「ゼェ、ゼェ……あ、有り得ないのですよ。まさか話を聞いてもらう為に30分も消費してしまうとは……。が、学級崩壊とはこの様な状況に違いないのデス……」
「いいからさっさと話せ」
黒ウサギが四つん這いになりながら、荒い息をついているところで十六夜の容赦のない一言を浴びせられていた。
あの後、30分経ったところで輝夜が十六夜たちを止めに入ったのだ。ちなみにその30分間輝夜は1人で静かにじっくりとこの世界について状況判断していたのだ。また、自分の所持品も確認していた。結果、持っていたものは自分の武器のガンブレードの入っている保存用匣、ドレイクの匣、それから予備のAランクの闇夜のリングだった。
そして、それらを終えると、いい加減、黒ウサギから話を聞こうと振り向いたがまだ、黒ウサギの耳で遊ばれていたため、まだ続いていたのかと呆れながら、輝夜は止めに入ったのだ。
「そこのあなたはなぜ、すぐに止めてくれなかったのですか!?」
すると、黒ウサギが輝夜を非難するような目を向けていた。自分が助けを求めた際は無視したくせに、時間経ってから来るのなら、最初から助けてくれたらいいのにと思っていたのだ。
「はぁ?別にいいだろ。高度四千メートルからのスカイダイビングを無理矢理させられたんだ。はっきり言って、トラウマものだろ。そんな荒んだ精神を和ませるために俺は1人で静かにいる時間、こいつらはお前の耳が必要だったってだけの話だ。責任者ならそれぐらい、多目に見ろ」
「そうだぜ。俺たちは死ぬかと思ったんだ。グスッ(棒)」
「えぇ、何て恐ろしかったのかしら。グスッ(棒)」
「怖かった。グスッ(棒)」
「うっ……」
黒ウサギは『なんて、わかりやすい嘘なんですか!』や『そこにいる人たちはただ便乗しているだけでしょ!?嘘泣きや棒読みがバレバレですよ!』と思ったが輝夜の言い分は客観的に見れば一理あったので、罪悪感も感じたため、これ以上何も言うことができなかった。そこで黒ウサギは気を取り直して咳払いをして、話し始めた。
「それではいいですか、御4人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!「くどい。とっとと、言え」黙ってください!!コホンッ。ようこそ、”箱庭の世界”へ!我々は御4人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚しました!」
「ギフトゲーム?」
「YES!すでにお気づきかもしれませんが、御4人方は普通の人間とは違う特異な能力を持っています。それは、様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられたギフト、恩恵なのでございます。皆様は、その恩恵を駆使して競い合うギフトゲームに参加する資格をお持ちなのです!この箱庭は、強力なギフトを所持した者たちが面白おかしく生活できるためのステージなのです!」
「…………」
黒ウサギの言葉に輝夜は考えた。黒ウサギの言う『普通の人間とは違う特異な能力』について、見当もつかなかったのだ。一応、心当たりはあった。それは自分の使える死ぬ気の炎、闇夜の炎だった。しかし、これは死ぬ気の炎の1つであるため、恩恵と呼ばれる程のものじゃないと思ったのだ。輝夜がそう考えているうちに話が続いていった。
「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う”我々”とは貴女を含めた誰かなの?」
「YES!異世界に呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多ある”コミュニティ”に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「断る」
「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの”
「………”主催者”って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試す為の試練を称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示する為に独自開催するグループもあります。」
「結構俗物ね。………チップには何を?」
