「……うっ……んっ……?」
ロヴィーノの爆発に巻き込まれた筈の輝夜が目を覚ますとそこは、なぜか、上空4000メートルにいて、そこから落下していた。
(ここはどこだ……?あの世か…?)
輝夜は自分は死んだはずだと思っていたため、思わずそんなことを考えていた。ちらりと周囲を見回すと3人の少年少女と1匹の猫も一緒に落ちていた。
(………チッ。リングが無ぇ……)
下には湖が見えたが、上空4000メートルからの落下だとそんなものは無意味なため、この状況を何とかしようと“闇夜”の炎を使おうと思っていたが輝夜の右手の指にはさっきまではめていた筈のリングが無かった。爆発に巻き込まれて壊れたのかと考えたが、それよりも今の状況を何とかしようと予備のリングを取り出そうとした。そこで輝夜はふと気がついた。
(………何かの膜が張られているな)
落ちている途中で水膜が何重にも張られていたのだ。これが緩衝材の役割を果たしているみたいだ。
「…………」
そのことを理解すると、輝夜は何もしなくても大丈夫かと思い、懐に伸ばしていた手を引っ込めた。そして、輝夜たちはそのまま、湖へと落下した。
「………」
水を吸って重くなった服を引きずりながら、輝夜は黙々と湖から上がった。そこでふと目を向けると一緒に落ちていた少年少女たちが話していた。
「し、信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだあげく、空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
「……いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」
「いや、俺は問題ない」
「まあ、それなら俺も大丈夫だな」
「そう。随分ずいぶん身勝手ね」
炎をモチーフにしたヘッドホンをつけた少年と気の強そうな少女がそう話しており、側には物静かそうな少女が三毛猫を抱きかかえて、じっとしていた。
「まず間違いないだろうけど、一応確認しておくぞ。もしかしてお前達にも
(手紙……?)
少年の言葉に輝夜は内心、首を傾げた。輝夜は手紙について、全く知らなかったのだ。そもそも、仮に届いていたとしてもあんな戦いの最中で読む暇など当然、無かったのだ。そんな輝夜の心情とは余所で話は進んでいた。
「そうだけど、まずはその『オマエ』って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」
「春日部耀。以下同文」
「そう。よろしく春日部さん。ところで、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜さかまきいざよいです。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と容量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様。それで、そこでずっと黙っているあんたは何もんだ?」
そこで、少年、十六夜が輝夜に尋ねてきた。飛鳥と耀も輝夜のほうを見ていた。それに気がついた輝夜はいったん、考え事を止めて、自分の名を名乗った。
「光城輝夜だ」
そう言って、輝夜は再び考え事を始めた。
(うわぁ………なんか問題児ばっかりみたいですねぇ………)
そんな様子をウサ耳のついた少女、黒ウサギが茂みに隠れて、こっそりと見ていた。召喚しておいてあれたが……彼等が協力する姿は客観的に想像できない。黒ウサギは陰鬱そうに重く溜息を吐くのだった。
「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「……。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
(箱庭……。例の手紙とかに書いていたのか?………ここはあの世じゃないのか?だが、確かにこいつらからは自分が死んだという素振りを見せてないな。こいつらが自覚無いのか。それとも、俺が生き延びた?あの状況だとそんな可能性は無い筈だが………)
輝夜は十六夜たちの会話を聞きながら、輝夜は今の状況について、考えていた。しかし、どう考えても確信を得られなかったため、仕方ないと思い、ため息をつきながら、
「仕方がねぇな。こうなったら、
その途端、茂みからザザッと葉が擦れる音が漏れた。四人の視線が茂みに集まる。
「なんだ、貴方も気付いてたの?」
「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの2人も気付いていたんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でも分かる」
「……あんなの隠れているとは言わん」
「……へぇ?面白いなお前達」
そう言って、十六夜は興味深そうに耀と輝夜を見ていた。だが、すぐに自分たちを呼び出したであろうものいる茂みのほうに視線を向けた。
「や、やだなあ御四名様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「こっちはその脆弱な心臓だったらショック死しそうな目にあってんだ。それで穏便に済ませようとかどれだけ面の皮が厚いんだ?自称、脆弱な心臓の阿呆ウサギ」
「あっは、取り付く島もない……って最後の方!真顔で正論ととんでもない暴言を吐かないでくださいませ!」
両手を上げ、降参のポーズをとりながら黒ウサギは、四人を値踏みしていた。(最後の輝夜の発言に対して、思わずツッコんだが)
(肝っ玉は及第点。この状況でノーと言える勝ち気は買いです。まあ、扱いにくいのが難点ですね)
そう考えていた黒ウサギだが、1つ間違いがあった。それは、この4人、特に輝夜を自分が扱える人物だと思っていることだ。現に今、黒ウサギが自分たちを値踏みしていることを輝夜は気がついているが、逆に輝夜が黒ウサギのことを値踏みしていることに黒ウサギは気がついていないのだ。
すると、そんな黒ウサギの背後に耀が回り込んで……
「えい」
「ふぎゃ!?」
黒ウサギの耳を根元から掴んで引っ張ったのだ。
「ちょ、ちょっとお待ちを!この雰囲気で、しかも触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心のなせる業」
「自由にも程があります!」
「へぇ?このウサ耳って本物なのか?」
すると、今度は十六夜が右から掴んでかかる。
「……...。じゃあ私も」
「ちょ、ちょっと待っ!そこの殿方!どうか、助けてください!!」
飛鳥までもが黒ウサギの耳を掴んできたので、黒ウサギは最後の希望だと言わんばかりに輝夜に助けを求めた。
「はぁ……」
輝夜はめんどくさいと言わんばかりにため息をついて、黒ウサギたちに背を向けたのだ。
「ちょ、ちょっと!どこに行くのですか!?む、無視しないでくださ……ふぎゃあぁぁーーーー!?」
そんな輝夜を見て、黒ウサギは慌てて呼び止めようとしたが叶わず、湖付近で黒ウサギの悲鳴が鳴り響いたのであった。