、使い魔! 昨日わたしは召喚したのよ!」

 

 立ち上がり改めて自分の部屋を見回すが、肝心の『使い魔』の姿は無い。

 そうして気付いた事は3点。

 

 

 

 1『誰も居ない、誰かが居た形跡だけが残る藁の寝床』

 2『消えた大皿』

 3『行方不明の洗濯物』

 

 

 

 まず昨日の出来事が夢ではなく、自分は間違い無く召喚に成功したという事の証拠の1番。

 確かにボルトは昨夜ここで寝ていた。

 

「まったく、どこ行ったのよ……」

 

 ふと気に掛かった2番。

 別々だったパンとフルーツが同じ籠に入っていた。

 フルーツを乗せてた大皿はどこに?

 

 そして3番。

 始めはメイドが取りに来たと思った。

 だが鍵を開けた記憶が無いので、メイドは部屋の中には入れない。

 ボルトが開けた可能性があるが、それなら同時に置いていく筈の水が無い。

 いつもより時間が早いし、そもそもメイドはまだ来てないのではないか?

 

 ここまで考えて、朧気ながら思い出した事がある。

 

「……わたし……誰かに洗濯を頼んだ気がする」

 

 いつもの時間に来たメイドだと思ったのだ。

 だがメイドではない。

 そして同室だった人間が居らず、洗濯物が無い。

 

「……わたし……あいつに洗濯を頼んだ……?」

 

 

 

 ――自分の下着を。

 

 

 

 ルイズの顔から血の気が引く。

 

「……わたしの下着を……あいつが洗う……?」

 

 下着を洗う。

 

 当然下着を見られる。

 見えなければ洗えない。

 

 当然下着を手にする。

 触らなければ洗えない。

 

 先程引いた以上の血流が流れ込み、ルイズの顔は真っ赤になる。

 

 脳内にボルトが自分の下着を手にする様子が映しだされる。

 

 

 

 ――以下ルイズの妄想――

 

 ボルトはルイズの下着を手に取り、穴が開く程見詰める。

 両手に持ち目の前で前面を凝視する。 

 持ち替え背面を見回す。

 頭上にかざし、下方を観察。

 胸元付近に下ろし、上方から内側を――

 

「――ちょっと待って」

 

 彼女が頼んだのは洗濯。

 

 当たり前だが、洗濯の必要性があるソレは前日着用していた物で。

 

 ソレは、多少なりとも『汚れている』いる訳で……

 

 

 

 

 

「やめてぇ~~~~~っ!」

 

 

 

 

 

 紅潮したままで頭を抱えつつ振り乱し、大声で叫ぶ。

 

「どうかしたか」

 

 混乱の只中、その背に声が掛かった瞬間ルイズの体は硬直し、暫し微動だにしなかった。

 やがて、古いゼンマイ仕掛けの様にゆっくりと振り向く。

 

 そこには当の本人であるボルトが、木桶と水差しを手に立っていた。

 

 

 

「ぁ、ああぁあんた、えっとその、わたしあんたにさっきそのえっと……」

 

 赤い顔を見られないように俯きながらしどろもどろに尋ねようとする。

 

「――洗濯か」

 

「そう! わたし頼んだのよね? えっと……終わったの……?」

 

 簡潔に答えるボルトに恐る恐る確認を取る。

 

 

 

「さぁな」

 

 

 

「――はぁ?」

 

 

 

 全く予想外な返答に呆気に取られる。

 そのお陰で顔色が平常通りに戻ったのは幸いだった。

 

「洗い場を探していたら、昨日のメイドに会った」

 

「昨日の? あぁ、『シエスタ』だっけ」

 

 笑顔で振り返る黒髪の少女が頭に浮かぶ。

 

「悪いが女物の洗濯は経験が無いんでな。 仕事で毎日洗ってると言うので頼んだ」

 

「え!? じゃあ洗濯は……」

 

「終わったらいつも通り届けるとさ。 その代わりにこの水運びを引き受けた」

 

「――よ、良かった……ほんとに良かったぁ……」

 

 事の顛末を聞いたルイズは、大きな安堵の溜め息と共にテーブルに手を置き脱力。

 

「何だったんだ、さっきのは」

 

「あぁーもう何でもないの、気にしないで」

 

 気が抜けてしまい、投げ遣りに答える。

 

「それからお前に伝言だ」

 

「え、わたしに?」

 

 上げた顔の前に水差しが差し出される。

 

 

 

 

 

「『昨日の夕食みたいに、今日の朝食は遅れないようにしてくださいね!』――だとさ」

 

 

 

 

 