「それも様々ですね。金品、土地、利権、名誉、人間……そしてギフトを賭けあう事も可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑むこともできるでしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然──ご自身の才能を失われるのであしからず」
「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期間内に登録していただけたらOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」
「……つまり『ギフトゲーム』はこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」
飛鳥の言葉に黒ウサギが感心したように答えた。
「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。『ギフトゲーム』の本質は一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。」
「そう。中々野蛮ね」
「ごもっとも。しかし主催者は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めてからゲームに参加しなけばいいだけの話でございます」
そこで黒ウサギは一度流れを区切ってこう続けた
「話した所で分からないことも多いでしょうから、ここで黒ウサギと一つゲームをしませんか?」
そう言うと黒ウサギは虚空に向かって指を鳴らすと何処からともなくカジノにありそうな木製緑の布が貼られたテーブルが落ちてきた。そして、これはまた、どこからともなく、取り出したトランプを見せながら、黒ウサギは説明した。
ギフトゲーム “スカウティング”
・プレイヤー 光城 輝夜
逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
・クリア条件 テーブルに並べられたカードの中から絵札のカードを選ぶ。
・クリア方法 選べるカードはプレイヤーにつき1枚のみ。
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗と、ホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“サウザンドアイズ”
「商品は、そうですねぇ……黒ウサギに何でも一つ命令できるということにしましょうか♪」
「ほう?……何でも、ねぇ………」
そう言って十六夜は黒ウサギの豊かに育った双丘を眺め
「勿論性的なことはダメですヨ!?」
その視線に気がついた黒ウサギが自身のそれを庇うように腕を回した。
「冗談だ」
十六夜は笑いながらそう言うが、もはや冷たくなった女性陣の目が十六夜に対する印象を表していた。
「……今の話の流れから察するにできる範囲で何でもか?」
そこでずっと黙っていた輝夜が尋ねた。
「え?……え、えぇ。黒ウサギも実現不可能なお願いはさすがに……」
「そうか……」
それを聞いて、輝夜は黙ってしまった。輝夜の質問に周りは訝しげに見ていたが輝夜は無視した。そんな輝夜を尻目に飛鳥が尋ねた。
「チップには、………貴女の言うギフトを賭けないといけないのかしら?」
それを聞いた黒ウサギはどこか、人を喰ったような笑みを浮かべて答えた。
「最初のギフトゲームということでチップはなしとさせていただきます。強いて言うなら皆さんのプライドを掛けるといった所ですか。この程度のゲームで負けてしまうのでは、困るのです。ええ、まったく本当に困るのです。むしろお荷物・邪魔者・足手まといなのです!」
そう言う、黒ウサギだが、内心、冷や汗ダラダラだった。今の挑発で輝夜たちの機嫌が損なわれないのかと。現に十六夜、飛鳥、耀の3人は目付きを少し鋭くした。しかし、輝夜だけは表情を変えていなかった。それが余計に黒ウサギを不安にさせたのだが、とりあえずゲームをすることにした。
さっそく、カードを並べようとしたが、十六夜がカードのチェックを申し出て、それに黒ウサギは了承した。そして、十六夜、飛鳥、耀の
(このゲーム、イカサマし放題だな)
輝夜はなんとなく、そう思っていた。現に飛鳥と耀がカードに何か細工をしていた。しかし、十六夜だけは何か細工している様子は無かったが、何をしているのか輝夜には見当がついていた。そして、そんな何もしない輝夜に十六夜たちは訝しげに見ていたが、結局、話しかけることもせず、ゲームが始まった。
そして、1番手は十六夜だった。十六夜はざっとテーブル上に並べられたカードを見ながら、黒ウサギに言った。
