ゼロの少女と食べる男 作:零牙
恒例となりつつある『月1詐欺』のお詫びに加え、今回は『予告詐称』も……
――「――いいだろう。 その『依頼』、受けよう」――
「……『依頼』……だと? どういう意味だ!」
ボルトを睨みながらギーシュが問う。
周囲の馬鹿騒ぎは未だ収まらず、その問う声をやや張り上げている。
「……どうも何も……そのままの意味だが?」
対してボルトはいつも通りの口調、声量。
あたふたと慌てているのは寧ろその背後にいるシエスタだった。
「ふざけるな! いつ僕がお前に頼んだ!」
先程まで見せていたキザな態度と口調は、今は完全に失われている。
そんなギーシュの神経を逆撫でするようにボルトの口は笑みを浮べる。
「……俺にはさっきの言葉が『喧嘩を売りたいので今すぐ買ってくれ』と聞こえたが?」
「……何ぃ!?」
喧嘩を売ったのは確かだ。
だが『買ってくれ』などと言ったつもりは無い。
「妄言もいい加減にしろ!」
「そうか……ならばその売られた喧嘩、買おうじゃないか……ただし、こちらの言い値だ」
「……どういう意味だ……?」
訝しがるギーシュに対して、ボルトは指先で『サングラス』を持ち上げながら言い放つ。
「時は今夜、場所は使い魔の餌場。 邪魔の入らないように観客、野次馬一切無しだ」
「……くっ」
確かにただ『礼儀を教授してやる』なら何時だろうと何処だろうと問題は無い。
しかしそれではギーシュにとって意味が無いのだ。
「……差し詰め『生意気な
「ぐぬぬ……」
苦々しく表情を歪ませるギーシュ。
その態度が、ボルトの指摘が図星である事を雄弁に語る。
「……俺はどちらでも構わないが……?」
薔薇の造花を握り締め、歯を食い縛りながら俯きがちの体勢で葛藤する。
ちょうどその頃、先の男子生徒達がデザートを配り終わろうとしていた。
それを騒ぎながら見物していた生徒達がボルトやギーシュの反応を見ようと、徐々に視線が集まってくる。
俯いたまま空の左手を顔を覆うように当てるギーシュ。
そして拭うようにして顔から外した時には、いつものキザな笑顔が張り付いていた。
「――ヴェストリの広場だ!」
右手の薔薇をボルトに突きつけ、食堂中の生徒達にも聞こえるように大声で宣言する。
「そこで首を洗って待っていたまえっ!」
食堂中に響く大歓声の後、生徒達は少しでも良い場所で見物しようと一斉に移動を開始する。
ギーシュはボルトに向かって歩き出し、ボルトと擦れ違う寸前に真横で足を止める。
「……この『依頼』の『報酬』は後で請求しよう」
「……もし君が無様に広場で転がっていてもまだ命があった時は、その奇跡が君への『報酬』だ」
お互いに正面を向いたまま視線を交わす事無く言葉を交わし、そしてギーシュは足早に去っていった。
ACT-13 開幕
「ボ……ボルトさん……」
ボルトのコートを掴んだままのシエスタが呟く。
「あ…………謝らなきゃ…………謝らなきゃ……」
魘されるようにただそれだけを繰り返す。
「……貴族を怒らせたら……殺されちゃう……」
顔からは血の気が失せ、寒気に襲われたかのように体が震えている。
「ボルトさん……どうして……?」