 改めて簡単に身支度を整え、ボルトを伴い部屋を出る。

 同時に隣室の扉が開き、赤い髪の美少女が出てきた。

 

「あら、おはようルイズ」

 

「……おはよう、キュルケ」

 

 爽やかに微笑みながら挨拶されて、嫌そうな顔で返すルイズ。

 それもその筈、自他共に認める仇敵のキュルケである。

 

 国境を挟んで隣接する領地出身である仲の悪い2人が、奇しくも女子寮でも隣同士になっていた。

 

「ところで、そちらがあなたの使い魔?」

 

 ルイズの後ろに立っていたボルトに視線を送る。

 

「……そうよ」

 

「本当に人間なのね。 すごいじゃない!」

 

「……」

 

 無遠慮に頭の先から爪先まで何度も見回す。

 しかしボルトは別に気にした様子も無く無言のまま立っている。

 

「初めまして、ミスタ。 あたしは『キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー』。 キュルケと呼んで下さいな」

 

 軽く会釈するその仕草だけでも隠そうともしない色香が漂ってくる。

 

「――ボルト・クランク。 ボルトで良い」

 

「――あら、クールな方ですのね」

 

 自分の自慢のプロポーションを目の前にして平然としているボルトをそう評する。

 

 大抵の男は彼女の顔を見た後は、視線は胸に移る。

 その豊満な胸は、制服であるブラウスには収まりきれない。

 無理矢理収める為ボタンを1つ2つ外しているので、その魅惑的な谷間が常に露わになっている。

 下手をすると端から胸しか見ていない輩も存在するのだ。

 

 今現在、その胸を凝視――と言うよりも忌まわしげに睨みつけている人物が傍らに居るが、それはさて置き。

 

 女性は視線には敏感だという。

 特に彼女の様に、女性としての魅力に絶対の自信を持ち、誇り、武器としているのなら尚更である。

 

 だからこそキュルケにはボルトの目が見えずとも分かった。

 彼が『彼女の一部』ではなく、『キュルケ』という人間を見ている事に。 

 

 

 

 ――それが少し悔しくもあり。

 ――それが少し嬉しくもあった。

 

 

 

 そうやって話していると、キュルケの部屋から真っ赤で巨大なトカゲが出てくる。

 大きさはトラ程もあり、その尻尾の先には大きな炎が燃えている。

 

「う……これって、サラマンダー?」

 

 悔しそうに尋ねるルイズ。

 

 

 

 ――サラマンダー。

 

 別名『火トカゲ』。

 『使い魔』としてはかなりの高ランクに分類される幻獣である。

 『サモン・サーヴァント』の時に、ボルトの事を幻獣と思ったルイズとしては多少――否、かなり羨ましい。

 

 

 

「そうよ、あたしの『使い魔』。 『フレイム』って名付けたわ。 『火』属性のあたしにぴったり!」

 

 口から微かに火を吐き出すその火トカゲの頭を撫でる。

 

「しかもこの尻尾! ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ! ……ってあら?」

 

「あ、ちょっと……」

 

 その火トカゲがゆっくりと歩きだし、ルイズの横を通りボルトの前で足を止める。

 そしてコートの裾やポケットに入れたままの袖口を、ヒクヒクと嗅ぎながらその周囲を回り――やがて自分の頭や首を擦り付け始めた。

 

「……」

 

 ボルトの方は驚きもせず跳ね除ける事もせず、されるがまま。

 

「……あんた、何懐かれてんのよ」

「……珍しいわね、初見でこの子にここまで好かれるなんて」

 

 その様子をルイズはやや呆れながら、キュルケは感心しながら見守る。

 しかしキュルケは何かに気付き、ボルトの側に立つ。

 

 女性としては高身長のキュルケだが、ボルトに比べると頭1つ分も違う。

 彼女は自分の使い魔と同じ様に、その目線の高さにあるボルトの肩口や胸元にやおら鼻を近づけ嗅ぎ始めた。

 

「ちょっ!? あんた! 何してるの!?」

 

 突然の奇行に驚くルイズ。

 慌てて引き離そうとキュルケのマントを掴む。

 だがその前にキュルケは自分から身を離す。

 

「……硫黄……?」

 

「え?」

 

「『火の秘薬』の臭いがする。 フレイムが気付いたのはこれね」

 

「ねぇ、どういう事?」

 

 

 

 ――火竜山脈。

 

 キュルケがフレイムの棲息していたと推測する、6000メイル級の山々が連なる長大な山脈である。

 トリステイン王国の南東部に位置する『ガリア王国』。

 その南部を東西に走り、東の一部は『宗教国家ロマリア』との国境にもなっている。

 