「さっきは粋な挑発をありがとよ」
「き、気に入っていただけて何よりデス……」
十六夜の皮肉に内心ビビっているのか黒ウサギは、若干引き攣りながらも言葉を返す。
「これはその礼だ!!」
十六夜が突如テーブルを平手で叩きつけた。すると、今の衝撃により周りのカードが空中に舞った。舞ったカードを輝夜はなんとなく眺めていた。
「それじゃ、私はこれを」
「私はこれ」
黒ウサギが驚いている間に飛鳥と耀がテーブルに落ちた表になった絵札のカードを取った。
「エエッ!?な、何をやっているんですか!?」
「1人1回、絵札のカードを選びとる。ルールには抵触していない筈だろ?」
驚く黒ウサギを余所に十六夜はしれっと自身の正当性を主張する
すぐさま黒ウサギはウサ耳を立ててどこかと連絡を取った。
「うう、箱庭の中枢から正当であるとの判断が下されました。し、しかし、十六夜さんと輝夜さんがまだですよ!!」
正当性を認められ黒ウサギはウサ耳ごと項垂れていたが、ムキになって十六夜と輝夜にそう言った。運が良いのか悪いのか、テーブル上には表になっている絵札のカードはなかった。飛鳥と耀が取った2枚以外全て裏になったみたいだ。
「俺を誰だと思っているんだ?ほらよ」
などとふてぶてしく言いながら十六夜は手に持つカードを返し、ちゃっかりとクラブのキングを引いていた。それを見て黒ウサギは目を丸くする。
「一体どうやって!?」
「憶えた」
「は?」
(やはりな…)
「だから53枚のカードの並びを憶えたんだよ。」
何でも無さそうに言った十六夜に、黒ウサギは戦慄しているが、対して十六夜は、既にニヤニヤとした表情で輝夜を見ていた。
「さあ、お前の番だぜ?」
「…………」
十六夜に言われて、輝夜はテーブルの前に黙って移動した。それから、ざっとテーブル上にばらまかれたカードを見て、すぐに特に迷いもせずに、1枚のカードをめくった。そのカードは…………
「…………え?」
「「「…………」」」
スペードのエースだった。つまり、輝夜の敗北だった。
周囲に走った衝撃はある意味十六夜よりも強かったと言ってもいい。
何故かと言われれば期待していたからとしか言い様がないがその期待のレベルが普通とは違ったのだ。
黒ウサギは人類の中でも最高レベルのギフト所持者が召喚されるという事前知識があったが故のある一種の偏見があったし、十六夜や飛鳥達にしたって未だに力の一端を見せずただ後ろに控えて立っていただけの輝夜に素振りこそは見せないものの興味を持っていたのだ。
しかし、それが手酷く裏切られたのだ。
「これで俺のプライドはズタボロになったわけだが。それで?さっきの話だと、こんなゲームに勝てない俺はお荷物だからいらないって訳か?」
めくったカードを適当に片手でヒラヒラさせながら弄んでいた輝夜は何でも無さそうに黒ウサギに尋ねた。
「い、いえ!!さすがに右も左もわからないお方を放り出す真似はしないのです!!」
「そっか」
慌ててそう言った黒ウサギに対して、素っ気なく返した。
そんな輝夜の態度に明らかに4人は納得がいってないって、顔をしていた。黒ウサギは期待していたのか、1番困惑していて、十六夜は不審そうに見ていて、飛鳥と耀は十六夜よりも冷たい視線を輝夜に送っていた。
「お前、何か隠してんだろ?」
そこで十六夜が輝夜に尋ねた。
「そう思いたければ、勝手にそう思ったらどうなんだ?別に肯定も否定もしねぇよ」
しかし、それに対しても輝夜は素っ気なく返した。
周りには気まずい空気が流れていた。そんな空気を払拭しようと黒ウサギが声を上げた。
「まぁ、輝夜さんは失敗してしまわれたので今回はなし…………ということになりますが他のお三方はお願いがありましたらこの黒ウサギが全力で持って叶えさせてもらいますですよ!」
あくまでも性的な事以外とできる範囲でと付け足したのは場を和ませるためなのか、それとも意外とマジな視線で十六夜を見ているあたり本気で警戒しているのか。
そんな視線を向けられた十六夜は輝夜に対して考えるのはやめて、黒ウサギに挑発的な笑みを浮かべて言った。
「黒ウサギ。俺が聞きたいのはただ一つ。この世界は面白いか?」
そう聞かれて黒ウサギは、花開く様に笑みを浮かべ、こう答える。
「Yes。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白い、と黒ウサギは保証いたします♪」
そして、一同は黒ウサギのコミュニティに向かうことになったが、誰も気がついていなかった。
輝夜が黒ウサギに対して冷たい視線を向けていることに。