目に涙を滲ませながら問うシエスタ。
そこへルイズが駆け寄る。
「――ちょっとあんた! 何してんのよ! どういう事!?」
怒りと困惑の表情でボルトに問い詰める。
「皆して『ルイズの使い魔とギーシュがヴェストリの広場で決闘』とか言ってるんだけど!?」
「あぁ、そういう『依頼』を受けたんでな」
「はぁ? 何よそれ!?」
まるでそれが何でもない事のように簡単に説明するボルト。
その答えが理解できず呆れるルイズ。
「『依頼』!? 何馬鹿な事言ってるのよ! 平民のあんたが
――『彼は傭兵かもしれません』――
昨日コルベールから聞かされた話を思い出し、続く言葉を飲み込む。
そうだ、この男は只の平民ではないのだ。
自ら『貴族だけでなく王族からも雇われた』と言っていたではないか。
「あんた……貴族と決闘して勝てるの?」
「ミ、ミス・ヴァリエール!?」
シエスタが驚きの声を上げる。
てっきり自分と一緒にボルトを止めてくれると思っていたのだ。
慌ててルイズに抗議しようとして……出来なかった。
ボルトに向かい合うその表情と眼差しは真剣その物だったからだ。
「……さぁな」
返ってきた返答は慎重かそれとも無責任か。
思わずルイズは声を荒げようとしたが、それよりも先にボルトが口を開く。
「――そう言えば、『オーク鬼』とやらはどんな奴なんだ?」
「……はぁ?」
何の脈絡も無く聞かされた疑問に肩の力が抜けてしまう。
「……身の丈2メイル程の豚の顔をした亜人で、人を喰らう化物です」
呆気に取られて答えられないルイズに代わり、ボルトに答えるシエスタ。
「そうか……ならその『オーク鬼』とさっきのギーシュとかいう奴ではどちらが強い?」
問われたシエスタは首を傾げる。
人を喰らう『オーク鬼』も魔法を使う『
違いは理性の有無か。
……それすらも疑わしい輩も貴族の中には存在するのも確かだが。
「……あいつが普段女の子の為に使っている頭を、策や戦術に割けばもしかしたら『オーク鬼』1匹になら勝てる……かも?」
「……そうか」
シエスタに代わって、頭を捻りながらも予想するルイズ。
それを聞いて満足そうに笑みを浮べるボルト。
「――つまりギーシュとやらを何とか出来ないようでは、『使い魔』は勤まらん……って事か」
「えぇ!? いやそういう訳では……」
飛躍しすぎなボルトの呟きを遠慮がちに否定するシエスタ。
使い魔に選ばれる生き物は、幻獣や大型の生物だけではない。
小動物や両生類などの戦う事には不向きな生物が使い魔となる場合もあるのだ。
しかし、ルイズはその言葉から別の意味を察する。
――「火山の火口付近とか、オーク鬼とかが居る森の中に行かなくちゃ採れない物かもしれないのよ!?」――
――「『オーク鬼』とやらが何かは分からないが……問題無いだろう」――
それは『使い魔』としての仕事について話していた時の言葉。
つまりボルトはまだ『使い魔』としていてくれるという事。
(キュルケの言った通り……本当に気にしてないの?)
自然と表情が緩む。
しかしすぐに2、3度首を振り、緩んだ表情を引き締める。
(『あの言葉』を問い質すのも……謝るのも『これ』が全部片付いてから!)
