「ジン坊ちゃーん!新しい方を連れてきましたよー!」
しばらく天幕に向かって森の中を進んでいると、箱庭の外壁と内側を繋ぐ入口に辿り着いた。そこにはジンと呼ばれる10歳前後の少年が佇んでいた。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性2人と男性1人が?」
「YES!こちらの皆様が………」
そう言って振り返った黒ウサギは固まった。その場には飛鳥と耀、それから輝夜しかおらず、十六夜の姿が見当たらなかった。
「あ、あれ? もう一人いませんでしたっけ? 何か“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が……」
「ああ、十六夜君の事? 彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”とか言って駆け出して行ったわよ?」
あっちの方に、と指をさすのは上空から見えた断崖絶壁。呆然となった黒ウサギはウサミミを荒ぶらせてに問いただした。
「何で止めてくれなかったんですか!」
「止めてくれるなよ、と言われたもの」
「どうして黒ウサギに知らせてくれなかったんですか!」
「黒ウサギには言うなよ、と言われたから」
「う、嘘です! 絶対嘘です! 実は面倒臭かっただけでしょう!」
「「うん」」
「oh……」
2人の言葉に黒ウサギは項垂れてしまった。そして、顔を上げて、輝夜のほうを向いた。
「て、輝夜さんもです!何で一言も声を掛けてくれなかったんですか!?」
「どうでもよかったからな」
「oh……」
輝夜の言葉に黒ウサギは再び項垂れてしまった。しかし、そこに輝夜はそれに追い討ちをかけた。
「ってか、あのガキを呼び出したのは、お前だろう?ならば、責任を持って、お前が面倒を見ればいいだけの話だ。何、俺たちに責任転嫁してんだ」
「うっ……。で、ですが!」
「言い訳するんじゃねぇよ。こんな状況を作り出している時点でお前の管理不足なんだよ。だいたい、1度でも後方確認していれば、すぐに気づけたものをだな。お前の自慢のその耳は飾りか?」
「うぅっ……orz」
輝夜の正論と毒舌に言い負かされた黒ウサギは完全に四つん這いの状態になった。しかし、これは仕方ない。十六夜は割と早い段階で別行動を取ったのだ。浮かれていたのか、これにずっと気がつかなかった黒ウサギに完全に非がある。本来なら引率としての役目を果たさなければいけないのにも関わらずだ。
そんな黒ウサギとは対照的に、ジンは顔色が蒼白になっていき慌て出す。
「た、大変です!“世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が!」
「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー…………斬新?」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジンは必死に事の重大さを訴えていたが、輝夜たちは正直どうでもいいので聞き流していた。
すると、さっきまで落ち込んでいた黒ウサギが溜息を吐きつつも立ち上がった。
「はぁ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御3人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに―――“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
凹みから立ち上がった黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある青い髪が淡い緋色に染まっていった。すると、外門めがけて空中高く跳び上がり、外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付いた。
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」
そう言うと黒ウサギは、淡い緋色の髪を靡かせ踏みしめた門柱に亀裂が入り、そして、そのまま弾丸のような跳躍した黒ウサギはあっという間に輝夜たちの視界から消え去っていった。
跳躍により巻き上がった風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥がポツリと呟いた。
「………。箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
(沢田綱吉たちのような人間のほうがもっと速く移動できるけどな)
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思います」
飛鳥の言葉に輝夜はツナたちのことを思い出しながら、そんなことを考えていた。そんな輝夜を他所にジンが『箱庭のウサギ』について説明していた。
「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。3人の名前は?」
ジンが自己紹介すると輝夜たちに名前を尋ねた。
「久遠飛鳥よ。後、全体的に黒い格好している男性とそこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
「光城輝夜だ」
そして、自己紹介を終えると、輝夜たち4人と1匹は箱庭の中に入っていった。
箱庭二一○五三八○外門・内壁
輝夜たちが箱庭の中に入ると、そこには外からでは天幕で見えなかった壮大な町が広がっていた。しかも、天幕の内側からは太陽が見えていたのだ。そして、ちょうど、ジンがそのことについて、説明をしていた。
「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可能になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」
ジンの説明に飛鳥がピクリと反応した。
「それはなんとも気になる話ね。この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」
「え、居ますけど」
「………。そう」
ジンの言葉に飛鳥は複雑そうな表情をしていた。彼女からすれば実在する吸血鬼の生態は知らないが、同じ街に住むことができる種とは思えなかった。
(吸血鬼か……。
一方で輝夜は、周りを観察して、自分の故郷の星と召喚される前にいた星との違いを比較していた。そうこうしているうちに、一同は〝六本傷〟の旗を掲げるカフェテラスに入った。各々席に座ると注文を取るために店の奥から素早く猫耳少女の店員が飛び出てきた。
「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」
「えーと、紅茶を2つとを緑茶を1つ。あと軽食にコレとコレと」
「にゃーにゃにゃー」
「はいはーい。ティーセット3つに、ネコマンマですね」
………ん? と飛鳥とジンが不可解そうに首を傾げるが、それ以上に耀が驚いていた。
「三毛猫の言葉、分かるの?」
「そりゃ分かりますよー、私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー」
「にゃにゃーにゃーにゃー」
「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」
そう言うと猫耳店員は鉤尻尾をフリフリと揺らしながら店内に戻って行った。
「………箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」
「ニャオー」
「ちょ、ちょっと待って。貴女もしかして猫と会話ができるの?」
動揺した飛鳥の問いに、耀が頷いて返した。飛鳥の隣にいるジンも興味深そうに質問を続けた。
「もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」
「雀、鶯、霍公鳥、水族館でペンギンと話したこともある「「ペンギン!?」」う、うん、ほかにもイルカ達と友達」
(……そう言えば、リボーンは虫と会話できるって、話を聞いたな。俺も長年、一緒のドレイクの言うことはわかるがそれ以外の動物は無理だな)
耀の説明に飛鳥とジンは驚き、輝夜ですら感心していた。
「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」
「そうなんだ」
「はい。一部の猫族やウサギのように神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいというのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも、全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」
ジンの言葉に飛鳥が羨ましそうに呟いた。
「春日部さんは素敵な力があるのね……」
「久遠さんは……」
「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」
「うん、よろしく。それで飛鳥はどんな力を持っているの?」
「私?私の力は………まあ、酷いものよ。だって――――」
「おんやぁ?誰かと思えば東区部ぼ最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないのですか?」
飛鳥が何かを言おうとしたら、2mを超える巨体に似合っていないピチピチのタキシードを着た男が割って入ってきて、空いていた椅子に座った。
(………
そんな男の介入を見て、輝夜はお冷やを飲みながら、そう考えていた。
猫耳店員への注文の数はミスではありません。理由は次回ぐらいに。
それと、活動報告に作者が気になったので作った『リボキセ』の人気投票をやっていますので良かったら見てください。