 地面は赤い岩肌と黒い溶岩石から成り、至る所で溶岩流が噴出している。

 その為硫黄も豊富に存在している。

 フレイムにとっては馴染みのある臭いだ。

 

 

 

「――だから彼に懐いたって訳」

 

「へぇ。 ――で、それは分かったけど……じゃあ何であいつからそんな臭いがするのよ」

 

「……さぁ?」

 

 2人同時にボルトに目を向けるが、ボルトには答える気が無いようで無言のままだ。

 足下では相変わらずフレイムがじゃれている。

 

 

 

 

 

「所でルイズ」

 

 ボルトからルイズに視線を移しキュルケは尋ねる。

 

「今朝はどうしたのよ。 朝早くに部屋を出て行ったと思ったらさっきは絶叫してたし」

 

「あっ、あれはその……」

 

 まさか聞かれるとは思ってなかったルイズは返答に詰まる。

 

「部屋を出たのは俺だ。 洗濯を頼まれたんでな」

 

 横からボルトが答える。

 

「洗濯? もしかしてルイズの?」

 

「あぁ、制服と下着だけだったが」

 

「あっ、こら!」

 

 ルイズが慌てて言葉を遮ろうとしたが既に遅かった。

 これを聞いてキュルケが見慣れた表情を浮べる。

 ――からかう時の意地が悪い笑みだ。

 

「あらヴァリエール、使い魔とはいえ殿方に自分の下着を洗わせるなんて良い趣味してるわね~」

 

「違うわよ! 寝惚けてメイドと間違えたのよ!」

 

 必死に弁解するルイズを見て面白そうに笑うキュルケ。

 そして笑いながらボルトに尋ねる。

 

「で? この子の下着を見たご感想は?」

 

「ちょっと!?」

 

「……高そうだったな」

 

「ん~、それだけ? なんかこう……柔らかかったーとか、まだ少し温もりが残ってて興奮したーとか」

 

「何言ってるのよ! 大体脱いだのは昨日の夜だから温もりなんて無いわよ!」

 

「……下着を手にして喜ぶ趣味は無い」

 

「あら、そう?」

 

 そう言ってキュルケは隣で騒ぐルイズのスカートの裾を摘み、少し持ち上げる。

 

「やっぱり男性的には身に付けている所の方が良いかしら?」

 

「きゃあぁぁーっ! 何するのよキュルケっ!?」

 

 実際は見える筈は無いのだが、過剰に反応するルイズ。

 紅潮しながら必死でスカートを両手で抑える。

 そんな光景を前にボルトはきっぱりと言い切る。

 

 

 

 

 

「子供の下着を見て喜ぶ趣味も無い」

 

 

 

 

 

 その言葉に対する反応は対照的だった。

 

 顔を背け思い切り噴き出すキュルケ。

 顔から血の気と表情が一瞬で消え去ったルイズ。

 

 

 

「――ね、ねぇボルト、ルイズは何歳だと思う? ……ぷ……」

 

 しばらく咳き込んでいたキュルケが、笑いを堪えながら問う。

 

「10……いや、12か13か」

 

 そう口にした直後、軽く素早い足取りが背後から聞こえた。

 そしてボルトの背中に衝撃が加わる。

 密かに後ろに回り込んだルイズが跳び蹴りを放ったのだ。

 

 本当は股間を蹴り上げるつもりだった。

 しかしフレイムが邪魔だったのと、長身のボルトの股間を狙おうとすると位置が高すぎて、自分の方が転びそうだった。

 だからこその渾身の跳び蹴りだったのだが、悲しいかなその体格差ではボルトに与えた衝撃は僅かにたたらを踏む程度だった。

 

 くっきりとした足形を背負いながら振り返るボルトに、ルイズは憤怒の形相で声を張り上げて反論する。

 

 

 

「――この馬鹿使い魔っ! わたしは『16』よっ!」

 

 

 

 先程とは違う意味で顔を赤くしているルイズの視界の片隅では、キュルケが腹を抱えて大笑いしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 投稿ペースが遅い所為もありますが、それにしても話が進んでません
 10話も投稿して、決闘シーンどころか朝食シーンにも至れていない……

 今回は朝食まで終わらせるつもりだったんですが、何故か洗濯で話が膨らんでしまったので。



 ――ボルトの洗濯(没ネタ)――

①下着(使用済)と水(お湯可)を用意します。
②「いただきます」
③能力発動!
④下着(洗濯済)と水(汚れ含む)の出来上がり。



 ……②の部分を想像すると、恐ろしく犯罪的かつ変態的なので没に。

気が向いたらで構いませんので、ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。 
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