そう心に決めて、ボルトの顔を正面から見据える。
そして右手の人差し指を突き付けながら言い放つ。
「主人から使い魔に命令よ! 『ギーシュに勝ちなさい』!」
「ミス・ヴァリエール!? 何言ってるんですか! そんなの絶対に無理です!」
シエスタにはルイズがボルトに『死ね』と言っているように聞こえた。
ボルトの背後から足を踏み出し、2人の間に割って入ろうとする。
だがその足はそうする前に止まってしまう。
朝食の時のような怒りから来る八つ当たりではない。
そのルイズ自身半信半疑だろうが、それでも『半信』部分には『ボルトなら出来る』という思いが見て取れた。
「……」
「……」
「……」
指を突き付けるルイズ。
おどおどとボルトとルイズの顔を交互に見るシエスタ。
そしてその2人を前に無言のボルト。
3人の間に沈黙が流れる。
そして暫しの後、ボルトが楽しげに大きく笑みを浮べ『サングラス』を指先で押さえる。
「……引き受けた」
そう言って歩き出し、2人の横を通り過ぎる。
「おい、平民!」
そこへ声を掛けたのは、真っ先にデザートを配り始めた男子生徒だった。
どうやらボルトが逃げ出さないように、見張りも兼ねて待っていたようだ。
「話は終わったか? 広場はこっちだ!」
立てた親指で自分の背後を指す。
「丁度良い。 道案内が欲しかった所だ」
「ほぅ、言うじゃないか……」
こちらに向かいながらのボルトの言葉に、男子生徒は半ば感心しながら振り返り先を歩く。
「こっちだ、付いて来い!」
黙って2人を見送るルイズを、シエスタが問い詰める。
「ミス・ヴァリエール! 貴女が『やめろ』と言えばボルトさんだって決闘なんかきっと断ったでしょうに……なのにどうしてあんな事言ったんですか!?」
「……」
ルイズはシエスタに答える事なく黙ったまま。
さらに言葉を続けようとするシエスタだったが、それよりも早くルイズが口を開く。
「あいつは――」
「――え?」
「――あいつは普通の平民じゃないのよ……」
そう呟くと、2人の後を追いヴェストリの広場へ駈けて行く。
その場に残されたシエスタは困惑の表情を浮べる。
「……それは知ってますけど……」
彼女の脳裏には皿やグラスを齧るボルトの姿が浮かんでいた。
「……」
「……」
食堂・図書館よりさらに上、本塔の最上階に位置する学院長室。
在室しているのはコルベールとオールド・オスマンの2人。
先程まではミス・ロングビルも居たが、今は退出している。
2人の間にある学院長の机の上にはある物が存在し、2人はそれを無言で見詰めていた。
1つはコルベールが図書館から持ち出した『始祖ブリミルの使い魔たち』。
もう1つは昨日コルベールがボルトの左手のルーンをスケッチしたメモ。
開かれた本には始祖ブリミルが率いたとされる使い魔の記述がある。
その一説とスケッチが完全に一致しているのだ。
そもそもこの『始祖ブリミルの使い魔たち』は古い古い文献だ。
作者不詳、作成時期不明、信憑性不明瞭。
そんな書物の内容は本来は眉唾物だろう。
――だが実在が確認された今、その認識は改めざるを得ない。
「……『ガンダールヴ』……か」
「はい……」
その開かれたページには始祖ブリミルの使い魔4体の内1体――『ガンダールヴ』について書かれていた。
要約すると……
――強力な呪文を用いるが故に詠唱時間が長かったブリミルが、その間自分を守る為に用いた。
――1000人もの軍隊を1人で壊滅させる力を持つ。
――並のメイジではまったく歯が立たなかった。
――あらゆる『武器』を使いこなし敵と対峙した。
「――そんな伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンが、例の平民の使い魔に刻まれた……と……」
「はい……」
大きく溜め息をつき、椅子に背を預けるオールド・オスマン。
「……次から次へと厄介事が重なるのぅ……」
「どうしましょうか?」
昨夜から図書館で調べていた為、若干疲れの見えるコルベールが尋ねる。
「……刻まれたルーンが同じだから彼も『ガンダールヴ』だ――と決め付けるのは早計かも知れん」
目を閉じて思案していたオールド・オスマンは呟くように口を開く。
「それもそうですな……」
学院長室の扉がノックされる。
「誰じゃ?」
「私です。 オールド・オスマン、ご報告が」
オールド・オスマンが机に置いてあった杖を振ると、扉に掛かっていた鍵が開き扉が僅かに開く。
「失礼します」
入って来たのは緑の髪に黄色の目、理知的な顔にメガネを掛けたオールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルだった。
コルベールは机の前から移動し、オールド・オスマンの正面を彼女に譲る。
「ヴェストリの広場で、決闘が始まるそうで大騒ぎになっています。 教師が止めさせようとしましたが、生徒達に邪魔されました」
ミス・ロングビルはコルベールに軽く会釈した後、淡々と報告する。
「……暇を持て余した貴族は本当に碌なもんじゃないのぅ……で? 何処の馬鹿共じゃ」
机に頬杖を付き眉間に皺を寄せながら呆れる。
その歯に衣着せない物言いにコルベールとミス・ロングビルは苦笑する。
「1人は、『ギーシュ・ド・グラモン』」
「……グラモンとこの馬鹿息子か。 この前も女生徒絡みでいざこざを起こさんかったか? そんな所だけ親父に似らんでええのに……」
溜め息と共に愚痴るオールド・オスマン。
「それにしても『決闘』とは穏やかではありませんね。 そもそも『決闘』は禁止されていて、生徒達にも周知の事実である筈ですが……」
「それが……」
やや険しい顔でミス・ロングビルに確認するコルベール。
それに対して彼女は表情を曇らせる。
「どうやら相手は平民らしいのです。 生徒達は『禁止されているのは貴族同士の決闘のみ』と言って止めに入ろうとした教師を邪魔したとか……」
「何を馬鹿なっ!」
返って来た答えに、思わずコルベールは声を荒げる。
確かに『平民と貴族の決闘』は禁止されていない。
だがそもそもそんな物は『決闘』とは呼ばない。
――魔法が使えない『平民』と魔法が使える『
どう考えても『見せしめ』や『
ここが戦場であるならばいざ知らず、学園で戦いなんて事が可能な者など精々が駐在する衛兵ぐらい――
――違う。
コルベールの思考が1つの『例外』に辿り着く。
そう、今現在ここ魔法学院には『
それは――
「――もう1人は『ミス・ヴァリエールの使い魔』だそうです」
それを聞いたコルベールとオールド・オスマンは一瞬視線を交わす。
「教師達は、騒ぎを治める為に『眠りの鐘』の使用許可を求めています」
――『眠りの鐘』。
ここトリステイン魔法学院には、学院成立以来の秘宝が収められている部屋――宝物庫が存在する。
『眠りの鐘』も学院の本塔、学院長室の下の階にある宝物庫の秘宝の1つだ。
その鐘の音は、耳にした者を抗う事の出来ない眠りに誘うと言われている。
「……たかが喧嘩騒ぎに秘宝を使う必要も無いじゃろ。 放っておきなさい」
「わかりました」
一礼して退室するミス・ロングビル。
閉まった扉に向かってオールド・オスマンが杖を振ると鍵が掛かる。
「――オールド・オスマン」
「――うむ」
残った2人は顔を見合わせ頷く。
再びオールド・オスマンが杖を今度は壁に掛かった大きな鏡に向かって振る。
すると鏡が光りだし、その光が徐々に消えていくと同時に鏡には何かが映しだされていく。
それは対峙する男子生徒と見慣れない格好をした男だった。
「こちら側に立っているのが例のミス・ヴァリエールの使い魔で……オールド・オスマン?」
映しだされたボルトの説明中に突然物音がしたので、鏡に向けていた顔をそちらに向ける。
そこには椅子から立ち上がり、机から身を乗り出したオールド・オスマン。
その顔は驚愕に満ちていた。
「――ミスタ・コルベール」
「は、はい」
「急ぎミス・ロングビルを追いかけ、『眠りの鐘』の準備をするようにと伝えて欲しい」
「えぇ!?」
突然のしかも先の発言を覆す内容の指示に驚くコルベール。
そんな彼に、懐から大きなやや古びた鍵を取り出し渡しながら続ける。
「ただし、こちらの許可するまでは待機を厳命する――以上じゃ」
「はい、わかりました!」
そのただならぬ様子に気を引き締め、宝物庫の鍵を手に慌しく学院長室を飛び出す。
そして1人残ったオールド・オスマンは再び鏡に目を遣り呟く。
「……まさか……いや、しかし……」
魔法学院は食堂・宝物庫・学院長室等が有る本塔を中心に、正五角形の頂点に位置する5本の塔で構成されている。
『学生寮』と『水』の塔の間には正門が存在し、そこから時計回りに『学生寮』、『土』『火』『風』『水』と呼ばれる塔となっている。
ヴェストリの広場は『火』と『風』の塔の間にある中庭で、西側に位置している為日中でもあまり日が差さず今の時季は訪れる生徒は多くない。
――しかし今日は違った。
「諸君! 決闘だ!」
その言葉にヴェストリの広場を埋め尽くした生徒達の大歓声が響く。
幾重にも重なる人の輪はさながら闘技場のようで、その中心には戦いに赴く2人の闘士がいた。
薔薇の造花を掲げ、歓声に応えるギーシュ。
周囲の騒ぎなど何処吹く風とコートのポケットに両手を入れたままただ立っているボルト。
そして熱狂する生徒達の中、そんな2人を冷静にかつ心配そうに見守る者も居た。
最前列に並ぶルイズ、シエスタ、キュルケにタバサの4人の少女達。
――あれからルイズはシエスタから事の顛末を聞いた。
ボルトの勝手な行動に思わず毒づこうとしたが、彼の行動は明らかにギーシュの自業自得な言い掛かりから、シエスタを庇おうとした物。
そんな事をすればシエスタを間接的に責める事になってしまう。
故に彼女は頭の中で使い魔とギーシュに罵詈雑言を浴びせる。
「……シエスタはその場に居合わせて心配してくれたから分かるんだけど……何で貴女達は居るのよ」
自分の隣に立つ2人を横目で見遣りながら呟くルイズ。
「見世物気分ならお引取り願うわよ?」
「あら、私だってボルトが心配だから来たのよ? 彼とは知らぬ仲じゃないんだし」
意外そうに反論するキュルケ。
「確かにギーシュはキザで女好きのお調子者には違いないけど、彼もれっきとしたメイジよ? 『ドット』クラスの中では上位の腕って話も聞いた事があるわ」
ルイズ同様眼前でギーシュと対峙しているボルトの背中を真剣な顔つきで見守る。
そう言われてはルイズも口を出せず黙認する。
「――興味半分ってのは否定しないけど」
「帰れ!」
「で? タバサ、あなたはどうなの?」
ルイズの怒号をさらりと流し、キュルケは隣に立つ友人に尋ねる。
自身の身長より大きな杖と分厚い本を手にしたままのタバサは、ボルトから目を離さずに口を開く。
「……気になる」
タバサという少女は普段なら周囲の事には興味を示さず、大抵1人で本を読んでいる事が多い。
このような群集に混ざる事自体が珍しい事であり、特定の人物に関心を持つとなると尚更だ。
キュルケもこの変化に驚き、目を丸くする。
そして何かを察したように優しく微笑む。
「そっか……タバサもそんなお年頃なのね……」
「えぇ!? ちょっとタバサっ!?」
「タバサは年上が好みか~♪」
そう言いながらタバサの頭を撫でるキュルケ。
慌ててタバサに詰め寄るルイズ。
そんな2人に対してタバサは、ルイズには杖を突き付ける事で動きを制し、頭を撫でるキュルケの手をゆっくりと払う。
「違う」
言葉少なに、しかしきっぱりと否定する。
その間も彼女はボルトから目を離す事はなかった。
そしてシエスタだが、はっきり言えば挙動不審だった。
体を縮こませ、周囲の喧騒に怯え、間近で起こる歓声に驚く。
だが無理もないのかもしれない。
今彼女の目に映るボルト以外の人影は例外なく皆貴族なのだ。
しかも触れ合う程に近い――と言うよりも幾度となく彼女の背に誰かの体が当たり、彼女の腕や肘が誰かに当たる。
本来ならそれだけで咎められる事もある。
だが幸いにも周囲1人残らず熱狂している今この場では、傍らの平民の事を気にする者など居ない。
「ねぇシエスタ……ボルトの心配は嬉しいけど、気になるなら無理しない方が良いわよ?」
見かねたルイズが声を掛けるが、シエスタはこれを首を左右に振り断る。
「いいえ……ボルトさんは私を庇ってくれたんです! 私にはこの決闘を見届ける義務があります。 それに何の力にもなれないけど、せめて応援だけでもしたいんです!」
胸元で拳を握り締め、震える声でしかしはっきりと意志を伝える。
その言葉を聞き、その目を見て、ルイズは説得を断念する。
「……わかったわ、好きにしなさいよ」
そう言って視線を戻す。
そこでは遂に決闘が始まろうとしていた。
「やぁ、待たせたようだね」
暫く歓声に応えていたギーシュは、まるで今気付いたとばかりにいつも通りの笑顔でボルトに向き直る。
「……あぁ、そうだな。 だがワインの匂いを漂わせながら目の前に立たれるよりはマシだ」
ギーシュの笑顔が引き攣る。
ヴェストリの広場に来たのはボルトが先だった。
どうやら先に食堂を出たギーシュは身支度を整えていたようだ。
頭から浴びせられたワインを拭き取り、シャツを着替える。
そうしてヴェストリの広場へとやってきたのだった。
――もっとも、左頬の手形は完全には消えてはいなかったが。
「ふん……とりあえず逃げずにいた事は誉めてやろうじゃないか」
「それがお前からの『依頼』だったからな……もっとも」
片手で『サングラス』を軽く持ち上げる。
「この後の展開については責任は持てんがな……特に3つ目は」
意図してかせずにか、唇の端を吊り上げながらギーシュの神経を逆撫でする言葉を選ぶボルト。
既にギーシュの顔に笑みは存在せず、忌々しげにボルトを睨む。
「平民風情が! 貴族に盾突いた事を、のたうち回りながら後悔しろ!」
怒鳴りながら手にしていた薔薇を振る。
その薔薇から花びらが1枚宙に舞う。
地に落ちた花びらが光ったかと思うと、地面から甲冑を身に着けたブロンズ像が現れた。
「僕はメイジだ。 だから魔法を使って戦う。 よもや文句はあるまいね?」
「……ほぅ」
ブロンズ像の後ろで誇らしげな笑みのギーシュと、興味深げな声を上げるボルト。
「僕の二つ名は『青銅』。 『青銅のギーシュ』だ。 従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
それはギーシュより若干背の高いブロンズ像。
女性用の騎士甲冑を身に付け、身の丈より長い長槍を手にしていた。
顔は表情なんて物は存在せず、仮面のように目の部分に穴が有るのみだった。
「行け! 『ワルキューレ』!」
ギーシュが指揮棒のように薔薇を振ると、ブロンズ像――『ワルキューレ』と呼ばれたゴーレムはボルトに向かって突進する。
そして間合いを詰めて手にした長槍ではなく、素手の拳を真っ直ぐに放つ。
それはとても金属製の物とは思えない素早い動きだった。
だがそれをボルトは難無く交わす。
右足を引く事で体を半身にし、ゴーレムの胴体目掛けての拳を外す。
そして同時に軽く右拳を上げていた事で、『回避』の終了と同時にもう次の行動の準備が整っていた。
――広場に金属を打つ音が響く。
ブロンズ製のゴーレムが顔部分に右拳を打ち込まれ後方へ飛び、さらにそのままの勢いで2、3メイル地面を転がる。
その一連の攻防に、一瞬広場は水を打ったような静寂に包まれる。
『……ぉ』
『……ぉぉぉぉぉ』
『ぉぉぉおおおおおおおおぉぉぉーーーっ!』
その場にいる全員の口から漏れた声はやがて血の底から響くようなどよめきに、そして始まりの時を上回る大歓声へと変化する。。
――それがこの決闘の開幕を告げる合図となった。
ほぼ2ヵ月空いてしまいました……
しかも内容は『決闘』の開始まで。
ちまちまと入れたいネタが浮かび、いつの間にかいつもの文章量。
予定の『決闘』の展開をそのまま追加すると間違い無く今の倍……
仕方なく今回はここまでに。
時間もなかなか取れませんでした。
無いわけではなかったんですが、つい他の事に時間を割いてしまって……
携帯をスマホに変えてその使い方に四苦八苦したり。
とあるゲームの大会に出場したり。
目標は年内にあと1回投稿。
次回こそ!
今度こそ!
気が向いたらで構いませんので、ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。